爆豪の個性は『爆発』だ。
掌から、ニトロのようなものが入った汗腺を利用して爆破を起こす。
爆発力や殺傷力に長け、機動力にだってそつがない。…もっとも、この個性をここまで有効に活用できるのは天性のセンスと頭の回転力に加えてストイックさを兼ね揃えた爆豪くらいだろうが。
その爆豪がこんな怪我を負っている理由はなんだ。なんなんだ。
「どけ」
一人、悶々と考え続ける緑谷に対して爆豪はそう言い放った。
なんで僕に用が、と思ったけれどどうやら冷蔵庫に用があるみたいで、きっと水でも飲みたかったんだろう。そりゃそうだ、夜な夜な練習してたら喉くらい乾く。
いじめられ根性がまだ少しだけ根付いているのか反射で避けて、爆豪を通した。そして、今しかないとも思った。
じろり、と爆豪を見る。
後ろからは顔の傷を見ることができないが、黒タンクトップを着ている上半身は観察することができた。
腕に切り傷が見える。殴られた痕も複数。少しだけタンクトップに血が滲んでいるように見える。黒い服だから確信ではない。下半身はここからでは見えなかった。
いま、コップを握っている個性を発動するための掌から、砂がすこし落ちた。地面に手を着いたのかもしれない。
すると、水を飲み終えた爆豪がこちらを見ないまま口を開いた。
「…さっきから見てんじゃねェよクソデク」
「え、あ!…ご、ごめん」
「……」
慌てて謝罪を口にしたが、それに対して何の言葉も残さず爆豪は立ち去って行った。
横を向いたお陰で、爆豪の横顔が一瞬だけ見える。
(…………あ、)
頬に、大きな痣が見えた。