文才上げるために書く短編集 (失踪する可能性あり)

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1:ムクロ:2015/11/01(日) 19:37 ID:3uI

短編を書くだけ。それだけ。ファンタジーもあればリアルもあり。シリアスもあればシリアルもあり。
ただし、文才を上げるために書くだけのスレなので失踪する可能性あり。
とりあえず、>>10を目指す。
>>10までいけたら>>50目指す。

2:ムクロ:2015/11/01(日) 19:59 ID:3uI

不思議。それがワタシの種類を表す言葉だ。
いつもいつも不思議なことばかり言うから、あだ名は不思議ちゃん。
今日も学校でそう呼ばれた。
けれど、このあだ名はとても不快だった。

「あれぇ?不思議ちゃんは今日は黒魔術の訓練じゃないの〜?」
「こんなところで何してるんだ?他のところが君の居場所だろう?」

もちろん、ただの戯れだ。いじめなどではない。現に、言ったのはワタシの友達だ。しかも、小学校に通っていたころからの友達。

でも、なんか不快。とっても不快。

足下にある水溜まりに、持っていた閉じた傘を突き刺した。
水飛沫が上がり、それが膝まで伸びたワタシの白い靴下を濡らした。
白い靴下に染みができる。

「あぁ〜あ」

やっちゃった。
でもいいや。洗えば落ちるだろうし。
そう思って浅い池から出て家に向かって再び歩き出した。

空は朝の黒かった空とはうってかわってとても綺麗な澄んだ青空。
でも青空というより水空。青というより水色の空。

空を見ていると、隣から声が聞こえてきた。

「あれぇ?また空見てるのぉ?」
「またって何、またって……不思議ちゃんが空しか見てないみたいじゃないの」
「ミキ、だってそうだろう?僕はクルの言葉が当たってると思うけどな」
「ちょっとルイ。不思議ちゃんが困ったようにしてるじゃないの!!」
「なんだよ、僕に歯向かうのか?」
「二人ともぉ、喧嘩はダメダメだよ〜」

もう、本当にコイツらは……。
いくら小学校からの付き合いだからってそこまで言うことないと思うんだけどなぁ。
唯一ワタシを庇ってくれたミキはルイと掴み合いをしていた。折角の可愛い服がしわくちゃになっちゃうよ、二人とも。

「喧嘩しないの。さっさと帰ろう?」
「でも、いいの?ルイったら……」
「いいの。それは帰ってからね。クル〜行くよ〜」

クルがいつも通り、通りすがりの人にちょっかいをかけているところに声をかける。
通りすがりの人も大変だな。クルのちょっかいに嫌な顔一つせず、素通りだなんて。

「はぁい〜」

フリフリのスカートを揺らしながらクルがワタシのところに来た。
そして、皆で家に向かう。
今日もワタシは一日不思議ちゃんでしたとさ。

「あ、アタシ今日エビフライ食べたいな」
「うん。クルもエビフライ食べたぁい」
「えー僕はハンバーグが食べたいよ」
「お母さんが決めることだから、分からないからね」

3:ムクロ:2015/11/01(日) 21:38 ID:3uI

認めたくなかった。

「だって、あいつ暗いじゃん」

アイツがアタシをそう思っていたなんて。

「あいつと幼馴染みとかマジ信じらんねー」

嘘だと思いたかった。

「でも、あいつの姉ちゃんちょー可愛くてさー」

昔から気づいてはいたけれど。

「あいつの姉ちゃんのユリ姉ちゃんのためにあいつと幼馴染みやってるっていうか」

でも、そこまで言わなくなっていいじゃん。

「ユリ姉ちゃん、すっげぇかわ……__」

あいつが私に気づく。
クラスメイトの机に座って、他の男子二名と喋っている幼馴染みの雄太を睨みつけた。

私は教室に入って、雄太の寝癖の一つもない頭に向かって持っていたゴミ袋を投げつけた。
ゴミ袋はドサッという音をたてて床に落ちた。ゴミ袋に当たった雄太は「なんだよ!!」と私を睨んだ。
私も負けじと雄太を睨む。
雄太と喋っていた男子はコソコソと夕暮れの教室を出ていった。

「……信じらんないのは私の方よ」

怒りと絶望で胸が締め付けられ、やっと出た声はとても小さかった。
雄太は「ハッ!!」と笑った。

「なんだよ!!本当のことを言っただけだろ!!」
「本当のことって……本当のことって何よ……」
「ユリ姉ちゃんは可愛いけど、お前は暗いってことだよ。そんなこともわかんねぇの?やっぱお前低脳」

低脳。
その言葉でついに私の堪忍袋の緒はプチンと音をたてて切れた。
全部切れた。涙腺も堪忍袋の緒も、全部。
私は泣きながら雄太に向かって暴言を吐いた。

「そんなこと言うアンタが低脳だ!!暗いってなに!?私は暗くない!!このクソ!!このチビ!!アンタのようなバカが私の幼馴染みなんて、信じらんない信じらんない!!死んじゃえばいいのに!!」

雄太はそれでキレたようで、私の頭を叩いてきた。二発くらい私の頭を叩いて、暴言を吐く。

「てめぇはホントにユリ姉ちゃんに似てないのな!!このブス!!お前みたいな低脳クソ野郎が幼馴染みなんてオレ不幸だよな!!」
「うっさいうっさいうっさい!!ねぇは関係ないでしょ!!ねぇのことを持ち出さないでよ、バカ雄太!!」
「ホントのこと言われて泣いてんのかよ!!泣き虫!!」
「昔は私より泣き虫だったじゃん!!」
「昔だろうが!!」

