ニセモノドウシ。

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧キーワード▼下へ
1:ちあ@ ◆NLsI:2014/02/18(火) 16:34 ID:zME



お久しぶりです。
ちあ@と申します。

この小説は、
後に某サイトで書く予定です。
その時に不完全な出来で公開してしまわないように、
今ここで書き、
推敲し、練り直していくために書くものです。



なので不完全な出来であることを初めにお詫び申し上げます。
書き終わり、
完全版をそちらのサイトで書き始められれば
そこのURL等をここに貼りますので、
是非そちらもご覧ください。

では。

「ニセモノドウシ。」

始めたいと思います。

14:ちあ@◆y6:2014/07/11(金) 21:12 ID:zME













「おはよ、明希」






三ヶ月デートから更に二ヶ月が経過して、季節は完全なる冬。
今にも雪が降りだしそうな気温と空。
吐く息は、真っ白。
浦田は紺色のチェック柄マフラーを首に巻き、
その中に首をすぼめながら私に挨拶をする。
おはよう、と返す私もピンク色のチェック柄マフラーを口元まで引っ張り上げた。
それでも空気に直に触れる部分が冷たく、チリチリ痛む。






最近は寒いから、という理由から手をつなぐようにもなった。
確かにあったかいけど、少し気恥ずかしい。
今日も浦田は自然に私の左手を握った。












十二月中半というのはもう少ししたら冬休み、
でもまだ冬休みには遠い、という何とも言えない時期。
そんな季節に、私は何かが変わる気配を感じた。









.

15:ちあ◆y6:2014/08/11(月) 14:25 ID:xPI







私達はいつの間にか、
「校内の有名カップル」とかいうものになっていた。
別に人目につくところでいちゃいちゃしているとかではないし、
言ってみればキスだってまだしていない。
登下校を一緒にしている、たまにデートしている。
それだけの私達が何故有名カップルの烙印を押されているのか不思議でしかたない。






「明希ー!おはよー!」






浦田と付き合いだしてから、女子に遠巻きにされることがさらに増えた私に
今まで通り接してくれる数少ない友達の凛羽が
教室に飛び込むと同時に私の席に走ってきた。






「あ、おはよう凛羽。どうしたの?」






いつもになく笑顔で走ってくる凛羽を見て問いかけると、
「どうもしないよ?私は!」という
意味の分からない返事が返ってきた。






「私は?」






「うん!明希のことだよ!」






私の事?
誕生日でもないし、親の誕生日とかでももちろんない。
他になにか喜ぶべきことがあったかな、と思考していると、
凛羽は痺れを切らしたように言った。






「ほら!今日十三日だよ!五ヵ月記念日でしょ!」






自分のことのように興奮しながら言う凛羽。
「あ」と漏らした私の口はふさがらなかった。

16:ちあ@◆y6:2014/08/28(木) 18:34 ID:8/k






そうだ。
今日は十二月十三日。
私が浦田と付き合い始めて、五ヶ月目。
……こんなに続いたのは、初めてだ。
今までは長くて三カ月。短いと一カ月もたなかったり。
それに、途中から付き合ってるって言うことが嫌になったりもしてたのに。
今回は、
浦田と付き合ってるって言うこと、嫌じゃない。
なんで、だろう?






「あ、浦田きた!」





凜羽が教室の入り口を指差して言う。
私はそれを見ると、
思わず顔を赤く染めた。






「おはよ、浦田」






「うん、おはよう明希」






微笑み合いながらあいさつを交わす。
私も人の事言えないけど、
浦田覚えてないんじゃない……?






そう思っていたのもつかの間。
浦田は私の近くに来ると、耳元で。
「今日放課後、開けとけよ」
囁くように言った。






「ちょ、耳元はやめれ恥ずかしいから! 
 でもわかった。開けとく」





そう返事をすると浦田はにかっと笑い、
後ろ手に手を振りながら男子の輪の中に消えていった。
私の胸には、今まで感じたことのないような感情が広がっていた。

17:にっきー:2014/09/09(火) 19:53 ID:bEQ

タイトルに惹かれ見させてもらいましたが、
面白いです。

改行がすごく読みやすかったです。


これからどうなっていくのか楽しみです。
私もちあさんみたいな才能がほしいくらいです!(^^)

描写が上手なので参考にさせてもらいます。

では、頑張ってください

18:ちあ@◆y6:2014/09/13(土) 17:23 ID:oHU



>>17


はじめまして。
ありがとうございます!


