(>>29の続き)
「そんなことないわ。大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
アカネはにっこり微笑んで言った。
そして、心の中で「ちゃんとやるのよ」と
自分を励ました。アカネは元・踊り子。色仕掛けも
得意だ。
「アル…愛してる」
アカネは歓迎会の時のようにアラジンに
胸が当たるほどに近付く。アラジンはボッと
顔を赤らめ、赤面するがその後すぐ退けぞいた。
「え…」
アカネは驚いて、思わず声を漏らしてしまう。
まさか―正体がバレたの?アカネは顔を真っ青にする。
「あ、ごめん。いきなりでちょっと驚いちゃって…僕も君を愛してる。これまでも、これからもずっとだ」
アラジンはそう言ってアカネの目をまっすぐに
見つめる。アカネはホッとした。正体がバレた訳じゃ
無かったのね。
その後、アカネは高鳴る胸を何とか落ち着かせた。
キスでもされてしまうかもしれないと思ったからだ。
アカネはそわそわしてしまう。そしてジャスミンに
心で精一杯謝る。「ごめんなさい、許して」と。
―だがしかし。アラジンはアカネにキスは
しなかった。それどころか、抱き締めることさえ。
アカネはもう一度アラジンに接近するが、
アラジンはおもむろに立ち上がり、こう言ったのだ。
「ごめん。疲れてるのは僕の方なのかも。少し休ませてくれ」
そしてアラジンはその場を離れた。
アカネはさぁっと血の気が引いていくのが分かった。
無駄だった。アラジンの愛する人である
ジャスミンに変身しても。
「結局、駄目だったわ。あたしはいつもそう。愛する人に、本当に愛してはもらえない…。そうよ、だから家族もバラバラになった…」
そう呟き、涙を流して静かに泣いた。心の中に
もう会えない家族のことを思い描きながら。
**
―一方、アランの要塞。アランは可愛らしい寝息を
たてながら眠るジャスミンを見つめ、呟くように
言った。
「ジャスミン…眠る姿さえも美しい…」
シュウは読んでいる本から目を離すことなく
アランに調子を合わせて言った。
「まるで眠り姫みたいだな」
「いや、それ以上に美しい王女だよ、ジャスミン王女は。全く、あのドブネズミのワイフにしておくには勿体ない!宝の持ち腐れだ!」
シュウに答えながら、アランは怒鳴る。
アランの頭にはアラジンを地獄に突き落とすという
ことしか頭にないのである。
【第十話 本当にジャスミンなのか へ続く】