【ダンガンロンパ】【日常】【ネタバレ小】
朝7時。来るのには少し早かったかな?と疑問を抱きつつ、幸運の少年は自分の教室のドアを開いた。
今は桜が散って新緑が芽吹き出す時期。“超高校級の幸運”として私立希望ヶ峰学園にやってきた苗木誠は、ようやく新しい生活に馴染めてきたところだった。
───私立希望ヶ峰学園。超高校級と呼ばれる才能を持つ学生を集めた政府公認の超特権的学園だ。入学は学園からスカウトされた現役の高校生、なおかつ超高校級の才能を持っている者しか許されていない。それ故この学校を卒業すれば人生の成功を約束されていると人は言う。
学園では毎年、普通のそこらにいる高校生から抽選で“幸運”の才能を選んでいる。今年の、78期生の“幸運”は他の誰でも無い、苗木だった。
苗木誠という高校生は、何に対しても普通であった。勉強も、運動もそれなりにはできるし、好きな映画だったらランキング1位を見れば大体それ、強いて言えばちょっと前向きで身長が実の妹より小さい。つまり世の中にある平凡さをこれでもかと詰め込んだよな高校生なのである。
そんな彼は栄えある希望ヶ峰学園に入学できた事に喜びを感じつつも、自分がこの場に居ても良いのかと少し不安だった。
野球選手、アイドル、ギャル、御曹司、格闘家……エトセトラ。テレビや本なんかで見た人達が同空間に居る感覚に最初は戸惑い、どうすれば良いかとうろちょろするばかりでいた。それでも持ち前の前向きさでやっとその感覚に慣れて、そこそこ会話も続くようになってきていた。
そして、5月始めの今日。久々に早起きできたので教室に行って皆を待とうとしているのが今の苗木の状況である。
教室の引き戸にかける手が少し緊張している。どうせ誰も居ないだろうと思いつつも、なんとなくこうなってしまう。思い切って扉を開けようと、手に力を入れた時。
「あら、苗木君?」
あまり聞き慣れない、だけど聞いたことのある冷淡な声が背後から聞こえた。
【>>3の続き】【色々自分の妄想あり】
「霧切…さん。お、おはよう?」
驚きながら振り返ると、そこには自分より背の高い女子がこちらを見つめていた。
彼女の名前は霧切響子。才能は“超高校級の探偵”。才能の通り鋭い観察眼を持ち、いつも冷静な態度を取っている、それでいてミステリアスな雰囲気を持ち合わせている少女だ。
苗木もあまり霧切と話した事が無い。というか、霧切が人とあまり関わりたくないようなオーラを漂わせているのだ。だから今どうするのが良いかと狼狽えながら苗木は疑問符付きの挨拶を投げた。
「………どいて。」
「えっ、あ、ゴメン!」
挨拶を無視されたかと思えば、今度は命令される。ドアの前に立つ苗木は、慌ててドアの横に移動した。
霧切の背中越しに教室内を見てみると当然誰も居らず、彼女が今から入ろうとしているだけだった。
苗木も霧切に続いて教室に入るが、中には謎の圧迫感が渦巻いていた。その理由は霧切の振り撒いているオーラが全ての原因だろう。しかも、今に至っては冷たく鋭い視線を自分の席から扉付近の苗木の方へ投げ掛けている。
この教室には生徒の席が縦四列横四列の計十六個あり、苗木の席は霧切の席の左に位置している。この状態で隣に座るのはそれなりに度胸を要する事だろう。
これで明るい世間話でもしようものなら一週間、いやそれ以上の期間あの視線を受ける事になるかも知れない。
この場で最良の策はなんだろうと考えながら恐る恐る席へと歩を進める。一番窓際の列の一番後ろ。それが彼の席で、その右が霧切の席。席に行くために、霧切の前か後ろを通らなければいけない。そのせいもあってか、苗木は余計に緊張していた。
───そうだ。適当に校内をふらついているのはどうだろう。未だに分かっていない場所も沢山あるし、授業開始まで一時間以上もある。それが、霧切の真後ろに来て漸く出した答えである。
そしてやっと席の前に来た。机に教科書やらノートやらが入った鞄をそっと載せて、取り出す。それを机の中に少しずつ入れ、鞄をロッカーに置く。その間にも霧切から視線は送られていた。
この空間の気まずさからさっさと逃げようと、用意を終えた苗木は後ろの扉から教室を離れた。