この作品、私的には心理描写しかなく、
情景描写が足りないと思っていた矢先のコメントですのでうれしくてたまりません。


これからも執筆活動を頑張らせていただきますので、
またお目に書かれることを楽しみにしております。

19:ちあ@◆y6:2014/09/13(土) 17:40 ID:oHU













空には次第にオレンジが滲み始める放課後。
私は浦田のことを教室で待っていた。
アイツは人には放課後開けろとか言ったくせに
自分は何故だか「遅れる」旨のメッセージをよこして教室を飛び出て行った。


浦田の考えていることは、いつも読めない。


読めないところが浦田らしくてまたいい所でもあるけれど、
あまり読めないと少し怖くなってくる。


はぁ、とため息をつきながら外を見ると、
部活動に精を出しているサッカー部の人が目に入る。
サッカー部の練習着に身を包み走り込みをしている。
流れる汗までもがキラキラと光っていて、
これこそ青春なんだろうなぁなんて思わされるくらい輝いている。


昔の人は「キラキラして青みたいな時間」のことを青春って呼んだみたい。
私の青春は何色なのかな。
青なのかもしれないし、緑かも知れないし、赤かもしれない。
もしかしたら誰かの色に染まるかもしれない。
……誰かって、誰だ?
いや、今はいない。
きっとこれから先に出会う、運命の人の色。








考え事をしていた時、
手の中の携帯が震えた。
バイブ音が耳に低く響き、少しだけゾクッとした。
流行りの緑色の某アプリに浦田からのメッセージが届く。




『今正門のところいる
 教室にいる?』



「うん」とだけ返せば、何故か既読無視をお見舞いされた。
透明なガラスを通して見る空はオレンジ色に変わりきっていて。
「どんだけ待たせるんだよ」なんて呟きながら窓ガラスに寄りかかる。
頭をぐるりと回して正門の方向を見れば、
走って昇降口に向かってくる制服姿の浦田を視界に捉えた。


















あれ?
なんか、格好いい。

20:ちあ@◆y6:2014/09/13(土) 18:32 ID:oHU







いやいや、何を考えているんだ私は。
格好いいわけない。
あの、あの浦田が格好いいなんてことになったら……。
私も浦田を見てキャアキャアいってる女子を同類じゃないか。


格好いいわけない。


もう一度そう言い聞かせて、正門から走ってくる浦田に目を向けた。






瞬間、ドキンと高鳴る鼓動。


はい?
なんで今私、ドキンなんて感じた?
いやいや、そんな訳ない。
なんて思いながらさっき振動を発した場所に手をあてる。
ドキン、ドキン。
未だに高鳴り続ける鼓動。


私、浦田にドキドキしてる……?


なんで?
さっきのサッカー部の人のほうが断然、格好いいじゃん。


汗流して、部活がんばって、青春って感じの。
あの人のほうが格好いいのに。
私のために、汗流して走る浦田のほうが
格好いいなんて、私頭おかしくなったのかな。


心なしか、顔も熱い。
自分の事が理解できない私を置いて、時間はどんどん進む。
火照った頬に手を当てていれば、
突然空気を切り裂くように扉がスパンと開けられた。

21:にっきー:2014/09/13(土) 20:06 ID:e/E

つ、ついに浦田にドキドキし始めたんですね!

これからが楽しみです。
情景描写難しいですよね・・。

私も小説書いてるんですけど見てもらえますか?



お互い頑張りましょうね^ - ^

22:ちあ@◆y6:2014/09/14(日) 16:24 ID:oHU



>>21

しはじめました!w

ありがとうございます!
そうなんですよねー…。
それだけ、となればできるんですけど…w

もちろんですよ。
題名を言ってくだされば、読ませていただきます(*^^)


はい!頑張りましょう!

23:にっきー:2014/09/14(日) 16:53 ID:vZo

本当ですか?

翼ー私達はいつだって飛んでいける



君の隣で です

ありがとうございます!

