>>109 【赤い花が咲いた】
俺はお盆に、田舎のばあちゃんの家に泊まりに来ていた。以前ここへきたのは、何年前のことだろう。
きっとそれは、俺が高校生ぐらいの時だ。
相変わらず田舎だな、と煩わしく思う反面、自然に囲まれた風景を見て少しだけ、来てよかったな、なんて思った。
近くを流れる川には堤防がなく、あるのは砂利や石ころで作られた河川敷。その、ザ・田舎っていう感じの道は、赤い花で彩られていた。
赤く咲いているのは彼岸花で、お盆の時期に咲く花だ。そんな時期に咲くからだろうか。昔から、俺はその花があまり好きではなかった。少し、不気味な雰囲気だからか。
しばらく彼岸花を見つめた後、来た道を帰ろうと進行方向を変える。
振り返った瞬間に目に飛び込んできた白い服を着た少女の姿に、心臓が跳ねた。
体もビクッと反応してしまっていて、少女はそんな俺を少し見た後、笑った。
知らない人に笑い掛けられたのは初めてで、俺は少し戸惑いながらも、笑い返した。
少女は俺より五つくらい年下のように見えて、恐らく高校生くらい。可愛らしい見た目だった。
少女が俺に、「おばあちゃんの家に遊びに来たの?」と言った。
高校生から話しかけられるのは、俺がまだ若く見えているからだろうか。今年で、21になるのに。
お盆の時期だから、帰省する人が多いんだろう。その質問になんの疑問も持たず、俺はそれに、「よくわかったね、そうだよ」と返した。
そこから少しだけ、世間話のようなものをして、その日は別れた。田舎は狭いな、と思った。
俺から離れていく彼女を見送る時の後姿に、何か重なりを感じた。
次の日、俺はまたその場所へ向かっていた。
またその少女に出会えるかもしれない、という下心は、あったかもしれない。
けれど彼女の姿はそこにはなくて、俺は少し落胆しながら、家へ帰った。
もう九月とはいえ、暑い。こんな中で彼女を待つのは、無理だった。
暑さにうなだれながら縁側に座り西瓜を食べていると、ばあちゃんが俺に言った。
「そこに座ってそうやって食べてると、あの頃を思い出すねぇ」
「……あの頃?」
「覚えてなのかい?ずっと前、ここへ来てた時に、ここで西瓜食べたの」
そこまで言われた時、俺は昨日少女に感じた重なりの正体に気付いた。
まさか。いや、まさかそんな。
じわり、汗が滲んだ。西瓜をほっぽりだして、俺は駆けた。少しオレンジ色に染まってきた空の下、彼女が居ると信じ、川へ向かって走った。
皮が見えてきて、赤いじゅうたんのように咲く彼岸花の中に、白い服を見つけた。
「ねぇ、もしかして君は――!!」
大声で叫んだ。彼女と、俺は一度会っている。
俺がずっと昔、ここへ来たとき。俺はその少女と、出会っていた。
一緒に遊んだり、一緒に川へ入ったりして。確かその時も、彼女は白いワンピースを着ていたのだ。
そして俺がこの地を去る日、ある約束をした。
「気づくの遅いね」
彼女は言った。俺は少しもう訳ない気持ちになる。
「ずっと、待っていてくれたんだね……ごめん」
「うん……来るのも遅かった。おばあちゃんになるかと思った」
二人で笑い合って、その日は空が暗くなるまで語った。ずっと果たせなかった約束。
『俺、また会いにくるから』
『じゃあ、ずっと待っててあげる』
その約束をしたのは、高校二年の夏。俺が、まだ16の時の約束だった。
本当に短い、恋だった。
……彼女はあの日からずっと、俺の事を待っていてくれたのだろう。
彼岸花に群れる蛍が、一匹俺の肩に止まった。彼女の時間も、五年前で止まっていた。
まったく変わらなかった彼女の姿を思い浮かべ、俺は少し、彼岸花を好きになった。
ごめん連投しちゃった…
>>148は結局幽霊と恋してました、って話。
彼岸花の花言葉が「再開」とか「悲しい思い出」だからこんなんになった。
相手役を幽霊にしたのは、彼岸花の別称が「死人花」とか「幽霊花」だったから。
怖くないね悪いな