私の大好きなナミちゃんを取り巻く、キセキの世代や他のみんなのお話。
とりま帝光から書きます
帝光中学生のナミ
二年前の姿(まだFカップやな)
帰宅部だが、キセキの世代と仲良し
黒いセーターを着てる
キセキの世代1人目
私が征ちゃんと出会ったのは
入学式の日
の翌日である
何故翌日かというと、そこんとこは察してほしい。
寝坊して起きたときにはもう学校が終わってたのだ。
「はぁー…やっちゃったわ。なんで昨日寝坊してしたのよあたし!そして何で起こしてくれなかったのよアネキとアニキは!!」
そんな文句を言っても過ぎてしまったものは仕方がない。
ガラガラと教室の後ろのドアを開けて中に入る。
すると何人かがバッとこちらを振り向いた。まだみんなクラスに慣れてないのか教室は静まり返っていた。
なんか居心地悪いわね…ってかあたし、席がわならないわ
「もしかして、昨日来てなかった子?だったら席あそこだよ」
あたしが突っ立ったまま教室をキョロキョロ見回していたから、不思議に思った女の子が気づいて席を教えてくれた。
きちんとその子にお礼を言って教えてもらった席に行った。
窓側から二番目の列の前から二番目
あまりよくない席ね…
ちょっとむくれながら席に座ると左隣から視線を感じた。
誰だと思い横を見ると赤髪の少年と目が合った。お辞儀をされたので慌ててこちらもお辞儀を返す。
「君、昨日学校来なかったよね」
「昨日は家庭の事情ってやつで…」
ただの遅刻だ、とは情けないと思われたくないので言えない。
「そうか、俺の名前は赤司征十郎だ。よろしく」
「あたしはナミ!よろしく!!」
よっし!友達1人目ゲットォ!!!
あたしを見ながらこの男の子は優しく微笑んだ。なんかすごくいい人そうね…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミさん、昼ごはん一緒に食べないか?」
昼休みになって赤司くんに声をかけられた。やっぱりこの人優しい。
ちなみに今日も遅刻ギリギリだったので、朝ごはんは食べてない。だから腹ペコだ。
「もちろん!食堂行きましょう。あとあたしのことは呼び捨てでいいわ」
「分かった、ナミ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「赤司くんって下の名前何だっけ?」
「征十郎だ。」
「そうそう、征十郎征十郎。」
「ったく…あ、カードでお願いしますね」
「カード!?あんた…金持ちの坊ちゃんね!」
「何を言ってるんだ。はやく食べるぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、教科書忘れた」
「最初の授業なのに何してんだお前は」
「最初の授業だから忘れてもいいのよ。教科書見せて赤司くん」
「ああ」
「…下の名前何だっけ」
「征十郎だ!覚えないと見せないぞ」
「悪気はないのよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっと帰れるー…」
「ナミは部活入らないのか?」
「うん。面倒だから入らないわ。赤司くんは?」
「俺はバスケ部に入る」
「へー…がんばりなさいよ!セイジくん!!」
「おい、がんばったのは褒めてやるが合ってないぞ」
「あんたの名前長いのよ!!覚えにくい!!」
「じゃあ、呼びやすい名前で呼べばいいじゃないか。征十郎だから…」
「だから…征ちゃん!!」
「は?」
「征ちゃん、いいじゃない!かわいい!短い!覚えやすい!!」
「…分かった。またな、ナミ」
「うん!バイバイ征ちゃん!また明日!!」
うんうん
やっぱりこの人は優しいわ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「くっ、あの日あの時征ちゃんを優しいと思った自分を殴りたいわ」
「なにか文句あるのか?お前が勉強教えてほしいって言ったんだろ」
「スパルタ過ぎるわッ!!もっと優しく教えなさいよ!!」
「その問題解けなかったら、この問題集を今日中にやれ」
「ギャアァァァァァァァ!!!!!!」
キセキの世代2人目
これは入学式があって数日後の話
学校が終わってすぐに帰宅したあたしは早急に夕飯を食べて、ソファでくつろいでいた。
「ナミー、アイス食べたくない?」
「食べたい!」
「じゃ買ってきて。お金はあたしがだすから」
家にあるんじゃねーのかよ、と怒鳴りたくなったが、余ったお金でお菓子を買っていいと言われれば黙って従うしかない。
あたしは歩いてコンビニに向かった
「どのアイスにしようかしら…」
アイスを選んでいたが、先にお菓子を買ってしまわないと溶けることに気がつき、お菓子コーナーへ向かった。
辺りを見回すと残り一つの期間限定まいう棒みかん味があった。
「運がいいわっ!あたし!!」
みかん味ときたら買わずにはいられない。
まいう棒みかん味を手に入れようと手を伸ばす。しかしあと少しのところで横から掻っ攫われてしまった。
「っ誰よ!あたしのまいう棒みかん味を取ったやつは!」
そう叫んで、まいう棒みかん味を持っている手をたどって行くと紫色の髪をした男までたどり着いた。
ってか、何こいつ…デカ過ぎィ!!!
なんとまいう棒みかん味を手にしたのは長身の男だった。
しかもこいつ帝光中の制服着てる
いくら長身の男で同じ中学とはいえ、あたしのまいう棒を奪った罪は重い。
キッと睨みつけてやると、あたしの視線に気づいた彼がこっちを見てきた。
「あらら〜…何でそんなに睨んでんの〜」
身体に似合わないおっとりとした喋り方にたいそうイライラする。
「それはあたしが最初に見つけたまいう棒よ!」
「え〜そうなの〜?あんたもまいう棒好き?」
「好きよ!特にそのみかん味は!!」
「ふ〜ん、そっか〜…じゃあこれあげる」
渡さなかったら一発ぶん殴ってやろうとさえ思っていたのに、あさっさりと譲ってくれて拍子抜けした。
「いいの?」
「うん」
「ありがとう!あんた帝光の人よね?あたしも帝光一年のナミっていうの!よろしくね!」
「へ〜ナミちんも帝光なんだ〜。俺紫原敦〜」
「じゃあ、あーくんって呼ばさせてもらうわ」
急いでお菓子とアイスを買って会計を済ませたあと、なんやかんやで一緒に帰ることになった。
しばらく2人でお菓子談義していると、ふと疑問に思ったことを口にした。
「むっくんはこんな時間まで何してたの?」
「部活〜。で、赤ちん達と帰る途中に俺だけコンビニによった〜」
赤ちん!?誰よその人。変なあだ名だな
「ふーん…そうなの。あ、じゃあ私こっちだから」
そう言ってあたしは自分の家のほうへの道を指差す。
「もう暗いし危ないから送る〜」
子供みたいな性格なのに意外と紳士なのね
「大丈夫よ」
「だめだめ。それにもっとお菓子の話したいし〜」
もしかしてそっちが本音?
「じゃあ送ってくれてありがとう。また学校で」
「うん!バイバイ!ナミちーん」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あたしに触ってんじゃないわよッ!!!!」
「「「ぎゃぁぁああああ」」」
「高校生三人を一発で倒すとか…ナミちん強すぎ…」
キセキの世代3人目
あたしが大ちゃんと出会ったのは…
いや、出会ったっていうのは少し違う。なんせ、大ちゃんはあたしと征ちゃんと同じクラスだったのだから。
あたしと大ちゃんが仲良くなったのは席替えで隣になったのがきっかけである。
「征ちゃんやったわ!あたし1番後ろの席よ!」
「そうか、よかったな」
「うん!」
入学式からしばらくしてようやくみんなが学校生活に慣れてき日、担任の提案で席替えすることになった。
そして運良くあたしは窓側から二番目の一番後ろの席になった。
隣誰かなとワクワクしながら席を移動させる。
「「あ」」
隣の席はなんとガングロくんだった。最初の席ではあたしの斜め前で征ちゃんの前の席だったガングロくんだが、彼は征ちゃんと話すだけであたしはそんなに話したことはなかった。
「よろしく」
「おう」
あたしたちの会話はそれで終わった
つまらないので征ちゃんはどこかな〜と探すと教卓の真ん前で彼を見つけた
かわいそうな征ちゃん…ぷぷっ
なんて思っていると征ちゃんがこちらを振り向いて睨んできた。
え、何あの人怖い
2時間が始まって暫くしたらなんだか暇になってきた。以前の席なら授業中に板書する手を休ませたら、容赦無く隣の席からシャーペンやら消しゴムが飛んできた。
私はチラッとガングロくんを見る。ガングロくんはぼーっとしなが黒板を眺めている。
こいつは面白くないわ、と思い黒板をもう一度見ると、隣のガングロくんの席から紙をめくる音が聞こえてきた。
さっきまでぼーっとしてた奴が、ベタに教科書で隠しながらエロ本を読んでいた。
「何読んでんの?」
「堀北マイちゃんのグラビアこのおっぱいがいいんだよなー…」
「あたしの方がおっきいわね」
「まじかよ。触らせろ」
「いやよ。10万円払いなさい」
「じゃあ揉ませろ」
「10万」
しばらくそんなやり取りをしていたら、先生に気づかれた。
「ちょっと青峰くん、朱崎さん、うるさいです。ってか青峰くん、教科書で隠してもエロ本読んでるのバレバレです。没収します」
先生に注意されてしまった。あたしは恐いのでガングロくんの足を踏んづけてやった。
何が恐いってそりゃ教卓の真ん前に座っている赤髪のお方に決まってる。あたしから見えるのは彼の後頭部だけなのに絶対怒っていると確信できる。
「あんたのせいでバレたじゃない…後で絶対征ちゃんに怒られる〜」
「悪かったな、ほらお詫びにコレやるよ」
そう言って彼が渡してきたのは、まいう棒だった。
「いやん、ありがとう!ガングロくん!!」
「おい、やめろよそれ」
お礼を言った後、まいう棒を受け取ろうと手を伸ばしたがガングロくんに頭を掴まれて阻止された。
「くれるんじゃないの!?」
「俺の名前は青峰大輝だ」
なるぼどガングロくんっていうのが気に入らなかったのね
「まいう棒ちょうだい、大ちゃん」
「大ちゃん!?」
「うん。可愛いじゃない」
そう言うと大ちゃんは笑ってまいう棒をくれた。
それからあたしは征ちゃんと大ちゃんと一緒に行動するようになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいナミ、青峰、なぜ怒られてるか分かってるよな?」
「「…授業中に騒いだからです」」
「そうだ。分かってるじゃないか。俺もあまり怒りたくない。反省しろよ」
「「はい…」」
授業後、めちゃくちゃ赤司に怒られた2人であった。
キセキの世代4人目
あいつを最初にみたのはいつだったか…
只今ここ帝光中はテスト期間。帰って勉強しようと思ってたところにバスケ部の副主将である赤司征十郎から図書室に来いと呼び出しを受けた。
「何の用なのだよ赤司」
図書室に踏み入って目に入ったのは青峰の隣にいる女。誰なのだよこの女。
最初は桃井かと思ったが、髪の毛の長さと色が違う。取り敢えず赤司のもとへ向かう。
「ああ、よく来てくれたな緑間。さあ、こっちに座ってくれ」
そう言って赤司が自分の左隣の席を引いた。左隣というとあの女の前。しかし赤司に言われては仕方がないので、渋々席につく。
すると女は俺と目を合わせたあと、俺の左手に視線を送った。
「何…その可愛い人形」
「これは今日の俺のラッキーアイテムなのだよ」
「へー、可愛いわね。このマツゲ」
「なんなのだよその名前は!これはそんな妙な名前ではないのだよ!カエルのケロ助だ」
「へー、でもマツゲの方が可愛いいからマツゲね!」
「赤司、なんなのだよこの女は」
隣の赤司の方に顔を向けるとたいそう呆れた顔をしていた。その向かいにいる青峰は腹を抱えて笑っている。
「緑間、彼女は俺らと同じクラスのナミだ。ほら、お前も挨拶しろ」
「…緑間真太郎なのだよ」
眼鏡を押し上げながら自己紹介をした。なんというか、女子は苦手だ。
「あたしはナミなのだよ。よろしくなのだよ」
「真似をするな!」
「お前、似合わなすぎだろ!!ぶふっ!!」
「緑間、悪いがナミの勉強見てくれないか?俺は青峰ので手いっぱいなんだ」
何故俺が…と思ったが自分の勉強にもなるだろうと思い、渋々承諾した。
「よろしくお願いします。いろりまくん」
「緑間なのだよ」
「いろりまて…ぶふぉ!」
「おい、とっとと始めるぞ」
赤司の声をきっかけに早速勉強に取り掛かった
「おい、そこはさっき教えたばかりなのだよ」
「青峰、そこはさっき教えた公式を使えと言っただろ」
どうやらこいつらの頭はそんなに悪くはなく、むしろいい方だが、同じところで間違える厄介ものらしい。
「えー、かぶりまくんの言ってること難しくてわかんないのよ」
「緑間なのだよ」
「さっきの公式ってどれだ?」
はぁーと赤司と同時に溜息をつく。この調子じゃ全く進まないのだよ
「あたし国語じゃなくて理科がしたい〜」
「ダメだ。ナミは国語が壊滅的だから、まずは国語からだ」
「征ちゃんの意地悪…」
「…続けるのだよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「もうこんな時間か。そろそろ帰ろうか」
赤司がそう呟いて初めて外が暗くなっているのに気がついた。
「ナミ、家まで送ろうか?」
四人で校門まで行ったところで赤司が彼女にそうきいた。
「大丈夫よ。今日アネキとアニキと外食する約束してるから、もうすぐ迎えに来るわ」
「そうか」
「気ぃつけろよ」
「うん!また明日ね!征ちゃん!大ちゃん!ミドリムシくん!」
後ろから大声でそんな声が聞こえてきた。
「…ミドリムシ?」
「ぶふっ!!ギャハハハハ!!!」
「…緑間、明日彼女に会ったら下の名前で呼ぶように言ってみろ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のラッキーアイテムはみかん飴なのだが、手に入れることができなかった。
すると後ろから聞いたことのある声がした。
「あー!緑頭眼鏡くん!!」
緑間なのだよ、と言おうとして振り返ったら昨日のナミとかいう女がいた。
が、重要なのはそこではない。なんと彼女の手にはみかん飴が握られているではないか。
「お、お前それは…!…そのみかん飴を今日だけ俺に貸してくれないか?」
俺は必死の形相で彼女の肩を掴んだ
「貸すだけなら全然いいけど…」
こうして俺はラッキーアイテムを手に入れた
「お、礼にし、下の名前で呼ばさせてやっても構わないのだよ」
「ふーん…じゃあまたね、真太郎!」
「あ、ああ、またな。な、ナミ」
ーーーーーーーーーーーー
「どう?あたしの手作り弁当!うまいでしょ?特別にタダよ」
「…普通なのだよ」
「そこは嘘でもうまいって言いなさいよ!!」
「やめろ!バットを振り回すな!それは俺のラッキーアイテムなのだよおおおおお!!!」
キセキの世代5人目
これは2年生の春。俺がバスケ部に入る前の話
今日はモデルの仕事があったので午前中は授業を休んで、俺は昼休みの今登校している途中だ
俺の姿を見つけた女達に一応笑顔で手を振る。すると女共は騒ぎ出す。あー、ありがたいけどうるさいっス
心の中ではそんなことを思いながら、笑顔で廊下を歩く。
ガラッ
「じゃあ放課後お菓子持ってくるわね!またブッ」
俺が開ける前にドアが開き女が俺にぶつかってきた。ってか“ブッ”とか女子としてどうなんスか
「いったー!何?誰よ!!」
女が俺のほうを見た
「大丈夫っスか?」
と言いながら女の頭を撫でる。大体の女の子はこれで顔を赤らめのに、この女は違った
「気安く触んないで。誰よ、あんた」
パシッといい音を鳴らせて俺の手を払った。
「俺のこと知らないんスか?」
そう問うとその女は顎に手をあてて考える素振りをした。
「知らない。」
「いや、俺の名前黄瀬涼太ですけど」
「へー」
「……」
なんだコイツ誰だ、とでも言いたげな顔で俺をみてくる女。俺のこと知らないんスね。
「俺モデルやってるから、みんな知ってると思ってたんスけど…あんた流行りとか知らないんスね」
「…なんだ、びっくりした。俺のこと知らないんスか?とか聞いてくるからどっかで会ったことあるのかと思ったわ」
俺の皮肉を全く気にしないでそう言った女は、じゃーね金髪君と言って俺の横を通り過ぎていった。
…変な女
あの変な女に再開したのはそれからすぐのことだった。
あの女に初めて会った日の放課後、特にすることがなくて教室から外を眺めていた。教室には俺1人しかいないのでとても落ち着く。
ガラッ
せっかく心地がよかったのに誰かがドアを開ける音のせいで台無しになった。誰だと思ってドアのほうを振り返るとアイツがいた。
「あれ?あーくんは?」
「あーくん?」
「紫原敦よ」
「あー、紫原くんか…もう部活に行ったんじゃないっスか?」
「もー…なんで教室にいないのよ…あれか、体育館まで持ってこいってことか…」
俺のことなんか見向きもしないでブツブツ独り言を言ってる。こんな女初めてだ。
「ねえ、あんた名前なんて言うんスか?」
俺は彼女に近づきながら問う。
「人の名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀でしょ」
「いや俺昼休み名乗ったスよ!覚えてないんスか!?」
「え?あー、……「黄瀬涼太っス!」
なんなんだこの女
「あーハイハイ。なんか聞いた気がするわ。あたしはナミ!」
くっそイライラする。俺は女の前まできて彼女を見下ろす
「へ〜、ナミちゃんねー。…俺とイイことシないっスか?」
「イイこと?」
可愛い顔してるし、体型だって悪くない。いい遊び相手ぐらいにはなるだろう。俺はナミちゃんの後頭部に手をまわして、ぐいっと引き寄せ、口付けようとした。
「っっ!?いったあああああ!!!!」
もうあと少しで唇が重なるってときに突然男の大事な部分を蹴り上げられた。
「あたしに手を出すなんて100万年早いわ!出直しなさい!」
高笑いしてるナミちゃんを睨みつけたいけど、それどころじゃない。今迄感じたことのない痛みが俺を襲いその場にうずくまる。
「え、そんなに痛かった?ご、ごめん」
ナミちゃんがしゃがみ込んで俺の顔を覗いてきた。かなり焦った顔をしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「はーっ、散々な目にあったっス」
「だからごめんって言ってるじゃない。手加減するの忘れてたわ」
あのあと、罪悪感を感じているのかナミちゃんはシュンっとしてしまった。なんか小動物みたいで可愛い
思わず手がのびてナミちゃんの頭を撫でてしまった。しかし昼休みと違って振り払われることはなかった。
ちょっと嬉しいとか思ってしまった
ナミちゃんの顔をチラッと覗き見ると意地悪が成功したときのように、ニヤリと笑っていた。
…ドキン
胸が高鳴った。これが俺とナミっちの出会い
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっちーー!!!」
「何よ、黄瀬涼太」
「なんでフルネーム!?下の名前で呼んでくださいっス」
「えー…涼太くん?」
「っいいっスねそれ!もぉ、ナミっち可愛い」
「ちょっ、抱きつくなァ!!!」
「グフォッ」
キセキの世代6人目
僕が初めて彼女を見たのは、まだ僕が一年生で青峰くんともまだ仲良くなっていない時
その日帝光中はテスト期間で部活もなかった。参考書を借りようと僕は図書室へ立ち寄った
図書室に入ってすぐに目に入ったのは青峰くんと赤司くん
「征ちゃん、ここ分からない…」
すると、女の子の声が聞こえてきた。彼女の方に目を向けると、オレンジの髪が見えた
「ちょっと待て。今青峰に教えているところだ」
返事をして彼女は疲れたのか伸びをした
そしていきなりこちらを振り返った。一瞬彼女の目が合ったが、彼女は何事もなかったかのように正面に向き直った
これが僕が初めて彼女を見た日だった。僕はあの赤司くんと青峰くと一緒にいた彼女に興味が湧いた
ーーーーーーーーーーーーーーーー
僕が廊下を歩いているとよく赤司くんと青峰くんと並んで歩いている彼女を見かける。どうやら彼女は赤司くんと青峰くんと仲がいいみたいだ
なんて思っているとある時、眼鏡を片手に持って廊下を走っている彼女とすれ違った。その彼女の後を追いかける、これまたバスケ部の緑間くんを見かけた