24:ちあ@◆y6:2014/09/14(日) 16:54 ID:oHU









「わっりぃ! 待った!?」






「だいぶ待ったわアホ」






息を切らして教室に駆け込んでくる浦田に
シラーっとした目を向けてやる。
「すまんすまん」と気の入らない謝罪をされ、
「仕方ないな」と気の入らない声で許してあげると、
浦田は屈託のない笑顔で笑う。






チッ、チッ、チッ、と時計が時を刻む音だけが教室に響く。
浦田ははいって来てから一言も発さずに、
窓際の私の席に座った。
私は変わらず窓際にもたれかかっている。


浦田の顔は心なしか赤く、息もまだ整っていない。
そんな状態の浦田に無理に用件を問いただすほど私も悪魔ではない。
浦田のことはそのままに、
部活動終了間際で片付けに入っている運動部の人を眺める。
たくさん汗をかいて、
とても疲れている様子。








ゆっくりと流れる時間が鼓動を急がせる。
ふと浦田に目を向けると、
整い始めた息遣いが、見えるように、手に取るように伝わってくる。
季節は冬だと言うのに、
乱れた前髪からは少量の汗が滴り、
軽く袖をまくっている姿が目に入る。
次の瞬間、
鼓動は急ぐ、というレベルを超えて激しく動き始めた。






「なぁ、明希?」






浦田の低い声が、耳に響く。
ドキン、ドキン、なんて。
心臓、煩い。

25:ちあ@◆y6:2014/09/14(日) 16:55 ID:oHU



>>23


もちろんです。
一度には読めないので、
二つともに目を通して更新の多いほうから読ませていただきますね。

26:にっきー:2014/09/14(日) 16:57 ID:vZo

ありがとうございます。

厳しくお願いします!笑


お互い頑張りましょうね!

27:ちあ@◆y6:2014/09/16(火) 18:08 ID:oHU



>>26

厳しくだなんてそんな…。
私なんかが上から物を言える立場ではありませんよ。


はい!
にっきー様、これからもがんばってくださいね。
私も頑張らせていただきます。

28:ちあ@◆y6:2014/09/16(火) 18:22 ID:oHU







「なに、」






心臓はおさまらず、煩く陽動を続ける。
鼓動の振動とともに視界も軽く揺れ、
それが理由の分からない緊張をあらわす。


浦田の顔を見てると、余計に心臓が激しくなって。
長い睫毛がふわりと揺れれば、ドキンと高鳴って。
艶のある唇が動かされれば、ドキンと高鳴って。
男の子にしては長い髪の毛を耳の上にかきあげれば、ドキンと高鳴って。


待って。
私、浦田にドキドキしてる。


――なんで?
今まで浦田といてもなんともなかったはずなのに。
なんで今は、こんなにドキドキしてるんだろう。












「俺さ、五か月も続いたの明希が初めてだわ」






突然、浦田が声を発する。


『明希』。
名前を呼ばれると、顔が少し熱くなるのを感じる。
冷たいけれどどこか柔らかい風が頬をかすめて、
それが時間の経過と私の火照りを知らせてくれた。






「私も、初めて」






ポツリと呟くように言えば、
浦田はなぜか少し嬉しそうな顔をして。
ポケットの中をごそごそと探る。






「ん」






一言、それだけ呟くと浦田から何かを投げられる。
不思議に思ってキャッチしたそれを見た。



女の子趣味の、ファンシーショップの小さな袋。
「開けろ」、というような視線を受けてゆっくりを開封する。
中からは、小さな小さな花の形をしたイヤリングが転がり出た。






「それ五カ月記念のプレゼント。大事にしろよな」






真ん中に金色の石のはめ込まれた銀色の花。
それが何をあらわすのかは、
それがどんな気持ちを表すのかは、
私はまだわからない。

29:にっきー:2014/09/20(土) 19:22 ID:rWQ

私ちあさんの改行好きです笑

凄く読みやすいので参考にさせてもらいます!

はい。お互い頑張りましょう!

