短編を書くだけ。それだけ。ファンタジーもあればリアルもあり。シリアスもあればシリアルもあり。
ただし、文才を上げるために書くだけのスレなので失踪する可能性あり。
とりあえず、>>10を目指す。
>>10までいけたら>>50目指す。
黒い部屋。真っ暗な部屋。扉らしきものは開かない。
どれだけドアノブを捻っても開かない。なんでだろう?
「みつき。居るんだろ?開けろよ」
お兄ちゃんの声が聞こえてくる。
居る。私はちゃんとここに居る。でも、この部屋から出ていけないの。
ドアを開けたいのに開けれないの。どうしてかな?
お兄ちゃんは分かる?
「鍵かけやがって……」
鍵?鍵がかかっているの?だから開かないんだね。
ねぇ、お兄ちゃん。
そこにいるなら鍵を開けて。
「ったく。内側からかけて……オレ知らね」
内側?
……そう。内側から。
じゃあ、私は開けられるよね?
……でも、可笑しいなぁ。なんどもドアを確認したけど鍵はなかったはず。
内側から?外側の間違いじゃないの、お兄ちゃん。
「ここに飯、置いてくからな」
ありがとう。でも出ていけないからご飯食べられないや。
「うん、ありがとう」
え、なに?
誰の声?
ありがとうって誰が言ったの?
私はドアに近づき、ドアノブを捻った。
けれど、開かない。なんで?
誰が言ったのか知りたい。その人を見たい。でも、これじゃあ見れないわ。
すぐ近くでガチャっという音が聞こえた。ドアが開いたような音だった。
嘘。どうして?ドアの音が、なんで?
「あ、お兄ちゃん、ちょっと待って」
私はその場に座った。
怖くなったから。
誰か分からない人がいて、その人がきっとドアを開けた。そしてお兄ちゃんを引き留めた。
___私の代わりに。
とてもとても怖い。どうしてこんなに怖いんだろう?
と、思っていると、ガタガタと床が揺れた。地震かな?
すると、部屋が割れた。割れた、というより開いた。壁が開いた。
私は呆気にとられてその開いたところを見た。
開いたところからは、大きな目が私を見ている。茶色の瞳。
巨人みたいだ。
「なんだよ」
「ねぇ、お兄ちゃん。この人形と家さ、捨てた方が良いよね?」
「さぁな。オレ、そういうのよくわかんねぇーし」
「ふぅん。なんか、この人形怖いのよね。生きてるみたいで」
「……確かに。んじゃ捨てれば?」
「そうする」
___壁が閉じられた。
「早苗って、よくわからない」
何度そう言われただろう?
よくわからないって何だろう?
今日もまた、友達が減った。
「あぁ、ムシャクシャする〜!!」
枕を壁に投げつけた。そしたらほら、((だめじゃないの!!))という声が聞こえてくる。
「何よ何よ〜っ!!ああ、最悪最悪!!何度友達作ろうが減る一方じゃないのよ〜っ!!」
((叫んじゃダメ!!ご両親に怪しまれるわよ!!))
「で、でも……!!」
((でもじゃないの!!))
どこからともなく聞こえてくるこの声の主は理恵。
いつの間にか私の中に住んでいた住人の一人だ。
私が辛くなったときや大変なとき、いつも理恵が助けてくれる。私と交代して、体を動かしてくれる。
その間、私は寝ているだけでOK。気がついたら全て終わっていて、理恵がため息まじりに言うのだ。
((今回だけだから))って。いつもやってくれるくせに!!
((でも、どうしてあんなに言われるんだろうね〜))
いきなり、のんびりとした声が聞こえてきた。
この声の主は萌。いつの間にか私の中に住んでいた住人の一人。
ちなみに、あともう一人いるのだけど……あいつ、面倒臭がり屋だから滅多に声をかけてこないんだよね。
((ちょ、萌!?))
((きっと早苗は理恵に頼り過ぎなんだろうな〜))
「え、そうなの!?」
((も、萌!?アナタ……!!))
((他の人からしたら、理恵と早苗がぐるぐる変わって変な風に見えるんだと思う。だから、分からないって言われるんだよ))
……つまり、理恵に甘え過ぎたと!?