言い争っていると、「やめなさいよ!!」という声が廊下から聞こえてきた。
見れば、廊下には数人の野次馬がいて、その中には私が「ねぇ」と呼んでいる姉の百合がいた。

「なにやってんの!!ユウもモモカも大声あげて!!恥ずかしいと思わないの!?」

大声をあげてるのは、ねぇも同じなのに。
私はその言葉をグッと飲み込み、「ごめんなさい」とねぇに謝った。

「アタシじゃなくて、ユウにでしょ。ユウも謝って!!」
「……分かったよ。……ごめん」
「ちゃんと目を見て!!」

雄太が私の目を見て頭を軽く下げる。

「……ごめん」

私も雄太の目を見て「ごめん」と改めて謝った。

「うんうん。仲良しが一番。二人とも、もう喧嘩しないでよ?」
「「はい」」

昔からそうだった。
雄太が私のことをどこかで悪く言って、それを私が知って泣きながら雄太に暴言を吐く。雄太も暴言を吐いて子供っぽい喧嘩になる。
そしたら、ねぇが来て「謝りなさい!」と言う。私も雄太もねぇには逆らわない。
謝ったら、ねぇは「喧嘩しないでよ?」と一言言う。

昔とまったく同じ光景に、少し笑えてきた。

4:ムクロ:2015/11/01(日) 22:45 ID:3uI

「おやおや。リエルさんではありませんか」
「あらあら。サナリィさんではないですか」

目の前にいる金髪の女性に言葉を返す。
胸元と背中の部分が開いている、不埒なミニドレスを纏ったサナリィはワタクシに向かって大きめの炎の塊を飛ばす。
ワタクシはそれを綺麗に避ける。

「あらまぁ。避けれるのですねぇ。アナタのような者には避けれないと思っておりましたが__っと。危ないですわね」

ワタクシはサナリィの言葉を遮るように同じように炎の塊で攻撃した。
サナリィはその豊満な胸を揺らし避ける。それはそれは優雅に舞うように。
彼女は見た目だけ良い。だからその優雅な姿はとても美しかった。

「ふふ。ごめんなさい。アナタのような者にはこの程度の技で十分かと思ったのですが……珍しく、ワタクシが間違えてしまったようですわね」

沸点の低い彼女は顔を醜く歪めたが、それは一瞬のことで、すぐにいつも通りのいやらしい笑顔に戻った。

ワタクシは自分の白く清楚なワンピースの裾を摘まみ、お辞儀をした。

「それでは。そろそろお時間なので」

そして、そのままサナリィと同じ色の髪を揺らしてサナリィの横を通った。
途中、サナリィはワタクシの肩に手をおき、

「小娘が」

と、低い声で言った。

まったく。はしたないこと。
女性なのですから、低い声は出さない方がよろしくてよ。
ただ……小娘ですか。
いいじゃないですか、小娘。まだ若いということですね。
ワタクシが小娘というのなら、サナリィ、アナタは大娘ということになりますね。
双子と言えど、アナタは姉なのですから。
嗚呼。あんな不埒な姉を持って、ワタクシはなんて不幸なのでしょう。

5:ムクロ:2015/11/02(月) 17:58 ID:3uI

手に持っている白い餅にパクッと噛みついた。
餅という名前通り、もちもちしていて柔らかい。弾力もあり、中に入っているアンコも甘く美味しい。
ただ、つぶあんなのが残念なのだが。

あんこ餅をパクパク食べながら、私は隣に座る男の顔をチラリと見た。
東洋人特有の黒い髪に黒い目。肌は西洋人に比べれば黄色いが、それでもそこら辺の人よりは白い方だ。
顔もそこら辺の人よりは良いだろう。手足も細くて綺麗だ。男にとっては嫌なことだろうが、女っぽくて可愛いと思う。
この間見た人間が言っていた、「男の娘」ってやつだと思う。
推定年齢は14歳だろうか。若いな。

私はたびたびチラリと男を見ながら餅を食べ続けた。
おっと。そろそろ餅を食べ終わってしまいそうだ。あとで母屋の客室からとって来なくてはな。
そう思ってチビチビと餅を食べる。
アンコの入っているところを通りすぎ、もう皮だけだ。
アンコが甘く美味しかったものだから、ちょっと物足りなく感じる。これは味を楽しむのではなく、食感を楽しんだ方がいいな。
……って、あーあ。食べ終わってしまった。残念。

私は立ち上がって母屋の客室に向かおうとした。が、立ち上がった直後、男が衝撃的なことを言った。

「あ、食べ終わったんだ」

一体誰に言っておるのか!?
私はフラッとしてしまった。貧血気味なのだろうか……。
って違う違う!!そんなことじゃない、貧血じゃない!!
今私が面している問題は、そう……___。

「どうして私が見えておる!?」

叫んで男のほっぺたを引っ張った。
「ひたいひたい」と男は声変わりのしていない声で訴えてくる。
私はほっぺたを引っ張っていた手を引っ込めて、その場に正座した。

「痛いな〜、もう」
「もう、ではないわ!!どうして私が見えているのだ!!」

私は男を指差した。

「なぜお主のような、いかにも軟弱そうな者に見えておるのだ!!いや、軟弱とかは見える見えないの話ではないのだが……いや、ある、のか?関係あるのかもしれないな……」

最後の辺りはブツブツとただの独り言。
男は笑った。ふむ、可愛いじゃないか。ただ、残念ながら男だ。

「いやー、可愛いねー」

お主の方が可愛いと思われるが。

「あ、自分、名前は勝義っていいます」
「かつよし……?ふむ。勝義か。いい名前じゃないか。顔と名前は少しみすまっちな気がするが……まぁ、良いだろう。許す」
「ゆ、許すって……」

苦笑いされた。
なんかムカつくのでほっぺたを少し引っ張っとく。
女のような顔をした男__勝義は、私の頭にポンっと手を置いた。
そして、感嘆のため息を漏らして頭を撫で回す。

「うわー、ふわふわしてるー」
「座敷わらしとて、皆が皆、すとれぃとへあーではない」

そう言うと、勝義は「えぇ!?」と叫び、驚いたような顔をした。
なんだ?なぜ驚く?あ、私がただの子供だと思ったか!?