またある時は、コンビニでこれまたバスケ部の紫原くんとお菓子談義しながらお菓子コーナーに突っ立っている彼女を見かけた
またある時は、我等がバスケ部の主将である虹村先輩にしがみ付いている彼女を見かけた。…先輩に何してるんですか
またまたある時は、不良で喧嘩っ早いと言われている、またまたバスケ部の灰崎くんを引きずりなが廊下を歩く彼女を見かけた
そして二年生になって黄瀬くんがバスケ部に入って、僕がキセキの世代とも仲良くなった時、黄瀬くんに抱きつかれている彼女を見かけた
どうやら彼女はバスケ部の人と仲がいいらしい。でも、マネージャーではないはずだ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ある時僕は具合が悪くなったので、保健室へ向かった
保健室の扉を開けると真ん前に保健室の先生が立っていた。どうやらちょうど保健室を出ようとしてたらしい
「どうした、黒子屋…」
この保健室の先生はロー先生といって、クマが濃くて恐そうな人だ
「具合が悪くて…」
「そうか…俺は今から用があってここにいられねェんだ。悪ィな…」
「たぶん少し寝れば大丈夫だと思うんで気にしないで下さい」
「すまねェ。あ、今ベッド使われてんだけど、2人共仮病だからどっちか叩き起こしてくれて構わねェよ」
そう言ってロー先生は保健室を出て行った。二つあるベッドのうち手前の方にあるベッドのカーテンを開けた
「あ」
なんとそこに寝ていたのは僕が興味を持ったあの彼女だった
「あの」
「うーん…もう時間なの?トラ男くーん」
取り敢えず肩を揺すったら彼女は目を擦りながら半分寝ぼけて起き上がった
「あれ、トラ男くんじゃない…」
「ロー先生なら用事があるみたいでさっき出て行きました。あと、すみません、ベッドを…」
「あ、もしかして具合悪いの!?ごめん!」
彼女は慌ててベッドから退いて僕の背中を押してベッドに寝かせてくれた
彼女が手を僕の額に乗っけた
「熱はないみたいね。いつまで寝るの?時間になったら起こすわ」
僕は素直に甘えることにして彼女に昼休みが始まる前に起こしてもらうように頼んだ
「時間になったわよ」
「ありがとうございます。だいぶよくなりました」
「いえいえ。元気になって良かったわ」
そう言って彼女は隣にあるもう一つのベッドにむかった
「大ちゃん!起きて!昼休みよっ!!」
「あー、うっせぇな。もうそんな時間かよ…って、テツ!?」
「どうも」
なんともう一つのベッドに寝ていたのは僕の相棒の青峰くんだった
「大ちゃん知り合いなの?」
「まぁな。テツだ。黒子テツヤ」
「テツね。あたしはナミよ。よろしく」
「どうも黒子テツヤです。ナミさん」
「呼び捨てでいいわよ」
「いえ、癖なんで」
彼女は僕たちをおいて保健室をあとにした
「青峰くん、ナミさんっていい人ですね」
「ケチで暴力的だけどな」
僕は今日、新しい友達ができました
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「テツゥ!!!!」
「重いですナミさん。抱きつかないでください」
「……」
「上目遣いでもダメです」
「黒子っち羨ましいっス」
キセキの世代おまけ1
これはナミが青峰と仲良くなった後、まだ緑間と出会う前の話。
今は放課後。やっと授業が終わって、さぁ帰ろうとしたナミを呼び止めるものがいた。
「ナミ」
「何?征ちゃん」
そう彼女を呼び止めたのはバスケ部副主将の赤司征十郎。
「お前に頼みたいことがあるんだが」
「イヤよ」
「まだ何も言ってないだろ」
「絶対面倒くさい」
「引き受けてくれたら昼飯奢ってやる」
「何なりとお申し付けくださいませ、若」
奢られるとなるとすぐに釣られてしまうナミ。そんな彼女の扱いをすでに熟知している彼。
「実はバスケ部の灰崎祥吾という男子を体育館まで連れてきてほしい」
赤司の話によると、その灰崎祥吾という男はサボり癖があってなかなか部活に顔をださないらしい。近々練習試合があるので絶対部活に出させたいということで彼を探して連れて来いということだった。
「俺が連れきてもいいが、その時間が勿体無いから暇そうなナミに頼みたい」
もちろん奢ってもらえるなら、とナミはその頼みを快く引き受けた。
「どこにいんのよ!」
ナミは図書室、保健室、中庭、いろいろまわったが何処にも彼はいなかった。もう放課後だし帰ったのではないかと一瞬考えたが、赤司がたぶんどこかで寝ていると言っていたのでそれはないなと考え直す。
「あっ!屋上!不良といったら屋上よ!」
なんともベタな考えだがあながち間違っていないみたいだ。
「やっぱり!見つけたっ!」
赤司と別れる前に聞いた灰崎の特徴と合致する人が屋上で寝ていた。
「ちょっと!起きてッ!!」
ナミは灰崎の耳元で大声を出した
「あぁン?うっせーなぁ」
灰崎がガバッと起き上がって耳を押さえる
「誰だテメェ」
そしてナミを睨みつけた
「あんたが灰崎祥吾って男よね?」
なんなんだ、この女とでも言いたげな顔でナミを見る灰崎。
「あたしはナミ!征ちゃんに頼まれてあんたを迎えに来たのよ」
「はっ、なんだ赤司の差し金か。部活なら行かねーって言っとけ」
そうナミに言って灰崎はまた寝転んだ
「それじゃダメよ!あんたを体育館に連れて行ったらあたし、征ちゃんに昼ごはん奢っってもらえるの!!」
「へ〜…お前赤司の彼女か?」
「違う。クラスメートで友達よ」
「ふ〜ん、その割には結構気に入られてるてェだな」
灰崎がニヤリと笑った
「なぁ、ここ座れや」
灰崎が起き上がって自分の隣を叩く。ナミは警戒せず素直にそこに座った。
その瞬間灰崎に押し倒された
「へ?」
「お前を喰ったら赤司はどんな顔するだろうなァ」
灰崎は片手でナミの両手を頭の上で掴み、もう片方の手でナミの口をふさぐように顔を掴んだ
しかしナミもやられっ放しなわけがない。ガブっと顔を掴んでいる手に噛み付く
「いってェー!!」
そしてその隙に灰崎から抜け出した
「ちっ…」
舌打ちしてナミを睨みつける灰崎
「あたしに手を出そうなんて百年早いわ!坊や!」
そう言ってファイティングポーズをとるナミ
「テメェ…つーか女がファイティングポーズとるってどういうことだよ」
なぜかドヤ顔のナミに灰崎はなんか自分が馬鹿らしくなった
「はぁー」
「あら、部活行く気になったかしら?」
「しょーがねェから行ってやるよ」
「よっしゃ!昼飯代浮いた!!」
早く行くわよ、とはしゃぎながら灰崎の腕を引っ張るナミ
こんな女見たことねェ
そんなナミの様子をみて自然と笑みが浮かぶ
こうしてナミは無事に灰崎を体育館まで連れて行くことができた
「じゃーね、灰崎!これからはちゃんと部活出るのよ!!」
「呼び捨てしてんじゃねェ!先輩付けろ!!」
「じゃあハサミくん!」
「そんなダッセー名前付けんじゃねェ!」
「うるさいわねぇ…じゃあ崎ピョンね!またね、崎ピョン!」
「変なあだ名つけんじゃねェ!バカナミィ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「部活でなさいって何度言えばわかるの!殴るわよ!!」
「もう数発殴られてるわ!つーか俺を引きずんなバカナミ!!」
「口答えしないっ!!」
「もぉー、勘弁してくれ…」
キセキの世代おまけ2
「あー…この学校体育館いっぱいあってわかんないわ…」
あたしは今同じクラスの征ちゃんを探している。さっき第二体育館に行ったが、征ちゃんは第一体育館にいると言われた
そう言えば、今までバスケ部の連中とたくさん絡んできたけど部活しているところを見たことはなかった
「ま、あたしは見るより自分がする派だから」
見るだけなんてきっと退屈で寝てしまう
「ここね」
第一体育館に着いて分厚い扉を開ける
「あれ…?まだ部活始まってないの?」
生徒がまばらにいるものの、本格的な練習ではなくて各々好きなようにシュートしたり1on1したりなど自主練のようだ
「あ?ナミ?」
扉の前に突っ立っていると後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り返った
「あー!大ちゃん!!」
そこにいたのは青峰大輝だった。彼は一年生のときに同じクラスだった
「おー、なんか久しぶりな気ぃすんな」
「クラス離れてからあんま会わないからね」
とは言っても定期的に昼ご飯を一緒に食べることもあれば一緒にサボることもあるのだ
「てか何してんだ?こんなとこで」
「征ちゃんにノート返しにきたんだけど、いないの?」
征ちゃんから借りたノートを大ちゃんに見せて問う
「さっきまでレギュラーだけのミーティングがあったからよ、もうすぐ来ると思う」
そう言って大ちゃんはさっき自分が来た方向に目を向けた。つられてあたしもそっちを見たら目当ての人が資料を見ながらこっちに歩いて来てた
「あ、本当だ」
「まぁな」
何故か誇らし気な大ちゃんを一瞥してまた征ちゃんを見る
「征ちゃん!!」
資料をずっと見ながら歩いているからなのかあたしに気づかないので、頃合いを見て声を掛けた
「ん?ナミか、どうした?」
声を掛けると資料から顔を上げて少し急いでこっちに来てくれた
「お前にノート返しに来たんだとよ」
隣りにいた大ちゃんが代わりに言ったのであたしは頷いてノートを差し出す
「わざわざすまない。ありがとう」
「いやいやお礼を言うのはこっちよ!ノートありがとう!」
それから少しだけ分からない問題を征ちゃんに教えてもらっている(大ちゃんも強制的に教えられている)と聞いたことあるような声があたしを呼んだ
「ナミっちーーー!!!」
「…ん?誰かに呼ばれた気がするわ」
「ナミっち!!」
「気のせいだな」
「気のせいだね」
「気のせいだわ」
「ちょっと、酷いっスよ三人共!」
さっきからキャンキャンうるさいこいつは黄瀬涼太。何故知り合いになったかは…忘れた
「あれ?何であんたここにいんの?」
「なんでって…バスケ部だからっスよ!」
「え、涼太くんバスケ部だったの!?」
「こいつ最近入ったばっかだけどな」
大ちゃんが親指で涼太くんを指差しながらそう言った
「っていうかナミっち、2人と知り合いなんスね」
「まぁ俺は、今と一年生の時に同じクラスだから。青峰は今は違うが一年生の時にクラスが一緒だったよ」
征ちゃんが丁寧に説明すると涼太くんは納得したみたいに、へーそうなんスかと呟いた
「お前黄瀬と知り合いだったのか」
「なんで知り合ったかは覚えてないけど」
大ちゃんとヒソヒソ話していたらまたあたしを呼ぶ声が聞こえた
「ナミちーーん」
「あーくん!!!」
紫色の髪の毛をした長身の彼、紫原敦が手を振ってこっちに来たので、あたしも全力で手を振り返した
「なんなんスか、この差」
キセキの世代おまけ2ー2
「あ、真太郎とテツもいる!」
「久しぶりなのだよ」
「どうも」
むっくんの後ろにお祭りとかでよくあるりんご飴を持った緑間真太郎と水色の髪の毛をした黒子テツヤがいた
なにあのりんご飴、おは朝鬼畜かよ…
「ナミっちみんなと知り合いなんスね…」
「まぁね」
そんなことよりもあたしは真太郎が持っているりんご飴の方が気になる
「ナミ、りんご飴見過ぎだ」
征ちゃんに言われて一瞬テツを見たが、すぐに目は真太郎のりんご飴を捉える
「ちーっす。遅れましたー」
そう言って現れたのは灰崎祥吾
なんだかその場の雰囲気が悪くなった気がする。涼太くんの眉間にシワが寄っていた
「遅刻だ灰崎」
「ワリぃワリ…な、ナミ?」
「よっ、崎ピョン」
「変なあだ名で呼ぶな!あー!俺用事あったわ、帰る」
そう言って彼は逃げるように去った。何なのよあいつ
「ショーゴ君とも知り合いなんスね」
涼太くんの問い掛けに応えようとしたら、違う人の声に遮られた
「おいテメェら!!何してんだぁ」
「あー主将だ〜」
あーくんがそう言ったのでバッと声がした方を向く。するとその人と目があった
「あ?…お、お前「修兄!!!」
勢いよくその人の方に向かって走り、そのまま正面から飛び付いた
「「「「「え?」」」」」
「…ナミさん、何してるんですか?」
「え、修兄に抱き付いてる」
「ちょ、お前離れろって!一々抱き付いてんじゃねぇよ!」
グイグイと修兄はあたしを引き剥がそうとするが、必死に食らいつく
キセキのみんならはポカーんとその光景を見ている
何分かその攻防戦を繰り広げたが結局修兄が諦めた
「主将とも知り合いだったんスか!?」
「知り合いっていうか、家が近所なんだよ」
「修兄とがこの中で1番付き合い長いわね。アネキとアニキのことも知ってるし」
そう言いながら降りたら、あー重かったと言われので今度は後ろから飛び付いた
「ちょっ、首締めんじゃねぇ」
「ナミ、そろそろ降りたらどうだ」
「主将困ってんぞ」
「そうっスよ!」
なんだか若干不機嫌な声になってる気がする
どうしたのよ、こいつら?
「ナミさん、そろそろ練習始めるみたいなので降りてください」
「ナミちーん、ほら峰ちんの財布あげるから」
「あっ、テメ、紫原!!」
はっっ!!分かった!こいつらも修兄におんぶされたいのね!!!
「くっ…お、お金で釣れるとお、お、お、思わないでよっ!!!」
「思いっきり釣られそうじゃねぇか」
「修兄は黙って!あんたたち、そんなことまでして修兄におんぶされたいの!?」
(((((いや、ちがうわ)))))
(少しおバカなんですねこの子)
(何キモいこと言ってんだナミのやつ、つーかどうでもいいから早く降りろ疲れた)
「訳がわからないことを言うな、先輩に迷惑がかかっているのだよ」
「じゃあ真太郎がりんご飴くれたら降りる」
そう言った瞬間バッとみんなの視線が真太郎にいく
「ぜ、絶対ダメなのだよ!」
くそ…でもあたしは諦めないわよ。そのりんご飴を見た時から、私の脳内はりんご飴一色なんだから!
「はぁー…しょーがねぇ…帰り何か奢ってや「早く練習を始めなさい!!」
奢ってやると聞いて速攻で修兄から降りた
「まだ最後まで言ってねぇよ。ってか切り替え早ぇし、何で上から目線なんだよ」
キセキの世代おまけ2ー3
「おい、ナミィー」
「んぁ?」
あれ…いつのまにか寝てた
「ほら、家ついたぞ」
あたしは修兄におぶられていた。たぶん修兄を待っている間に寝てしまったんだ
「奢るのはどうなったのよぉ…」
まだ覚醒しきっていない頭でそう尋ねる
「お前が寝てたから適当にお菓子買った。フルーツキャンディでよかったか?」
「にじむー!流石ね!あたしのこと分かってるわ」
「はいはい。あとそのあだ名はやめろ。そして早く降りろ。ナミゾウがこっち見てる」
今から何処かに出掛けるのか、確かに兄のナミゾウが玄関の前に突っ立って、修兄を笑顔で殺気を放って見ている。
このままでは修兄がかわいそうになってしまうので仕方なく背中から降りる。
「じゃーな、ナミ」
「うん。またね」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「修造お父さん聞いてよ!!ナミゾウがね!」
「おいコラぁ!そのあだ名やめろ!!あと抱き付くな!!!」
赤(別に羨ましくないからな)
青(チッ)
黄(俺にも抱き付いてほしいっス)
紫(俺のナミちんが〜…)
緑(あの後結局りんご飴取られたのだよ)
黒(………)
キセキの世代おまけ3
最近、大ちゃんの口から“ナミ”という名前がよく出てくる
一年生の時に同じクラスで、今も定期的にお昼ごはんを食べたり、一緒にサボっては赤司くんに怒られてるらしい
これは、大ちゃんの幼馴染として、日頃のお礼を言わないと!!
さっそく、昼休みにナミさんのクラスへ行ってみる。
「ナミさんいますか?」
「あ、あたしあたし!どーしたの?」
ナミさんはオレンジの短い髪の毛を二つに結っていて、黒いセーターを着ていた。
「桃井じゃないか。どうしんだ?」
「征ちゃん、この子のこと知ってるの?」
「ああ。バスケ部のマネージャーの桃井さつきだ。」
「そうなの…あたしは朱崎ナミ!よろしく!」
赤司くんと仲が良いいというナミさん。だからあの愛想のかけらもない、ただただエロいだけのガングロとも仲良くやれるわけだ。
「ナミさん、いつも青峰くんと仲良くしてくれてありがとうございます。」
「何でさつきがお礼言うの?」
「桃井は青峰の幼馴染なんだ。だからだろう」
「あいつと一緒にお昼ごはんを食べたり、一緒にサボっては赤司くんに怒られたり…迷惑ばっかりかけて、これからもかけると思いますけど、これからもよろしくお願いします。」
深々と頭を下げる。すると、ナミさんは私の頭を撫でてきた。
「さつきって何か可愛い犬みたい…どっかの駄犬とは違う、賢くて可愛い犬」
…きーちゃんだ、駄犬ってきっと。
「それに、お礼言うのはあたしの方だもん!」
頭を上げると、ナミさんはニヒッと笑って赤司くんの肩に腕を置いていた。
「あたし、征ちゃんと大ちゃんはもちろん、あーくんと涼太くんとテツと真太郎と出会って、中学生活すっごく楽しいの!」
涼太くんには調子乗るから言わないけどね、と付け足しながらも、ナミさんは嬉しそうに笑っていた。
「だからあたしは、みんなにお礼を言うの!」
それ以降私は、ナミさん…ナッちゃんと仲良くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナッちゃん!この服おそろいで買おうよ!」
「あ、安いし、動きやすそうだしいいわね!」
「じゃあ私、黄色にします!」
「じゃあ、あたしは白!」
「…女の子っていいっスよね、青峰っち」
「あァ?どこに女の子とやらがいるんだよ…ゴフッ」
「何か言ったかしら?」
やばい。かなりやばい。どれくらいってゆーと、すごくやばい。
「ナミっちと校門で会えるなんて珍しいっスねー!」
「何が校門で会えるなんて、よ!!あんたがあたしを待ち伏せしてたんでしょーがッ!!」
「たまたまっスよ〜、たまたま」
隣でシャララしてんのは、キセキの世代の1人でモデルをしている黄瀬涼太。
一緒に歩いていると、周りの女の子の目が痛い。ヒソヒソと悪口を言う子もいれば、わざと聞こえるように言う子もいる。…気付いてないのか、この駄犬は
「ナミっち聞いてるっスか?そこで青峰っちが〜…」
そこへ、車が校内に入って来た。少し反応が遅れた。すると、涼太くんが腕を引いてくれて轢かれずに済んだ。
「大丈夫っスか!?ナミっち!!」
抱き締められている形になってしまったので、周りからは悲鳴が聞こえる。
「ッ大丈夫だから!!」
あたしは急いで涼太くんを押しのけた。そして、置いて行くようにスタスタ歩く。
「ナミっち、どうしたんスか?悩みごと?」
小走りで追いかけて来た涼太くんは、あたしの頭に手を置いた。
「ッ何でもないわよ!」
頭に置かれた手を振り払って、歩くスピードを更に上げる。…これ走ってるくね?
「ナミっち、俺怒らせるようなことしたっスか?」
すると、女の子たちが涼太くんの周りにたくさん集まって来た。みんなあたしを睨んでいる
「黄瀬くん、朱崎さんなんか放っといて私と教室行こ〜?」
「黄瀬くんに近付かないでよ。まじキモイし」
「何か勝手にキレてるし。意味分かんない」
意味分かんないのはこっちよ、という言葉を込めて女たちを睨み付けてから、あたしは本気で走った。
「ちょ、ナミっち!!」
涼太くんは女の子たちを振り払ってあたしを追いかけて来た。あたしもがんばって逃げるけど、やっぱりバスケ部には敵わない。あっという間に追い付かれた。
「ナミっち!!どうしたんスか!?俺、何かしてたら謝るっス!!!」
腕を掴まれて、振り払おうにも振り払えない。これが男女の差か
「何でもないって言ってるでしょ!!?あんたのそのしつこいところ、うざいのよ!!」
言い終わってからハッとした。涼太くんの顔を見ると、酷く傷付いた顔をしていた。
「ご、ごめん、涼太く「ごめんっス、ナミっち…俺、うざかったっスよね。…もうしつこくしないっスから…」
そう言うと涼太くんはあたしを置いて教室に向かった。
あたし、友達を傷付けた…!
最低だわ
「…先生、お腹痛いんで保健室行って来ます」
その日、なかなか気分が上がらないあたしは、保健室へ向かった。
「トラ男くん、ベッド貸して」
「…先客がいる」
は?誰よ!と思ってカーテンを開けると、大ちゃんだった。…つーか隣のベッド空いてんのにカーテン閉めてんじゃないわよ、不良教師!!
