川面に、私の姿が映る。
石を投げ込むと、チャポンと、沈む。
私も、消えてしまいたい。
儚く、泡になった、人魚姫のように。
そして私は_________
金坂葵、14歳。
人生に、絶望している。
学校に行けば、結菜にいじめられる。
家に帰れば、お母さんに打たれる。
行き場のない、怒りだけが、日々溜まっていく。
妹の茜は、私に優しいけど、目には軽蔑の光がある。
お父さんはいない。
茜が生まれたときに、死んだ。
事故死だった…。
お父さんが、生きていれば、こうならなかった。
何度思っただろう。
お母さんは、お父さんが死んでから、疲れて、私に手を出し始めた。
「あんたなんか、生まれなければよかったのに。」
何度も、何度も、言われた。
日々、疎まれていく。
なら____
いっそ、この世から、消えてやる。
そう、決意した。
決意して、今日決行!
近くの、殿川。
流れは、ゆるやか。
底は、深い。
「よし!」
声を上げて、殿川に飛び込んだ。
冷たい水が、私の身体を包む。
泡が、ボコボコとたつ。
寒い。
死ぬ、よね。
あれ、息ができる。
目も開けれる。
「……気づいたか。」
澄んだ笛の音のような、不快な金切り声のような声がする。
目の前には、短いアイスブルーの髪と、深緑色の瞳の、カッコイい男の人がいた。
「あの、此処は??」
「此処は、殿川の深き底の、その先の底の国だ。」
えっ……。
そんなところなの!?
「あなたは?」
「我は、殿川の水神。」
水神……!?
「そなたは?」
「金坂葵、14歳です。」
ほぉと、水神は、顎をなでる。
「そなたは、我の花嫁としよう。」
花嫁…!??
「リュー、クラウ。」
水神が、誰かの名を呼ぶ。
銀髪の、短い髪の深い蒼の瞳の男の子と、黒髪の、(こちらは、少し長い。頬にかかるくらい。)黒色の瞳の男の子が出て来た。
「お呼びでしょうか?」
「うむ。葵、銀髪の方は、リュー。黒髪の方は、クラウ。我の眷属だ。」
2人とも、カッコイい。
「「葵様、よろしくお願いします。」」
あ、葵様!?
今まで呼ばれたこと無い。
水神は、
「葵、急で悪いのだが、朱火のもとに向かってくれないか?」
……朱火??
「朱火と言うのは、海の果ての国を治める、水神だ。我の花嫁、と挨拶してくるだけで良い。」
水神かぁ…。
緊張するなぁ。
「連れに、リューがつく。心配するな。」
リュー(呼び捨てでいいかな?)が、うなずく。
大丈夫だよね…?
「それでは、行って参ります!」
私は、リューと共に、朱火様のもとに向かった。
葵が、リューと旅たった後。
水神は、不思議そうに、水晶玉を見る。
そこに映っていたのは。
葵とそっくりの、少女が駆けずり回っている様子だった。
『お姉ちゃん、帰ってきてよ!お願い!!お姉ちゃんを、助けるから!』
場面は、切り替わり。
ショートカットの、少女が大声を出している。
『金坂、今まで悪かった!!!!お願いだから、戻ってきて!』
「葵は、こんなに好かれて、いるのにのぉ。」
水神は、不思議そうに、笑う。
クラウは、じっと、水晶玉を見ていた。
私は、気になったことを口にする。
「朱火様って、強いの?」
リューが、ブルリと震えながら、
「そりゃあそうですよ。この間、挨拶に行って、失礼なことを言ったら、俺、飛び魚に変えられたんですよ。」
飛び魚!?
失礼なことって!?
いろいろツッコミたい。
と言うより、
「リューって、何歳なの?」
リューは、不思議そうに、言う。
「116歳ですよ。」
116歳!?
眷属になってから!?
すごいなぁ。
こんなゆったりとした、田舎にいたなんて。
「ちなみに、好きな子はいた?」
リューの顔が、赤くなる。
「いましたよ、麗奈って言う子が。」
へぇ〜!
どんな子だったんだろ?
聞きたかったけど、止めた。
リューが、青くなっているから。
「葵様、此処は気をつけてください。」
どうして?