確かに、理恵に代わってもらったら寝ているだけだからって最近は特に代わってもらってたけど……。
やっぱりそれかああぁ……。それがいけなかったのかああぁ……。
「萌、教えてくれてありがとう」
((いえいえ〜))
きっと萌は今微笑みながら手を振っているんだろうなぁ。
なんて想像をしていると、クソ生意気な声が聞こえてきた。
((理恵に甘えてばっかだとダメだと思うな。早苗、これは君のためだ))
((あら順太郎。珍しい))
((丁度早苗に教える機会だと思ったからね。わざわざ来てあげたのさ))
((順太郎〜そんな上から目線言っちゃダメだよ〜))
最後の住人。それは順太郎。生意気で面倒臭がり屋の男だ。
私は「何?」と聞いた。順太郎はこれまた上から目線で言ってくる。
((君は可笑しいんだよ))
「うっさいわね!!」
知ってる。体の中に三人も人が住んでるんだし、しかもその中の一人に甘えてるし。可笑しい以外の何者でもないだろう。
((……で、だ。早苗に言っておくことがある))
「何?」
どんなムカつくことが言われるんだか。
「……はやく言って」
((……。……君は、山田早苗は、多重人格なんだ))
は、はぁ?これまた珍妙な言葉が出てきたな。多重人格?え、それって二重人格みたいな?
そう色々と考えていると、理恵に交代してもらったときのような、独特のあの体の怠さと眠気が襲ってきた。
そこで、山田早苗の意識は途切れる。
((目を開けるといいよ))
声だ。順太郎の声だ。
「ん……?あ、あら?どうしていきなり交代して……」
((今日から君が早苗だ。理恵はもういない))
「……なるほど。こうやって前いた夕日も鈴音も消えたのね」
((そう。君の考えていることであってる。人格を交代し、長い時間を経て、人格だったことを忘れさせる。君もいつかこのことを忘れ、僕らを「住人」と思い込む。そして、君もいつか消える。次は萌。萌の次は僕。僕が消えたときはその体の死を意味する))
「そう。まぁ、この人生を楽しんでみるわ。早苗が消えたのは、理恵に甘え過ぎたから。で、私は誰にも甘えなければ消えないのね?」
((そうかな?僕にもまだわからない。ただ、君に多重人格者だということを教えたときが君の消えるときだ))
萌の声が聞こえない。眠ってしまったのだろうか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
私は持っていた枕を壁に投げつけた。
私はもう理恵ではない。早苗だ。
確か、「前代の早苗」の昔の名前は……まぁ、いっか。
いつか私も理恵であることを忘れるんだろうか。
誰もいない放課後の昇降口に響く声。
「流星くん、すす、好き、好きです……好きですっ!!」
あ、あぁ、えっと、どうしよ!?……どうしよ!?
成功したらどうしよっかな!?お、おおお母さんに報告かな!?そうなのかな!?
で、でも、恥ずかしいし……!!
って、まだ成功してないのに。落ち着かないと。
でも、でも……流星くんともし、おおおお、お付き合い出来たらっ!?
は、はあぁ……どうしよ。そんなことばっか考えちゃうよっ!?
……り、流星くんは……今、何を思ってるんだろ!?思っているのだろ!?
チラッと流星くんを見る。
先ほどワタシに告白された流星くんはまだ戸惑ってるみたい。
そりゃあそうだよねぇ……。
みんな、流星くんのどこが良いの、なんて言うけれど、あの茶髪に茶色い目、少し日に焼けた健康的な肌に白い歯。どれをとっても良いじゃない!!
それに、いつも明るくて面白くて優しくて素敵で聡明で……あぁ、だめ!!
心の声が漏れてしまいそう!!
流星くんと目が合う。ワタシは「うっ!?」と変な声を残してうつむいてしまう。
もう何してるの……!!目をそらしちゃ気まずいよう!!
で、でも告白の返事を待っているだけでも気まずいよう!!
長い沈黙。
それは十秒にも思えたし、五分にも思えた。
ワタシは小刻みに震えていた。きっと興奮のせい。もし成功したら……って考えただけでも興奮しちゃう!
続く沈黙。
__この沈黙を破ったのは悲しくもワタシだった。
「りゅ、りゅう、流星くんっ!!」
「は、はいいぃ!?」
流星くんが驚いたのか、ワタシの突然の呼び掛けに裏返った声で返事をする。
そんな慌てん棒なところにも惹かれ……って違う、違うよう!!
「あのっ、へ、返事は今度で良いの!!だから、えと……その……ま、また明日ね〜っ!!」
ワタシはその場から立ち去った。
そこから走ってクラスに戻り、鞄を持って昇降口に向かった。
……ああ!!流星くん、昇降口にいるじゃん!!気まずい、どうしよ!?どうしましょ!?
そう思っていると、いきなり、「よっ」と肩を押された。
「ひいいぃいいいやああああ!?」
「う、うお!?」
振り向くと、そこには、り、流星くんが!!
流星くんは「あの!!」と、先ほどのワタシのように声を出した。
「あの、いいから!!」
は、はぁ?どういう意味だろ?
