「ッ、団長!」
―――――その日は、異常なまでに運が無かった。
最高階層記録の更新を追えた所までは順調に歩めていた。
そこで現れた巨大な敵をベートの一撃で仕留めたその時に、音に寄せられて集まって来たのか、何故か大量に増殖したモンスター達がやってきてしまったのだ。
そこまではまだいい。私のファミリアには高レベルの者が何人もいる為、全員が出向けば支障は無い。
そう、その筈なのだ。その筈なのに、何故かその日に限ってレベル3から4の冒険者によって作られる罠解除班が罠の解除に失敗してしまい、五階層ほど下に落下してしまった。
まさに不運に不運が重なった大惨事。
全員が協力して敵を倒して行ってはいるが、私自身最早魔法の行使すら難しい状態。
アイズも肩で息をして、何とか剣を振るっているようなものだ。
まだまだ押し寄せてくるモンスターの大群を押さえられるほどの力は、全員残っていない。
どうしようもない。
ここで全滅するか、少人数を逃がして他のものたちを犠牲にするしか道は無かった。
………いや、待ってくれ。
あるじゃないか、ただ一つ、私だけが知っている『奇跡』を起こせるかもしれない方法が。
近くに落ちていたモンスターを拾い上げ、その体液で魔法陣を描く。
本来なら魔法の行使に使われるものだが、今回ばかりは違う用途で使わせて貰おう。
母から受け継いだ魔法。
もう病んでしまった母以外には私しかしらない、禁術。
「…素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
「―――――Anfang」
「――――――告げる」
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
「誰だって良い、なんだって良いから、皆を助けて――――!」
激しい、目を焼くような光が満たされた。
モンスターの視線も、仲間の視線も、全ての目が此方に集う。
光が止み、そこから影が生まれ___そして。
そこには、青いタイツを着た青年の姿があった。
「サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。
……まあ、よろしく行ってる暇は無さそうだな」