「…大ちゃんあたしね、最低なの。涼太くんのこと傷付けちゃった。うざいって言っちゃった…もう…、嫌われたかな…?」
寝てる大ちゃんに、自分の気持ちを言ってみた。最後の方が、鼻声になる。
「あたし本当は涼太くんのこと、大好きなんだよ…?征ちゃんも大ちゃんも、真太郎もあーくんもテツもさつきも…みんな大好きなのに、何で素直になれないのかな…?」
涙が出て来て、あたしは急いで隣のベッドに潜り込む。すると、大ちゃんの声がした。
「その気持ちを伝えたらいいんじゃねぇの?それに、あいつがうざいのは元からだろ」
大ちゃんの方を見ると、目を瞑ったままで。天邪鬼のあたしに気遣ってくれたんだ。
「……何か、気遣いのできる大ちゃんとか…大ちゃんじゃないみたいで正直キモイ…」
「っテメ、ナミ!人がせっかく気遣ってやったのに「でも、ありがとう。何か元気出た!」
お礼を言うと大ちゃんは少し黙ってから、照れ臭そうに笑いながらおう、とだけ返事をした
「あたし、涼太くんにちゃんと言うわ!自分の気持ち!うざいけど、大好きだって!あ、もちろんあんたたちも大好きだからね!」
そう言ってあたしは、保健室を出た。狙うのは、涼太くんが部活に行く前か、帰る前。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「でもサボったことは征ちゃんに言っとくから」
「はァ!?お前もサボろうとしてただろーが!共犯だよ共犯!!!」
「私はお腹痛かったのよ。もう治ったから教室に戻ります」
「あ、テメ!ナミィ!!」
ナミっちに、しつこいところがうざいと言われた。我慢、させてたんスかね?
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっち!聞いてっス!昨日の試合で俺…」
「活躍したんでしょ?知ってるわよ」
「え、なんで!?見に来てなかったっスよね!!?」
「修兄がメールですっごく褒めてたから!すごいじゃない、涼太くん!」
こうやって、試合で活躍したことを知ってもらったら、頭を撫でてくれてり
「ナミっちー!!聞いてっス!!」
「ハイハイ、聞いてるわよ。今日は何?」
「青峰っちにまた1on1で負けたっスー!!」
女の子が近くにいなければ、抱き付いても殴られたりはしなかった。
「ナミっち、今日の弁当うまそうっスね!卵焼きちょーだいっス!!」
「あ!!取ったわね〜!購買でパン買って来なさい!!私のおかずはタダじゃないのよ!」
「じゃあ、俺のコロッケあげるっス!!」
「……もらっといてあげる。でもいつか、絶対パン買わないと許さないから、ね?」
「りょ、了解っス…」
普通に会話することもあった。…姿を見ては駆け寄って、抱き付くと思い切り殴られてたけど、それでもナミっちは怒った後は必ず笑っていた。
全部、むりやり笑顔を作ってやってたんスか?ナミっち…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「先生、気分が悪いので保健室に行って来るっス」
先生にそう言って、保健室に向かう。ロー先生に声をかけて、ベッドで寝ようとした。するとナミっちの声が聞こえたから、カーテンを開けようとしていた手を思わず止めた。
「…大ちゃんあたしね、最低なの。涼太くんのこと傷付けちゃった。うざいって言っちゃった…もう…、嫌われたかな…?」
どうやら、青峰っちに話しかけてるようで、彼女の声は最後の方になるに連れて鼻声になった
「あたし本当は涼太くんのこと、大好きなんだよ…?征ちゃんも大ちゃんも、真太郎もあーくんもテツもさつきも…みんな大好きなのに、何で素直になれないのかな…?」
きっと彼女は涙を流している。布団をゴソゴソする音も聞こえた。
良かった…嫌われたんじゃないんだ。そう思うと、気分が良くなって来た。急いで教室に戻る
ナミっち、俺も君が大好きっス
でも、まだ心の準備ができてないから待ってて欲しいっス
ーーーーーーーーーーーーーーーー
(はっ!!もしかしてアレはナミっちの愛の告白だったのでは…!?だとしたら俺は…昇天するっスーー!!!)
「何ニヤニヤしてんの?黄瀬ちーん。気持ち悪いんだけどー」
「ニッ!?ちょっ、紫原っちひどいっスよー!」
授業が終わって、すぐにあたしは教室を出た。体育館の前で涼太くんを待つ。
「ッ涼太くん!!」
「な、ナミっち!?」
声をかけると、逃げられてしまった。あたしはすぐに追いかける。
「涼太くん待って!待ちなさい!!」
中庭に逃げられたけど、それが運の尽きね。女子たちが騒いでるところに黄瀬涼太よ!!
「涼太くん!!」
女子たちをかき分けて必死に涼太くんのところへ行く。それでも涼太くんは逃げる。
「っなんなのよ、あの駄犬は…!!」
あーー!!もうっ!怒った!!!!
あたしは急いで中庭を見渡せる階段へ向かう。そして、思い切り叫んでやった。
「黄瀬涼太ーーーー!!!!!」
あたしの声は中庭の隅々まで聞こえただろう。涼太くんを囲んでた女子たちも、涼太くんも、部活に行く途中だった人も、みんなあたしの方を見る。
「あんた逃げてんじゃないわよーッ!!!あたしが待てっつったら待て!!!」
「なに?あの女!!」
「黄瀬くん、無視していいからね!!」
聞こえるように言ってるであろう女の子たちの声を無視して、私は階段を飛び降りた。
「あ、危ない!!」
一番上から飛び降りると、涼太くんがキャッチしてくれた。
彼の腕をガッシリ掴む。
「え…」
「捕まえた♡」
ニヤリと笑うと、涼太くんは冷や汗をかいた。だけどもう、逃がさない。
「な、ナミっち「聞いて、涼太くん」
真剣な表情をすると、そのままの体勢で涼太くんも真剣な表情でこちらを見る。
「たしかにあんたはうざいし、しつこいけど、それが涼太くんじゃない?」
「へ?」
「あたしはそこにはなんにも思ってないのよ。…ただ、周りの女の子の目を気にしてただけなの。」
「ナミっち…」
「だからあたしは、もう女の子の目を気にせずにあんたと接する!!むしろ、何かされたら倍にして返してやるわ!!」
「ナミっちが言ったら倍返しって冗談に聞こえないんスけど!」
「何言ってんのよ。冗談じゃないからいいじゃない」
「ちょっと!!?」
「冗談よ」
あれ?何だかいつもの感じに戻ってない?あたしは何だかおかしくなって、笑いだした。
「どうしたんスか?ナミっち」
「ふふっ!だって、仲直りできたんだもん!」
「ふはっ!そうっスね!!仲直りっス!」
しばらく2人で笑い合っていると、女の子たちの中からあーくんがやって来た。 ヒョイっとあたしはあーくんによって、涼太くんの腕からあーくんの腕に引っ越しする。
「仲直りおめでと〜黄瀬ちん、ナミちんー。でも部活始まるよー」
むっくんの言葉に、涼太くんはハッとして女の子たちをかき分けて体育館へ向かう。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「仲直りしたから、ハグしようよナミっち!」
「は?調子乗るんじゃないわよ、駄犬」
「ナミちん俺は〜?」
「あーくーーーんッ!!!」
「差別を感じてるっス!!」
「しっしっ、あっちへ行きなさい。駄犬」
「ひどいっスー!!」
今日は卒業式である。ナミやキセキの世代たちがお世話になった虹村や、逆にお世話をしていた灰崎が卒業する。
「修兄ー!!」
「抱き付くなナミ!涙と鼻水が付くじゃねぇか!」
「だって修兄がいなくなるのよ!?寂しいじゃない!」
「おいコラ修造!!俺のナミにくっ付くんじゃねーよ!!!」
「うっさいナミゾウ。修造、おめでとう。」
虹村と家族ぐるみで仲が良い朱崎家は、家族全員で虹村の卒業式を見に来た。ちなみに、ナミは二年生なので必ず来なければならない。
「ナミゾウ!あんたの妹が勝手にくっ付いてくんだよ!!あとノジコ、ありがとよ!!」
虹村に抱き付くのが終わったかと思うと、次は灰崎を探すナミ。 その間にナミゾウはキセキの世代へ警告をしておく。
「テメェらァ!!ナミにちょっとでも触れんじゃねェぞ!ナミは俺のだ!!」
「いや、あんたのじゃないから。犯罪だから、それ。ってゆーか、あんたたちがナミがいつも話してる友達?いつも妹がありがとね」
「いえ。俺たちもナミの存在には感謝してますので。これからも、よろしくお願いします。」
赤司の完璧な挨拶にナミゾウはうっ、と何かが詰まった。
「必要以上に近付くなよ…」
「…? はい。一応、肝に命じておきます」
「一応ってなんだよ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「崎ピョーン?」
「ナミさん」
「ひっ!…って何だテツか」
背後からいきなり黒子に声をかけられ、驚くナミ
「灰崎先輩なら、屋上にいるそうです」
「は?卒業式なのに?まったく…あんの不良は最後まで世話が焼ける…」
ぶつくさ言いながらも、黒子にお礼を言ってから屋上へ向かう。黒子はいつものポーカーフェイスで、ただナミの背中を見つめていた。
「灰崎祥吾ーーー!!!!」
「うるせぇバカナミ!!…んで、何の用だよ」
「あんた卒業生でしょ?みんなと写真撮らないの?」
「…撮らねぇよ。別にもうバスケ部でも何でもねぇし」
「ふーん…じゃああたしが撮ってあげる!」
持っていたケータイのカメラを開いて、無理やり嫌がる隙も与えずに灰崎と肩を組んで、写真を撮る。
「あ!!ブレてる!何で!!?」
「…ったくしょーがねェなぁ…貸せ」
「きゃっ」
ケータイを奪い取り、ナミを押し倒してその隣に自分も寝転ぶ。
「カメラ見ろ」
「あ、はいチーズ!」
カシャッ
2人の手でカメラを持ち、シャッターを押す。
「あ、ブレてない!!」
「へっ、俺が押したからな」
ナミがカメラロールを確認すると、ムフッと笑った。
「おい、俺に送っとけよ。その写メ」
「ぜーったいいや!じゃぁね〜」
「あ、テメ、バカナミィ!!!」
写真の中の2人は、心の底から笑っていた。
「虹村お父さん!」
「だからそのあだ名やめろ!!」
崎ピョンと写メを撮って、修兄や征ちゃんたちがいるところに戻る。
修兄は中学を卒業したら、アメリカに行っちゃうから本当にお別れだ。
「修兄、一緒に帰りましょ!」
「おう。っつーかナミゾウとノジコは?」
「先に帰ったわよ」
みんなと写メを撮り終わってから、家が近い修兄と帰る。何か話そうと思ったけど、口を開けば涙と鼻水が出そうだから話せなかった。
「ね、ねえ修「ナミ…」
それでも話そうと思ったら、修兄があたしの名前を呼んだ。
「どうしたの?修兄…」
「ん、」
修兄はあたしの肩に顔をうずめた。
「…やっぱさー、あいつらと離れるってなったら寂しいんだわ…」
あたしは抱き締めることも、頭に手を置くこともしない。きっと修兄はそれを望んでないから
「緑間はおは朝占い信者だし、青峰はアホでエロいし、黄瀬は何かうざい駄犬だし、紫原はお菓子ばっか食ってるし、黒子は何考えてるか分かんねぇし、赤司は…、いや、何でもねぇ…」
何で征ちゃんのことは言わないのかは謎だけど、要するに修兄は、みんなのことが大好きで、すっごく心配なのね
「キャラが濃いやつばっかでさ、退屈しねぇですんだしな…」
それは分かる。みんなといたら、それだけで楽しい。それに、さつきと崎ピョン、他の先輩もいたらもっと楽しい。
「いざってなるとさー…不安だわ」
「…ったく、何言ってんのよ。」
修兄の肩を押して、顔を上げさせる。そして、真っ直ぐ目を見つめる。
「あんたがしんみりするって柄じゃないでしょ!あいつらのことは、あたしがあんたの分まで面倒見るから!!あんたは安心してアメリカに行きなさい!」
「…そうだな。」
修兄の家の前でお別れ。あたしはバシッと背中を叩いてやった。
「不安になったらいつでも帰って来なさいよね!あたしが背中を叩いてあげるから!!」
「おう!ありがとな、ナミ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……行くのは二週間後だけどな」
「わ、忘れてた…」
「…外で会っても話しかけんなよ、恥ずいから」
「あたしだって恥ずかしいわよ…」
「おい修造、ナミ。修造んチでパーリーだぞ。はやく来い」
「アニキ!!あんたが一番恥ずかしいわ!!」
「はぁ!?お、おい修造!」
「あー…これは俺にはどうにもできねぇわ」
「はァァァ!?」
あたしは3年になってから、よくバスケ部を見学するようになった。
「ナミっち!!クラス一緒っスね!」
「俺もなのだよ。」
あたしたちのクラスは変わり、ずっと一緒だった征ちゃんと離れて、涼太くんと真太郎と一緒になった。
「真太郎、ナミのことは頼んだよ。サボったりしてたら止めてくれ。…殴ってでも」
「あたし死ぬわッ!!!」
変わったのはクラスだけじゃない。
征ちゃんもだ。
初めて違和感を感じたときは、部活の新人かと思った。本当に別人になったんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「誰よ、あんた」
「…僕の存在に気付いたのは君と虹村さんぐらいだよ。」
修兄も気付いてたんだ…ってことはやっぱり征ちゃんじゃないってこと?
「僕は赤司征十郎。もう1人の赤司征十郎だ。赤司征十郎が、勝者を必要とする赤司から自分を守る為に僕は作り出された。」
「……どういうこと?」
「負けてはいけない、負けると赤司じゃない、という赤司征十郎の思いが“僕”ということさ」
背筋が凍りそう。征ちゃんの“勝ち続ける重圧が歪んだ形で姿を現した姿”がこの赤司征十郎なんだ…
「征ちゃんは病院に行ったの!?」
首を横に降るもう1人の征ちゃんにあたしは、なぜか自分が泣きたくなった。
「赤司の家がそれを許さない。赤司の家の人間が、精神病院に行っていたら示しがつかないからね。」
あたしの大好きな征ちゃんを…みんなのリーダーである征ちゃんをこんな風にしたのは、“赤司の家”だと考えると、怒りが湧いて来た。
「それが親のすることなの!!?息子よりも、自分の家が大切なの!?今、征ちゃんに赤司の家がやってることはは人間がすることじゃないッ!!」
そう大声で言うと、もう1人の征ちゃんはふっ、と笑った。少し、ドキッとする。
「ありがとう。しかし、赤司の家に生まれたんだ。こういう扱いは慣れてるよ。それに…」
最後の方は聞こえなかったけど、あたしは征ちゃんを抱き締めた。
「あなたが征ちゃんを守ってくれるの…?あなたが征ちゃんに危害を加えたらあたし…」
「彼は僕の守る対象だ。安心しろ、危害は加えないよ」
あたしが言い終わる前に、征ちゃんを守る対象だと言ったもう1人の征ちゃんに安心して、離れる。
「あんたはあたしが知ってる征ちゃんじゃない…けど、あんたも征ちゃんよ。だから、あたしは征ちゃんが2人いても別にいいと思うの。大好きなのは、変わらないから…」
「ああ。ありがとう。僕は君だけには、嫌われたくないからね。」
「じゃ、体育館に行きましょう?“征十郎”」
「ああ、そうだね。行こうか」
全くの別人を作り出した征ちゃん。征ちゃんと征十郎は、どういう関係?征ちゃんは征十郎を知ってるの?
分からないことだらけだけど、唯一分かったことがある。
それは、どっちもあたしの好きな赤司征十郎ってことは、変わりないってこと。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、僕のタオルを取ってくれないか。」
「ああ、これ?はい」
「ありがとう。」
「征十郎!」
「?」
「いいプレー、できてんじゃん!」
「…当たり前だろう。僕は勝者にふさわしいのだから。」
今日は部活がないから早急に家に帰って、コンビニに行くと、高校生ぐらいの人が黒飴を買っていた。背はむっくんより少し低いぐらいかな
…にしても黒飴って、チョイス渋すぎでしょ
まあ、いいわ。私はまいう棒の新しい味、いちごキャラメル味を食すのだから!!
すると、黒飴チョイスくんもまいう棒に手を伸ばした。しかもそれは、私のお目当のいちごキャラメル味。こいつ…できる!!
「あなたもこの味が気になるの?」
「ああ、俺もまいう棒好きでさ。発売初日から気になってたんだ」
「私も!ねえ、ちょっと話さない?」
「いいよ。俺は木吉鉄平」
「私はナミ!よろしくね!!」
木吉鉄平…?どこかで聞いたことがある、ような…あ!むっくんが「木吉鉄平うぜー」的なことを一時期言ってたわね…この人か
「木吉さん、あなたって誠凛の人よね?そこってバスケ部新しくできたんでしょ?どんな感じなの?」
「鉄平でいいよ。んー、監督がすごく怖いかな。でも、俺たち選手のことを考えてくれてるから頑張れるんだ」
「きゃー!監督愛されてるー!!」
監督が女なのか男なのかはさておき、ウチの監督はおっさんだし、髪白いし、あんまり指導しないと思ったらすごい練習ねじ込んでくるし…
「そうだ、ナミさん。さっき黒飴買ったから食べるか?」
「頂くわ!あと、私もナミでいいわよ!あなた先輩だし!」
鉄平さんと黒飴を食べる。黒飴は渋くて大人の味。うん、美味しい。
「ナミは中学生か?」
「ええ、そうよ。もう受験生!」
「そうか。もう高校は決まってるのか?」
「海賊高校行きたいけど、心配なやつが2、3人いるからそっち付いてくかも。でも誠凛も何だか気になって来たわ!」
心配なやつってゆうのは、涼太くんと大ちゃんと征十郎。
涼太くんは女の子に手ェ出しそうだし、大ちゃんは最近不良化してるし、征十郎は二重人格。
でも、涼太くんもさすがにゴミクズじゃないだろうし、大ちゃんにはさつきがいるし、征十郎も何とかやっていけるだろう。
あーくんとテツと真太郎は特に心配はないけど…そいつらも心配っちゃぁ心配
「ま、ナミが最終的に行きたいと思ったところに行けばいいんじゃないか?誠凛はナミを歓迎するよ」
鉄平は私の頭をポンポンと叩いた。誠凛かぁ…気になるな…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「鉄平さん、あんた掃除してから帰るのよ」
「難しいんだ、これ」
「だからって辺り一面が飴まみれになるまで挑戦しなくてもいいわよっ!!」
「口に入れるまでやりたかったんだ」
「知るかァッ!!!」
「真太郎ー!」
ドスッと緑間の前の席にナミが座る。緑間はハァ、と溜息を吐いた。
「ちょっと聞いてよ!今日校門で涼太くんと会ったから一緒に教室行ってたら、女子に囲まれたのよ!」
「……」
「ちょっと!!聞いてんの!?」
「ハァ…それが何なのだよ」
読んでいた本を取られて、緑間は二度目の溜息を吐いた。
「囲まれるのは慣れたからいいんだけど、一部の女子に紙投げられたのよッ!!おかげで髪の毛がボサボサだわ!!」
チラリと視線を髪の毛に変えると、確かにいつも彼女の髪の毛はキレイに揃えられ、二つに結われているが今日はボサボサで、下ろしていた。
「だいたいねぇ、紙投げるくらいなら石投げなさいよっ!石投げられてこっちが血ぃ出したら反撃できるじゃない!!」
ナミはすぐそばに会ったバットを投げた。緑間が慌ててバットを取りに行く。
「このバットは俺の今日のラッキーアイテムなのだよ!!迂闊に触るな!!」
「触ったんじゃないわ。投げたのよ」
「屁理屈言うんじゃないのだよ!!ハァ…」
後ろを向いて、バットに傷一つ付いていないことを確認した緑間は、ナミに向き直る。
「何がしたいのだよお前は」
「反撃」
「真顔で言うな」
「冗談よ。今日部活オフでしょ?」
「ハァ…お前が言うと冗談に聞こえないのだよ」
「ちょっと手伝いなさい」
「なぜ俺だ?黄瀬に近付くなとでも言えばいいのだよ」
「涼太くんにそれが言えたら楽よ!でも、ぜーーったい傷付くわ!!だから手伝いなさい!」
「ハァ…分かったのだよ。何をすればいい?」
「取り敢えず、涼太くんがあたしに近付いて来たら追い払って。それでも紙投げられたら、容赦しないわ!!」
緑間は今日何度目になるか分からない溜息を吐いた。
授業が終わって帰る準備をして、ナミっちの席の前に急いで行く。
「ナミっち!一緒に帰ろうっス!」
「あ、ごめん涼太くん。今日は真太郎と帰るのよ。」
「え、じゃあ俺も緑間っちと帰るっス!」
「行くのだよ、ナミ。じゃあな、黄瀬」
「あ、はーい!また明日ね!涼太くん」
…は、ハブられたーーーー!!!!!!なんで!?緑間っちはともかくナミっちまで!!ひどい!超ひどいっス!!
