あの日の君を今でも憶えている。

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1:理空◆6Y:2016/11/30(水) 20:58

こんにちは、りあです。

小説を書くので、気軽に読んで下さい。

感想を書いてくれたら、嬉しいです。

25:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:42

>>24

11,七月二十日水曜日[続きC]

タイトル、付け忘れました。

26:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:45

「……そっか。やっぱり、美月ちゃんには触れられないんだね」
分かってはいたことだけれど、そうなんだろうと思っていたことだけれど。それでも、ものすごいショックを受けている自分がいる。
もしかしたら、温かな彼女の肌に触れることができるんじゃないかと、微かに期待していたのかもしれない。彼女は生きていると、期待していたのかもしれない。いや、していたんだ。だって彼女は、あまりにも鮮やかなんだ。なのに。
「ほんとに、死んじゃってるんだね……」
言葉を絞り出すと、美月ちゃんが目じりに涙を残して笑った。
「今さら何言ってるの。陽鶴ちゃんったら、あたしのお葬式にだって来てたくせに、おかしい」
「ごめ……。だってあまりにも、美月ちゃんは美月ちゃんで、私の前にいるから……」
美月ちゃんが、私に指を伸ばした。頬に触れるか触れないかのところで、止まる。
「やだなあ。泣かないでよ、陽鶴ちゃん」
私の目からは、気づかない間に涙が流れていた。
「だ、って……」
声が詰まる。視界が滲む。
だって、死んでなんて欲しくなかった。
世界中の奇跡を掻き集めてでも、私は彼女に生きていて欲しかった。だから、こんなの、認めたくない。嫌なんだ。
「泣かないで。陽鶴ちゃん、疲れるとまた倒れちゃうかもしれないから、ね?」
「だ、ってぇ……」
「陽鶴ちゃんが泣いたら、あたしだって、また泣いちゃうから……」
美月ちゃんの目に、涙があふれる。私の拭えない涙が。
「ごめん……、美月ちゃ……」
私たち二人は、触れあうことのできないまま、向かい合ってただ泣いた。


それが、私と美月ちゃんの、夏の始まりだった。

27:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:46

>>26

12,七月二十日水曜日[続きD]

また、タイトル付け忘れです。すみません。

28:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:51

第ニ章『どうか信じて。どうか、伝わって』

13,七月二十七日水曜日
あれから数日。
もう日常生活に戻ってよいとお医者さまから許可を頂いた時には、学校は夏休みに突入していた。
必要のない、存在を忘れ果てていた通知表と宿題の山をわざわざ家まで届けに来た担任を、私は許さない。
両親にこっぴどく叱られたうえ、塾に放り込まれかねなかった。
高校生にもなるのに、夏休みのドリルを買い与えられた。泣ける。いや、もっと勉強しろって話ですけどね。ええ、分かってます。バカでごめん。
「明日から、学校行くよ」
放置してもいられない宿題をしながら私が言うと、ベッドの上に寝ころんでテレビを観ていた美月ちゃんが「え!」と声を上げて起き上がった。
「どうして? 明日は登校日だっけ?」
「ううん、違う。私、美術部でしょ。夏休みの間に文化祭用の絵を描きたいから、毎日通うんだ」
「へえ、そうなんだ! え、じゃあ久しぶりに学校に行けるんだね」
美月ちゃんは嬉しそうに笑った。
私と美月ちゃんは、大した問題もなく共同生活を営んでいる。特に不便なところは、今のところない。
美月ちゃんは私から3メートルほどの距離なら離れられるらしく、お風呂もトイレも一人で入れる。
美月ちゃんはやっぱりというべきか家族の誰もが見えないので、何を言われることもない。

29:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:54

すみません。黒崎杏里くんの名前を間違えてしまいました…!園田くん、ではなく黒崎くんです。ごめんなさい!

30:理空◆LJ2:2017/01/06(金) 23:57

14,七月二十七日水曜日[続き@]
ここ数日は私の足の怪我のせいで家に閉じこもりきりだったけれど、明日からは学校に行ける。
そして、学校に行くというのには、重大な目的があった。
それは、黒崎くんに、美月ちゃんの幽霊がこの世に存在していると伝えること。
黒崎くんには、真っ先に伝えなくてはいけない。
葬儀の時の、あの憔悴ぶりを思い返すと、胸が痛む。
きっと、彼女が魂だけとはいえここにいることが分かれば、彼は喜ぶんじゃないだろうか。
それに、美月ちゃんの『心残り』はきっと、黒崎くんが関わっていることだと思うのだ。
「ねえ、美月ちゃん。黒崎くん、どういう風に声を掛けたらいいと思う?」
英文と睨めっこをしていた私は早々にギブアップして、冊子を閉じた。それから、体ごと美月ちゃんに向き合う。彼女はくりんと目を丸めて、「簡単じゃない?」と言った。
「美月がここにいますよー、でいいんじゃないかな」
そんな美月ちゃんに、「それは却下」と私は切り捨てる。
「いきなりそんな話題振ったって、信じてもらえる訳がないよ。もっとうまい切り出しかた、ないかな」
「えー、そうかなあ。だって、見えるのは本当だもの。あーくん、ちゃんと話を聞いてくれると思う」
「ダメだよ」
ペンを机に放り、ため息をつく。
「あのね、黒崎くんがちょっとあり得ない話でも耳を傾けるのは、美月ちゃんだけなんだよ。多分、私が急にそんな事を言っても信じてもらえないと思う」
そうなのだ。『美月ちゃんだけ』な黒崎くんに話しかけるだけでも、大変なのだ。
話をする時間をくれるのかどうかも怪しい。
そこに『美月ちゃんの幽霊が見えます』みたいな話を持って行って、果たして彼が素直に聞いてくれるかどうか。答えはノーだ。
彼ときちんと話が出来て、しかも美月ちゃんの存在を信じさせるまで。これは結構ハードルの高い問題だ。
美月ちゃんが思っているよりもずっとずっと難しい。