「バカめ!!私はただの子供でわはないわ!!」

そう言って、身に付けていたわんぴぃすから一瞬でお仕事仕様の赤い着物に変わる。
そして、金髪だった髪もお仕事仕様の黒髪へ。

「私は座敷わらしだ!!勝義、私に会えたことを喜ぶが良い!!」

暖かくなってきた春間近のこの時期。
雪もやっと溶けて、この温泉宿の主人も喜んでいる今日この頃。
私、座敷わらしと人間の勝義は、初めて言葉を交わした。

6:ムクロ:2015/11/03(火) 13:58 ID:3uI

「んじゃ、やろうか!!」
「やろうやろう!!」

「あははっ」と甲高い女子の笑い声が聞こえる。
この年頃ともなれば、そういうことに興味を持つことは普通のことだ。
だがしかし、本当に実践しないでほしい。ましてや、本物がいるところで……。

「え、えっーと!!は、花子さーん。遊びましょ〜!?」
「遊びましょ〜!!」

はいはい。無反応無反応。無反応が一番。
飽きて帰るまで無反応っと。

「……?」
「何も……ない、よね?」
「うん……」

先ほどまで元気があったのに、いきなり元気がなくなる。
うるさくなくて良いけど。

数分たつと、彼女たちは帰っていった。
見る限り、怯えてはいた。けれど、どこか楽しそうだった。子供はいつもそうだな。

私はフッと息をつき、三番目のトイレのドアを開けた。
そこにトイレはなく、広い部屋があった。
赤い絨毯に赤いソファ。焦げ茶色のテーブルにたくさんの本棚。そして、好きなことをしている怪談の仲間たち。
……ここに集まっているのは、学校で有名な怪談に出てくる者たちだ。
そして、私は特に有名なトイレの花子さんである。
ただ、おかっぱ頭だったのは、もう何十年も昔のことだ。

「おっ、お帰り〜」
「お帰りじゃないわ!!アンタ、人に面倒なこと押し付けて〜!!」

マイペースな自己中心的な女の名前は闇子。私の親友である。……そのはすだ。
巷では知名度の低い子だったりする。
黒い髪に黒いワンピース。顔は可愛い。

「だって、皆は花子が出てきてくれた方が喜ぶでしょ?」
「だからって……いっつも私ばっかじゃないの!!だから闇子は知名度低いのよ!!」
「だ、だって〜私は面倒臭いのきら__」
「いいから代わりにやってよ〜!!」

私は闇子に近くにあった本を投げる。
闇子の額にその本は当たり、鈍い音が部屋に響く。
闇子の頭の中は何も入ってなくて、空洞なんじゃないの?

「はいはい、そこまで」

パンパンと手を叩いて喧嘩を終わらせようとする男は人体模型。
よく気持ち悪いと人間共に言われているが、どこが気持ち悪いのか私には分からない。むしろ、こちらの世界では1、2を争うほどの美形のはずだが……。

「じ、人体模型が言うなら……」

顔を赤くしながら闇子がそう言った。
私に近づき、「ごめんなさい」と言ってくる。
まったく。闇子はいつになったら人体模型に告白するのかしら。

「ふふ。二人は仲が良いわねぇ」
「そりゃあモナさん、私達親友ですもの!!」

闇子、私はあなたと親友をやめたくなったよ。

優雅に紅茶を飲みながら言ってきたのは有名な人食いモナ・リザさん。
皆「モナさん」と読んでいる。
最近の悩みは体重のことだそうだ。

「あ、モナさん、その紅茶……」
「ん?あぁ、この紅茶?」

モナさんの飲んでいる紅茶に気づく。
その紅茶、もしかして__。
私はモナさんから離れたところにあるソファに座った。
面倒事に巻き込まれたくないからだ。

「ベートーベンには内緒よ?」
「内緒とは……なんだろうね?」
「そりゃあこの紅茶は、ベートーベンの……あら?」

いつのまにかモナさんの後ろに立っていた男。それはかの有名な音楽家……の怪談化してしまった別人同然のベートーベンさんだ。
ちなみに、こちらのベードベンさんは体に悪いところがない音痴な方だ。

モナさんは「やべっ」と言った感じで紅茶をテーブルに起き、そそっと逃げて行く。

「モナさん、これは僕の紅茶じゃないのかい?」
「あ、あら?そうだったかしら?ごめんなさい。間違えたのだわ」

いきなり、どこからともなく、たくさんの楽器が出てきてモナさんを攻撃し始めた。ベートーベンさんの得意な攻撃だ。

「君はいつもいつも僕の茶菓子や紅茶を……!!」
「やめて!!やめなさい!!顔に傷がついたらどうするのよ!!」

苦笑いしかできない。

「あの人たちも仲が良いよね。僕は良いことだと思うな」
「そ、そうかな〜?私には仲が悪いようにしか……」
「闇子に同意」

これはいつも通りの光景だ。
私が仕事(ほぼサボってるけど)から帰ってきて、闇子と喧嘩して人体模型が出てきてモナさんが笑いながらベートーベンさんの紅茶を飲んで、それがベートーベンさんに見つかって怒られて。