「黄瀬くん!一緒に帰らない?」
「今日朱崎さんいないの?やったー!」
「ご、ごめん。今日は1人で帰る…」
テンション下がりまくりで、帰り道はずっと下を向いていた。前を見るとナミっちが緑間っちと紫原っちに挟まれて帰っていた。
…紫原っち!?俺は断られたのに紫原っちはいいんスか!!?やばい、まじでハブられてる…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、さすがに黄瀬が可哀想なのだよ」
「今日は何で周りに女子がいないのよ!石でも何でも投げに来なさいっての!!」
「ナミちん鬼みたいだよ〜」
「なんですって!!?」
「落ち着くのだよ。紫原もこいつをキレさすようなことを言うな」
すると、路地から紙が投げられた。その紙はナミの頭に当たる。
「っ、また紙!?ってか、涼太くんの周りの女の子が投げてるんじゃないの?」
紫原と緑間はその紙を見てあることに気がついた。その紙は、ぐちゃぐちゃでよく分からないが、紙飛行機らしき形をしていたのだ。
「ナミちんその紙貸して〜」
ゴソゴソと紙飛行機を開くと、中には文章が書いてあった。
「…あなたはこの世に舞い降りた天使です。僕は君の笑顔にハートを撃ち抜かれました。この汚い世界の中で輝くあなたは、まるで僕を助ける為に現れた天使。汚れなき僕の愛しい天使…はぁ?何なのだよ、この迷惑な手紙は」
「続きあるよー。君を幸せにする為の計画を立てました。一緒に愛を紡ぎませんか。お返事待ってます…ってこれ、ラブレターじゃない?」
「宗教の誘いじゃないのか?」
「ミドチン、宗教が愛を紡ぎませんかとか言う訳ないし。まじ恋愛には鈍いね〜」
「うるさいのだよ紫原!!…これは返事をするしかないのだよ。はっきり断れ」
「えー、でも、この人がお金持ちだったら私が幸せにするわ。」
「金で人を決めるな!!…とにかく、断るのだよ。」
「…ナミちん、これ俺もちゃんと断った方がいいと思う〜。これ、ぜってー後からストーカーとかになるタイプだし」
「そこまで言われるのなら…名前書いてないの?」
「汚すぎて読めないのだよ。明日、返事を書いた手紙を紙が飛んで来た方に投げるのだよ」
「分かった。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー優しくしないでって思ってるんでしょ?
「え…」
声が聞こえたので、ナミは後ろを振り向いた。しかし、誰もいない。ナミの行動を不思議に思った緑間は、ナミに尋ねる。
「どうしたのだよ、ナミ」
「……別になんでもないわ!行きましょ!」
(あの声はたしかにあたしだった…どういうことなの…?)
ザワザワと胸騒ぎがする。この胸騒ぎはいったいなんなのだろうか。
ーーいつかあんたは、私に縋り付く
そう聞こえたナミは、赤髪の彼の顔を無意識に思い浮かべていた。
「真太郎、おはよう」
「遅いのだよ、ナミ」
朝、校門で涼太くんと会ってもいいように真太郎に家まで迎えに来てもらった。
「おい緑頭!ナミに手ェ出すんじゃねェぞ!」
「なによナミ。彼氏いるなら言いなよ〜」
「なっ、か、彼氏!?俺は認めねェぞそんなの!」
「うっさいバカアニキ!!こいつは彼氏じゃないっての!」
「どうも、緑間真太郎です」
「行くわよ真太郎」
後ろでガヤガヤと騒ぐナミゾウとノジコを放って、あたしと真太郎は学校へ向かう。
「返事は書いたのか?」
「うん。…お手紙ありがとうございます。あたしはあなたのことを知らないので、お付き合いはできません。さよなら。…どう?」
「いいと思うのだよ。後は今日も手紙が投げられた方に投げるだけか…」
校門につくと、女の子たちが集まっていた。これはきっと涼太くんね
「ナミっちー!緑間っちー!」
「くそ、駄犬が…!行くわよ真太郎!!」
「おい、俺を引っ張るな!」
あたしは涼太くんを無視して、真太郎の手を引っ張って教室へと向かう。
「った…あ、紙だわ」
「っ見せるのだよ」
すると、また紙が投げられた。桜の木の後ろ辺りからだ。真太郎に見せると、これは昨日のものと同じだと言われた。
「早く返事の手紙を投げるのだよ」
「分かった!」
真太郎に言われた通り、桜の木の後ろ目掛けて紙を投げる。その紙はすぐに拾われた。
「ひとまず、これで大丈夫なのだよ」
「うん!ま、次紙投げて来たら殴るだけだけどね」
あたしは上機嫌で真太郎と教室に行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「すいません、朱崎ナミ先輩いますか?」
「ナミならいるよ。おーい!ナミー!!」
「ん?なに?」
「1年の子が呼んでるー!!」
昼休み中、ナミが緑間と黄瀬と弁当を食べていると、友達に呼ばれた。
「どうしたの?あんたは?」
「あ、あの、僕はあなたへ手紙を書いてた男です!」
「ああ、あんたがね!それで?」
「その、話があるんで来てもらっていいですか?」
ナミは直接告白でもされる、と思い緑間と黄瀬に適当に理由を告げてから1年の男の後を付いて行った。
「…にしてもナミも罪だね〜」
「どうしたんスか?」
「ああ、ナミが一年に告られんの。あの子顔可愛かったし」
「ナミっちは俺の彼女なのに!!」
「別にお前の彼女ではないのだよ。…しかし、嫌な予感がするのは気のせいか…」
緑間は深刻な顔でメガネをカチャッと上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
“ナミっちは俺の彼女なのに!!”
「ちょ!なに録音してんスか!」
「これはナミのお兄さんに報告しとくのだよ」
「俺死んじゃう!!」
「で、私に何の用なの?」
「僕、先輩の手紙読みました。ちゃんと返事書いてくれて嬉しかったです。」
1年生の男の子につれて来られたのは、あたしの5組から少し離れたもう使われてない教室。告白の場所ではベタっちゃぁベタね
「先輩は僕のことを知らないとおっしゃってましたよね?」
「え、うん。だからあんたとは付き合えないの。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。安心してください」
「本当?良かったぁ…」
「今から教えてあげます」
「え、」
ガシッと肩を掴まれた。力が入ってるのだろう。すごく痛い。
「僕が先輩の体に僕を教えてあげます」
「ちょ、何言ってんの?」
そのまま押し倒されてしまった。逃げ出そうにも、力が強くてなかなか逃げられない。
(何コレ…最近の一年生ってこんなに力強いの?逃げられないじゃない…!)
足で股間を蹴ってやろうと思っても、1年生はあたしよりも高い身長を使って、足も固定して両手も固定する。
(やだ、助けて…誰か…!!)
「僕が先輩に触れる日が来るなんて思ってませんでしだ」
1年生の男の手が制服に伸びて、ボタンを開けられて、シャツを脱がされて下着があらわになる。私は力を振り絞って口で髪の毛を引っ張る
「誰か助けて!お願いッ!!」
「来るわけないじゃないですか。今は授業中で、鍵もしてますし。」
もうダメだ、と覚悟を決めた時、ドアが吹っ飛んだ。
「ナミを返せ!」
「…ヒネリ潰すよ」
「ナミっち!無事っスか!?」
「大丈夫ですか?ナミさん」
「やはり、嫌な予感が当たったのだよ…」
「待たせてしまったね、ナミ。」
「…本当、遅すぎよッ!」
我慢していた涙が溢れて来た。
この人たちは、こんなに頼もしいのか。
「大ちゃん…むっくん…涼太くん…テツ…真太郎…征十郎…っ」
助けに来てくれて…、ありがとう
「助けて…」
1年生は、みんなの気迫に押されて顔が青ざめていた。
ナミが授業が始まっても戻って来ない。さすがに、チャイムが鳴れば戻って来ると思ったんだが…
「緑間っち、ナミっち遅くないっスか?」
黄瀬も心配している。確かナミは、3年になってから受験があるからと、サボるのはやめていたはずだ
『ーーーーー、て!』
この声は…
「黄瀬、今何か聞こえなかったか?」
「俺にはたすけ、って聞こえたっス!」
たすけ、て
たすけて
助けて
あの声がナミだとしたら…まさか、ナミの身に何かあったのか!?
「先生、お腹が痛いので保健室に行ってきます。行くのだよ黄瀬」
「はいよっス!」
1組を通り過ぎた突き当たりには、使われてない教室がある。そこが怪しいと思った俺は、5組の教室からそこへ向かう。
途中、やはりナミの声が聞こえたのか空き教室に向かうキセキの世代に追い付いた。
「真太郎、お前も聞こえたのか」
「ああ。かすかにナミが助けてと言った声が聞こえたのだよ」
「ナミちんはなんで助けてって言ったんだろー」
「細かいことは後で説明するっス!!」
「このドア、鍵がかかってます!」
「どいて黒ちん!」
「どけテツ!!」
紫原と青峰がドアに体当たりをして、ドアが吹っ飛んだ。そこには、昼休みナミを呼んでいた1年と、下着があらわになったナミがいた
「ナミを返せ!」
「…ヒネリ潰すよ」
「ナミっち!無事っスか!?」
「大丈夫ですか?ナミさん」
「やはり。嫌な予感が当たったのだよ…」
「待たせてしまったね、ナミ」
「…本当、遅すぎよッ!」
我慢していたのだろう涙がナミの目から溢れ出した。1年は怯えた顔をする。
「大ちゃん…あーくん…涼太くん…テツ…真太郎…征ちゃん…ッ!助けて…」
「僕たちのナミに手を出した罪は重い…。覚悟するんだな」
「お前がナミっちに手を…!!!」
黄瀬が殴ろうと1年の胸ぐらを掴むと、ナミが慌てて後ろから黄瀬に抱き付いて止める。
「待って涼太くん!!!」
「ナミっち!止めないで!こいつがナミっちに…!」
「私まだ、何もされてない!!みんなが何かされる前に助けに来てくれたから!だから殴ったりしなくてもいいじゃないッ!!!」
>>24
>>25
誤字あります!
「大ちゃん…あーくん…涼太くん…テツ…真太郎…征十郎…ッ!」
です!
ナミっちの頼みで今回は一年の男を見逃すことにした。1年男は腰が抜けてるのか、立ち上がらない。
(俺は許せないっスよ、ナミっち… )
「な、ななな、ナミ!!はやくシャツを着るのだよ!!!」
「そうだね。冷えると大変だからな。」
「ええ。お腹冷えたら辛いから」
「え、もうちょい下着でいろよ。むしろ下も脱げ」
バカなことを言う青峰っちに、黒子っちが何バカなこと言ってるんですか、とイグナイトをかます。
「それにしても、本当にいいの?ナミちん。俺たちがこいつを見逃しても〜」
「あんたたちはいいわよ、何もしなくても。」
「へ?」
「あたしに手を出したことは、あたしが後悔させてあ・げ・る♡」
(あ、さっきの言葉は撤回するっス。1年の男がかわいそうっスよ、ナミっち)
黒い笑みを浮かべながら、向かうナミっちにビビって1年の男は気絶した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「次、あたしはもちろん他の子にも同じことしたら…これ以上に殴るから。」
「もう充分殴ってるのだよ」
精神的に来る言葉と、たんこぶを何個も作られて1年はもうノックダウン。
「…これ、俺たち来なくても良かったんじゃねェの?」
「そんな訳ないでしょう!?手足拘束されてたんだから!」
「それより…はやく授業に戻るぞ。真太郎と涼太は知らないが、僕たちは何も告げずに教室を出てしまった。」
「え、うそ!あたしのために?」
「そうっスよ、ナミっち!」
俺が手を広げると、嬉しそうに俺の腕の中に…
飛び込まず、黒子っちに抱き付くナミっち。羨ましいっス、黒子っち…
「ありがとう!みんな!!」
ナミっちの笑顔を見るとやっぱり、この笑顔が奪われる前に助けることができて良かった、と思う。
「そろそろ戻るか。」
赤司っちの声で教室に戻る。
「ナミ、サボろうぜ…」
「そうね。征十郎と真太郎に見つからないうちに…!」
「いつも通り屋上行くか…」
「うん…!行きましょう…!!」
俺たちは少し説教を受けたけど、ナミっちはいつの間にか青峰っちとサボりに行ったから、部活前に赤司っちに怒られていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「何故叱られているか分かっているな?」
「「…サボったからです」」
「1年の時から言ってるが、授業中騒ぐこととサボることはやめろ。これは命令だ。」
「だ、大ちゃんに心の傷を癒してもらおうと「言い訳は聞きたくない。僕の命令は絶対だぞ。次はないと思え」
「「はい…」」
今日はナミゾウは高校の友達である花宮真と遊びに行って、ノジコは大学のサークルの飲み会で家には誰もいなかった。
あたしは、自分の中へ呼びかけた。
ーーあんた誰なの?
ーー私はあなたよ、朱崎ナミ。
それは、前から少し気付いていた違うあたしの存在。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ハッと気付けばあたしは、何もまとっていない状態で、何もない場所にいた。
ーーあんた、あたしが3年になってから出て来たでしょ
ーー正確に言えば、修造兄さんが主将をやめて征十郎が主将を務めてしばらくした後、よ
このあたしは、いったいなんなのだろうか。冷たい目をした、瓜二つの自分が目の前に自分と同じように何もまとっていない状態で立っている。
ーー勝利を求めすぎた帝光中学。キセキのみんながだんだん自分から離れるのを感じ始めたあなたは、私を創り出した。
ーー意味、が分かんないわ…
ーー簡単に言うと、私は征ちゃんの征十郎のようなもの。ただ違うのは、征十郎は“勝ち続ける重圧が歪んだ形で姿を現した姿”だけど、私は“あなたの寂しさを1人で抱えきれなくなった”から現れたの。
あたしの寂しさを1人で抱えきれなくなった、からもう一つの器を自分の知らないうちに創ってしまったってことね…
ーーあなたはあたしの敵なの?味方なの?
ーーどうかしら…
ーーハッキリしなさいよ!!
ーー私はまだ、創られたばかりだから分からないわ。だけどあなたが敵とみなしたら、敵なんじゃない?
こいつが…敵?そんなの、分からない。
ーーでしょ?だから私はあなたの敵なのか、味方なのかは分からない
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あたしの心とリンクしてる…?こいつ…!ハッと気付けば、あたしはちゃんとソファに座っていた。
ケータイを見れば、大ちゃんから電話がかかっていた。急いで折り返しの電話をかける。
『もしもし、大ちゃん?』
『お前なんでさっき出なかったんだよ』
『ごめんごめん!…で、何?』
『今度のオフ、テツたちも誘ってディズニー行こうぜ。さつきがチケットもらったってよ。』
『……うそ』
『じゃねぇよ。テツたちはもうOK出してんだ。あとはお前だけだ』
『いっ、行く!!』
『おう!オフはディズニーで決まりだな!泊まり込みらしいぜ』
『ホテル!?やった!!オフっていつなの?』
『来週。準備しとけよ。楽しむぞ!』
『ええ!!』
「「やって来ました!!夢の国!!」」
さつきと手を繋いで走り出そうとすると、あーくんの大きな手で止められた。
「ちょっと落ち着いてよ2人ともー」
「まずはカチューシャ買おうっス!!」
「黄瀬、はしゃぐな。」
だって今日は、征十郎じゃなくて征ちゃんなのよ!?テンション上がらずにいてどーすんのよ!
「あたしミッキーにする!征ちゃんはミニーね!」
「ミニーか…」
ミッキーのカチューシャを付けて、征ちゃんにミニーのカチューシャをかぶせる。
「紫原っちはグーフィっスね!」
「じゃあ黄瀬ちんはプルートだね〜」
「緑間はドナルドな!」
「お前がデイジーか…ディズニーに謝るのだよ」
「なんでだよ!!テツはダッフィだな」
「じゃ、じゃあ私、シェリーメィにする!」
「一緒に付けましょう、桃井さん」
テツの言葉に、蒸発しかけるさつきを支えてあたしたちはアトラクションへ向かう。
「征ちゃんはディズニー初めて?」
「いや何回も来てるだろ」
「初めてだ」
「うそだろ!?」
「ああ。日本のディズニーは初めてだ」
「「……ふざけんなッ!!!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、これ乗ろうっス!!」
「スプラッシュ・マウンテンか…いいな!乗ろうぜ!」
「えーーー!!高いし速いし怖いんだけど…」
「わ、私も…」
怖がっていると、大ちゃんがポン、とあたしの頭に手をおいた。テツはさつきの手を握る。
「桃井さん、大丈夫です。僕も少し怖いですから隣に座りましょう。」
「て、テツくん…!」
「お前は俺の隣に座ってろ!」
「励ましになってないから、それ…」
大ちゃんの言葉に苦笑しながら、順番を待つ。50分くらいしてから乗れた。
もちろんその後はテツが吐いて、さつきとあたしが半泣きになった。逆に大ちゃんと涼太くんはピンピンしてる。
「少し休もうか」
「えー、なんでっスか?まだ始まったばっかっスよ!」
「そうだぜ!たまにはいいこと言うじゃねぇか、黄瀬!」
「バカめ。今の黒子と桃井とナミを連れては、動けないのだよ」
「あ、こうしたら〜?峰ちんと黄瀬ちんは並んで、俺たちは休憩しよー。峰ちんと黄瀬ちん、乗れそうになったら連絡してよ」
あーくんの言葉に、考える振りをする2人。
「んー、そうっスね。そっちの方が効率がいいかもしれないっス」
「じゃあ俺ら並んでくるわ。次どこ行きてぇ?」
すかさずあたしとさつきは手を上げた。
「「イッツ・ア・スモールワールドに行きたいです!!!」」
「分かった。んじゃ、行ってくるわ。お前らは休んでろよ」
「またあとでっス!」
大ちゃんと涼太くんに手を振る。その後、30分くらいしてからテツが回復して、大ちゃんと涼太くんから連絡が来た。あたしたちは、次の乗り物へと向かった。
「あー…遊んだわね〜」
「そろそろショーの時間だ。行くぞ」
征ちゃんの声で、あたしたちは夜のショーを観れる場所へ向かった。
シンデレラ城に、いろんなディズニーキャラクターの映像が映される。花火や水のショーもあって、幻想的な世界だった。
「きれい…」
「うん…」
あたしとさつきはショーに見入ってしまった。キラキラしてて、全てを忘れることができる。
これでみんなと旅行に行くのは最後だろう
少し、しんみりしてると頭をわしわしと荒く撫でられた。この大きな手はあーくんだ
「ナミちんってば何しんみりしてんのー?」
「あ、そうだ!夏休みは海行こうよ!!」
「なら俺の海を貸そうか?」
「プライベートビーチ持ってんスか!?」
「プライベートビーチはダメだ。水着のねーちゃんがいねーからな」
「最低ですよ、青峰くん」
「普通の海でいいのだよ」
……ったく、こいつらは…
なんでこんなにキラキラしてるんだろう。
「行くでしょ?ナッちゃん!」
「うん!」
最後の最後に、大きな花火が上がった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「うわっ!!ひろ!!」
「ナッちゃん見て!ベッドも大きい!」
ショーが終わってから、ホテルでみんなと別れた。あたしはさつきと一緒で、隣には征ちゃんとテツと涼太くん、その隣には真太郎とあーくんと大ちゃんがいる。
「あとでお風呂行こっか」
「うん!」
まずは荷物を整理する。ナミゾウにお小遣いをもらったから、調子乗ってたくさんお土産やグッズを買ってしまった。
「これとこれとこれと…あとこれがノジコのお土産で…これがナミゾウのお土産」
「お兄さんかわいそう…!」
「いやアネキにはやっすいの買って、アニキには高いの買ってるから。量はアネキだけど、質はアニキよ」
荷物の整理を終えて、お風呂へ向かう。もう時間が遅いからか、人がいなくて貸し切り状態だった。
「貸し切りサイコー!!」
「私も結構大きい方だけど…ナッちゃんの方が大きいよね、胸」
「そうねぇ…さつきって何カップだっけ?」
「Eカップ、かな…?ナッちゃんはFぐらい?」
「そんな感じ。」
「それに、ナッちゃんの髪の毛の色ってキレイだよね。なんかおひさまみたい…」
「そう?あたしはさつきの髪の毛も羨ましいけど…なんか女の子って感じの色だし」
「ナッちゃんに言われると、なんか自信付いちゃうな〜」
いろいろさつきと話して、女の子同士でしか話せないことも話した。
「ナッちゃんと私って…なんだろうね」
「どういうこと?」
「同じ恋する乙女同士ってわけでも、ライバルってわけでもない…ただの友達っていうのも、なんだか軽くてしっくり来ないし…」
「それって…」
「「親友」」
さつきと声がかぶって、2人で顔を見合わせて笑った。
親友、かぁ…
あたしには縁のないものだと思ってたな…
いつか、さつきに言うから
もう1人のあたしの存在を
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミー!さつきー!遊びに来たぞー!!」
「ナミっちー!桃っちー!」
「うっさいわ!勝手に入ってくんな!!」
朝起きると、“私”が表に出ていた。
朱崎ナミのもう1人の人格の“私”が。
「ナッちゃん!おはよう!!」
「あ、うん。おはよう、さつき」
意図的に出たわけでも、出されたわけでもない。どうして私は外にいるのだろうか。中の“あたし”に声をかける。
ーーなんで私が表に出てるの?