31:理空◆LJ2:2017/01/07(土) 00:00

15,七月二十七日水曜日[続きA]
「うーん、そうかなあ。本気で話せば、あーくんは絶対分かってくれると思うけどな」
ふむう、と腕を組んだ美月ちゃんが、少しだけ考える。それから、ぱっと顔を明るくした。
「あ! こういうの、どうかな。あーくんに、何か質問してもらうの。あたししか答えられないような質問。そしたら、分かってもらえないかな」
「ああ、それはアリだね。名案かも」
コクコクと頷いた。
それなら、黒崎くんも信じようって気になるかも。
「ヒィの知らないようなことを訊いてもらうの。そして、あたしが答える。これでいこう」
美月ちゃんは、私の事を『ヒィ』と呼ぶようになった。
『ヒィ』というのは、私の家の中での呼ばれ方。
姉の千鶴が『チィ』、陽鶴の私が『ヒィ』というわけだ。家族がしょっちゅう『ヒィ』と呼ぶものだから、美月ちゃんにもすっかり移ってしまったのらしい。
「そうだね。明日はそれで行ってみよう」
信じてもらえないだろうから黒崎くんに話さない、なんて選択は無い。私はどうやってでも、黒崎くんに彼女の存在を知ってもらわなくてはならない。
「嬉しい。久しぶりに、あーくんに会える」
胸元で両手を組んでにこにこと笑う美月ちゃんを見ていると、尚更そう思う。
黒崎くんと意思の疎通がはかれたら、彼女はきっともっと笑うんだろう。
そして、黒崎くんも。

32:理空◆LJ2:2017/01/07(土) 00:02

16,七月二十七日水曜日[続きB]
「じゃあ、今日は早めに寝よっか。明日は忙しくなるかもしれないし」
「うん、そうだね!」
それから、私たちは一緒にベッドに入った。
といっても、美月ちゃんは布団の上にふわふわ浮く感じだけれど。
美月ちゃんは幽霊だからずっと起きているのかな、と思ったりもしたけれど、彼女はよく寝る。すうすうと心地よさそうに眠るのだ。食欲などは一切なく、空腹感もないと本人は言うのだけど、睡眠欲だけは残っているのらしい。
「寝相が悪くても、ぶつかる心配がないからいいよねえ」
私のベッドの端っこに身を寄せた美月ちゃんが笑う。
「そうだね。万が一ベッドから落ちても、痛くないしね」
「まあねー。もう二回くらい落ちたもん」
「えー、私が見ただけでも三回だよ」
「あう、バレてた! 実は床も突き抜けちゃってて、気付いたら一階の真ん中のあたりでふわふわしてたこともある」
「えー、それは知らなかった! それって、ホラーだね」
「ね。超ホラーだよ。部屋の真ん中で浮いてる女子高生の霊! なんてさ」
ベッドの中で、互いが眠りに落ちるまでこそこそと話す。顔を寄せ合って、クスクス笑い合って、それは修学旅行の夜みたいで楽しい。
「ふあ、眠くなっちゃった。じゃあ、おやすみなさい、ヒィ」
「おやすみ、美月ちゃん」
私たちは仲良く挨拶し合って、目を閉じた。

33:理空◆LJ2:2017/01/07(土) 00:07

17,七月二十八日木曜日
私立星空高等学校。
通称『星高』と呼ばれる我が校は、マンモス校とまではいかないけれどそこそこ大きな高校だ。
四階建ての校舎は三棟に別れ、それぞれ連絡通路で繋がっている。大きなグラウンドや体育館、剣道場や講堂、レスリング場なんてものまである。
私の所属している美術部の部室は、一棟三階の、一番端っこにある。
「ふわ、広い! しかもなにここ綺麗!」
部室に入った美月ちゃんの第一声に、クスリと笑った。
作り付けのガラス戸の嵌った棚に悠然と並ぶ石膏像。
その数は、一般の高校美術部の所有する量ではない。
プシュケ坐像やブルータス首像、果ては観音立像まである。我が美術部自慢、そして顧問の杉田先生が毎日のように手入れをしている『コレクション』でもある。天井まで届く大きな棚には画材が整列し、描きかけのキャンバスがいくつも並んでいる。
「こういうの、なんて言うんだっけ。ええと、あ、そうだ。アトリエ! アトリエって言うんだよね。ふああ、しかし、ホントに綺麗」
「すごいでしょ、ここ。部室にエアコンつけてもらってるの、うちの部くらいらしいよ」
暑さ寒さを感じない美月ちゃんなので気付かなかったようだけれど、ここは常にひんやり涼しい空気で満たされているのだ。
ここに来るまでにしっとりと汗ばんでいた私の肌も、すっかりサラサラになっていた。


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