[小日向視点]
1組に、転校生が来た。
今日はその話題で持ちきりだった。
でもさぁ…なんか可哀想なんだよなぁ。転校生って。
転校生転校生って騒がれて、なんか息苦しそう。
こんな偏見持ちたくないけど、どうしてもそう思ってしまう。
そんなことを考えながら昇降口で履き替えていると、
「あのぅ……小日向くん」
今にも消え入りそうな小さな声が、後ろから聞こえた。
「…あぁ。相原さん」
立っていたのは相原さんだった。
「……い、委員会、何に入った…?」
「俺は保健委員だよ。相原さんは?」
「あ…そうなんだ。私のクラスは、まだ決めてなくて…」
すると、
「やっべぇ!!忘れ物した!」
聞き覚えのある荒い言葉遣いと、足音が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げると、昇降口に小野寺さんが駆け込んできた。
小日向くんは目を瞬かせている。
「あ…あの、小野寺さん」
声をかけてみた。
「おお。権三郎。」
なんてことのないように呼ばれ、苦笑いすると、
「…えっと…君が転校生の…?」
小日向くんは小野寺さんを見て不思議そうに首を傾げた。
「うっせーな!今急いでんだよ!じゃあな!!」
そう言うと小野寺さんは私たちの間をチーターのように駆け抜けていった。
小日向くんは笑みを浮かべたまま固まっている。
「あ、小日向くん…えっと、今の子が転校生で……」
しどろもどろに説明すると、小日向くんはふっと笑みをこぼした。
「なんか賑やかな子だね」
『賑やか』というのは『うるさい』っていう意味なのかな……。
「あれ?カコちゃんと小日向くん」
なんだか久しぶりに聞いたような澄んだ声、春桃ちゃんの声が聞こえた。
「あ、」
小日向くんはそう洩らすと、春桃ちゃんから顔をそむけた。
「そうだ。さっき女の子とぶつかっちゃって、『怪我してない?』って言ったらさぁ、『こんくらいで怪我するわけねーだろ!!』って言ってどっか行っちゃったの」
それ、絶対小野寺さんじゃん……
「一緒に帰らない?」
「あ…」
……どうしよう。
せっかく小日向くんと一緒に帰れるのに……でも、春桃ちゃんと帰りたい気持ちもある。
「じ、じゃあ…一緒に帰ろっか」
と言うと、彼女は桜の花が咲いたようにふんわりと笑った。
「ありがとう!じゃ、行こっか」
まだ顔をそむけている小日向くんに春桃ちゃんが気づいた。
「小日向くん、どしたの?」
春桃ちゃんが小日向くんの肩をぽんと叩いた。
すると、小日向くんは弾かれたようにビクッと肩を震わせた。
………小日向くんは、やっぱり───
「い、行こうか」
うわずる声、赤い耳。泳ぐ瞳。
そんな彼の姿を見て、確信した。
彼は春桃ちゃんのことが好きなのだ、と。
「わ、私………先、帰ってもいい…?」
そんな言葉が口から飛び出した。
二人が目を丸くしてこちらを見る。
驚かせてしまっただろう。だけど、この二人の様子を見続けるなんてあまりにも辛い。
目を背ければいい話だろうけど、どうしてもこの状況は嫌だった。
「え……あ、用事あった?ごめんね」
春桃ちゃんが眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
そんな彼女に、少しいらついてしまった。
だって、彼女はみんなにちやほやされて、私の気持ちなんかちっとも分からない。1ミリも。
いい人を演じればもう勝ちだ。見た目の時点でもう勝ち組なのだ、彼女は。
運動だってできるし勉強もできる。おまけに歌もうまい。
どうして?なんで?
なんで彼女にはあんなに良いことばかり与えたの?
それに比べて、私は?
良いところなんてちっともないじゃない。
今更、どうしてこんなことを思っているのか分からない。けど、とめどない怒りがこみ上げてきた。
抑えないといけない。でも、何かが私の中でプツリと切れた。
そして、次の瞬間、私は春桃ちゃんの肩をつかんだ。
小日向視点だったはずが途中からカコ視点になっちゃっていました……ミスりました!!(汗)m(_ _)m