ーー知らないわ。朝起きたら…あたしが中にいて、あんたが外に出てたのよ
なるほど。これは自然に出てしまったようだ。
ーーねえ、これ戻せないの?あたし、みんなとの旅行楽しみたいんだけど
ーー戻せるわよ。私が中に入れば、必然的にあなたは表へ出る
中に戻れ、という朱崎ナミの心を読んで私は中に戻った。表に戻った朱崎ナミは、私に呼びかけた。
ーーあたし、あんたの意味について考えたの
ーー…へえ
ーーまだ分かってないんだけどね
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「桃井さん、ナミさん、おはようございます」
「テツくーん!!おはよう!」
「みんなおはよう。朝ごはんは済ませたわよね?」
朝ごはん、といっても売店で買ったパンだけども。ホテルの朝ごはんは高いから
「今日は何乗るっスか?」
「今日はメルヘン系乗ろー」
「確かにその辺は行ってないのだよ」
「決まりだな。行くぞ」
昨日買ったカチューシャを付ける。真太郎が恥ずかしがってなかなか付けなかったので、無理矢理あたしが付けてやった。
「朝なのに混んでるわね…」
「最初に何を乗るか決めておいた方がいいな」
「白雪姫とピーターパンが人気らしいっス」
「じゃあそこにするのだよ」
「そのあとはプーさんね!」
「シンデレラ城もまだですね」
「あ、そろそろ開園っぽいよー」
「走るぞ!お前ら!!」
走って、並んで、また走る。今日はこれの繰り返し。だけど楽しかった。パレードもすごくて、たくさん笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー…楽しかったな」
「帰る時はなんかしんみりしちゃうね」
「次は海っスね」
「映画とかも行きたいねー」
「夏休みといっても、そんなに休みはないのだよ」
「赤司くんが特別に休みを増やす、なんてないですからね」
「まあ、ないだろうね。だけど…またこのメンバーでどこかに行けるといいな」
「そうね!海でも映画でもどこでも…このメンバーなら絶対楽しいから!!」
あたしたちは知らなかった。
次は海に行くという約束は、果たされないことを
みんながバラバラになってしまうことを
なにも…
そして、征十郎が表に出ることが多くなることに比例して、“私”が表に出ることも増えた。
「僕と」
「私は」
「「運命共同体」」
「さつき」
「ナッ…ちゃん?」
今日、私はさつきに全てを話す。だって私とさつきは“親友”でしょ?
「私は朱崎ナミの副人格。朱崎ナミの、みんなが離れて行くのではないかという寂しさを1人で抱え切れなくなったから創られた、もう一つの器」
さつきは静かに俯いた。でも私は、とめる気はない。さつきにだけは、全てを話したかった。たとえ、嫌われてもいいから。
「朱崎ナミに親がいないのは知ってるわよね?」
「で、でもお兄さんとお姉さんが…」
「そう。でも、大切な人を失う苦しみを朱崎ナミは幼い頃に知ってしまった。」
「だからナッちゃんはあなたを…」
「たとえみんなが自分から離れてしまっても、苦しみを、悲しみを自分だけで抱えないために…ってさつき?」
私が言い終わる前に、さつきは私を抱き締めた。いや、正しくは“あたし”を
「ナッちゃん…どうして話してくれなかったの…?」
ズキリ、と胸が痛んだ。これは“私”の痛みじゃなくて、“あたし”の痛みだ。私はあたしに意識を渡した。
「ごめん、ごめんね…さつき…!」
「私も大切な友達の…親友のことを何も知らなかった…!」
話さなかったのはあたしなのに、なんでさつきは泣いてくれるんだろう。あたしは小さく震えている背中に、手を回した。
「教えて…?ナッちゃんのこと」
「うん…!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
母の名はベルメール。元警察官である。強くてかっこいい、あたしの憧れの人。
父代わりだった人の名はゲンゾウ。厳しくて、あたしはこの人が大嫌いだった。
あたしが小学2年生、ナミゾウが小学3年生、ノジコが小学4年生の頃、学校でキャンプがあった。それは親の承諾が必要なものだった。
「母さん!サインちょうだい!サイン!」
「分かった分かった。プリント貸して」
「ダメだ!!学校のキャンプなんか、どこに何がいるか分からんところに連れて行かれるに決まってる!」
「ちょっとゲンさん!そんな言い方しなくても…」
「とにかくダメだ!!分かったら、風呂に入ってはやく寝ろ!」
友達に誘われた海も、キャンプも、プールも全て行くのを禁じられた。
幼いあたしは、この人が大嫌いだった。
母さんがガンで倒れても、お見舞いには行かせてもらえなかった。
「ゲンさん!!母さんのお見舞いに行かせてよ!ノジコとナミゾウと行かせて!」
「ゲンのおっさん!!行かせろよ!俺らの母さんのところに!」
「ゲンさん!あたし知ってるよ!母さんって今夜が山なんでしょ!?」
それでもゲンさんは、首を縦には振ってくれなかった。
最後に母さんの顔を見たのは、葬式の時の棺桶の中だった。
そのあと、中学になってからがヒドかった。ノジコは家計を助けるためにバイトに勤しみ、ナミゾウはグレて家出、あたしは何も知らずに小学校で友達ができずに引きこもり。
そして、ゲンさんもガンに侵された。
形だけのお見舞いへ行くと、ゲンさんはベッドで寝ながらあたしに話しかけた。
「ナミ…」
「……」
「ノジコとナミゾウ、そしてお前をバラバラにしたのは私だったな…」
首はあっちを向いていて、どんな顔をしているのかは分からなかった。
「お前たちにダメだ、と言うたびにお前たちを傷付けていた…しかし、お前たちが嫌いだったわけではない」
黙って聞いていると、ゲンさんはこちらに顔を向けた。
「愛していたんだ。すまなかったな。」
嫌いな人は、あたしに哀しそうな顔を見せてから、息を引き取った。葬式はしんみりしてて、ゲンさんの家族とあたしとノジコしかいなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、見て」
ノジコが持っている雑誌を除き込むと、クールに決めているナミゾウが載っていた。
「ナミゾウね、ウチに戻って来るって…!また3人で…やり直そうって…!」
ノジコは泣いていた。そして、小学校生活最後の冬休みにあたしたちはまた、3人に戻った。
ナミゾウのモデルで稼ぐお金と、ノジコのアルバイト代でなんとかやりくりをして、あたしは帝光中学に入学した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そんなことが…」
「初めてできた友達があいつらだから…離れるのが怖い…たとえ、どんなに離れていても…」
「自分のことは忘れないで欲しい…」
さつきはあたしをもう一度、優しく抱き締めた。
ああ、人ってあたたかい
「あの人たちがバラバラになっても…私はナッちゃんから離れなんかしないよ?」
「ありがとう、さつき…!ありがとう…!」
ーー私はいらないの?
ーーそんなことないわよ。
母さん、ゲンさん、あたし…新しい繋がりを見つけたわ。もう、繋がりを作ることは怖くない。
「行こう、みんなのところに」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
でも、たとえあたしと繋がっていても、みんなの繋がりは消えてしまった。
あたしたちは崩壊への道を辿り始めていた。
この崩壊に気付いていたのは、あたしとさつきの他に幻の六人目だけだった。
とめようとしても、とめられない崩壊
特に、征十郎は征ちゃんを縛っていた。
なんで知ってるかって?
あたしも自分に、縛られてるからよ。
私の存在を知っているのは、さつきと征十郎だけ。
私と征十郎は、運命共同体だから
あたしと征ちゃんも、運命共同体ってことになる
私は、征十郎の前だけに現れるようになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そういえば、なんでお兄さんはシスコンなのかな?」
「離れてる間に成長しすぎてて惚れた、とかなんとか…」
「テツ!!待って!!!テツ!!」
「…ナミさん、僕はもうみんなとバスケをすることができません。でも…あなたと出会えて良かったです」
幻の六人目も、もうお手上げなのね
彼らは崩壊への道を歩み進める
ーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、今日も学校行かないのか?」
「行かない。お腹痛い」
「…」
テツが部活をやめた。学校にも来なくなった。バスケ部のみんなも変わった。
征十郎に牛耳られてる帝光中学のバスケ部は、勝つことが当たり前となった。そして、相手を見下したようなプレーをして、勝っても冷めたような顔。
勝つのが当たり前だから
「ナミ、何があったかは知らないけどよ、今のお前は逃げてるだけだ。」
「…分かってるわよ、そんなこと…」
「途中からでもいいから学校行け。夜は寿司食いに連れてってやるから」
ーーーーーーーーーーーーーー
あたしは結局、昼休みが終わったぐらいから学校に行くことにした。3日ぶりの学校だ。
「ナミっちー!!久しぶりっス!大丈夫だったっスか!?」
「何をしてたのだよ、ナミ」
涼太くんと真太郎が声をかけて来る。2人とも、普通の時は前と一緒なのに、バスケに入った途端冷たくなる。
「…別に何もないわよ。心配してくれてありがと」
真太郎が別に心配などしてないのだよ!とメガネを上げながら言う。お前はツンデレか
「もうちょっとで卒業ね、あたしたちも」
「いきなり何を言い出すのかと思えば…」
「ナミっちはどこの高校行くんスか?」
「さあ…まだ分からないわ。」
まだ、ね。私はもう付いて行くやつは決まってるの。そいつからまだ行く高校を聞いてないだけ。
「あんたたちは?」
「俺は海常高校っス!神奈川にあるところっスよ」
「俺は秀徳なのだよ。そして、青峰は桐皇、紫原は秋田の陽泉、赤司は京都の洛山、黒子は…まだ知らないのだよ。」
さつきはきっと、テツか大ちゃんと同じ高校に行くわね。それにしてもこいつらが行く高校って全部、バスケの強豪校じゃない。誠凛も気になるし…
「…鉄平さん」
「何か言ったスか?ナミっち」
「え、あ、ううん、別に!」
ちょっと誠凛まで行って、鉄平さんに会いに行こうかな…?でも、鉄平さんにとってそれが迷惑だったら…ええい!知らないわよッ!!今日の放課後、行ってやる!!!
「な、なんか燃えてるっスね、ナミっち…」
「バカめ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、少しいいか」
「…征十郎」
意識をあたしから奪い取って、私は教室に来た征十郎の元へ向かう。
「数学のノートを持ってきた」
「あら、ありがとう」
ノートを渡すために来たってだけでも、私は表に出て征十郎を見たいの。
どうして彼は、副人格なのに主人格のように出ているのか、なぜ主人格は表に出ないのか、気になることが多すぎる。
「またあとで」
涼太くんと真太郎のところに戻ると、私は表から中へ戻る。
「赤司っちと何話してたんスかー?」
「数学のノート借りたのよ」
「ナミ」
「ん?」
「あまり赤司と関わらない方がいい。」
「なんでよー」
「…なんでもだ」
真太郎は、あたしが征十郎に近付くことを嫌がっている。大丈夫なのにね。
征十郎と話してるのは、あなたの前にいる朱崎ナミではなくて、違う朱崎ナミなのに。
「……」
「とりあえず、どこかで喋るか」
今日、部活終わりに誠凛高校に行く前にコンビニに寄ると鉄平さんに会った。あちらも部活終わりっぽい
「で、どうしたんだ?ナミ。」
「うーん、ちょっとね…相談みたいな、?」
「何でも聞くぞ」
ああ、これが大人ってやつなのね…一つしか学年が違うはずなのに
「あたし、バスケ部のキセキの世代ってやつらと友達なの。…だけど、帝光のみんなは勝って当たり前…勝っても冷めた顔…」
鉄平さんは黙ってあたしの話を聞いてくれる。…鉄平さんがいるならあたし、あいつに付いて行くのやめて誠凛に行こうかな…
「あたしは相手を見下したようなプレーをするみんなは、見たくない。今のみんなと戦う相手チームを見たくない。だって、本気でやってる人に申し訳ない気持ちになるから…」
これが今のあたしの本音。私とは違う、あたしの本当の気持ち
鉄平さんは優しく微笑んで、あたしの頭に手を置いた。そして、少し荒く頭を撫でる。
「ナミの気持ちはよく分かるよ。俺もバスケで色々あってやめようと思ってたんだ。」
…ちょっと違うと思うけど…。でも、鉄平さんもバスケやめようと思ってたんだ…
「でも、仲間のおかげで立ち直ることができたんだ。まあ、これからしばらくは入院だけどな」
「え、入院するの!?」
「そ。一年ぐらい。その間、誠凛バスケ部がどれだけ強くなるか楽しみなんだ!」
鉄平さんはずっと前を向いている。立ち止まったこともあったかもしれないけど、また歩き出している。なら、あたしもそうしなきゃ
「…ありがとう、鉄平さん。色々話せて良かったわ!」
「お、もう元気になったのか。」
「ええ!あたし、もう行く高校決まった!!」
「そうか。どこに行くんだ?」
「ふふっ、それはねーーーー。」
「そうか。楽しみだな、ナミの制服姿」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
見て、あたしはこんなに繋がりをもってるのよ。離れても、きっとあたしを探しに来てくれるぐらい濃い繋がりを。
だからあたしは、みんなからもらった繋がりをもう一度作り直すの。
今度は何があっても切れない、かたい繋がりを
ーーだから、あんたがいなくても大丈夫
ーー私は…必要ない、の…?
ーーそんなことないわ。今あたしが平気なのは、あんたと悲しみを分け合ったから
ーー……
ーー感謝してるの、あんたには!でも、今度はあんたに頼ってちゃダメなの。あたしが、みんなとの繋がりをまた作るの!!
ーー私は…何をすればいいの?
ーーあんたは見てて!そしてあたしが道を踏み間違えそうになったら、とめてよね!
ーーうん…!あなたをとめられるのは、私だけよ…!!」
ーーさようなら、あたし/私ーー
「ナミっちー!!!」
「何?駄犬」
黄色頭があたしの元に走ってきた。手には雑誌が握られている。
「こ、これ!!これってナミっちのお兄さんっスよね!?」
「え?あー…そうね。それが何?」
雑誌を見ると、うちの兄のナミゾウが特集されていた。イマをトキメク♡ナミゾウくんに迫る!!って、インタビューもされている。
「こ、今度ナミゾウくんとコラボするんスよ!」
「で?」
「差し入れ何がいいかな!!?」
「……」
呆れた…そんなこと気にしてたの?って言ってやりたい。ってゆーか、別に差し入れとかいらないでしょ。挨拶しとけば
「ナミゾウくんに憧れて俺、モデルになったんスよ!?」
「はいはい、聞いてる聞いてる」
「じゃあ付いて来て!!」
「はいはい、聞いてる聞いてる…って、は?どこに?」
「やっぱ聞いてないじゃないっスか!!差し入れの買い物っスよ!!放課後に!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー、原宿とか久しぶりっスわ」
「何?そのメガネ。賢く見られたいの?」
「ちげーっスよ!これは変装っス」
涼太くんとやって来たのは、いろんな店が並ぶ大通り。あいつ、結構ここにいるしね
「そういえばナミゾウくんは、どこの高校なんスか?」
「霧崎第一。そこに幼馴染と行ってるわ」
「へえ…ナミゾウくんがいるなら、俺も行こっかな〜、霧崎第一」
「あー、行っても無駄よ。あいつ幼馴染としかつるまないから。」
ちぇー、と頬を膨らませる涼太くんを引っ張ってケーキ屋さんに入る。
「ここのみかんケーキ、あいつ好きだからいいんじゃない?」
「そうなんスか?」
じゃあついでに、とあたしとノジコのみかんケーキも買う涼太くん。
「これで買い物は終わったわよね?」
「そうっスね!ありがとうっス、ナミっち!」
「んじゃ、付いて来なさい」
涼太くんの腕を掴んで、とあるタオルの店に向かう。
「男の人ってどんなタオルもらったら嬉しいの?」
「も、もしかしてナミっち…俺にプレゼントを…?」
「違う!!」
「じゃあ誰っスか!!…はっ!!もしかして彼氏とか!?誰っスか!そいつ誰っスか誰っスか!!」
「落ち着けェッ!!!」
「ゴベェッ!!」
キレイにあたしのストーレートパンチが、涼太くんの顔に決まる。
「友達に感謝の気持ちとして渡すのよ!!」
「それをはやく言って欲しかったっス!!」
とりあえず、タオルの店に入る。すると、渡したい友達が自分の兄といた。
「ナミ!!お前、黄瀬くんとデー「マコー!!」
「よぉ、ナミ」
「ナミゾウくんまだ喋ってるっス!!」
ナミゾウが面倒くさいことを言いそうだったので、言い終わる前にナミゾウやあたしたちの幼馴染である花宮真に抱き付く。
「今、涼太くんとナミゾウへの差し入れを買いに行ってたのよ。それと、マコへのセーターのお礼のタオルもね!」
「ふはっ、お礼か…そのセーターはお前が奪ったくせに」
あたしのセーターは黒色。なぜなら、この花宮真から奪っ…もらったからだ。
「だからナミっちのセーターは黒だったんスね…」
「先生にはすっごく怒られるんだけど」
「一応、白が決まりっスからね…」
涼太くんと話してると、ナミゾウが間に割って入って来た。
「で、えーっと、黄瀬くんはナミと付き合ってんのかオラァ」
関節を鳴らしながら黒い笑顔を浮かべるナミゾウ。そんなナミゾウをマコは、笑いながらなだめる。
「落ち着けよナミゾウ。シスコンも大概にしろよバァカ」
「だってマコっちゃん!!」
「誰がマコっちゃんだ!」
夫婦漫才を始める2人を長い目で見る。実はノジコとあたしは、この2人を夫婦と密かに呼んでいる。
モデルで稼いでくるナミゾウと、ごはんを作ってくれるマコ。うん、夫婦ね。
「別に付き合ってないわよ。眼中にないし」
「そんな!!ナミっちヒドイっスー!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
とりあえず、マコに黒いタオルを買ってやった。ナミゾウは撮影があるから、とマコとどこかに行った。あたしは涼太くんと帰る。
「そういえば涼太くん、ナミゾウが憧れって言ってたわよね?」
「うん。それがどうかしたっスか?」
「あいつのどこに憧れてんの?」
あいつは、シスコンだし、マコがいないとちゃんとやっていけないし、頭はあたしよりいいのに行動がバカだし…憧れる要素なんてないのに
「そうっスね〜…俺が初めてナミゾウくんのことを見たのが、姉ちゃんの雑誌だったんス」
涼太くんはキラキラした笑顔で話し始めた。
「その時、ナミゾウくんの特集やってて、最初は適当に呼んでたんスけど、だんだん夢中になっちゃってさ!俺もこんな男になりたいって思ったんスよ!」
あたしのアニキは、こんなに人をキラキラした顔にできるのか
「特に、俺は逃げ出したから大切な姉と妹をおいてきた。だから、今度は向き合うんだって言葉が好きっスね!」
「……え?」
「ナミゾウくん、お姉さんとナミっちのことめっちゃ心配してたんスよ!!」
あ、やばい…目が熱い。鼻が痛い。
「ナミゾウくんの昔は知らないけど、今を見たら分かるっスよ。ナミっちとお姉さんをどれだけ大切にしてるかって。」
あたしは、母さんが死んでアニキが出て行った時、アニキを恨んだ。
なんであたしとノジコをおいていくんだって。もう兄ちゃんはあたしたちのことが嫌いなんだって。
でも、離れていてもアニキはあたしたちのことを考えてくれていたんだ。
「……ッ、…」
「ナミっち?」
涙がとまらない。
「涼太くん…アニキのこと、これからも好きでいてね…っ」
「…当たり前っスよ!!」
今日、家に帰ったら少し、ほんの少しだけアニキに甘えよう
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「に、兄ちゃん…」
「なっ、ナミィ!!結婚して!!愛してる!」
「ぎゃーー!!!くっ付くな!!!」
「ボベェッ」
今日は卒業式。結局、テツが部活に戻ることはなかったけど、学校に来てるからよしとする。
「ナミっちは結局どこの高校行くんスか?」
「秘密よ。すぐに分かるわ。」
バスケ部のみんなと写真を撮って、テツとも撮って、先生と撮ろうと思ったら説教くらって…
「さつきーーーー!!!あたしたち離れても親友よね!!?」
「当たり前よーー!!!ナッちゃんこそ私のこと忘れないでよ〜!!?」
「忘れないわよー!!」
「私も〜!!」
さつきと涙のお別れもした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「楽しかったな〜、この3年間」
特にバスケ部のみんなといた時間は、楽しかった。
「修兄もいたし、崎ピョンもいた…征ちゃん、大ちゃん、真太郎、涼太くん、あーくん、テツ、さつき…濃かったな、中学生活」
鉄平さんにも出会って、私はみんなのおかげで変わった。いい方に。
最後はバラバラになっちゃったけど、いつかはみんなが笑顔でバスケしてるところを一緒に見ようねって、さつきと約束もした。
「涼太くんと真太郎とテツと大ちゃんはいつでも会えるけど、あーくんと征十郎は会える回数減るなぁ…」
でも、大丈夫。卒業式の時に見た赤司征十郎は、征ちゃんだったもん。優しくて、悲しい笑顔でみんなを見ていた。
「ナミ、卒業式おめでとう。」
「おめでとさん」
「母さんに報告しなきゃ!」
「それにしても、あんた髪伸びたね。切ろうか?」
母さんの仏壇に手を供えようと座布団に座ると、ノジコが鎖骨下まで伸びた癖が付いている髪の毛に触れてきた。
「…じゃあ、お願いするわ、ノジコ!」
「まかせなさい!」
3年生の2学期ぐらいから切ってない髪の毛。あたしはみんなが笑顔でバスケができる日が来るまで、まあ…願掛けってことで切らない!