こんなのを人間に見られちゃあ、怪談も怖くなくなっちゃうわよね。

7:ムクロ:2015/11/05(木) 19:33 ID:3uI

「あっーははは!!キサマなんぞに負けると思うか、勇者よ!!」

と、叫んでから勇者と戦った若いころもありました。ええ、ありましたとも。
けど、あれは若気の至り?ってやつであって、僕が悪いわけじゃないわけであって。
久しぶりに見た昔の夢を思い出しながら心の中で自分を必死に守ろうと言い訳をしていると、トントンと質素過ぎるドアが叩かれた。

「やあ」

手を上げて、人懐っこそうな笑みを浮かべる男。
彼こそ、この僕を倒した正真正銘の勇者だ。だがしかし、今は職業を変えてコックになっている。そんでもって今は僕の相棒である。

僕は「やあ」と返して、ベッドから出た。
「ふわあ」と欠伸をすると、元勇者のリイは笑った。
まぁ、元魔王である僕がこうして欠伸というマヌケそうなことをしているのに笑いが隠せないのだろう。
僕が全盛期であったのなら、リイに切りかかっていただろう。
だが、今は全盛期でもないし、僕はもう、そこまで若くないのだ。
戦う気なんて毛頭もなかった。昔の僕と今の僕じゃ、性格が劇的に変わっていた。

「今日は市場で極東にある島国のソースを手に入れたんだ」

リイが嬉しそうに言ってきた。
極東にある島国……あぁ、聞いたことがある。
100年以上鎖国をしている国で、その国だけで流通している調味料や香辛料は滅多に市場に顔を出さないのだとか。
しかも、その調味料や香辛料はとてもとても美味しいらしく、こちらの国々では同じようなものを作り出すことが出来ないでいた。
数が少ないながら質が素晴らしく良いなどなど……。そんな噂くらい、コックの相棒を持つ僕はたくさん聞いていた。

「へぇ。それはそれは。で、どういうものなんだ?」
「あぁ、名前はしょーゆと言ったかな。これはとても凄いんだ!!早速このしょーゆに合う料理を作りたいと思う!!」

興奮気味にそう言うと、リイは僕の部屋から出ていき、キッチンがある下の階におりていった。

本当に元勇者なのか……と半ば呆れながら、僕は昔の敵の後を追った。

誰だったか。『昨日の敵は今日の友』などと面白いことを言ったのは。
本当、その通りだと思った。

8:じゃじゃん:2015/11/05(木) 20:25 ID:Icg

どれも素敵なお話ですね♪読んでてとても楽しいです。
特に私は3のお話が気にいっています(*^▽^*)

9:ムクロ:2015/11/07(土) 14:22 ID:3uI

>>8
ありがとうございます!!
>>3の話ですか……!!
推敲してなかったものですので……ちょっと恥ずかしいです(*´ω`)

10:ムクロ:2015/11/07(土) 14:45 ID:3uI

僕のクラスには、変わったやつが一人いる。

「しょうがないから達哉が手伝ってやろう!!」
「いや、いいです」

身長は小学生高学年レベル。言葉使いも小学生高学年レベル。頭は平均的。顔はいわゆるショタ顔、つまりは小学生高学年くらい。
どっからどう見ても、一部の女子が喜びそうなこの高校生ショタ野郎の名前は斎藤 達哉。
ことあるごとに僕に話しかけてくるやつである。

高校生ショタ野郎我らが達哉くんは、今日はどうやら僕の手伝いをしたいらしい。
今僕はクラスの皆から集めたたくさんの地理のプリントを持って職員室に向かっていた。
20枚程度の薄っぺらな紙。手伝ってもらわなくたって大丈夫だ。
なのに、だ。我らがショタは手伝いたいのだと。
しかもなぜか上から目線。生意気だ。
性格は顔に出るってか。なるほど。だからショタ顔なのね。

「手伝わせろっ!!無視するなーっ!!」
「はいはい。あとでアイス奢るからね〜」
「舐めやがって!!」
「舐めたくもない」

なぜこうも僕につっかかってくるのだろうか。
そういえば、休み時間に達哉が誰かといるのをあまり見かけない気がする。
見かけたとしても、一部の女子が熱心に話しかけているだけで、友達って感じではなかったはず。

もしかして、僕と友達になりたい、とか?
……いやいや、まさか!!そんなわけないだろう。

「手伝わせろーっ!!」
「もう職員室近いしいいよ」

うんうん。そんなわけないだろう。
この生意気なやつがねぇ……。ハハハ。

心の中で乾いた笑いをしていると、達哉が僕の制服の裾を掴んだ。
こういうところも実にショタっぽい。
僕は「なに?」と振り向いた。
達哉は顔を照れたように赤く染め、小さな声で言った。

「達哉が手伝ってやる」

子供っぽい。実にショタっぽい。
僕は達哉の粘り強さに負けたことにして、プリントを半分持たせてやった。
達哉はパアアァと効果音がつきそうな明るい顔になり、満足げに頷いた。

「お前は見るからにひ弱そうだから、このプリントを持っていけなかったんだろ!!」

なんとまぁ酷い解釈だ。

「達哉は見るからに強い。だから手伝ってやろう!!感謝しろよーっ!!」
「はいはい」

子供って疲れるなー。ハハハ。
僕はまた心の中で乾いた笑いをして、歩を進めた。

11:ムクロ:2015/11/08(日) 21:03 ID:3uI

黒い部屋。真っ暗な部屋。扉らしきものは開かない。
どれだけドアノブを捻っても開かない。なんでだろう?

