「桜、おはよう!」
「雛菊ちゃん!おはよう」
「あんた今日の宿題ちゃんとやった?」
「うん!昨日 雛菊ちゃんが教えてくれたからバッチリ!」
通学路を1人で歩いていると、後ろから幼馴染の雛菊ちゃんが声をかけてきた。
雛菊ちゃんとは小学校からずっと同じで、いじめられていた私を守ってくれた、大好きな人だ。
「雛菊センパーイ!」
「今行くー!じゃあ桜、私朝練あるから。」
「うん、また後でね!」
部活の後輩に呼ばれ、雛菊ちゃんは朝練に行ってしまった。雛菊ちゃんは陸上部のエースで、彼女の朝練の時間に私は図書室で本を読んでいる。
といっても、勉強が苦手な私は童話や簡単な物語しか読めないんだけどね。
「今日は何読もうかなぁ」
目に入ったのはシンデレラ。私はそっとそれを本棚から取り出し、机まで持っていく。まだ朝早い時間なので、図書室には誰もいなくてとても静かだ。
「それ、シンデレラだよね」
「え?」
顔を上げると、見知らぬ男の人が座っていた。
とても綺麗な顔…制服を着てないけど、ここの生徒かな?見たことないけど…
彼は私が読んでいた本に、目をキラキラさせながら優しく触れる。
「女の子が幸せになる話の代表だ…」
「…えっと、あの、」
「君は知ってるかい?シンデレラの原作の結末は、とても残酷なことを」
「え?」
「シンデレラを虐めていた義姉と継母は、王子とシンデレラの結婚式で青い鳥に目をくり抜かれるんだ」
思わず息を呑んだ。大好きで、幸せなお話にそんな事実があったなんて…!
彼は静かに微笑むと、席を立った。しーっと言うふうに人差し指を口の前で立てて。
「あまり言ってはいけないよ。残酷な話だからね」
「どうして私には言ったの?」
「さあ、どうしてかな…僕にも分からないよ」
そう言って、図書室から出て行ってしまった。
もう!私だってそんな結末知りたくなかったよ!
ぶくっとほっぺを膨らませてみるが、彼にこの気持ちが届くはずもなく。時計を見れば陸上部の朝練が終わる頃だった。カバンを掴み、校庭へ向かう。
「雛菊ちゃーん!」
「桜!」
「朝練お疲れ様」
「ありがとう。さ、行こっか」
「うん!」