双子
>>110 【双子】
私には、双子の姉が居る。
姉はいつも笑っていて、両手を合わせると、その手はとても冷たいのが特徴。
お母さんはお姉ちゃんが嫌いで、よくお姉ちゃんを無視していた。私がそれに怒ると、とても悲しそうな顔をしていた。
姉は、あまり喋らない。いつも私の言う事を、繰り返すだけ。
双子だから声もそっくりで、姉が言ったことにお母さんが、私が言ったのだと思って反応した。
「今のはお姉ちゃんが言ったんだよ」というと、やっぱり悲しそうな顔をした。
ある日、姉が消えた。
お姉ちゃん、お姉ちゃんと何度呼びかけても、答えない。
母が姉を嫌うのは、姉がおかしいからだったのだろうか。確かに、少しおかしいかも知れない。でも、私は姉が大好きだった。
「お母さん、お姉ちゃんがいなくなっちゃった」
私がそう言っても、母は焦りもしないでただ、悲しげな表情を浮かべるだけ。
変なの。おかしいの。姉がいない事に動揺もしない母が、急に怖くなった。姉だけじゃなくて、お母さんもおかしくなってしまったような気がした。
そこに居る事に耐えられなくなって、思いきりドアを開けた。外へ、裸足のまま飛び出す。
そこら中を走り回って、私は姉を探した。探し回った。
走りながら、小さい頃はよく、鬼ごっこをしたりしたな、なんて思いだしたり。
探している間中、姉との記憶を浮かべていた。いつも家の中から動かない姉がいなくなった事によって、本当にどこかへ行ってしまったような気がした。
あぁ、そういえばいつからだろう。姉が私の真似をするようになったのは。
いつからだろう。姉が家からでなくなったのは。
いつからだろう。母が、あんなにも悲しげな表情をするようになったのは。
いつからだったっけ。鬼ごっこを、やらなくなったのは。
曲がり角を曲がった時、耳を劈くような大きなクラクションが鳴った。
とても大きな、ブレーキ音。
走馬灯のように駆け巡ったのは、姉の姿だった。
「あ」
私はその時、全部思い出した。
母は、おかしくなんてなかった。