「みつき。居るんだろ?開けろよ」

お兄ちゃんの声が聞こえてくる。
居る。私はちゃんとここに居る。でも、この部屋から出ていけないの。
ドアを開けたいのに開けれないの。どうしてかな?
お兄ちゃんは分かる?

「鍵かけやがって……」

鍵?鍵がかかっているの?だから開かないんだね。
ねぇ、お兄ちゃん。
そこにいるなら鍵を開けて。

「ったく。内側からかけて……オレ知らね」

内側?
……そう。内側から。
じゃあ、私は開けられるよね?
……でも、可笑しいなぁ。なんどもドアを確認したけど鍵はなかったはず。
内側から?外側の間違いじゃないの、お兄ちゃん。

「ここに飯、置いてくからな」

ありがとう。でも出ていけないからご飯食べられないや。

「うん、ありがとう」

え、なに?
誰の声?
ありがとうって誰が言ったの?

私はドアに近づき、ドアノブを捻った。
けれど、開かない。なんで?
誰が言ったのか知りたい。その人を見たい。でも、これじゃあ見れないわ。

すぐ近くでガチャっという音が聞こえた。ドアが開いたような音だった。
嘘。どうして?ドアの音が、なんで?

「あ、お兄ちゃん、ちょっと待って」

私はその場に座った。
怖くなったから。
誰か分からない人がいて、その人がきっとドアを開けた。そしてお兄ちゃんを引き留めた。
___私の代わりに。
とてもとても怖い。どうしてこんなに怖いんだろう?
と、思っていると、ガタガタと床が揺れた。地震かな?
すると、部屋が割れた。割れた、というより開いた。壁が開いた。
私は呆気にとられてその開いたところを見た。
開いたところからは、大きな目が私を見ている。茶色の瞳。
巨人みたいだ。

「なんだよ」
「ねぇ、お兄ちゃん。この人形と家さ、捨てた方が良いよね?」
「さぁな。オレ、そういうのよくわかんねぇーし」
「ふぅん。なんか、この人形怖いのよね。生きてるみたいで」
「……確かに。んじゃ捨てれば?」
「そうする」

___壁が閉じられた。

12:ムクロ:2015/11/09(月) 21:45 ID:3uI

「早苗って、よくわからない」

何度そう言われただろう?
よくわからないって何だろう?

今日もまた、友達が減った。

「あぁ、ムシャクシャする〜!!」

枕を壁に投げつけた。そしたらほら、((だめじゃないの!!))という声が聞こえてくる。

「何よ何よ〜っ!!ああ、最悪最悪!!何度友達作ろうが減る一方じゃないのよ〜っ!!」
((叫んじゃダメ!!ご両親に怪しまれるわよ!!))
「で、でも……!!」
((でもじゃないの!!))

どこからともなく聞こえてくるこの声の主は理恵。
いつの間にか私の中に住んでいた住人の一人だ。
私が辛くなったときや大変なとき、いつも理恵が助けてくれる。私と交代して、体を動かしてくれる。
その間、私は寝ているだけでOK。気がついたら全て終わっていて、理恵がため息まじりに言うのだ。
((今回だけだから))って。いつもやってくれるくせに!!

((でも、どうしてあんなに言われるんだろうね〜))

いきなり、のんびりとした声が聞こえてきた。
この声の主は萌。いつの間にか私の中に住んでいた住人の一人。
ちなみに、あともう一人いるのだけど……あいつ、面倒臭がり屋だから滅多に声をかけてこないんだよね。

((ちょ、萌!?))
((きっと早苗は理恵に頼り過ぎなんだろうな〜))
「え、そうなの!?」
((も、萌!?アナタ……!!))
((他の人からしたら、理恵と早苗がぐるぐる変わって変な風に見えるんだと思う。だから、分からないって言われるんだよ))

……つまり、理恵に甘え過ぎたと!?
確かに、理恵に代わってもらったら寝ているだけだからって最近は特に代わってもらってたけど……。
やっぱりそれかああぁ……。それがいけなかったのかああぁ……。

「萌、教えてくれてありがとう」
((いえいえ〜))

きっと萌は今微笑みながら手を振っているんだろうなぁ。
なんて想像をしていると、クソ生意気な声が聞こえてきた。

((理恵に甘えてばっかだとダメだと思うな。早苗、これは君のためだ))
((あら順太郎。珍しい))
((丁度早苗に教える機会だと思ったからね。わざわざ来てあげたのさ))
((順太郎〜そんな上から目線言っちゃダメだよ〜))

最後の住人。それは順太郎。生意気で面倒臭がり屋の男だ。
私は「何?」と聞いた。順太郎はこれまた上から目線で言ってくる。

((君は可笑しいんだよ))
「うっさいわね!!」

知ってる。体の中に三人も人が住んでるんだし、しかもその中の一人に甘えてるし。可笑しい以外の何者でもないだろう。

((……で、だ。早苗に言っておくことがある))
「何?」

どんなムカつくことが言われるんだか。

「……はやく言って」
((……。……君は、山田早苗は、多重人格なんだ))

は、はぁ?これまた珍妙な言葉が出てきたな。多重人格?え、それって二重人格みたいな?
そう色々と考えていると、理恵に交代してもらったときのような、独特のあの体の怠さと眠気が襲ってきた。

そこで、山田早苗の意識は途切れる。

((目を開けるといいよ))

声だ。順太郎の声だ。

「ん……?あ、あら?どうしていきなり交代して……」
((今日から君が早苗だ。理恵はもういない))
「……なるほど。こうやって前いた夕日も鈴音も消えたのね」
((そう。君の考えていることであってる。人格を交代し、長い時間を経て、人格だったことを忘れさせる。君もいつかこのことを忘れ、僕らを「住人」と思い込む。そして、君もいつか消える。次は萌。萌の次は僕。僕が消えたときはその体の死を意味する))
「そう。まぁ、この人生を楽しんでみるわ。早苗が消えたのは、理恵に甘え過ぎたから。で、私は誰にも甘えなければ消えないのね?」
((そうかな?僕にもまだわからない。ただ、君に多重人格者だということを教えたときが君の消えるときだ))

