[小日向視点]
──始まりは、あの日の席替えだった。
『小日向くん、よろしく〜』
澄んだ声に目を向けると、天海さんが手をひらひらと振っていた。
『天海さん。よろしくね!』
それから、俺らは急激に仲が良くなった。
もともと、仲が良くなかったわけではなく、割と話していた。
彼女は、話していて楽しい人だ。
しっかりしているけど、どこか抜けていて、とても面白い。
『わ〜、見て見て!』
帰り道がたまたま一緒になり、二人で帰っていたときだ。
天海さんが空を指差した。
そこには薄っすらと浮かび上がる月が。
『月が綺麗だね〜!』
満面の笑みでこちらを向いてくる天海さん。
“月が綺麗ですね”は、“I love you”の日本語訳だとか。
そんなことをいつか聞いたような。
天海さんは首を傾げながらこっちを見つめている。
これは、告白なのだろうか。
それとも、天海さんは自覚していないのだろうか。
多分後者な気がするけど……
『う、うん。たしかに綺麗だね』
──俺はその日から、天海さんを意識するようになった。
理由は分からない、でも、その無邪気さや純粋さに、いつの間にか惹かれていった。
自分が、誰を好きなのか。
最近、よく話すのは相原さん。
最近、よく目で追ってしまうのは天海さん。
どっちなんだ。
俺が好きなのは───