「よそ見していて良いのか?」
「え?」
魔女とは違う女の声が尋ねると、魔女の背後に回ったトロルの首が飛んだ。声の主は首なし死体を蹴り倒し、包囲の中にに躍り出て魔女の背を守るように立った。それは魔女よりも頭二つは高い長身の女である。手甲や足甲、胸当てなど最低限の鎧しか持たない軽装の騎士である。
「危なくなったら呼べと言ったのに。大人は頼るものだぞ。」
「わ、私だって大人だもん!もう14よ!」
不満げな魔女と対照的にその体は成熟に恵まれ、軽装と相まってトロル達の情欲を多少誘った。……だが、立て続けに二人もやられた屈辱と怒りがそれを塗り潰し、トロル達は怒声を浴びせかける。
「やいやいてめえら!このまま帰しゃしねえからなぁ!」
「たった二人でこの数相手にどうしようってんだ!」
「大人しくすりゃ精々高く売ってやるぜ!」
しかし、女騎士は平然とし、魔女はおえ、と舌を伸ばして引いていた。」
「その言葉返そう。……"たったこれだけでどうしようというのだ"?」
「下品な発想……だから悪者になるのよ。」
直後、こちらでも虐殺が始まった。女騎士はその場から一歩も動かず、襲い来るトロルを切り捨て、或いは受け流して後ろへ転倒させるなどして、その接近を許さない。一方の魔女も、凍結魔法で地面を凍らせて敵の動きを封じ、そこに再び火球魔法を降り注がせ焼き払った。混乱の内に、トロル達は亡骸となって転がっていった。一段落付いたころ、二人の女は休息に入っていた。……死体のど真ん中で。
「あーしんどい……数ばっかりは多いから疲れちゃった。」
「体を鍛えろ体を。悪くないものだぞ?」
「貴女こそ最も頭を鍛えたら?」
「そう言うな、剣術を覚えるので手一杯―――っ!」
「えっ?」
何かに気付いた女騎士が飛び上がるように身を起こすが、遅かった。死に損ないのトロルが、魔女に飛びかかっていくのが見えた。
(くそっ、間に合わんっ……!)
「"ブレイズメテオ"。」
だがトロルはその本懐を遂げぬまま、突如現れた巨大な火球に弾き飛ばされながら炭化し、今度こそ絶命した。先の"フレアボール"よりも強力な炎魔法を見て、女二人は表情を明るくした。
「チイト様!」
「チイト殿!」
チイトと呼ばれた男……トロルの本隊と村で戦った、竜の剣と黒コートの若者が、二人の視線の先にいた。
【続】