「別に、いいから!!」
「何がぁ!?」
「だ、だから、さっきの返事。お、オーケーなんだ!!」
固まるワタシの体。一瞬の沈黙。
気づけばワタシは頭を下げていた。
「あ、ありがとうございます!!」
「お、おう!?こちらこそありがとうございますッ!?え、ありがとう!?」
な、なんだろ!?なんか、可笑しい気がするよう!?
うえ、>>13が可笑しくなった、うえ。
>>13のような失敗がないように、文才向上目指して頑張るぞー!!
……>>12も結構酷いなぁ。
君がどう思っていようと、ワタシには関係ない。
あぁ、今日も君を見られた。
いつも可愛い君。今日はちょっと朝から疲れぎみだったね。ちゃんと寝ないとダメだよ?
ふふ。そういえば、体育の時間転んでいたね。窓の外で走り回って転んでいる君はとてもとても無邪気。
小さな子供みたいでとってもキュート。
体育でもっと疲れたのかな?次の時間は寝ていたね。先生に怒られてシュンってしてるのはとても新鮮だったよ。
あぁ、その目でワタシを見て。
君の友達や恋人のあの人たちを見るような、イタズラだけど優しさがあるあの目で。
とっても素敵。とてもとても素敵。
どうしてそんなにも素晴らしいの。
どうかワタシに気づいて。こんな哀れなワタシの君に向ける視線に気づいて。
知ってるわ。君は、愛する恋人の視線にしか気づかないんだよね。
大丈夫よ。あの恋人は君の一部。あの恋人も君も、大好きなの。もちろん、君の方が好きだけれど。
恋人さんはとても愛らしいのね。
頬を赤く染めて笑っているの、君の隣で。そして君も笑ってるの。
いつかその中にワタシも入りたい。
ねぇ、気づいて。気づいてよ。
ワタシのこの視線に気づいてちょうだいよ。
目で追ったり、写真で君を見ているだけじゃ我慢出来ない。
この写真もあの写真も全部全部ワタシに向けられていない。
どうかその目をワタシに向けて。
「みやざ、き……?」
そんな目で見ないで。
見るのなら、あの目で見て。
どうしてそんなに怯えるの?ワタシはただ、ワタシはただ、こんなにも君を愛しているだけなの。それを君に言っただけなの。
どうして逃げるの?やめて、叫ばないで。君のその声は嫌い。アイツを思い出すの。
やめて、やめて、君に暴力を振るいたくない。だからその叫び声をあげないで。悲鳴なんて、あげないで。
「う、うわ、や、やだ、来るな!!来るなよおおおおお!!」
そんな泣かないで。大丈夫。何もしないわ。
ただ、叫ぶのをやめてくれたら……逃げるのをやめたら……ね?ね?
「いやだ、いやだ、やめ、やめ、やめ………!!」
「大丈夫だから、大丈夫だからッ!!」
大丈夫だから、ね?
ワタシをあの目で見て。アイツのような声を出さないで。
それが出来ないなら____
「なんだよ、それ、なん……う、うぁ、う____いや、いやだいやだいやだあああああああいやああああああああやめ、やめて、うぁ、うぁああぁあああぁああッ!!やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだッ!!」
カースト制度。
この時代には、もう無くなってしまったと言われる制度。
___けど、それは本当?
本当に無くなった?ううん、無くなってなんかいない。
カースト制度はどこにでもある。とてもとても身近なところにある。
例えば、誰でも通ったことがある学校とかね。
「ね?ね?お前もそー思うよねぇー?」
高笑いをしながら目の前にいるやつの手の甲を踏みつける。
「こういうのってぇ、ドラマだけだと思うじゃん?残念残念ざんねーん!!」
ドス、ガス、ゴス、という効果音がつきそうな蹴りをいれる。
顔を歪めて豚のように泣いている。
いつも偉そうにしていたのが、今まさにこんな哀れな姿になっている。
皆にモテていると勘違いしていたアタシの元親友ちゃんは、とても滑稽で面白い。
「ねぇねぇ、元親友ちゃーん?お前は何したか分かってる?あはっ」
ま、何もしてないんだけどね。
特に理由はない。だからイジメた。それだけ。
……でも親友だったんでしょう?
あらあら奥様!!そんなご冗談でしょう?なんとなんと!!表だけの親友だったのです!!
結局そういうものなんだよね、この世って!!