萌の声が聞こえない。眠ってしまったのだろうか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
私は持っていた枕を壁に投げつけた。
私はもう理恵ではない。早苗だ。
確か、「前代の早苗」の昔の名前は……まぁ、いっか。
いつか私も理恵であることを忘れるんだろうか。

13:ムクロ:2015/11/10(火) 18:18 ID:3uI

誰もいない放課後の昇降口に響く声。

「流星くん、すす、好き、好きです……好きですっ!!」

あ、あぁ、えっと、どうしよ!?……どうしよ!?
成功したらどうしよっかな!?お、おおお母さんに報告かな!?そうなのかな!?
で、でも、恥ずかしいし……!!
って、まだ成功してないのに。落ち着かないと。
でも、でも……流星くんともし、おおおお、お付き合い出来たらっ!?
は、はあぁ……どうしよ。そんなことばっか考えちゃうよっ!?
……り、流星くんは……今、何を思ってるんだろ!?思っているのだろ!?

チラッと流星くんを見る。
先ほどワタシに告白された流星くんはまだ戸惑ってるみたい。
そりゃあそうだよねぇ……。

みんな、流星くんのどこが良いの、なんて言うけれど、あの茶髪に茶色い目、少し日に焼けた健康的な肌に白い歯。どれをとっても良いじゃない!!
それに、いつも明るくて面白くて優しくて素敵で聡明で……あぁ、だめ!!
心の声が漏れてしまいそう!!

流星くんと目が合う。ワタシは「うっ!?」と変な声を残してうつむいてしまう。
もう何してるの……!!目をそらしちゃ気まずいよう!!
で、でも告白の返事を待っているだけでも気まずいよう!!

長い沈黙。
それは十秒にも思えたし、五分にも思えた。
ワタシは小刻みに震えていた。きっと興奮のせい。もし成功したら……って考えただけでも興奮しちゃう!

続く沈黙。

__この沈黙を破ったのは悲しくもワタシだった。

「りゅ、りゅう、流星くんっ!!」
「は、はいいぃ!?」

流星くんが驚いたのか、ワタシの突然の呼び掛けに裏返った声で返事をする。
そんな慌てん棒なところにも惹かれ……って違う、違うよう!!

「あのっ、へ、返事は今度で良いの!!だから、えと……その……ま、また明日ね〜っ!!」

ワタシはその場から立ち去った。

そこから走ってクラスに戻り、鞄を持って昇降口に向かった。
……ああ!!流星くん、昇降口にいるじゃん!!気まずい、どうしよ!?どうしましょ!?

そう思っていると、いきなり、「よっ」と肩を押された。

「ひいいぃいいいやああああ!?」
「う、うお!?」

振り向くと、そこには、り、流星くんが!!
流星くんは「あの!!」と、先ほどのワタシのように声を出した。

「あの、いいから!!」

は、はぁ?どういう意味だろ?

「別に、いいから!!」
「何がぁ!?」
「だ、だから、さっきの返事。お、オーケーなんだ!!」

固まるワタシの体。一瞬の沈黙。
気づけばワタシは頭を下げていた。

「あ、ありがとうございます!!」
「お、おう!?こちらこそありがとうございますッ!?え、ありがとう!?」

な、なんだろ!?なんか、可笑しい気がするよう!?

14:ムクロ:2015/11/11(水) 22:11 ID:3uI

うえ、>>13が可笑しくなった、うえ。
>>13のような失敗がないように、文才向上目指して頑張るぞー!!

……>>12も結構酷いなぁ。

15:ムクロ:2015/11/11(水) 22:42 ID:3uI

君がどう思っていようと、ワタシには関係ない。


あぁ、今日も君を見られた。
いつも可愛い君。今日はちょっと朝から疲れぎみだったね。ちゃんと寝ないとダメだよ?
ふふ。そういえば、体育の時間転んでいたね。窓の外で走り回って転んでいる君はとてもとても無邪気。
小さな子供みたいでとってもキュート。
体育でもっと疲れたのかな?次の時間は寝ていたね。先生に怒られてシュンってしてるのはとても新鮮だったよ。

あぁ、その目でワタシを見て。
君の友達や恋人のあの人たちを見るような、イタズラだけど優しさがあるあの目で。
とっても素敵。とてもとても素敵。
どうしてそんなにも素晴らしいの。
どうかワタシに気づいて。こんな哀れなワタシの君に向ける視線に気づいて。
知ってるわ。君は、愛する恋人の視線にしか気づかないんだよね。
大丈夫よ。あの恋人は君の一部。あの恋人も君も、大好きなの。もちろん、君の方が好きだけれど。
恋人さんはとても愛らしいのね。
頬を赤く染めて笑っているの、君の隣で。そして君も笑ってるの。
いつかその中にワタシも入りたい。

ねぇ、気づいて。気づいてよ。
ワタシのこの視線に気づいてちょうだいよ。
目で追ったり、写真で君を見ているだけじゃ我慢出来ない。
この写真もあの写真も全部全部ワタシに向けられていない。
どうかその目をワタシに向けて。

「みやざ、き……?」

そんな目で見ないで。
見るのなら、あの目で見て。
どうしてそんなに怯えるの?ワタシはただ、ワタシはただ、こんなにも君を愛しているだけなの。それを君に言っただけなの。
どうして逃げるの?やめて、叫ばないで。君のその声は嫌い。アイツを思い出すの。
やめて、やめて、君に暴力を振るいたくない。だからその叫び声をあげないで。悲鳴なんて、あげないで。

「う、うわ、や、やだ、来るな!!来るなよおおおおお!!」

そんな泣かないで。大丈夫。何もしないわ。
ただ、叫ぶのをやめてくれたら……逃げるのをやめたら……ね?ね?