翼の方もよかったら見てください。
君の隣ではもうダメなので。


では、更新楽しみにしてます

30:ちあ@◆y6:2014/09/21(日) 13:23 ID:AUI



>>29


わぁ、ありがとうございます(*^^)


わかりました、
あまり時間がないので遅くなるかもしれませんが…。
必ず読ませていただきます。

31:ちあ@◆y6:2014/09/21(日) 13:48 ID:AUI







学校だから校則違反になることは分かっているけど、
浦田にもらったことが何故だか凄く嬉しくて。
とりあえず耳につけてみる。
銀色の花。
花の下の部分から、シャラリと小さな花の連なった可愛らしい金具がでていて。
可愛い。すんごく可愛い。
私の趣味を良く理解している浦田だからこそのチョイスだろう。


耳の下で揺れ、涼しげな音を立てる。


なんだか、ドキドキして。
顔が赤くなって、風に冷やされて、でも火照って。
やばい、こんなの初めてだ。






「似合ってんじゃん。明希」






浦田が「にしし」というような効果音が似合いそうな笑顔で笑う。
思わず頭をわしゃわしゃっと撫でたくなったけど、
やったら怒られると思うから我慢。
「ありがと」とぼそっと呟けば、
逆に頭を軽く撫でられる。


てか。
私もらってばっか。
それに、今日だって。
なんにも用意してなかったよ。
だって気付いたの今日の朝だし。







「……私、今日何も用意してない」






正直にいえば、
浦田がにっこり笑う。
……いや、なんで?







「明希が、俺にちゅーしてくれたらいい」







「は?」







そして、爆弾を投下した。
にっこりと笑う浦田の表情は、さっきと変っていない。

32:ちあ@◆y6:2014/11/10(月) 17:54 ID:iZ2









.







「ちょ……? なに、言ってんのさ浦田、」








戸惑いを隠せない私を真剣な目で見据える浦田。
その目には迷いもからかいも少しも見えなくて。
本気で言ってるのだ、と瞬時に理解する。



ふわりと吹いた生温かい風が私達の髪の毛を小さく揺らして、それから頬を撫でる。
髪の毛が触れてくすぐったい。


沈黙、そう表現するのが適切な時間が流れる。
風の音や時計の針が時間を刻む音だけが、空気を裂いて。
小さな体の動きさえもはばかられる、そんな空気。
それは斬ったのは、浦田の声だった。








「…、わりぃ」







申し訳なさそうに、本当に言ったことを後悔しているような声色。
それを聞いて私は思わず、かわいた声を出しそうになって。
でも、あ、とかそんな声しか出なくて。
そんな私を見て浦田はひとつだけため息をついたかと思えば頭を掻いた。








「……今のは、忘れろ。
 悪かった」







逃げるように私に背を向けた浦田の背中は、小さく見えた。

33:にっきー:2014/11/10(月) 21:19 ID:1Lo

久しぶりです!
更新待ってました!!

なんかいい感じですね!
こういうの読んでてすごくドキドキする!!

さすがですね!
才能を分けてほしいくらいです!
見習いたい!

これからもがんばってくださいね!

34:にっきー:2014/11/10(月) 21:20 ID:1Lo

それとよかったらでいいんですけど

フリートークで話しませんか??

35:ちあ@◆y6:2014/12/19(金) 22:11 ID:iZ2







――ズキン、と胸が痛んだ気がした。


そんなはずはないのに。
浦田の背中に胸が高鳴って、それからぎゅって痛いくらいに締め付けられた。


どうしようもなく「待って」と叫びたいけれど何故か口が拒否する。
帰るぞ、なんていう浦田引き留めたくて、でもその術がなくて。
もどかしい。苦しい。


これは、いったい何なの?
感じたことがない気持ちが胸の奥を支配している。
なんだか怖い。怖いのに。
どこかふわふわしていて、気持ちがいい。









「ほら明希、早く。俺もう寒ぃから早く帰りてぇの」







乱暴な言葉だし。
言ってることは自分優先だし。
顔はしかめっ面だし。


…なんで、私。
こんな奴にドキドキしてんの。








「うるっさいな! 分かってるからちょっと待って!」







ドキドキなんてしてない。
してないんだから。


そう自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返して、おいてあったカバンを肩にかけた。

36:ちあ@◆y6:2014/12/29(月) 13:59 ID:iZ2










前を歩く浦田の背中は、何故か小さくて、それから寂しそうで。
歩くたびに私の胸まで痛みが増す。
本当に、おかしい。
こんな感情、私知らない。






「……浦田」


「あ? あんだよ?」


「ちょっと、聞きたいんだけど」







浦田に聞きたいことなんて、いっぱいある。
いっぱいあるけど、そのうちの一つだけ聞くね。
浦田には関係ないことかもだし、迷惑かもだし、知らねぇよって言われるかもだけど。
聞いて、みるね。