「あは、あはっ!すっごいウケる!お前、なに?なに?なんで豚みたいに鳴いてんのー?ブヒブヒうるさぁい」
このとき、アタシは女王だった。
元親友ちゃんは女王に蹴られている下等な存在、奴隷。
いじめることに理由なんていらない。
ただ、自分が上だってことを知らしめられればいいだけ。
どうせそんなもん。
……ってことだから、アタシにいじめられ___
「ハイ、終わり」
「は?」
元親友ちゃんがポケットから何かを出して言った。
その何かは、ケータイに似ているけど、それとは違う。
ボタンのようなものを押して笑っている。
アタシは困惑した。
なぜこいつは笑ってる?可笑しくなっちゃった?なに?なに?なにッ!?
「うっ、うはははっ!!ウケるウケる!!ちょーウケる!!アンタって本当にバ、カ、だ、よ、ねぇー!!うふふ、うふ、あははははっ!!」
気持ち悪い笑い声をあげながら、持っている物をアタシに見せてきた。
刑事ドラマで必ず一回は出てくるであろうボイスレコーダーだった。
……そう。元親友ちゃんが押したボタンは、録音を終えるためのボタン。
アタシは悲鳴にならない声をあげた。
「やめ、やめて!!それをこっちに」
「渡してって!?あぁ、本当に面白いわ!!録音されてるとも知らないで、私が笑うのを堪えているのを泣いていると勘違い?ハッ!!ハハハハハハッ!!」
元親友は、ボイスレコーダーを愛しそうに撫でた。
「カースト制度ってあるじゃない?あれってさ、すぐ逆転できるんだよ」
___ここがあればね___
ボイスレコーダーを持っていない方の指で頭を指差して不適に笑った。
「才能ないとか……」
嘘だろ。
その言葉を飲み込んで、代わりにため息を吐いた。
手に持った羊皮紙を見て、無性に泣きたくなった。
どうしてこうなった?どこでどう間違えた?なんでオレばかりこんな目にあう?
そんな疑問も、すぐ解消されてしまうのだけれど。
どうしてこうなった?……簡単だ。オレが努力をしなかったからだ。
どこでどう間違えた?……きっと生まれたときから。才能があるかないか、なんて生まれたときから決まっているんだ。
なんでオレばかりこんな目にあう?……そもそも、そんなに辛い目にあっただろうか?
「クソッ……!!クソ、クソッ!!」
羊皮紙をぐしゃぐしゃに丸めて、近くにあった井戸に投げ捨てる。
どうせ枯れ井戸だろう。ゴミが捨ててあっても何も問題はないはずだ。
「痛っ〜!!」
あぁ、早く帰って寝てしまおう。
寝て忘れよう。
お母さんとお父さんになんて言われるだろう。
怒られるかな?努力しなかったからだって。
それとも泣かれる?こんな子供を持ってしまって、なんて不幸なんだろうって。
それか、笑われる?もしかしたら何も言わずに抱き締めてくれるかも?
「ちょっと、そこの君!?君でしょ投げたの!?」
……まぁ、お母さんとお父さんのことだ。
どうせ笑って兄ちゃんと比べるんだろう。兄ちゃんは優秀……とまではいかないけど、頭はオレよりも良かったから。
「ハァ〜ア」
「ため息ついてないで僕に謝ってよ!!」
さっきから煩いなぁ。なんなんだよ!?
さっきから何か言ってくるやつは!!
どういう顔をしてるんだか見てやる!!
声のした方……さっきの枯れ井戸の方を見た。
そこには少女がいた。だがしかし、純白の歪な翼が生えている少女。
ありえない。
「ありえないって、翼なんてッ!!」
そう言って髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。
少女はオレよりも高い声で「なによ!?」と怒った。
「魔法使いの君には言われたくないさ!!なんで最近の魔法使いは天使を信じないんだ!!」
「知らねーよ!!天使なんているわけないだろッ!!」
「僕が証拠だっ!!」
「女の子が僕とか痛いからやめろ!!」
「煩い!!」
ふー……はー……ふぅ……
両者ともに息を整える。
オレの方がはやく息を整え、少女のもとへ向かい、その歪な翼を掴んでやった。
「そもそも天使なら、こんな変な形の翼じゃねぇだろ!!」
翼をオレの方へと引っ張った。
ギシッと音がして、少女が悲鳴をあげる。この世にいる限り、聞かないような悲鳴。叫び。声。音。
とても甲高く、なんと言ってるか分からなかった。
周りの家々から「なんだ!?」とたくさんの人が出てくる。
「うっ、うっさ……」
翼を放すと、少女の声はおさまった。
周りの家々から出てきた大勢の人々は何事かと少女とオレを交互に見た。
その人々の中に、オレの親友がいた。
「ロー、何やってんだよ!?」
「あ、クルレ!!」
親友のクルレはオレのもとに駆けてきた。
少女を見ると、驚いたように息を飲んだ。
「翼だ……しかも、形が……」
「だろ?こいつ、自分のこと天使って言って__」
言葉が少女の叫びによって遮られた。
「貴様は僕を侮辱した!!なにより、翼をバカにしたことが許せない!!あげくのはてに、僕の翼を掴み、暴行に及ぶなど!!貴様の名前はロー・ルッタン!!今日の午後、魔術学校から退学させられた愚か者だ!!」
とつぜん、周りの人々がざわめき出した。
聞こえてきたのは「退学?」「あの魔術学校を?」だった。
オレは恥ずかしくなって、その少女の翼をまた引っ張った。
「そうだ、退学させられたさ!!あんな初歩的な学校、オレには__」