「へえ…失恋?」
「違うわよッ!!」
「ナミをフッたやつはどこのどいつだ…」
「だから違うっつの!!!」
「そういえばナミ…」
「何?ノジコ」
ナミゾウに卍固めを喰らわせてると、ノジコは真面目な顔になった。
「あんた、本当にあそこ行くの?」
「……うん!あたしもう、決めたから!!」
「ま、俺とノジコの妹なら簡単にはくたばらねェよ」
頭の上に乗ったナミゾウの手が、とてもあたたかった。
「成長したね、ナミ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「胸も育ったね。今何カップ?」
「Iカップ。ノジコはHだっけ?もう大きくならないでしょ」
「育ち盛りだからまだまだ育つね。」
「お前ら俺(男)がいんのにそんな話すんなよ!!」
「「あら」」
ナミっちがどこの高校行くか知らずに、入学式の日になった。俺の周りにはたくさんの女の子がいる。
「黄瀬くんがこの高校って知らなかった〜!」
「これからよろしくね!!」
女の子の大群で全然前に進めない。キョロキョロしてると、オレンジの髪の毛の子を見つけた
「……!」
ショートカットのオレンジ髪の毛は、一つにまとめられていて、高校生とは思えぬ体型。
その子が桜を見上げると、強い風が吹いて来た。少し残っている結われていない、あのオレンジの髪の毛が揺れる。
その子はこっちを見て、微笑んだ。
それは、とてもキレイだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…って、ナミっち!?」
何とその子は、中学が一緒でどこの高校に行ったか分からない、ナミっちだったのだ。昔からキレイだったけど、春休みの間に一段とキレイになっていて全然分からなかった。
「ナミっち!待って!!」
歩き出したナミっちを、女の子たちを押し退けて追い掛ける。そして、手首を掴んだ
「ナミっち…」
「涼太くん、久しぶり。」
「なんで教えてくれなかったんスか〜!」
「いいじゃない!サプライズよサプライズ」
「…にしても、髪型変えたっスよね?似合ってるっス!つーか雰囲気変わってて全然分からなかったっスよ!」
「イメチェンよ。…それよりも、ちょっと来なさい」
俺の手を引っ張って歩いて行くナミっち。後ろの方から、俺を探す女の子の声が聞こえる。そして、体育館裏で座り込む
「何なの?あの女の子たちは」
「俺のファンの子たちっス」
「うっさいデルモ。…このままじゃ式の時間が延びるわ…どうにかして帰らないと!」
「今日何かあるんスか?」
「引っ越し業者がアパートに来んのよ…東京から引っ越して来たし」
「あー…んじゃ、一緒に来て!」
ナミっちの手を引いて、女の子たちの前に行く
「ちょ!」
「みんな、俺はこっちっスよー!」
そして、走って体育館の中に行く。もう座っていた男たちの中から自分の席を探し、ナミっちを席に送ってから、自分もその席に座る。
「続きは式が終わってからっス!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
無事に式が終わった。ナミっちが1人で帰って行く。その後を急いで追う。
「あら、女の子たちの相手は?」
「必死で逃げて来たっス…それにしてもナミっちと一緒の高校って…嬉しいっス!何でここを選んだんスか?」
「…涼太くんが心配でね〜。本当はすごく迷ったのよ?」
ナミっちが小悪魔のような顔をすると、俺の胸がドキッと鳴った。
「でも、大ちゃんにはさつきがいて、真太郎とテツはあまり心配してないし、むっくんと征十郎は遠すぎてムリ。」
「じゃ、じゃあ俺を心配して…?」
「ま、そうなるわね。あたしがいるから、ファンの子には手出しできないわよ。」
「出さないっスよ!!」
「あたしに初めて会った時はキスしようとした癖に」
「ちょ!それ言わないで!!」
今はナミっちしか興味ないっス!!
「ナミっち!今年こそバスケ部のマネージャーしないっスか!?」
「しない。ここのマネージャーしたら、あいつらの敵になるじゃない」
むっ、と頬を膨らませる涼太くん。私はそいつの頬を指でチョンッと潰してやる。
「じゃあ俺だけのマネージャーになって!」
「イヤよ。あっちへいきなさい、駄犬」
何を言い出すのか分からないわ、こいつは…しっしっと追い払うと、女の子たちが大量に駆け寄ってくる。
「私が黄瀬くんだけのマネージャーになる!」
「私よ!何でもするわ!!」
「ちょ、ナミっち〜〜!!!!」
女の子の波に連れて行かれる涼太くんを笑顔で見送る。これで静かに本が読めるわ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっち!!ひどい目に合ったっス!」
「ちっ、もう撒いてきたか…」
5分ぐらいしたら戻って来た。くそ、こいつ最近女を撒くのうまくなったわね…
「とにかく!バスケ部の見学だけでも来て欲しいっス!!」
「だから!いやって言ってるでしょ!この調子なら、あんたの顔ズタズタにするわよ…?」
「いででで!痛いっス!!」
片頬をつねる。思いっきりつねる。赤くなるまでつねる。
「じゃあ、久しぶりに一緒に帰ろう。」
「…それぐらいなら、いいけど…」
「やった!じゃ、帰るついでに俺んチおいでよ!今日姉ちゃんたちいないし!」
「んー、じゃあお世話になるわ。…ん?」
待って。こいつ、バスケ部だから部活が終わるまで待っとかなきゃダメじゃない!!
「騙したわね!駄犬の癖に!!」
「だって!こうでもしないとナミっち、バスケ部に来てくれないじゃないっスか!」
まったく…なんで私にそんなにバスケ部に来て欲しいんだか…
「…見学だけよ」
「ッナミっち大好きっス〜〜!!!」
「ちょ!抱き付くなァッ!!!」
「ギャンッ」
周りの女の子の視線が痛い。私は急いで教室を出た。もちろん、黄瀬涼太を殴ってから。そして、授業開始のチャイムが鳴る。私は屋上でスマホを開いた。
『よっ、だーいちゃん!』
『なんだナミか…授業サボんなよ。赤司に怒られんぞ』
『あんたもサボリでしょ。共犯よ共犯。』
『お前、結局高校どこ行ったんだ?』
『海常。涼太くんと同じところ』
『黄瀬に付いてったのかよ…。…敵になるな』
『私はバスケ部のマネージャーにはならないわよ。あんたたちと敵対したくないし』
『へえ…やっぱおもしれェな、お前』
『あら、お褒めに預かり光栄だわ。』
『なあ、ナミ』
『何?』
『あー…今度一緒にマジバ行くか』
『ッうん!行く!!』
『また日程決めようぜ。じゃあな』
『あ、待って!!さつきは!?』
『さつきは授業だバカナミちゃんよぉ」
『ガングロアホ峰に言われたくないわッ!!』
『なっ、テメ、ナミィ!!』
ブチッと通話を切ってやった。少し…いやすごくイラッと来たけど、やっぱり大好きな人と話すと、胸があたたかくなった。
涼太くんと一緒に帰ってため、体育館の扉の前で練習が終わるのを待つ
中からは女の子達の歓声が聞こえる
ほとんど涼太くんに向けてだろうけど
「はぁー…黄瀬くんカッコ良かった〜」
「ホントホント」
「黄瀬くんと話したぁい」
「そういえば黄瀬くんと同じクラスのナミっていう子、黄瀬くんと仲良いらしいよ」
「は?まじ!?何それずりー」
「黄瀬くんに色目使ってんじゃない!?」
「どんぐらいのブスか今度見てみよーよ」
「いいねそれ」
「「「「ギャハハハハ」」」」
練習が終わったのか、体育館の中にいた女の子達がゾロゾロ帰って行った。
ってか隠れてて良かったわ。あたし、すごく悪口言われてるし。確かにあの女たちより、可愛いし男子から人気もあるし胸もあるし性格もいいけど♡
別に気にしてなんかないわ。中学からだし。
「ナミっちー!!」
「涼太くん」
お待たせと言って手をブンブン振りながら、走ってきた。そんなに走らなくても逃げないわよ
「あ、あれが黄瀬の彼女?」
「超かわいい…」
「そうでしょ!俺の彼女まじ可愛いんスよ!」
「誰があんたの彼女よっ!!くだらない冗談言ってんじゃないわよ!!」
「ブフッ」
涼太くんをぶん殴る。すると、1人の先輩が私の肩を抱いてきた。
「これからは君のためにバスケで勝利するよ。 美しいお嬢さん。」
「あら、ありがとうございます」
「森山由孝だよ。よろしく」
「あたしはナミです。森山…さん?」
「由孝でいいよ。敬語もなし」
バスケ部の人は変人が多いと再認識したわ。そして、涼太くんの紹介でレギュラーの人と仲良くなった。これまた、全員一癖も二癖もある。
ーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっち、どうかしたんスか?」
なんか元気ないッスよ、とあたしの顔を覗き込んでくる
「な、何でもないわ!」
悪口言われたこと気にしてるわけじゃないけど…なんだか胸に引っかかる。
「嘘」
「へ?」
「ナミっち嘘ついてるっス」
なんでこいつはこういうときだけ勘がいいのよ
「何があったか言わなくてもいいっスから、溜め込まないでよ」
ほら、と言って左手を差し出す涼太くん。これは手を繋げと…?でも、あたしはその手を握らなかった。そして、笑顔を浮かべる。
「大丈夫よ。あたしってそんなに弱くないから。」
「……」
涼太くんは不満そうな顔をしていたけど、これは本当だから。
あたしの悪口が言ったやつは、全員あたしが何らかの制裁を喰らわすわ。うふふ、楽しみ♡
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっち、顔怖いっス」
「あぁん?」
「ヒィーーーッ!!!」
「おじゃましまーす」
ナミっちが俺の家に入る。何度か来ているこの家に、彼女はもう慣れただろう。料理を作るために冷蔵庫を開く。
「…涼太くん、スーパー行かない?」
「いいっスけど、何で?食材なかったスか?」
「あるけど、賞味期限切れそう」
姉ちゃんたちのせいだ。いつか料理で使うからと、取ってた食材だろう。
「お金はあたしが「俺が出すっスよ。ナミっちの手料理をタダで食べれるんスから」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ナミっちをチャリの後ろに乗せて、この辺で1番近いスーパーに向かう。
「このコロッケ食べたいっス!」
「ダメよ。今日はハンバーグなの」
「ナミっちのごはんは何でも美味いっスよ!」
「はいはい、ありがと」
他の人たちから見たら、俺たちはどう見られてるんだろう…?恋人?兄妹?はっ!まさか高校生夫婦!?
「さ、帰るわよ。涼太くん」
「はいよっス」
荷物をカゴに入れて、ナミっちを後ろに乗せて再びチャリを漕ぐ。ナミっちは俺にもたれかかって来た。
「涼太くん」
「何スか?」
「私、海常に来て良かったかもしれない。バスケ部の人たちはみんな優しいし、面白いし」
「じゃ、じゃあ、マネージャーやってくれるんスね!!?」
「それはやらない。」
「何でっスか!!これやる流れっスよ〜!」
「でも…合宿の時なら臨時マネージャーとして出張してあげる」
臨時マネージャー…合宿…よし、笠松先輩と監督に合宿たくさんやってと頼んでみよう。
ーーーーーーーーーーーーーー
「笠松先輩!!」
「うおっ!ナミ!いちいち抱き付くな!シバくぞ!!」
「とか言いつつ、顔真っ赤じゃない。先輩」
「うるっせぇ!!」
「羨ましいっス、笠松先輩…」
「同感だ…」
「えっと…体育館どこだろ」
「ちょっと涼太くん」
「こっちっスかね」
「ちょっと!聞いてんの?」
「なんスか?ナミっち?」
あたしと涼太くんは今、誠凛高校にきている。誠凛高校に用事があるのはあたしじゃなく、この駄犬。あたしは無理矢理連れて来られた
「なんスか?じゃないわよ!なんであたしを連れて来たのよ!…ちょっと、呑気にファンに手振ってないであたしの質問に答えないよッ!」
繋がれている手を振り払おうとしたが、意外に強い力で握られていて解けない。 ムカついたので足でふくらはぎを思いっきり蹴ってやる。
「ちょ、スポーツ選手の足!」
「なによ?だったら顔面にグーパンチプレゼントするわよ」
「モデルの顏!そんなこと言わないでナミっち〜!…じゃなくて、誠凛高校って聞き覚えないっスか?」
そうだ、テツと鉄平さんの高校!!
そうと分かれば鉄平さんは無理だけど、テツに早く会いたい。涼太くん早く、と言って手を引っ張る。
「あ、ちょ、たぶんそっち体育館じゃないっスよ」
そう言うと涼ちゃんは私の手を引いて歩き出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ涼太さん涼太さん」
「ちょ、涼太さんとか、なんか照れるっスね」
「うっさい駄犬。そうじゃなくて…」
体育館に入ったはいいものの、涼太くんのファンに囲まれてサイン会が始まってしまった
涼太くんの隣りにいたあたしも囲まれてしまって身動きが取れない。すぐそこにテツがいるのに近寄れない
「何!?なんでこんなにギャラリーができてんのよ」
バスケ部のマネージャーさんだと思われる人物が声を上げた。うちの駄犬が迷惑掛けてめんぼくない…
「あーもー…こんなつもりじゃなかったんだけど…」
隣りに座りながらサインを書いている涼太くんがボソッと呟いた
「あいつは…黄瀬涼太!」
誰かが発した声に涼太くんと2人でそちらを見た
「…お久しぶりです」
テツと目が合って挨拶された
「ひさしぶ「テツ!!久しぶりィ!!!!」
「ちょ、俺の声遮らないでよナミっち!」
文句を言っている涼太くんを華麗に無視して、テツに手を振る
「すいません。マジであの…え〜と…てゆーか5分待ってもらっていいスか?」
「早くしなさいよ」
あんたが早くしないとあたしも動けないでしょーが
ーーーーーーーーーーーーーーーー
サインを書き終えて、よっと体育館のステージから涼太くんが降りる。そしてあたしに手を差し伸べてきたので素直に握り、あたしもステージから降りた
「いやー、次の試合の相手誠凛って聞いて、黒子っちに挨拶に来たんスよ…ね、ナミっち」
「無理矢理連れて来られたのよ!テツ!」
そう言って抱き着くと頭をよしよし撫でられた。そして、ナミさんは黄瀬くんと同じ高校に行ったんですね、と言われた
「俺たち中学の時、一番仲良かったしね!」
テツから離れて2人の会話を聞く
「フツーでしたけど」
「ヒドッ!」
ナミっち〜、と泣き付かれたけど無視を決め込む
「というかそこのナミちゃんっていう子は海常のマネージャーさん?」
「違うっス!ナミっちは俺の彼女っス!」
「僕の中学時代の同級生で、今は海常に通っています。帰宅部です」
あたしもテツも、ふざけたことを言っている涼太くんを無視したら、また泣き付かれた
「ふーん…」
女の人は私に近付くと、ガシッと私の胸を掴んだ
「ぁ、」
咄嗟に変な声が出てしまった
「くそ、デカイ…IかHってところか…」
な、何なの?あの人…!ってゆーか、顔真っ赤にするな男共ォ!!
するといきなりシュッと音がしてバスケットボールが私と涼太くんの方に飛んできた
「っと!?」
涼太くんは私を抱き締めてボールを片手で防いだ。バチィと音がした
「った〜。ちょ…何?ナミっちに当たったらどうするんスか?」
「せっかくの再開中ワリーな。けど、ちょっと相手してくれよイケメン君」
「「火神!?」」
どうやらさっきのボールは彼が投げたみたいだった
「血気盛んね〜」
涼太くんは文句言いながら、やる気になってブレザーとネクタイを脱いであたしに渡してきた
「これお願いナミっち」
「……」
あたしは無言でそれをテツに渡そうとしたけど押し返されたので、仕方なく持っててやることにした。
涼太くんと火神くんの勝負はあっさり涼太くんが勝った
「ん〜…これは…ちょっとな〜。こんなんじゃやっぱ…挨拶だけじゃ帰れないっスわ。…やっぱ黒子っちください」
何言ってんのこいつ。と思いながら退屈過ぎて欠伸がでた
「海常おいでよ。また一緒にバスケやろう」
涼太くんの言葉に体育館が静まる
「とても光栄です。丁重にお断りさせて頂きます」
「文脈おかしくねえ!?」
2人のやり取りに思わずふっと笑みが溢れてしまう。それから2人の会話を聞き流しながら、今日の晩ごはんのことを考える
「冗談苦手なのは変わってません。本気です」
ハッと我に返ったとき、なんだか険悪なムードになりそうだったので急いで2人のもとに駆け寄る
「涼太くん!そろそろ帰るわよ。誠凛の皆さんこいつが迷惑掛けてごめんなさい!」
そう言って片手に涼太くんのブレザーとネクタイを持ったまま、もう片方の手で涼太くんの腕を掴んで連行する
「あ、テツ!また今度会いましょう!」
そう言って微笑めばテツがはい、と言って微笑み返してくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇねぇナミっちー」
「何?」
涼太くんがブレザーを着てネクタイを結びながら声を掛けてきた
「さっきの黒子っちの言葉聞いたっスか?」
「え、いや全く」
「えー…。俺たちキセキの世代を倒すらしいっス。無謀なこと言うねー、黒子っち」
「そんな余裕かましてたら負けるわよ。寧ろあんたたちのその余裕な態度がムカつくから倒して欲しいわ」
そう言うとまた涼太くんが泣き付いてきたのでうんざりした
「あ、海常で練習試合あるから見にきてよナミっち」
「いやよ。面倒くさい」
「そんなこと言わないで、夜ご飯奢るからさ」
「んー、考えとくわ」
私はそんな晩ごはん代が浮く方がいいか、朝から学校へ行くかですごく迷った
誠凛のことは気になってたし、テツがどれぐらい成長したのか見てみたい。よし、行こう
練習試合当日。私と涼太くんで、誠凛さんたちを迎えに行く。
「火神くん、ナミさんです」
「おう!よろしくな、ナミ!!俺は火神大我だ!」
「よろしく!!火神ちゃん!」
「ちゃん!!?」
誠凛さんは体育館に入って驚いた。当たり前か。半面しか使わないのだから。これは本当にウチを倒して欲しい。監督イラつくし。あと黄瀬涼太も
そして、試合が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
笠松先輩のボールを一瞬で奪うテツ。さすがね。ここは変わってないわ。そして、テツからのパスを受けて火神ちゃんがゴールを決めた…ってか!!
『ゴールぶっ壊しやがったぁ!!?』
軽くゴールを壊した火神ちゃん。…へえ、面白いじゃない。しかも何か大ちゃんに似てるし
呆然としてる監督をよそにコート全面を使うことになった。
そして、我らがキセキの世代の黄瀬涼太が試合に参加する。どうなるのかしら…
あら、誠凛の監督さんは気付いたようね。黄瀬涼太のすごさを
女の子に手を振る涼太くんを、笠松先輩がシバく。もっとやってもいい。
次は涼太くんがゴールを決める。さっきの火神ちゃんを模倣(コピー)して。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
始まってまだ3分なのに、ハイペース。これはノーガードで戦ってるようなものよ!!