「私が、浦田のこと好きになったらどうする?」







この関係は、所詮作りもの。ニセモノ。
浦田は私の事なんとも思ってないし、私だって思ってなかった。
でもそれが、片方だけの感情が変わってしまった時。
この関係はどうなるんだろう。


やっぱり終わってしまうんだろうか。
そう考えると、なんだか胸が締め付けられて。
こんなときにちゃんと自覚する。
「あぁ、私浦田のことが好きなんだ」って、はっきりと分かってしまう。








「…知らね。その時はその時だろ。
 今は何とも言えねぇし、そんなありもしねぇ可能性見たって仕様がねぇだろ」



「私は、」








息を吸い込む。
真冬の空気が、喉を凍らせるような感覚。
だけど不思議と、浦田といるっていう事実がそんなことを感じさせないくらいあったかい。








「もし浦田が本気になっても、この関係続けると思う」









だって、もう私が本気になっちゃったんだから。

37:ちあ@◆y6:2014/12/30(火) 14:56 ID:iZ2















「…は、なんでだよ? 普通こういう関係って片方でも本気になったら終わるだろ」


「そうだね。…でもやめないよ。私はそうなっても浦田のそばにいる」


「…まるで告白じゃねーか。そういうこと言ってっとさぁ」










トンッと小さな音がして、すぐ目の前に浦田の顔が来た。
遅れて背中に伝わった冷たい壁の感触と、ひんやりと冷たい首筋。
耳に掠る、浦田の筋肉質な腕。


ふっと自分の意識がトリップしていた感じがあって、
それから戻ってきた意識で今の状況を理解する。
壁ドン、なのかな。これ。
そこまで理解したところでこつんという小さな音が耳を介さずダイレクトに脳に響いた。
グンッと近くなった浦田の額と私の額が軽くぶつかって。
浦田の吐息が自分の唇にもかかった瞬間、胸の奥がドクンッと激しく音を立てた。


ぶつかった額がゆっくり離れて。
その代わりに、体と体の距離がまた近くなる。
気付けば浦田の顔は私の耳の横に来ていた。








「…俺バカだから、勘違いすんだよ」








耳元で囁いてから、逆側の髪の毛をサラリと触る浦田。
ひとつひとつの動作が妙に艶っぽくて
ゾクリとした悪寒と、ジワリとした熱さが同時に襲ってくる。
なにも言えずにパクパクとだけ動く私の口がもどかしくて仕方ない。








「…なんか言えよ。なんか言わねぇと、」








キスすんぞ。


そう囁いた浦田の声はいつも以上に低くて、艶っぽくて。
脳内に妖艶に響いた。

38:ちあ@◆y6:2015/01/05(月) 13:38 ID:iZ2









思わずいいよ、と口から滑りだしそうになる。
隠さなきゃいけない気持ちが漏れ出しそうになって、慌てて口をつぐんだ。


別にキスされたっていい。
むしろ、されたいなんて。








「黙ってんのはずりぃだろ。無言はしてもいいってことだと受け取るけど」








こんなに近いのに、しようと思えばすぐにできるのに。
浦田は額をくっつけたまま止まっていて。
私の意思を尊重しようとしてくれているのが分かる。
そんなところにも浦田の優しさが表れていて。
こんな状況でなんだか嬉しくなった。


少しだけ緩む頬に目ざとく反応した浦田が眉根を寄せる。
それから低めの声で囁く。








「何笑ってんの」


「…なんでだろ、浦田が優しいからかな」


「バカじゃねーの。お前の気持ち無視してキスしようとしてる男が優しいのかよ」


「無視してないじゃん。待っててくれてる」









もう一度、さっきよりも大きく緩んだ頬。
浦田は小さく笑いながら息を吐き出す。
わざとか否か、耳に触れるように髪を梳かす浦田の手に
中学生とは思えない色気、というかなんというか。
あぁもうやばい。
心臓が破裂しそうだ。








「…で、なんなの。結局キスしていいわけ? ダメなわけ?」







ゾクリとするような甘い声が耳から侵入して脳内に響く。
いつの間にか耳元に立てられていた肘がさっきからかすかに耳に触れていて。
唇が触れるまで、あと数センチ。

39:生狐。 ◆Oo &:2015/01/05(月) 13:55 ID:YzM


はじまして..!
壁ドンいいですね((*´∨`*)!