「それが愚か者だ!!才能がなくて退学させられたものを、嘘の言い訳で逃れようとして!!ロー・ルッタン、僕の名はアルカロイド!!毒の名を持つ天使だ!!貴様に天罰を与えてくれる!!」
>>17の続きです
___________
少女を中心として、暴風が吹き荒れる。
翼を掴んでいられなくなって、手を放す。親友のクルレとオレは、吹き飛ばされた。
近くにいた体格がしっかりした男性に肩を掴まれ、「大丈夫か!?」と言われる。
クルレも一緒に肩を掴まれたようだ。
二人して「大丈夫です」と答える。
「一体なんなんだ?君、あの子と喋っていただろう!?」
オレは何て言うか迷った。
明らかに、オレの方が悪いだろうし、このことも退学のことも知られてしまっては家族に顔向け出来ない。
「天使なんです、天使!!」
「え、ちょ、クルレ!?」
「だって、天使だったじゃないか!!確かに翼は歪だよ!?でも、でも、君の名前も当てたし、呪文も唱えていないのに風が……」
普通、魔術を使うには呪文を言わなければならない。
難しくなるほど呪文は短くなるが、そのぶん魔力をたくさん消費し精神が壊れやすくなる。
難しい魔術は天候関係。
たとえば今起きてる風だってそうだ。
なのに、呪文も言わないでどうして……!?
もしかして、こいつは魔力がたくさんあるのか!?才能があるのか!?
オレがどんなに望んでも神に与えてもらえなかっな才能が!?
それとも、本当に天使なのか!?
「ムカつく……」
「どうした、君」
「ロ、ロー?」
オレは男性の手を肩から払って、自称天使へ一歩踏み出した。
「おい、アルカロイドだっけか!?本当に天使なら、オレの望みを神様に届けることできるだろ!?」
そう叫ぶと、風が少し弱まった。
アルカロイドはオレを見て、その歪な翼を上下に動かした。
それだけで、風はおさまる。
汚らわしいものを見るように、アルカロイドはオレを見てきた。
「望み?」
「そーだよ、望みだよ!!お前すっげぇムカつく!!なんだよ、なんなんだよ!!天使だかなんだか知らないが、だからってなんでお前はそんな魔術を使えるんだ!!オレは出来ないのに!!」
オレはアルカロイドにまた一歩踏み出す。
「オレだって、魔術の才能が……人並みの魔力が欲しいんだ!!」
アルカロイドは歪な翼でオレのもとまで飛んできた。
オレはアルカロイドをこれでもかってくらい睨み付ける。
周りの人々は「何をしている!!」だの「この落ちこぼれが何を!!」とオレを罵る。
つまり、コイツらはみんなオレの敵だ。
アルカロイドはそのたくさんの言葉を聞いてか、悲しそうな顔をした。
「そうか、君もか。可哀想にな」
「はっ?」
アルカロイドに向かって、「がんばれ」「あの落ちこぼれを倒せ」と応援とは言えない声も聞こえる。
ただ、その中に親友のクルレの声も聞こえた。
「ロー!!」
ただ名前を呼ぶだけ。
でも、それでもソイツだけ仲間だって分かって__。
「落ちこぼれは、どこでもこんな感じか?」
アルカロイドが尋ねてきた。
オレは黙ってうなずく。
「魔術学校を卒業できないと笑われるんだ」
「そうなんだ……なら、僕にも考えがある」
アルカロイドがオレに向かって右手をつき出した。
>>18の続きです
___________
あの汚らわしいものを見るような目から、優しい目付きへ。
「僕はアルカロイド」
「さっき聞いた。毒だっけか?」
「そう、毒。天使なのにね。僕は落ちこぼれ。落ちこぼれの天使は、他の天使たちを道連れにしようとする毒なんだ」
そうか。だから優しい目に変わったんだ。
同類だと思って。同情して。傷を舐め合おうとして。
ムカつく。
「やっぱムカつく!!お前なんなんだよ!!あんなに凄い魔術を呪文無しで使ってオレを同類と見るなよ!!最低だ!!」
「なっ……ぼ、僕は落ちこぼれなんだ!!それに、今僕は君の願いを__」
「うっせえ、お前のどこが落ちこぼれなんだよ!!」
アルカロイドは自分の翼を撫でた。
あぁ、あの翼か。
あの歪な翼が落ちこぼれの原因なのか。
「落ちこぼれというより、ただの偏見さ。翼が歪な天使は悪魔。その考えが悪魔だと言うのに。君が僕の翼を引っ張ったとき、昔のいじめを思い出してね」
____だから発狂したんだ。
周りの人々の叫び声が煩い。
けど、小さい声でもアルカロイドの声は聞こえた。
「気づけば天界から落とされ、あの枯れ井戸の中にいた。君の投げ捨てた丸めてあった羊皮紙を見て、君のことを知った」
「同じ落ちこぼれだと思ったのか?なのにあんな……まぁ、それはいい。翼が歪でも、あんな魔術を使えるんだから、お前って凄いんじゃないのか?落ちこぼれじゃないんじゃ__」
「君も分かるだろ?今君に浴びせられている声は、僕も浴びせられた。ああいうやつらは嫌いだ。だから今報復してやるのさ。君に僕の全ての力を捧げる」
つき出された右手からどす黒い煙のようなものが出てくる。
それを見た人々はどのように解釈したのか、笑い出した。狂喜に満ちている。
そんなに、落ちこぼれが苦しむ様を見たいのか。
オレは悔しくなって下唇を噛んだ。
「なぁ、ロー・ルッタン。君に力を全て捧げるということは、僕は生きるための力さえも捧げるということ。そしたら僕は消える」
突然の言葉に、言葉を無くす。
消える?消えるだって?オレに力を全て捧げて消える?
オレのために?