「いやだ、いやだ、やめ、やめ、やめ………!!」
「大丈夫だから、大丈夫だからッ!!」

大丈夫だから、ね?
ワタシをあの目で見て。アイツのような声を出さないで。
それが出来ないなら____

「なんだよ、それ、なん……う、うぁ、う____いや、いやだいやだいやだあああああああいやああああああああやめ、やめて、うぁ、うぁああぁあああぁああッ!!やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだッ!!」

16:ムクロ:2015/11/12(木) 22:08 ID:3uI

カースト制度。
この時代には、もう無くなってしまったと言われる制度。
___けど、それは本当?
本当に無くなった?ううん、無くなってなんかいない。
カースト制度はどこにでもある。とてもとても身近なところにある。

例えば、誰でも通ったことがある学校とかね。

「ね?ね?お前もそー思うよねぇー?」

高笑いをしながら目の前にいるやつの手の甲を踏みつける。

「こういうのってぇ、ドラマだけだと思うじゃん?残念残念ざんねーん!!」

ドス、ガス、ゴス、という効果音がつきそうな蹴りをいれる。
顔を歪めて豚のように泣いている。
いつも偉そうにしていたのが、今まさにこんな哀れな姿になっている。
皆にモテていると勘違いしていたアタシの元親友ちゃんは、とても滑稽で面白い。

「ねぇねぇ、元親友ちゃーん?お前は何したか分かってる?あはっ」

ま、何もしてないんだけどね。
特に理由はない。だからイジメた。それだけ。
……でも親友だったんでしょう?
あらあら奥様!!そんなご冗談でしょう?なんとなんと!!表だけの親友だったのです!!
結局そういうものなんだよね、この世って!!

「あは、あはっ!すっごいウケる!お前、なに?なに?なんで豚みたいに鳴いてんのー?ブヒブヒうるさぁい」

このとき、アタシは女王だった。
元親友ちゃんは女王に蹴られている下等な存在、奴隷。

いじめることに理由なんていらない。
ただ、自分が上だってことを知らしめられればいいだけ。
どうせそんなもん。
……ってことだから、アタシにいじめられ___

「ハイ、終わり」
「は?」

元親友ちゃんがポケットから何かを出して言った。
その何かは、ケータイに似ているけど、それとは違う。
ボタンのようなものを押して笑っている。

アタシは困惑した。
なぜこいつは笑ってる?可笑しくなっちゃった?なに?なに?なにッ!?

「うっ、うはははっ!!ウケるウケる!!ちょーウケる!!アンタって本当にバ、カ、だ、よ、ねぇー!!うふふ、うふ、あははははっ!!」

気持ち悪い笑い声をあげながら、持っている物をアタシに見せてきた。
刑事ドラマで必ず一回は出てくるであろうボイスレコーダーだった。
……そう。元親友ちゃんが押したボタンは、録音を終えるためのボタン。

アタシは悲鳴にならない声をあげた。

「やめ、やめて!!それをこっちに」
「渡してって!?あぁ、本当に面白いわ!!録音されてるとも知らないで、私が笑うのを堪えているのを泣いていると勘違い?ハッ!!ハハハハハハッ!!」

元親友は、ボイスレコーダーを愛しそうに撫でた。

「カースト制度ってあるじゃない?あれってさ、すぐ逆転できるんだよ」

___ここがあればね___
ボイスレコーダーを持っていない方の指で頭を指差して不適に笑った。

17:ムクロ:2015/11/15(日) 21:56 ID:3uI

「才能ないとか……」

嘘だろ。
その言葉を飲み込んで、代わりにため息を吐いた。

手に持った羊皮紙を見て、無性に泣きたくなった。
どうしてこうなった?どこでどう間違えた?なんでオレばかりこんな目にあう?
そんな疑問も、すぐ解消されてしまうのだけれど。
どうしてこうなった?……簡単だ。オレが努力をしなかったからだ。
どこでどう間違えた?……きっと生まれたときから。才能があるかないか、なんて生まれたときから決まっているんだ。
なんでオレばかりこんな目にあう?……そもそも、そんなに辛い目にあっただろうか?

「クソッ……!!クソ、クソッ!!」

羊皮紙をぐしゃぐしゃに丸めて、近くにあった井戸に投げ捨てる。
どうせ枯れ井戸だろう。ゴミが捨ててあっても何も問題はないはずだ。

「痛っ〜!!」

あぁ、早く帰って寝てしまおう。
寝て忘れよう。
お母さんとお父さんになんて言われるだろう。
怒られるかな?努力しなかったからだって。
それとも泣かれる?こんな子供を持ってしまって、なんて不幸なんだろうって。
それか、笑われる?もしかしたら何も言わずに抱き締めてくれるかも?

「ちょっと、そこの君!?君でしょ投げたの!?」

……まぁ、お母さんとお父さんのことだ。
どうせ笑って兄ちゃんと比べるんだろう。兄ちゃんは優秀……とまではいかないけど、頭はオレよりも良かったから。

「ハァ〜ア」
「ため息ついてないで僕に謝ってよ!!」

さっきから煩いなぁ。なんなんだよ!?
さっきから何か言ってくるやつは!!
どういう顔をしてるんだか見てやる!!

