ジリリ、ジリリ。うるさい目覚ましの音が鳴る。アタシは、目が開いてない状態のまま手を動かし、目覚まし時計を探す。……あった。
「ん……」
目覚ましの音を止めて、重たいまぶたを何とか開き、身体を起こす。これが、いつもの朝だ。
こうして、今日も一日が始まる―――
ママが焼いたトーストを胃の中に押し込み、制服に着替えた。それから、持ち物も確認する。スマホ、財布、メイク道具……と、教科書。忘れ物はない。
さあ学校へ行こう。そう思った時、肩を控えめに叩かれる。
「莉嘉、はい。お弁当」
「……はあ。作んなくていいってアタシ言わなかったっけ?」
「言ったけど……購買のじゃ体に悪いじゃん。アンタはまだ15歳なんだから」
「はいはい分かった。ありがと。おね……美嘉」
お姉ちゃん、と言いかけたのをのみこんで、慌てて言い換える。お姉ちゃんの事は呼び捨てって中3の時に決めたんだから、しっかりしてよ。と、自分に言いたくなった。
「気をつけて行きなよー。行ってらっしゃい」
「……分かってるって」
お節介な事を言いながらアタシを見送ったお姉ちゃんの顔は何だか寂しそうに見えた。……まあ、アタシがこんなのになっちゃったから、ね。
「おはよー、莉嘉」
「おはよ」
学校について教室に入ると、友達の由奈が挨拶をしてきたのでアタシも挨拶を返す。自分でもちょっと無愛想だと思うけど、アタシと友達の距離感はそんな感じだから。昔のアタシがみりあちゃんにしてたみたいに、ベタベタすることはない。
「そういえばさ」
「何?」
「莉嘉って、美嘉ちゃんの話全然しなくなったよね」
何だ、そんなこと。改めて言うから、もっと大事な話だと思ったじゃん。
「まあね。いつまでもガキじゃないんだから」
「でも私知ってるよ?」
……知ってる? 何を?
「莉嘉の弁当、美嘉ちゃんが毎日作ってるらしいじゃん」
「……は? それどこ情報?」
「美嘉ちゃんがインタビューの時言ってたよ」
「はあああ!?」
お姉ちゃん、何余計なこと言ってんの!
そんな思いでアタシは思わず叫ぶ。……当然、アタシに視線が集まる。アタシは「ごめーん、ちょっと驚いてさー」と言いながら誤魔化した。視線が逸れていくのを確認して、アタシはため息をつく。
「おはよー」
先生が入ってきた。話は終わり。由奈はアタシの机から離れて、自分の席に座る。
ああ、今日も眠気との戦い……授業が始まる。
午前の授業は終わり、昼休み。アタシは由奈と机を合わせて一緒に弁当を食べていた。……お姉ちゃんが作った、弁当を。
「莉嘉、お姉ちゃん大好きだったのにねえ」
「またその話?」
「中学生の時は純粋だったよねえ」
由奈はそう言いながらスマホを取り出す。
「こーんな歌も歌ってたよねえ」
「え? ……ちょ、ちょっとそれ禁止! 禁止だから!」
ニヤニヤした顔で由奈はアタシにスマホを向ける。
―――えとえと前からずーっと それからそれから……好きです!
……DOKIDOKIリズム。アタシが12歳の時に出したデビュー曲。ガキみたいでバカらしい曲。当時のアタシはこれを元気に歌って踊ってたけど、今思うと恥ずかしい。
「こーんなに可愛かったのにねえ」
由奈が愉快そうに笑う。頬が熱い。多分、アタシ今顔真っ赤。
「城ヶ崎さん、うるさい」
「ゴ、ゴメンゴメン」
ほら、由奈のせいで前田さんに怒られちゃったじゃん!
そんな気持ちを込めて由奈を睨むけど、由奈は笑うだけ。ホント、憎たらしい。……ったく、どうして今日はこんな昔のことばっかり……
まるで、「お姉ちゃんに素直になれ」って言われてるみたいでイライラした。
>>34-35
3年後城ヶ崎姉妹。年齢操作に注意