右手から出てくる黒い煙は、オレの体を徐々に覆っていった。
「この黒いのは僕の気持ちを反映した力だよ。……ねぇ、お願い。僕__ワタシの力で、ああいうやつらに報復してくれ」
___復讐、してくれないかな……?
震える声でアルカロイドが言った。
そして、黒い煙は完全にオレの体を覆いつくし、周りが見えなくなる。
見えるとすれば黒だけ。
「お、おい、アルカロイド?」
呼び掛けると、震える声が返ってきた。
「僕という毒がいたことを忘れないで」
目の前が晴れる。
そこにはアルカロイドは居なく、さっきまでうるさかった人々は静まりかえって、オレを見つめている。
背中にある違和感。
背中に力を入れると、何かが動く音がする。そういう感覚もする。
背中を見れば、そこにはアルカロイドと同じ歪な翼があった。
授業中。隣の席のやつは、今日も落書き中だ。
隣の席のやつの名前は斎藤イツキ。女子だ。顔はまぁ普通。運動神経は体育祭のを見る限り、多分悪い。成績はと言うと___。
「んじゃ〜……斎藤。これ、解いてみろ」
「う、え、あ、ハイッ!」
えぇ、なんだっけかな〜とか言いながら、ひきつった笑いを浮かべながら教科書を捲る。
頭を軽くかきながら「分かりません」と答える。
おさげにされた髪はところどころ乱れていて、彼女がガサツであることが見てとれる。
ガサツでもやっぱり女子なのだろう。
言葉使いも見た目も確実に女子だった。
特に、女子は器用だから絵が上手いなどよく言われるが、斎藤イツキの場合は器用なんてほどじゃなく、凄い絵が上手かった。
で、絵が上手い人ほどノートに落書きをするという俺の考えは当たっていた。
彼女はとにかく授業中にノートに落書きをして、授業に集中していない。
結果成績は悪い。
「あー……分かるわけないのにー……」
「落書きしてるからだろ」
ぶっきらぼうに言ってやれば、「はぁ?」という声が返ってくる。
「なに、それ。酷いよ。落書きじゃないのに……」
「あー、ハイハイそうですねー」
「ちょ、宮原くん!?勝手に消さないでよう」
とても上手く描けているアニメかなんかのキャラクターを小さくなった消しゴムで雑に消す。
隣からは絶望の声が。
「わたっ、わたしの描いたゆうちゃんがぁー……」
ゆうちゃん、というのがこのキャラクターの名前か。
覚えといても意味などないけど。
斎藤イツキはつまらなそうに板書し始めた。最初からそうしてればいいものを。
消すのをやめて俺も板書をし始める。
が、数分とたたないうちに隣から清々しいほど綺麗なリズムが聞こえてくる。
シャッシャッシャッ、シャシャシャシャッ。
シャーペンの芯の音が気持ち良い。
……じゃなくてだ。
「うぁー!わたしのかなちゃんがぁー……」
無言で落書きを消す。
今度は女子を描いていたのか。わざわざ名前言うのやめろ。喋るのやめろ。先生に見られる。成績落ちる。
「宮原くん最低」
「あっそ」
これが、俺と彼女の授業中の光景だったりする。
「あ、ちょ、宮原くん。勝手に消さないでよ。わたしの最高傑作のアルカロイドがぁー」
「無駄に上手い絵を描くな。消しづらい」
__なぜだ!!なぜ私の考えを理解してくれる人がいない!?
ダンッと机を右の拳で叩き、空いていた左手で髪をぐしゃぐしゃにした。
もともとぐしゃぐしゃだった髪は、余計ぐしゃぐしゃになり、アフロみたくなった。