火神ちゃんがムキになって挑めば挑む程、涼太くんはそれ以上の力で返してくる。今のままじゃ、火神ちゃんは追いすがるのが精一杯…!!
カントクさんも同じことを思ったのか、誠凛がT.Oを取った。
監督がキレる。ツバが飛んでてすごく汚い。すると、涼太くんが不敵に微笑んだ。
「彼には弱点がある。」
海常高校に入ってから、涼太くんは更に成長した。でも、それはテツも同じ!!
さて、どうなるのかしらね…
監督さんがテツを締める。あの人と気が合いそう…っじゃなかった!!
T.Oが終了し、試合が再開される。すると、いきなり笠松先輩が3Pを決めた。やだ、かっこいい
「笠松先輩かっこいいー!!」
「うっせぇ!!バカナミ!!!」
巨乳好きのくせに
テツのミスディレクションに慣れたのか、だんだんパスを取られなくなった海常。ジワジワ差は開いて行く。
すると、火神ちゃんが大声で笑いだした。どうやら、涼太くんが何か言ったらしい。でも、火神ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔だった。何か、強敵と出会えて嬉しい、みたいな。大ちゃんみたいね…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
休憩に入り、誠凛さんの方は、火神ちゃんの作戦で行くみたいだ。
休憩が終了し、両者コートに戻る。何か変わったっぽいけど…分からない
「ッテツと連携でゴールを!?」
こんなの、並技じゃないわよ!!!涼太くんも動揺してる…
次はテツはメガネの人にパスを投げた。そのメガネの人は、涼太くんが防ぐ前に受け取り、3Pを打つ。
「ま、どうせ黄瀬には勝てねーって」
「…1人でならね。2人なら、勝てるわ。」
あの2人なら、ね…!
真の影となるべく光に出会った影は、光と共にきっとチームを勝利へ導く。
それが、テツと火神ちゃんよ!!
すると、テツが涼太くんのマークについた。これにはさすがに、誰も予想だにしてなかったらしい…もちろん私も
さて、どうなるのかしら…
「黄瀬についてんのって…すげーパスしてたやつだろ?」
「え、うそ。見てねー」
「ってゆーか…」
『相手に…なるわけねえーーーッ!!!』
初めて見た…!テツと涼太くんがこんな風に向き合ってるところなんて!!
涼太くんはドリブルでテツを抜く。すると前に火神ちゃんが現れた。そして、テツが背後からボールを取る。
「止めるんじゃない…!獲るんだ…!!」
そして、一気にゴールを決める。笠松先輩たちも厄介そうな顔をしている。次は3Pを打とうとした涼太くんを、火神ちゃんが抑え込む。
なるほど。つまり平面はテツが、高さでは火神ちゃんがカバーするってことね…!!
すると、涼太くんが誤ってテツを殴ってしまった。テツの頭からは、血が流れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ッテツ!!」
急いでテツの元に駆け寄る。
「カントクさん!早く手当てを!!」
「ナミさん、大丈夫です。まだまだ試合はこれから…でしょう…」
「黒子ォーーー!!!/テツゥーーー!!!」
倒れながら何言ってんのよ!!
「…どうする」
「黒子くんはもう出せないわ。残りのメンバーでやれることやるしかないでしょ!」
あたしは誠凛さんの作戦会議を黙って聞いとく。だってテツが心配だもの。あたしはバスケ部じゃないから監督に怒られても無視無視。
「早いけど“勝負所”よ、日向くん!」
3P決めてた人って、日向さんってゆーのね。ってゆーか、“勝負所”ってなに?
「黄瀬くんに返されるから、火神くんOF禁止!DFに専念して。全神経注いで黄瀬くんの得点を少しでも抑えて!!」
「そんな…それで大丈夫なんで…すか?」
確かに。テツがいないのに火神ちゃんをDFにまわしていいの?
「大丈夫だって。ちっとは信じろ!」
「でも…」
「大丈夫だっつってんだろダァホ。たまには先輩の言うこと聞けやころすぞ!」
笑顔でそう言う日向くんには、赤髪のあのお方を思い出させられる。ってゆーか何?怖いんだけど…
「ったく、今時の1年はどいつもこいつも…もっと敬え!センパイを!そしてひれふせ!!」
「スイッチ入って本音漏れてるよ、主将」
え、あの人主将なの!?うそ、こわっ!日向くんの変わりように、火神ちゃんがすごく驚いていると火神ちゃんにイケメンな人が近付く。
「あー、気にすんな。クラッチタイムはあーなんの」
「……?」
それでも分かってないみたいな火神ちゃん。うん、あたしもよ
「とりあえず、本音漏れてる間はシュートそう落とさないから。OFは任せて、お前はDF死にものぐるいでいけ」
か、かっこいい…!やばい、不意にもキュンとした!!誰だろ、あの人…!
「…カントクさん、あの人たちって?」
「あいつらは…って何で膝枕してんの!?」
「いい機会だったんで、頼んだらしてもらえました」
「ハァ…あいにくウチは一人残らず…諦め悪いのよ」
そう言うカントクさんの顔は、すごくかっこよかった。何?誠凛ってかっこいい人多くない?
「優しい時は並の人!スイッチ入るとすごい!でも怖い!!二重人格クラッチシューター日向順平!!」
に、二重人格…?ああ、赤髪のお方が脳裏に…
「沈着冷静慌てません!クールな司令塔!かと思いきやまさかのダジャレ好き!伊月俊!!」
し、司令塔…?赤髪のお方がはっきりと脳裏に…!ってゆーかこの人、伊月さんってゆーのね。俊くんって呼ぼう
「仕事キッチリ縁の下の力持ち!でも声誰も聞いたことない!!水戸部凛之助!!」
誰も声を聞いたことがないって…相当な無口じゃない!!会話とかどーしてんのっ!?
「なんでもできるけど、なんにもできない!Mr.器用貧乏!小金井慎二!!」
最後の人、扱いひどくない?まー、かわいいからコガって呼ぼう。
これが誠凛ね。鉄平さんの言う通りね!おもしろいわ!!
「…ナミさん、約束します。」
「え?」
「僕はキセキの世代に勝ちます。そしたらまた、バスケしましょう。みんなと、一緒に。」
そう言いながらあたしの手を握るテツ。そして、コートへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
慣れたのにもう戻ってやがる、って顔ね。20分試合に出てないのよ。当たり前じゃない。
そしてついに、同点まで並んだ。
涼太くんのフインキも変わる。そして、一気にシュートを決めた。ここからは、ランガン勝負ね
残り15秒で同点…!どうすんのよ!
残り7秒の時、笠松先輩のシュートを火神ちゃんが抑えてボールを取る。そして、テツにパスをまわす。
テツはシュートなんてできないはず…!
「っ、パスミス…?」
ううん、違う!!火神ちゃんが取った!でも、涼太くんが防ごうと飛ぶ。
だけど、飛んでる時間は火神ちゃんの方が長い
「これで終わりだからな!!!」
試合終了と同時に火神ちゃんが決めた。
点数は100対98…ってことは
『うおおおお!誠凛が!?勝ったぁぁ!!!』
テツが、火神ちゃんが、誠凛が勝ったんだ!!カントクさんが、嬉しそうにあたしに抱き付いてくる。あたしは涼太くんの方を見た。
初めて感じる敗北に、涙を流していた。
「え、黄瀬泣いてね?」
「いや、悔しいのは分かっけど…」
「たかが練習試合だろ」
私は敢えて涼太くんを励まさない。だって、今励ますのは私の役目じゃないから。
つーかうっさいのよ。あんたたち試合出てないじゃない。涼太くんの気持ちも分からない癖に。…まあでも、あの人たちの方が分かるわよね
「っのボケ!メソメソしてんじゃねーよ!!」
「いでっ!」
「つーか今まで負けたことねーって方がナメてんだよ!!シバくぞ!!!」
笠松先輩が涼太くんの背中を蹴る。
「そのスッカスカの辞書に、ちゃんと“リベンジ”って単語追加しとけ!!」
「整列!!100対98で誠凛高校の勝ち!!」
『ありがとうございました!!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「次はI.Hね!がんばりなさいよ!」
「あんた、ウチのこと応援してもいいのか?」
「さっき黒子のこと膝枕して、海常の監督に怒鳴られてたしな」
「いいのよ。私はバスケ部じゃないもん。日向さん、俊くん」
「ひゅ、日向さん!?」
「俊くん…」
何でお前だけ下の名前呼び!?という日向さんが俊くんに突っかかる。あたしはカントクさんに頭を下げた。
「お疲れ様でした。では」
「待ってナミちゃん!私は相田リコ。よろしくね」
「っ、はい!!」
あたしに新しい友達がたくさん増えた。
「テツ、火神ちゃん、涼太くんに勝ってくれてありがとう。」
それだけ言ってあたしは、涼太くんを探しに行った。
涼太くんを探しに中庭に行くと、水道のところで黄色頭がしゃがみ込んでいるのを見つけた。
あたしはその黄色頭に駆け寄る
「涼太くん」
声を掛けると俯いてた涼太くん顔を上げる。
「ナミっち…」
目が赤くなってて、さっきまで泣いてたことが分かる。
でもあんたは、弱ってるところを人に触れられたくない男だから、触れないであげるわ。
しゃがみ込んでいる涼太くんの頭を少しかがんで、よしよしと撫でた。
すると涼太くんがガバッと立ち上がり、あたしもつられて背筋を伸ばす。
そして、あたしの胸に顔を埋めた。
普段は女の子の目を気にしてぶん殴るけど、今日は何も言わず、されるがままにしておいた。
「もうちょっと、このままでいさせて」
「…うん」
涼太くんがあたしの胸の中で弱々しく呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺、かっこ悪ィっスよね…余裕こいて、本気出して負けたんスもん…」
「あたしは、本気を出して負けたことはかっこ悪いとは思わないけど。」
弱々しく喋る涼太くんの背中をぽんぽんと叩く。
「大丈夫。本気のあんた、かっこ良かったわ。次はI.Hでしょ?誠凛さんにも言ったけど、がんばりなさい」
「ナミっち…」
「それに…あたしは今の涼太くん、好きよ。」
本気で、勝つために、お遊びなしで頑張るあんたは、すごくかっこ良かった。
「だから、いつまでも下を向かない!あたしの知ってる黄瀬涼太は…「ナミっち〜〜!!」
「…は?」
涼太くんがあたしを抱き締める。ってゆーかさっきのシリアスは!?
「やっと俺と付き合ってくれるんスねー!!」
「アホかァ!!あたしが言ってんのは試合中の涼太くんが好きってこと!!一言も付き合うとか言ってないでしょ!!!」
涼太くんを引っぺがして、殴る。再起不能にしてやろうか
「だいたいねぇ、あんたと付き合うくらいなら、どこぞの御曹司か医者の息子と付き合うわよっ!」
「ひどいっ!俺だって結構稼いでるっスよ?モデルで」
「うっさい!!」
もう2発げんこつをお見舞いする。でも、いつもの調子が戻って良かったわ。
「…そろそろイチャつくのもやめるのだよ」
「え…」
嘘でしょ、この声と喋り方は…
「しん、たろー…?」
「久しぶりなのだよ、ナミ。それより黄瀬、何ださっきの試合は「真太郎!!嘘、本物!?何で神奈川にいるの!!?」
真太郎に抱き付いて、頬をペチペチ叩く。ナミっちーと泣いてる駄犬は無視だ。
「触るな!…黄瀬、さっきの試合は何だ?まあ…どちらが勝っても不快な試合だったが」
メガネをカチャッと上げる仕草は相変わらず癖のようだ。ナミっちの手を払って俺の方を見る緑間っち。…ナミっちのことは引き離さないんスね…
「サルでもできるダンクの応酬。運命に選ばれるはずもない」
「帝光以来っスね。つか別にダンクでも何でもいーじゃないスか。入れば」
ぶーっと頬を膨らますと、緑間っちから離れたナミっちが頬袋を潰してくれる。…指グリグリすんのやめて!痛いっス!!
「だからお前はダメなのだよ。近くからは入れて当然。シュートはより遠くから決めてこそ、価値があるのだ」
ってゆーか、この人の指のテーピングは相変わらずだな…
「俺は人事を尽くしている。そして、おは朝占いのラッキーアイテムは必ず身につけている。だから俺のシュートは落ちん!!!」
毎回思うんスけど…最後の意味が分からん!!これがキセキの世代No. 1シューター…
「真太郎、メガネ貸して!…だから俺のシュートは落ちん!!!…ブッ、あははは!!」
「返すのだよ!!」
「ブフッ、ギャハハ!似てるっス!!」
ナミっちが緑間っちのメガネを取ってかける。そして、低い声で先ほどの緑間っちの真似をする。ついつい吹き出してしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、真ちゃんいたいたー」
「え、あんた真ちゃんって呼ばれてんの?ぷぷっ、かわいいじゃない」
「うるさいのだよ。」
「しかも友達できたの?これは大ちゃんに報告ね!」
「うるさいのだよ!あいつは下僕だ」
「照れなさんな」
「うるさいのだよ!!」
真太郎と別れて、涼太くんと2人で並んで帰っているとステーキボンバーという店からテツが出てきた。
「テツ!」
「あ、ナミさん。…と黄瀬くん」
「…黒子っち。ちょっと…話さねぇスか」
「……?」
テツに会えたことに嬉かったけど、今のあたしはそれよりも違うことに興味がいった。
超ボリューム4kgステーキ
30分以内にたべきれたら無料
これ、たべれる人いんの?すっごく気になる…それにお腹も空いたし
「ここじゃあれなんで場所移動しよ。行くっスよ、ナミっち。…あれ?」
「ナミさんならワクワクしながら、そこの店に入って行きましたけど」
「ハァ…ナミっち〜…」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ステーキボンバーに入ると誠凛さんが勢揃いだった。
邪魔にならないように端のほうに座って取り敢えず普通サイズのステーキを注文する。
店の人は誠凛さんの方を見て涙を流していた。あたしも見てみると、火神ちゃんがぱくぱくとボリュームステーキを完食していた。
り、リスみたいに食うとる…
財布を見ると、お金が少し足りなかった。…仕方ない。お店の人を読んで、潤んだ目で少しシャツのボタンを開けて話す。
「お金が少し足りないんですけど…」
「お、おまけします!おまけ!!」
「やだ!ありがとうございます!!」
ガバッとお店の人に抱き付く。チョロいもんよ、男なんて
店の人にヒラヒラと手を振って外にでると誠凛さん達が慌てていた。
「どうしたの?リコさん」
「あら、ナミちゃん!黒子くん見てない?」
「あー、なんかさっき黄瀬涼太と話をするって…」
最後まで言い終わるうちに、何だってー!?と叫んで誠凛の人達はテツを捜しにいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
涼太くんどこに行ったんだろ、と思ってスマホを開くと、ストバスが出来る公園に黒子っちといるから、というLINEがきていた。
そちらに向かおうとしたら火神ちゃんを見つけた。
「火神ちゃん、テツの居場所分かったわよ」
「まじで?案内してくれ」
ストバスの公園につくと涼太くんとテツが深刻そうな話をしていた。だから火神ちゃんと2人でこっそり話を聞いていた。
といってもあたしには何のことだかさっぱり分からなかったので、早々飽きていた。
ボーっとしているといつの間にか隣りに居たはずの火神ちゃんがいなかった。
あれ?と思い涼太くんたちほうを見ると、涼太くんと火神ちゃんが居た。
「テツがいない」
キョロキョロと辺りを見るとストバスのコートでテツが不良相手に喧嘩売っていた。あたしは思わず駆け出す。
「はぁ?いきなりなんだてめぇ」
不良がテツの胸倉を掴んだところでようやく辿り着いた
「ちょっと!そいつを離しなさいよ!」
「ナミさん?」
「あ?んだこの女…お、可愛い顔してんじゃねぇか」
そう言って不良どもの手が顔に触れたのでパシッと振り払う。
「触んないで」
「気の強ぇ女も嫌いじゃねえぜ」
と不良どもが近づいてきたと思ったら私と不良どもの間にテツが割って入った。
「ナミさんに近づかないでください」
「あ?なんだこら…そうだ、バスケで勝負してやる。負けたらこの女は貰うぞ」
は?何言ってんのよ。見るからに貧乏そうな癖に、と言ってやろうと思ったらなんだかテツがやる気になっていて言い出せなかった。
「あのー…俺らも混ざっていいっスか?」
背後から声がしたので振り返ると涼太くん火神ちゃんがいた。
「ったく、何やってんだテメーら。まぁいい、5対3でいーぜ。かかってこいよ」
火神ちゃんが啖呵を切ると相手の不良どもは怯えていた。
涼太くんにブレザーとネクタイを渡され、またかと思いながら受け取る。するとテツと火神ちゃんがこれもお願いとジャージを渡してきたので涼太くんのブレザーを地面に落として2人のジャージを受け取った。
「ナミっちヒドイ!」
と抗議を受けたので仕方なく拾ってやる。そしてブレザーを羽織った。
勝負は瞬殺だった。
もちろんテツたちの勝ち。
「おまえは!何を考えてたんだ!!あのまま喧嘩とかになってたら勝てるつもりだったのかよ!?」
「いや100パーボコボコにされてました」
テツが力こぶを見せるも、全くない。あたしのほうがあるんじゃないの?
あたしは羽織っていたブレザーを脱いで、ネクタイと一緒に涼太くんに渡しに行った。
「ナミっちも、自分が女の子ってこと自覚して欲しいっス。まじで俺、心臓止まるかと思ったんスから」
「でも「でもじゃない。いくら強くても男が本気出したらナミっちだって勝てないかもしれないんスから」
涼太くんにそう言われて、むぅ…とむくれる。
「黄瀬くんの言う通りですよ、ナミさん」
テツにまで言われて眉根を下げる。そしたら火神ちゃんに頭をガシガシ撫でられた。
「あんま無茶すんなよ」
「火神ちゃああああん!!!」
「うおっ!!」
抱き付くと、不器用ながらも受け止めてくれた
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃ、俺たちはそろそろ行くっスわ…最後に黒子っちと一緒にプレーもできたしね!」
そう言って綺麗な顔で笑った涼太くんに無意識に見惚れてて、柄にもなく心臓がドキドキした
すぐに我に返ってテツと火神ちゃんにジャージを渡した。
「あと火神っちにもリベンジ忘れてねぇっスよ!」
「火神っち!?」
「良かったわね。認められた証拠よ」
「良くねぇよ!」
「じゃあね。テツ、火神ちゃん」
「はい」
「おう、またな」
そして、あたしは待っててくれた涼太くんの隣りに並ぶ。
「そういえばナミっち、なんでシャツのボタン開いてるんスか?」
「げっ!!こ、これは…熱くて…」
「また男誘惑して、おまけしてもらったんスね!?危ないからやめてって言ってたじゃないっスか!!」
「ご、ごめんごめん!…きゃっ」
走り出そうとすると、こけそうになって涼太くんが腕を咄嗟に掴んでくれた。
そのまま涼太くんの手はあたしの手をがっしり繋いだけど、今日はこのままにしておこう
「涼太くん…元気出しなさいよね」
やっぱ。負けた後だからか、どこと無く元気がなかった涼太くん。なんだかこっちが調子狂う。
「もう、だいぶ元気出たっスよ」
涼太くんの言葉に、自然と笑みが浮かぶ。
「…ありがとう、ナミっち。ナミっちが居てくれたから元気出たっス。…出来れば、これからもずっと側にいて欲しいかなー、なーんて…」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…あ、この音楽好きだわ」
「あれ!?いつの間にイヤフォンしてたの!?今俺ちょー重要なこと言ったのに!」
(何よこれ、何でこんなにドキドキするのよ!何でこんなに駄犬がかっこ良く見えんのよ!)
