―あたしは気付いたら、街の広場に出ていた。
夢中で走って、ここまで来ていたようだ。
「アナお姉ちゃん!今日も絵本読んでくれるの?」
広場で遊んでいた子供達があたしに話しかける。
最近あたしは広場の子供達に絵本を読んで聞かせたり
一緒にかくれんぼして遊んだりしていた。
「う、うん!勿論!」
あたしが返事をすると、わっと歓声が上がる。
歓声が収まると、一人の女の子があたしのドレスの
裾を引っ張って「ねぇねぇ」と話しかけた。
あたしは屈んでその子と同じ目線になると、
「どうしたの?」と聞いた。
「エルサ女王様は?こんど、つれてきてくれるってアナお姉ちゃん言ってたじゃない」
―あたしそんな事言ったっけ。うーんと自分の
記憶を辿る。そういえば「エルサ女王様に会いたい」と
言った子供達に、思わず勢いでうんと頷いてしまった
ような気がしてきた。何て言おう。まさか避けてるとは
言えないよね。
「え、えーと…エルサは仕事が忙しいの。女王様だからね。今も仕事してるんだよ」
咄嗟にそう言ったけど、エルサは基本的にいつも
仕事が忙しいし、嘘は言っていない。
「え〜アナお姉ちゃんのうそつき〜」
一斉に子供達が口を尖らせる。その姿に可愛いと
思ってしまう。
「アナお姉ちゃんはお仕事しなくていーの?王女様でしょう?」
髪の長い、ちょっと大人びた女の子がそう口にした。
「これも仕事なのよ。街に出て、市場で働いている人や子供達とふれあうの。国民の声を直接聞くのも王女の務めよ」
人さし指をピンと立てて、あたしはそう言った。
でも子供達は信じてくれていないようだ。
本当にあたしの務めなのに。