殺「お早うございます、皆さん」
自分の足である触手を動かしながら教壇に立った黄色いタコ型超生物。
この暗殺教室の先生であり、僕らのターゲット__通称、殺せんせー。
先生はクラスの皆を見渡すと、今日は発砲は無しです、と言った。
その言葉に、皆は何で、と不満を洩らす。勿論それは僕も例外ではなく。
持ち掛けていた銃をそっと机に置いた。
そうなれば、必ず何故だろう、と疑問は浮かぶ。
毎日のようにやっていた朝の暗殺が、何故今日に限って無しなんだろうか。
前原「何だよ殺せんせー、びびったのかー?」
僕の前の席に座る前原君が、からかうように言った。
そう言えば、いつもこういうときに笑いながらからかう彼が居ない。
遅刻だろうか。
最近になってはめっきり減っていたのに。
振り返って彼の席を見れば、案の定そこに彼の姿はなかった。
殺「今日は転校生が来ています」
殺せんせーの言葉に興味を惹かれ、前を向く。
先程までざわついていた皆は、ガラリ、と音を立てて開く扉に一斉に静かになった。
見知らぬ少女が入ってくる。
……綺麗、だ。
ほうっ、と皆が息をはく。
見惚れた、という言い方が正しいだろうか。
その颯爽とした歩き方や姿勢。
一歩踏み出す度に揺れる茶色の長い髪。
つり目気味の目。
その全てに目を奪われた。
殺「では自己紹介をどうぞ」
その女の子は教室を見回し、何かに気付いたようにうつ向いた。
安堵していて、でもどこか寂しそうな__、そんな雰囲気を釀し出している。
どうしたんだろう、
その様子に皆が少しざわつき始めた。
時間が経つにつれ、そのざわめきは大きくなっていく。
その騒がしさを一瞬にして無くしたのは、またもガラリ、と音を立てて開いた扉だった。
「ごめーん、遅れちゃったー」
入ってきた彼は悪びれもなくそう言うと、自分の席に着く。
殺せんせーは何か言っていたみたいだが、僕には聞こえなかった。
女の子はいつの間にか顔を上げて、涙を流していたから。