それでも私は気にせず、髪をぐしゃぐしゃにかきまわした。
「そう怒らないのぉ、ヒカリちゃん」
「そうそう。ヒカリちゃんの考えを理解するのは、普通の人にとっては無理なのよ」
「あと何千年かたてば、皆分かってくれるわよ」
私の机の前で将棋をする男……いや、女二人は笑いながら言った。
それに神経が逆撫でされ、私は奇声をあげた。
女とも男ともとれない二人は、その奇声に笑いながら将棋を続けた。
「まぁ、ヒカリちゃんは特別だものねぇ」
「ねぇ」
「二人も特別過ぎるわ!!やっと私の考えを五割ほど理解できる人が見つかったと思ったらオネエよ!?オネエって特別じゃないの!!」
__色々と。
二人は笑いながら「そうねぇ」と言った。
私はまた机を叩いた。
そもそも、どうしてこうなったのか。
全ては私の『考え』を理解できないやつらのせいなのだ。
私の『考え』というのは、人間は皆軽い多重人格者なのだということだ。
よくテレビや本で「人生を楽しくしたいのなら、プラス思考になりましょう」と言われる。
もともとネガティブ思考で何年も生きてきた人に向かって考えを、思考を変えろというのだ。
私はそんなもの無理だと言った。
思考を変えるということは、人格をまるっきり変えるということ。『自分』という存在を否定して、その正反対の存在になれということ。
その一言は、ネガティブ思考の人々を否定したのだ。彼らがどんな思いで生活してきたか、生きてきたかも知らずに。
彼らの人生を悪いものと捉え、自分勝手に言い放ったのだ。それが、幸せになるための最良の手段でないのに。
……けれど。
けれど、実は人間というものは不思議な生き物であって、その環境に慣れるために思考を僅かに変える。
話す人が変われば態度や気持ちが変わるのもそうだ。
思考を変えるというのは、違う人格になるということだと私は考える。
つまり、上のようなことを人間のほとんどがしているということは、『人間は皆軽い多重人格』だということ。
で、それをテレビ番組で言ってみたら____
『そんなわけないじゃないですかぁ〜!やだ〜ヒカリさん面白い〜』
あの甲高く、甘ったるい喋り方を思い出しただけで虫酸が走る!!
「あれがアイドルなんて信じられない!!アイドルはあんなんじゃダメだろう!!この国はどうなってるの!?」
「え、やだ。どうしたのヒカリちゃん。また昨日の思い出したの?」
「あれは大変だったわよねぇ。あそこでヒカリちゃんが暴れなくて良かったわぁ〜」
「「ねぇ〜」」
なんでだ……なぜ、私の考えをあんなやつに否定されなきゃいけないんだ。
あのアイドルのおかげで、ずいぶん笑われたというのに!!なぜ、この二人はアイドルに向かって怒らないんだ!!
あんたら、一応私の父親とその恋人でしょう!?
「んやだっ!!ヒカリちゃんたら、まぁた目を恐くしちゃって!!」
「ダメよぉ、もう。ヒカリちゃんは笑ってるほうが可愛いのにぃ」
「うっさいわ!!父さん、そんな甘ったるい喋りをしないで!!アイドル思い出すじゃない!!」
机に置いてあった箱ティッシュを父さんに投げる。
父さんはスッと避けて、「王手」と言う。
「あらまぁ!!アタシの負けぇ〜?」
「きよちゃんは弱いのよねぇ」
ああ、イライラする!!
どうして理解してくれる人がオネエなの!?