「化流と言う、水神になれなかった、者達が、花嫁様を狙っていますから。」
リューは、私の顔をジイッと、見つめる。
「大丈夫だよ!」
自信満々で言う。
リューは、心配げに、ゆっくりと歩を進める。
ゴォー
あたりの水の流れが変わった。
ゆったりだったのが、荒れ始める。
「化流が、近付いています。」
化流…か。
ぼんやりしていると。
ゴォー
竜巻のような、激しい音が近付く。
初めて私は、恐怖を感じた。
時すでに遅し。
泥のような、竜巻が私を取り込む。
『どうして、……………が‥水神に‥。』『どうして、私じゃない。』『許さない。』『花嫁を取り込もう。』『永遠に、苦しむが良い。』
たくさんの、怨念の言葉が、うずまく。
「イヤッ!」
拒絶しても、怨念が私に集中する。
意識が、なくなる。
気がつくと。
目の前に、リューの顔があった。
「ワアッ!?」
ビックリした〜!
だって、リューはカッコイいんだよ?
目の前にあったら、余計ドキドキするよ。
「…葵様…良かった…。」
心なしか、リューの体から、血が出ている。
あちこちに、傷がある。
「もしかして、助けてくれたの?」
そう聞くと、リューは真っ赤になった。
リューの傷を縫い、再び歩く。
朱火様の所、まだまだかぁ。
でも、水の中だし、そんなに辛くない。
そこは、嬉しい。
けどさ。
花嫁って、今更に分からない。
何で私が…!?
水神の花嫁に!?
普通の疑問が、駆けめぐり始めた。
遠い…!
とにかく、遠い…!
さすがに、水の中とはいえ、疲れた。
リューが、気遣うように、
「少し、休みましょう。」
大きく根を張った、大樹の下で休む。
この大樹、何千年前から、あったのかな?
水は、蒼く透き通っていて、キレイ…。
砂利が、道みたいに、なっている。
どこを見渡しても、同じような、風景だらけ。
こんな所、知らなかった。
昔、茜とこの池を見た。
「あれ………?」
なんで、泣いているのだろう。
茜なんか、嫌いなのに。
茜を考えているせいか、涙が止まらない。
「葵様……。」
リューが近付いてくる。
chu
私の頬に、キス、した。
ビックリして、涙が止まる。
「良かった……、葵様には、笑顔が似合いますよ。」
ドキッ!
そんな言葉。。
私の胸が、キュウッとなる。
今まで感じたことのない、暖かな感情がわきあがる。
なに、このキモチ。
休憩を終え、再び歩く。
「まだ〜?」
「もう少しですよ。」
もう少しって、どのくらいなのだろう。
「ねえ、リュー。」
「なんでしょうか?」
「朱火様には、朱火と言う名前があるじゃん?殿川の水神の名前って……?」
リューは、少しの間、悩んでいた。
もしかして、リューも知らないのかな?
「…葵様は、まだ知られぬ方が、良いと聞いています。」
えっ!
まだって…。
いったい、いつまでも待てば良いの!?
「俺が言えるのは、葵様が、真の宿命をさとった時と、しか。」
真の宿命…?
私に、何の宿命があるのだろう?
リューの態度からして、まだ知らないコトがあるのは、分かった。
カミノミコトバ
遥かなる遠き記憶に、いひ伝える巫女が現れん。
巫女と水神が結ばれん時、巫女は使命を全うし、魂よびの巫女とならん。
水神の真の名は、巫女が真の宿命を悟らん時。
巫女と眷属が結ばれる時、水神は荒れ狂わん。
水の国のすべてを破壊する、破壊神とならん。
破壊神を戻すのは、巫女の使命。
魂よびの巫女は、自らの魂を、天地におさめん。
カミノミコトバ
「朱火様のもとです。」
朱火様の祠は、真っ赤な炎をかたどっていた。
「殿川の花嫁と、この間の飛び魚か。」
声とともに、真っ赤な髪に、銀の瞳の少女が現れた。
「朱火様ですか?」
「我は朱火。そなたは、葵か。」
なんで知っているのかな?
朱火様は、フフフと笑って、
「挨拶の印に、これをやろう。」
きれいな、翡翠のブレスレットを、つけてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「それでは、気をつけて。」
朱火様は、そう言って、祠に入っていった。
「葵様、帰りましょう。」
リューの言葉にハッとして、
「うん。」
うなずいて、クルリと向きを変えた。