>>6
なんか雰囲気がすごいです!(語彙力)
昔の文学っぽくて、綺麗です!
昔投稿したスレが上がってるね。
>>8さんお褒めの言葉ありがとうございます。
せっかくなのでまた投下。
またしても文豪というよりレトロ風味。
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或る晴れた休日の昼のこと。私はする事もなくぼんやりと過ごして居た。
モダンな造りをしてい無い我が家。私は白き障子に囲まれて居る。昼の陽光を受けてその白は眩しく感じられた。目を閉じたくなった私は畳の上で横に為る。
其れが私を白昼夢へと誘ったのかも知れない。ただ、気づけば不可思議な世界に居た。
夕日が空を赤く照らし、木々が森に影を落とす。影になった部分から時折何らかの気配がするが、姿形は現さ無い。何処までも鬱蒼と森が広がり、何時までも赤い空が覆い尽くす。
一体此処は何処だろうか。唯、其んな疑問が私を満たす。
「どなた?」
背後から聞こえた声に私は振り返った。其処には巫女装束の少女が提灯を持ち立って居る。此れが夢で在る所以か、私は其の少女が人間で無いと納得した。
新月の夜空で染めた様な漆黒の髪は腰まで在る。赤い提灯を映す瞳もまた吸い込まれる様な黒。陶器を思わせる色白の肌には、椿の花弁の如く紅い唇が映えて居る。
「私は……私は誰なのでしょう」
驚いた事に、私は自分の名を忘れて居た。可笑しな事だ。忽ち私は怖く為った。
「貴方は人間ですのね。此方に人が来るのは宜しく無い。今すぐ人の世にお帰りなさい」
「帰ると云いましても、私はどの様に此処へ来たのか解らぬのです」
「まぁ、大変。この御守をお持ちなさいな。きっと貴方の場所へと導きます故」
少女は私に御守を渡した。神社で買える様な、普通の御守に見えるが、何かが違うと云う事が解る。
「有難う存じます。矢張り貴方は人間では無いのですね」
「ええ、此処は神隠しの里。わたしは嘗て神に隠され此処へ召されました。其れから此の姿を保ち、もうじき百年に成ります」
私はぞくりとした。神隠しに遭って帰れぬのでは無いか。
「案ずる事は在りませぬ。貴方は帰れます」
少女の指差す方向へ歩み始める。御守を持つからだろうか、何故か何処へ進めば良いか解る。
其処からの記憶は無い。気づいたら和室で目覚めたのだ。勿論自分の名も今なら言える。然し不思議な事に懐には御守が在った。
私が見た夢は本当に唯の白昼夢だったのだろうか。