髪をぐしゃぐしゃにしながら、貧乏揺すりをした。
「おほ、おほほほ……この子、ちょっと想像力が豊かでして〜」
「まぁそうなの!想像力は大事ですものね〜!」
「そうですよね〜!」
目の前の大人が冷や汗をかきながら笑っている。
そんな大人と手を繋ぎたくなくて、私はその手から小さな私の手を放し、冷めた目で目の前の大人と、その大人と喋っている大人を見た。
コイツらは、いつになったら頭が良くなるのだろう。
「はーちゃん、はーちゃん。あんなこと言っちゃダメでしょう?お母さんね、とても恥ずかしかったのよ?」
優しく言う私の母。テレビを見て機嫌の良い私なら、言うことを聞いてくれると思ったのだろう。
だが残念。私はテレビなんぞに機嫌を良くするような人間ではないし、母のようなバカではないので言うことを聞くわけがない。
母は「あのねぇ……」と言った。
少し苛立ちが入っている。これは面倒臭いな。
「はーちゃん、アナタ何歳?まだ七歳でしょう?年齢が中身と釣り合ってない。確かにアナタは良い子だけど、さすがに七歳には思えないし、話し方だって……」
「お母さんがそういう喋り方だから大人びた喋り方になってしまったんじゃないか。あぁ、あとは本の影響かな。私はバカじゃないんでね。きみ……お母さんのような人の考えがよくわからない。理解できないな。そもそも、あれのどこが問題ある発言だったのだろう?問題ある発言だという、ただの思い込みじゃないのか?」
お母さんが「はーちゃん!!」と声を荒げた。
「お母さんはそんなことを言う子供に育てたつもりはありませんよ!?」
「そういう思い込みは止めたほうが身のためだろうな」
「アナタ、あのときなんて言ったか覚えてる!?そのようなことを言うのなら、小学生から勉強する方が良いだろう、それとも君のような野蛮人は小学生ではなく胎児から〜なんちゃらかんちゃら〜って!!そんなことを言ったのよ!?問題あるじゃない!!自分で自分の悪さを認めなさい!!ろくな大人になれないわよ!!」
ろくな大人になれない……。
少なくとも、目の前で大声を出すような大人にはなりたくないものだ。
そもそも発言に年などいるだろうか?
そもそも悪さとは?大人とは?
なぁ、私はこんな大人モドキと喋っていて、交流していて良いのだろうか。
私としては嫌だ。
きっと、この人の言うろくな大人にはなれないだろう。
私はテレビの電源を消し、トタタタと部屋を出た。
「待ちなさい!!」なんて声が聞こえるけれど、どうでも良かった。
自分の部屋に行き、机や本棚を動かしてバリケードを作る。と言っても、ドアを開かないようにするだけだし、そこまで数も多くないが。
ドタドタという音が聞こえるがどうでもいい。
「開けなさい、開けなさい、はーちゃん!!」
はーちゃん、はーちゃん、とうるさい女だ。私の名前がこの女につけられなくて良かった。
父は聡明だし、私の考えも理解してくれる頭の良い人だ。父に名付けられて良かった。
あぁ、本当に。
母に似なくて、母に名前をつけてもらわなくて良かった。
「はーちゃん!!はーちゃんはーちゃんはーちゃん!!」
「私に構うな、ヒステリック女」
アタシの名前は宮原 春樹。男っぽい名前なんて言わせないわ。
春の樹のように綺麗な花を咲かせ、元気な子になりますようにっていう素敵な意味が込められているんだもの。
からかうやつは許さない。たとえ友達だろうと親戚だろうと。
実際に昔、クラスメイトに名前をバカにされたとき、その子を殴ってしまった。
その時とてもやんちゃだったってこともあるかもしれないけど、それ以来、誰もアタシの名前をバカにしたりからかうやつは居なくなった。
嬉しい限りだ。
そんな素敵な名前の通り、樹のように育ったアタシは今や若い教師。
パソコン部という、やる気のない部活の顧問と社会科教師として頑張っている。
そして、そんなアタシには秘密があった。
【ハルノキさんへ
素敵です!!どの作品もキャラクターたちの心情が細やかに表現されていてとても気に入りました!!
キリ番踏んだので、リクエストさせて下さい!!
このサイト推しのいつもの二人の現代パラレルで!!
SAYURI】
ふむふむ。現代パロね、いいじゃないの。
部活に持ってきていた自分のノートパソコン。そのノートパソコンを開けて自分の二次創作専用サイトに言ってみると、リクエストについてのメールが来ていた。
もちろん、要望通り書かねばなるまい。我がサイト推しの二人はとある作品のボーイズラブカップリングだ。
だがしかし、公式じゃない。あくまで二次創作なのだ。
アタシはメールを送ってきてくれた『SAYURI』さんに簡単に返信すると、早速リクエスト小説の制作に取りかかった。
……そう、アタシはいわゆる根本まで腐った女子、腐女子なのである。
「せんせー、パソ固まりましたー」
「あー、はいはいー」
ちなみに、生徒には内緒だ。