続きが気になります!
情景描写が綺麗で心理描写もしっかりと書いてありとてもおもしろいです!!

40:ちあ@◆y6:2015/01/05(月) 18:13 ID:iZ2



>>39

はじめまして!
壁ドン好きです*

そんなに褒めていただいて…恥ずかしいですねなんかw
続きは亀更新ですが、ちょくちょく更新していきます。

41:ちあ@◆y6:2015/02/01(日) 22:54 ID:iZ2













いいよ。ダメだよ。
…どっちの言葉を選べばいいのか、わからない。
わからなくて黙っていれば、ほら、もうすぐ唇が、触れる。






「…だから、なんか言えって」






酸素を失った魚が、酸素を欲して喘ぐように。
私は口から出すべき言葉を探して、パクパクと口を動かす。
何か言葉を発しようとする意思をくみ取ったように浦田は口をつぐんだ。
見計らうように、私は脳内で思考を開始する。


私は、浦田に。
キスされてもいいと思ってる。
それはきっと浦田が好きだからで、それは自覚している。
だけど、だけどそれを言ってしまえば。
さっきの浦田の発言からして、私達の関係は終わってしまう。
それは、嫌だ。


だけどだからと言って、ダメだと言えば。
それは私が浦田を拒絶したことになってしまって。
それはそれで、関係がぎこちなくなってしまう気がする。


ダメだ。考えれば考えるほど、どうしたらいいのか分からない。
そうこうしてるうちにどんどん時間は流れて。







「…だぁぁ、お前早くなんか言えっつんだよもう!!」







浦田が突然、怒鳴るように言って。
私から体を離した。


やばい、やってしまった。怒らせた?
どうしよう、どうしよう。


焦った狼狽の色が浦田に見えないように。
離れた浦田の顔をしっかりと見据えた。…と、






――ちゅっ、と小さなリップ音。








「…スキあり、ってな」








鼻の頭に、柔らかい感触。


…鼻に、キス、された?

42:ちあ@◆y6:2015/03/07(土) 13:59 ID:4jU









じわり、体の芯が熱を上げた。
頬が火照る感じがして、頬を撫でる風が異常に冷たく感じた。






「な、ななな、なにして、」


「鼻にキスした。お前がなんもいわねぇからどうしようかと思って」







さらりととんでもないことを言う浦田。
ふわふわ、頭の中身が浮いているような、浮ついた感覚。
バカ、じゃないの。
そう口から出た声もどこか掠れている。







「…嫌だったなら、すまん」






――嫌じゃ、なかった。


恥ずかしかったけど、嫌じゃ、なかったんだ。
だけどそれを言うことができなくて。
別に、とか。可愛げのない返事をして。
熱くて火照ってて、とにかく見せられるようなものじゃない頬を手で覆った。


くるり、私が背を向ける。
向けたところで目線の先は窓の外だからなにも意味はないし、
むしろ帰りにくくなっただけなのだけど。


私が背を向けたからか、浦田も背を向けたような、スリッパが床をこする音がした。
その音を待っていたかのように私はまた振り返って、そばに置いてあった鞄を手に取る。
浦田の背中を追いかけて、追いついて。
…コイツが本気でさっさと歩いていたら、追いつけるわけなんて無い。


さりげない、不器用でヘタクソな優しさが素直にうれしかった。

43:ちあ@◆y6:2015/03/14(土) 12:16 ID:4jU





http://s.maho.jp/book/c0d8d3jebbb0bc71/6960560250/

魔法のiらんど様にて、ニセモノドウシ。です。


新着レス 全部 <<前 次100> 最新30 ▲上へ
名前 メモ
画像お絵かき長文/一行モード自動更新