声のした方……さっきの枯れ井戸の方を見た。
そこには少女がいた。だがしかし、純白の歪な翼が生えている少女。
ありえない。

「ありえないって、翼なんてッ!!」

そう言って髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。
少女はオレよりも高い声で「なによ!?」と怒った。

「魔法使いの君には言われたくないさ!!なんで最近の魔法使いは天使を信じないんだ!!」
「知らねーよ!!天使なんているわけないだろッ!!」
「僕が証拠だっ!!」
「女の子が僕とか痛いからやめろ!!」
「煩い!!」

ふー……はー……ふぅ……

両者ともに息を整える。
オレの方がはやく息を整え、少女のもとへ向かい、その歪な翼を掴んでやった。

「そもそも天使なら、こんな変な形の翼じゃねぇだろ!!」

翼をオレの方へと引っ張った。
ギシッと音がして、少女が悲鳴をあげる。この世にいる限り、聞かないような悲鳴。叫び。声。音。
とても甲高く、なんと言ってるか分からなかった。
周りの家々から「なんだ!?」とたくさんの人が出てくる。

「うっ、うっさ……」

翼を放すと、少女の声はおさまった。
周りの家々から出てきた大勢の人々は何事かと少女とオレを交互に見た。
その人々の中に、オレの親友がいた。

「ロー、何やってんだよ!?」
「あ、クルレ!!」

親友のクルレはオレのもとに駆けてきた。
少女を見ると、驚いたように息を飲んだ。

「翼だ……しかも、形が……」
「だろ?こいつ、自分のこと天使って言って__」

言葉が少女の叫びによって遮られた。

「貴様は僕を侮辱した!!なにより、翼をバカにしたことが許せない!!あげくのはてに、僕の翼を掴み、暴行に及ぶなど!!貴様の名前はロー・ルッタン!!今日の午後、魔術学校から退学させられた愚か者だ!!」

とつぜん、周りの人々がざわめき出した。
聞こえてきたのは「退学?」「あの魔術学校を?」だった。
オレは恥ずかしくなって、その少女の翼をまた引っ張った。

「そうだ、退学させられたさ!!あんな初歩的な学校、オレには__」
「それが愚か者だ!!才能がなくて退学させられたものを、嘘の言い訳で逃れようとして!!ロー・ルッタン、僕の名はアルカロイド!!毒の名を持つ天使だ!!貴様に天罰を与えてくれる!!」

18:ムクロ:2015/11/15(日) 22:19 ID:3uI

>>17の続きです
___________

少女を中心として、暴風が吹き荒れる。
翼を掴んでいられなくなって、手を放す。親友のクルレとオレは、吹き飛ばされた。
近くにいた体格がしっかりした男性に肩を掴まれ、「大丈夫か!?」と言われる。
クルレも一緒に肩を掴まれたようだ。
二人して「大丈夫です」と答える。

「一体なんなんだ?君、あの子と喋っていただろう!?」

オレは何て言うか迷った。
明らかに、オレの方が悪いだろうし、このことも退学のことも知られてしまっては家族に顔向け出来ない。

「天使なんです、天使!!」
「え、ちょ、クルレ!?」
「だって、天使だったじゃないか!!確かに翼は歪だよ!?でも、でも、君の名前も当てたし、呪文も唱えていないのに風が……」

普通、魔術を使うには呪文を言わなければならない。
難しくなるほど呪文は短くなるが、そのぶん魔力をたくさん消費し精神が壊れやすくなる。
難しい魔術は天候関係。
たとえば今起きてる風だってそうだ。
なのに、呪文も言わないでどうして……!?
もしかして、こいつは魔力がたくさんあるのか!?才能があるのか!?
オレがどんなに望んでも神に与えてもらえなかっな才能が!?
それとも、本当に天使なのか!?

「ムカつく……」
「どうした、君」
「ロ、ロー?」

オレは男性の手を肩から払って、自称天使へ一歩踏み出した。

「おい、アルカロイドだっけか!?本当に天使なら、オレの望みを神様に届けることできるだろ!?」

そう叫ぶと、風が少し弱まった。

アルカロイドはオレを見て、その歪な翼を上下に動かした。
それだけで、風はおさまる。
汚らわしいものを見るように、アルカロイドはオレを見てきた。

「望み?」
「そーだよ、望みだよ!!お前すっげぇムカつく!!なんだよ、なんなんだよ!!天使だかなんだか知らないが、だからってなんでお前はそんな魔術を使えるんだ!!オレは出来ないのに!!」

オレはアルカロイドにまた一歩踏み出す。

「オレだって、魔術の才能が……人並みの魔力が欲しいんだ!!」

アルカロイドは歪な翼でオレのもとまで飛んできた。
オレはアルカロイドをこれでもかってくらい睨み付ける。

周りの人々は「何をしている!!」だの「この落ちこぼれが何を!!」とオレを罵る。
つまり、コイツらはみんなオレの敵だ。
アルカロイドはそのたくさんの言葉を聞いてか、悲しそうな顔をした。

「そうか、君もか。可哀想にな」
「はっ?」

アルカロイドに向かって、「がんばれ」「あの落ちこぼれを倒せ」と応援とは言えない声も聞こえる。
ただ、その中に親友のクルレの声も聞こえた。

「ロー!!」

ただ名前を呼ぶだけ。
でも、それでもソイツだけ仲間だって分かって__。

「落ちこぼれは、どこでもこんな感じか?」

アルカロイドが尋ねてきた。
オレは黙ってうなずく。

「魔術学校を卒業できないと笑われるんだ」
「そうなんだ……なら、僕にも考えがある」

アルカロイドがオレに向かって右手をつき出した。


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