「あれ?君はたしか…」
「俊くん!!」
「海常のナミちゃん!」
帰るついでに、コンビニに寄るとアイス売り場で俊くんに会った。ちなみに、涼太くんは外で待ってくれている。
「ナミでいいわよ。…ところで俊くんは何してんの?こんな時間に…」
「まあ、あのあといろいろあって…今の時間に帰ってるってところかな。ナミは?」
「あたしもそんな感じ…」
あはは、と2人で苦笑いする。改めて見ると、やっぱり俊くんってキレイな顔だなぁ…
「危ないから、駅まで送ろうか?」
「ううん、大丈夫!外で涼太くん待ってるから!」
「そうか…アイスはそれにするのか?」
「え?ああ、うん。」
すると、ヒョイっとあたしのアイスを取ると、俊くんは自分のアイスも持ってレジへ向かった
「ちょ、ちょっと俊くん?」
「あ、合わせてお願いします。」
どうやら俊くんは、あたしのアイスのお金を払ってるらしい。
「はい、ナミ」
「あ、ありがとう…って、お金返すわ!何円かしら?」
すると、俊くんは財布を取ろうとしたあたしの手を抑えた。俊くんは微笑んで言った。
「ナミと話した時間のお代、ってことで」
ズキューン
何かにあたしのハートは撃たれた。
「あ、ありが、とう…」
「じゃ、俺は行くよ。話できて嬉しかった。またな。」
またな
頭の中で、俊くんの声がリピートされる。最後に頭にポンっと手をおかれた。顔に熱が集中する。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、遅かったっスねー、ナミっち」
涼太くんの声も、耳に入らない。今は俊くんのことで頭がいっぱいだ。
「ナミっち?」
「……涼太くん、あたし…白馬の王子さまを見つけたかもしれない…」
「……は?」
伊月俊くん
彼はあたしにアイスを買ってくれた代わりに、あたしの心を奪っていった。
「ちょ、ちょっとナミっち?しっかりしてっス!」
涼太くんがあたしの肩を掴んで、ブンブンと振る。
それでも、胸の鼓動はとまらなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうだ!!テツに俊くんのLINEもらお!」
(というわけで、俊くんのLINEください!〉
テツ〈ダメです)
(なんでよー!!!〉
「俊くん!!」
「黒子っちー!!火神っちー!!」
「うるさいです、黄瀬くん」
あたしはあの練習試合をきっかけに、よく誠凛さんにお邪魔している。目的は伊月俊くん。あとテツや火神ちゃんたちにも会いたかった。今日は涼太くんも一緒だ
「ナミ、また来たのか」
「火神ちゃん!だって俊くんに会いたくて!」
「君の瞳に人見知り!!キタコレ!」
「うっせえよダアホ!ナミも物好きだよな…コレがいいとか」
「このちょっと残念な感じがいいんですよ!…あ、そうだ!リコさんいますか?」
「カントクならもうすぐ来ると思うぞ」
鉄平さんと一緒に、リコさんが来た。私は俊さんから離れて、2人に近付く。
「リコさん!少しいいですか?」
リコさんを呼び止めて、ある話をする。リコさんはその話を聞いて、嬉しそうだった。
「みんな!集合して!!」
リコさんの声で、みんなが集合する。
「来月、誠凛と海常のI.Hへ向けた合同合宿が行われることになったわ。気合い入れて行きましょう!」
「でも、どこで合宿なんかするんだ…ですか?」
火神ちゃんが、みんな思ったであろう疑問をぶつけて来た。
「誠凛のみなさんは、最近スポーツ選手の為の新施設ができたのは知ってるっスよね?」
「そこはジムやプール、様々なスポーツのコートがあるの。それだけじゃないわ!!」
「ホテルも付いてるの。そこに、私たちが貸し切りで合宿するの。ま、そこの館長さんがナミちゃんのア お兄さんのファンってことが大きいけど」
「とにかく、バスケをするには充分な場所ってことだな!…です」
リコさんと交互で説明をする。そろそろ部活が始まりそうだから、あたしは言いたかったことをテツと火神ちゃん、誠凛の皆さんに伝える。
「誠凛のみんなと戦ってから、練習中に涼太くんの笑顔が見れるようになったわ!!ありがとう!!」
「ちょ、恥ずかしいからやめて欲しいっス!ナミっち!!」
「いいじゃない。あたし、嬉しいんだから!」
「ナミっち…」
「あの、リア充消えてくれませんか」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「俊くん!合宿の間、ずっとそばにいられるわね!」
「そばにいたら蕎麦のびる!キタコレ!」
「黙れ伊月!!そして羨ましい!!!」
「俺にも抱き付いてっス〜!ナミっちー!!」
「どっから湧いて来たデルモ!!」
ついに来た合同合宿の日。私はバス停に涼太くんと行く。もちろんバスも専用のバスだ。
あたしはまずテツや俊くん、火神ちゃんたちを探す。
「遅くなってすみません!」
リコさんが来た。…ということは、誠凛が来たんだ!!
「俊くーん!!」
あたしは俊くんに思い切り抱き付く。その後を涼太くんが追って来た。
「ナミっち!今すぐ離れて!!それか俺にもやって!」
「んー!むんー!んん!」
「ナミさん、ナミさんの胸で伊月先輩が死にそうです。」
「いやーっ!!俊くーん!!」
「だから羨ましいっス!!!」
駄犬がうるさいので、俊くんから離れた。すると駄犬があたしを後ろから抱き締める。
「…熱いし重い!!」
「えー!じゃあこうっスか?」
涼太くんはあたしから離れて、手を握った。…まあ、手を握るぐらいならいいか。ったく、今からバスに乗るってゆーのに
バスは学校ごとに違うから、私は涼太くんの隣に座る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミっち最近冷たくないっスか〜!?」
「うっさい!デルモが調子乗るんじゃないわよ」
「いだだだだ!頭蓋骨割れるっス!!」
頭に手をおいて、力を入れる。これはあーくん直伝の技だ。痛くないわけがない。
「ま、あんたのことを嫌ってるわけじゃないから」
ポン、と頭に手をおくと、涼太くんは顔から出る水を全て出しながら抱き付いてきた。
「ヌワミっちー!!!」
「ちょ、うざい!!」
「ギャンッ」
2人でギャーギャー騒いでいると、前に座っている笠松先輩に怒鳴られた。
「うっせえぞ黄瀬!ナミ!ちょっと黙れ!!」
「その声が1番うるさいわよ!!」
「なんだとぉ!!?」
笠松先輩も含めた3人で騒いでいると、監督に頭をしばかれた。そして、こっぴどく叱られた。
「くっそ、なんで俺まで…」
「駄犬が最初に騒ぎ始めたのに…」
「あとで黄瀬シバく」
「あたしも殴る」
「ちょ!なんでっスか!なんで意気投合してんスか!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「バッチリシバかれて、殴られたっス」
「お、お疲れ、黄瀬」
「お疲(れ)だな!黄瀬!!」
ついたそこはすごくキレイで、広かった。
「ナミっち!見学行くっスよ!」
「うん!」
涼太くんに手を引っ張られながら走る。そこはなにもかもキレイで、もう学校に戻りたくないと思うほどだった。
「プールもあるっスね!あとで行こう!」
「いいわよ!あ、このプールの隣がジムなのね…」
すると、私の携帯が鳴った。笠松先輩からだ。
『笠松先輩?』
『2人共戻れ。もうすぐ誠凛との練習試合が始まるぞ』
『分かったわ。』
「涼太くん、戻るわよ。もうすぐ誠凛との練習試合が始まるって」
「練習試合っスか!?早く行くっスよ、ナミっち!」
急いで海常高校のミーティング室へ向かう。入ると、監督に遅いとこっぴどく叱られた。
「朱崎は選手のドリンクの用意とタオル、救急箱の用意をしとけ」
私が監督に言われたことをしている間、みんなは試合の作戦を考える。次勝つのは、うちかもしれないわ。だって、みんな強くなってるもん
ーーーーーーーーーーーーーーーー
みんなにドリンクを渡して、試合を見る。途中、監督に言われて次の特訓の準備をする。
「あら、ナミちゃんじゃない」
「リコさん!」
「何?海常も練習試合のあと、筋トレするの?」
「はい。リコさんは練習試合見なくていいんですか?」
「ちょっとぐらい大丈夫よ。すぐ戻るし」
リコさんに手伝ってもらって、すぐに準備は終わった。2人で練習試合を見に戻る。
「黄瀬くん、強くなったわね」
「はい。あいつ、本当に誠凛さんたちと戦って変わったんです。」
あたしの目には、キラキラの笑顔でシュートを決める涼太くんが映る。
「誠凛さんが、火神ちゃんが、テツが、戦意喪失せずに挑んでくれたから、あいつの魂にも火が付いたんです。」
「そっか…うちは諦め悪いしねぇ」
そういう相手が、あいつらにも…あいつにも必要だったのかもしれない。
なんて考えていると、ポケットに入っているケータイが鳴った。急いで見ると、あーくんから電話がかかっていた。体育館を出て、もう一度あーくんに電話をかけ直す。
『もしもしー?』
『あーくん!!さっき電話したでしょ?どうしたの?』
『ナミちんの行った学校が気になってさー』
『そんなこと、わざわざ電話じゃなくても…』
『久しぶりにナミちんの声も聞きたくてさー。で、どこ行ったの?』
『海常高校。ほら、涼太くんと一緒の『はぁー!?黄瀬ちん、ナミちんと学校一緒なの!?そんなの聞いないしー!つーかなんで俺じゃないの!』
『いや言ってないし…それに、あーくんと同じ場所でもよかったんだけど、あんた秋田でしょ?遠すぎよ』
『黄瀬ちんだって神奈川じゃん』
『神奈川は東京から近いし…あと、なんか涼太くんと放っとけなかったのよね〜…』
『なにそれ〜』
『あたしにも分かんないわよ。…あ、監督が呼んでる!行かなきゃ!!ごめん、あーくん。切るわよ』
『待ってナミちん!』
『何?』
『…正直ナミちん、俺たちのこと嫌いになったでしょ?ナミちんのこと、いっぱい泣かせたもん…』
あーくんの言う通り、あたしは影でたくさん泣いた。それはキセキのみんなのせいかもしれない。だけど…
『嫌いになんか、ならないわよ。』
あたしに繋がりの大切さを教えてくれたのは、あなたたちだから。
『お、俺は!?』
『あーくん?あーくんなんか、嫌う要素ないじゃない!』
『俺もナミちん大好きだよー。あ、俺も室ちんに呼ばれたから行かなきゃー。また今度ねー』
あーくんとの電話が終わると、なぜか嬉しくなった。あーくん、あたしのこと大好きだって!えへへ…
それに、室ちんってきっと、あーくんの高校の友達か先輩よね。秋田でも、元気にやってるんだ…
「ナミっちー、試合終わった…って何1人で笑ってんスか」
「…別に!なんでもない!!」
あたしは涼太くんの隣に並んで、監督の元へ向かった。
きつい特訓も夕食も終えて、今は7時。10時までは自由時間だ。
ナミと黄瀬は、黒子と火神を誘ってプールに来た。この時間は両校とも使ってないはずだ
「やっぱ広いっスね〜」
「誠凛は確かもう使ったのよね?」
「はい。思い出しただけで吐きそうです」
黒子がそこまで言うということは、本当に特訓がハードだったことが分かる。火神も顔色が悪い。
「海常は使ってないのか?このプール」
「ええ。今日は誠凛、明日は海常、みたいな感じで使うらしいわ」
「明日俺らも使うんスね…ってゆーかナミっち!!明日プール使うなら、水着着ちゃダメっス!」
「はあ!?」
肩をガシッと掴む黄瀬に、ナミは驚きをあらわにする。
「なんでよ!!」
「そんな水着ダメっスよ!せめてTシャツだけでも着て!!」
ナミの水着は、紺と白の縦しま模様の水着だった。それは、ナミの豊満な体を見せるのにちょうど良いサイズだった。
「別にいいじゃない!」
「健全な高校生男子には刺激的すぎっス!」
「アメリカだと、ナミぐらいは普通だぜ」
「帰国子女は黙っててっス!!」
「なんだとコノヤロー!!」
言い合いの末、仕方なく黄瀬が羽織っていたパーカーを借りることになった。ナミはプールサイドに座って、みんなが泳ぐ様子を見る。
「…テツ、あんたもっと頑張りなさいよ…」
「……」
「黒子ォーー!!寝るなー!!」
疲れ果ててバテた黒子をプールから引き上げる。黒子を寝かせて、ナミはプールに入った
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「次はリコさん直伝の、プールトレーニングよ。涼太くん、肩車して。火神ちゃんはテツね」
黄瀬と火神はナミの指示通り、肩車をする。
「今から涼太くんと火神ちゃんは、25M走ってもらうわ!」
「それが誠凛の監督さんに教えてもらったプールトレーニングっスか?」
「ただ走るわけないでしょ、バカ」
「プールの中を走る、というわけですね」
「そういうこと」
「水の中を走るだけでトレーニングになるっスかねぇ…それよりも、肩車で施設を一周した方が良くないっスか?」
黄瀬の問いかけに、火神もうんうんと頷く。すると、ナミは得意げに答えた。
「水中でフットワークをすることによって、さらに付加が高まるの。シャトルランやラン&ゴーとか、基本的に走るのがメインになるけどね」
「つまり水の中を走ると、受ける対抗が格段に大きくなって、いつものフットワークより効果が期待できるってことですね」
「ふーん…なるほどっス」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「それよりもナミっち…」
「何?」
「頭に当たってるっス…胸…」
「な…!!」
「黄瀬くん、スケベです」
25Mを走り、そのあとシャトルランを休憩なしで走る。
「よし、休憩しましょ」
「やっとっスね…疲れたっス」
「こういうところがカントク直伝って感じすんな…」
「火神くん、揺れすぎです。酔いました」
「うるせーよ!!つーかお前もなんかトレーニングしろよ!!」
火神の意見にたしかに、と頷くナミ。しかし黒子の力では火神や黄瀬はおろか、ナミすらも肩車できないだろう。
「抱き上げるぐらいならできますよ」
ナミの心情を察して、自分が持っている全ての力を出してナミを抱き上げる黒子。
「ちょ、落ちる!怖い!!」
ナミも黒子の首に腕を巻き付ける。
「こ、これ…」
ショックを受けたようにプルプル震える黄瀬に、黒子とナミは首をかしげる。
「どうしたんですか、黄瀬くん」
「どうしたのよ、涼太くん」
「こ、これ…お姫様抱っこじゃないっスか!!それ俺がやるポジション!!!」
「意味分かんない」
「日本語でお願いします」
「ヒドッ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃ、テツはとりあえず25Mを走るってことで」
「分かりました」
ナミの指示通り、黒子が25Mを走る。
「25M走るのにこんなに時間かかってるやつ、初めて見た…」
「うるさいです火神くん。はやく上げてください」
「テツにはこれだけでもいいフットワークになるでしょ」
最後の最後の力を振り絞って、ナミをプールサイドに上げる黒子。そのあと、火神に自分は上げてもらう。
「涼太くん、いつまで拗ねてんのよ」
「だって俺もナミっちをお姫様抱っこしたかったス…」
ハァ、と溜息を吐くナミ。火神がチラリと時計を見ると、もう消灯時間の15分前であった
「おい黒子起きろ!もう消灯時間の15分前だ!戻るぞ!!」
「誠凛には消灯時間とかあるんスか?」
「おう。消灯時間過ぎても部屋にいなかったら、明日のフットワーク3倍なんだ…」
黒子を担ぎながら、更衣室へ向かう火神。ナミと黄瀬も後を追うように更衣室へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、ケータイ忘れた…涼太くん、先行っててくれない?」
「了解っス。気を付けてー」
「何によ…」
プールサイドにあるイスの上にケータイはあった。他にも忘れ物はないかとキョロキョロと見ると、タオルを見つけた。
(これ…火神ちゃんのじゃ…)
時計を見ると、誠凛の消灯時間はもう過ぎている。取りに行くとしても明日だろうが、明日はプールを海常が使う。
(すぐに戻ればいいわよね…)
届けるという結論に至ったナミ。ポケットからケータイを取り出し、火神にLINEで部屋の番号を聞き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
コンコン、とノックをする。すぐに火神が出てくれた。
「火神ちゃん、タオル忘れてたわよ」
「ああ、ありがとな」
渡したあと、少し雑談をしているとコツンコツンと足音が聞こえた。
「ヤベェ、カントクだ!」
「海常が誠凛のフロアにいたら怪しまれるわよ!どうしよう…」
すると火神はナミの腕を引っ張る。
「ちょっと火神ちゃん!?」
「カントクの見回りだ!スペアキー使って、全部の部屋に入れるんだよ…俺らが迷惑かけねぇようにって」
「どんだけ心配されてんのよ…」
黒子がぐっすりと眠っている ベッドの隣、火神のベッドにナミを押し込む。
「火神くん、黒子くん、ちゃんと寝てる?」
「か、カントク!今から寝るところっス!」
「はやく寝なさいよー」
「う、うす!」
リコが部屋を出たのを確認すると、プハッとナミは布団から顔を出した。
「大丈夫だったか?」
「ええ…」
(か、火神ちゃん近くない!?やばい、鼓動が…)
火神との距離に、動揺を隠せないナミ。それは火神も同じようだ。
「た、たぶんカントク行ったから、もう戻れるぜ」
「そ、そうね!戻るわ!!」
急いでベッドから飛び出して、扉へ向かう。すると、火神はナミの背後から扉に片手を付く。
「か、火神ちゃん…?」
「悪ぃ…なんか今日はまだナミといてェんだ…」
ナミの肩に顔を埋める火神。ナミはドキッとする。ナミから火神の顔は見えない。
「帰んなよ、ナミ…」
寂しそうな声に張り切らなくなりナミは結局、火神と黒子の部屋に泊まることにした。
↑誤字です!
寂しそうな声に振り切れなくなったナミは結局、火神と黒子の部屋に泊まることにした
です!
「……」
朝起きて、隣を見るとオレンジが少し見えた。そっと布団をめくると、ナミが寝ていた。
「あー…たしか昨日、引き止めたんだっけ…」
寝ぼけていた頭が、だんだん覚醒してきた。それと同時に、昨日の自分の行動を恥じる。
(この歳でアレはねぇわな…)
離れたくねぇって、勝手に引き止めて…オレ、すっげーカッコ悪ぃ…
とりあえず、起こすか
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、ナミ、起きろ」
何回か揺すると、ナミは目を覚ました。まだ寝ぼけているらしく、枕が顔に直撃する。
「ぶっ!!…ナミィ、テツが起きちまうぞ」
ナミのセコムみたいなやつだ。この光景を見ればオレの相棒は、オレを潰しにかかってくるに違いない。
「んー…おはよう、火神ちゃん…」
「おう。」
だんだん頭が覚醒してきたのか、顔を真っ赤にするナミ。オレは昨日のことを思い出した、と悟る。
「その、昨日は悪かったな…無理矢理引き止めて…」
「べ、別に…大丈夫よ…」
しかも今は同じベッドの上にいる。オレは慌ててベッドを出る。
「ナミ、部屋まで送ってやるよ」
「ありがとう…」
朝が早いからか、誰も廊下にはいなかった。もちろん、エレベーターにも。
沈黙の空気は、オレたちをさらに気まずくした
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あたしの部屋ここだから…」
「そうか。本当に悪かったな」
「いいわよ。あたしも1人部屋だから寂しかったし…それに…」
ナミはオレに聞こえないように言っただろうけど、オレには聞こえた。
「なあ、ナミ…また誘ってもいいか?」
「え?」
「い、一緒に寝るの…」
オレがそう言うと、ナミは嬉しそうに笑った。
「また一緒に寝ましょう!!」
ドキッ
胸の鼓動が速くなる。音も大きくなって、ナミに聞こえないか心配になる。顔に熱が集中する。
「火神ちゃん、ありがとう」
そう言ってナミは笑顔で、自分の部屋に戻った
オレは動けなくなった。
なんだコレ…初めて感じるこの変な感じ…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『あたたかいの、キライじゃなかったし。』
「ナミっちー!おはようっス!一緒に食堂行こうゴファッ!!」
「女子の部屋に勝手に入ってくんな!!!」
枕を投げられたはずなのに、ドンッて音がした…本当に枕投げられたのか?
「着替えるからちょっと外で待ってて」
「了解っス!」
最近ナミっちは、誠凛の伊月サンが気になっていて、アプローチをかけている。中学から片想いしてる俺からしたら、もちろん面白くない。
「涼太くん、おまたせ」
「全然っスよ?さ、はやく行こよ」
オレは練習着だけど、ナミっちは制服の上からパーカーを着ていて、短い髪をポニーテールにしててとにかく可愛い。
「あ、この時間って誠凛も食堂にいる時間じゃない」
「なんで知ってるんスか?」
「リコさんが一緒にどう?って」
「ふーん…そうっスか」
「なんで不機嫌になってるわけ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…あ、俊くんだわ!テツたちもいる!行きましょ!」
オレの手を引くナミっち。完全に桃っちと同じ顔をしている彼女に、胸がチクチクと痛む。
「俊くん!!」
「ゴフッ…な、ナミか。おはよう」
「おはよ!!」
伊月さんに後ろから抱き付くナミっち。オレは頬を膨らませながら黒子っちの隣に座った。
「テツもおはよ!か、火神ちゃんもね!」
「おはようございます、ナミさん」
「お、おう!」
火神っちが顔を少し赤くした。ナミっちも顔を赤くしながら、オレの前である火神っちの隣に座った。
「…2人とも、何かあったんですか?」
黒子っちが問いかけると、2人はビクッと分かりやすく反応した。
「ななな、何もねぇよ!!なあ?ナミ!」
「そっそうよ!!考えすぎよテツ!!」
明らかに怪しい返事をする2人に黒子っちはそうですか、とだけ返した。
「おい火神、黒子、はやく食え。カントクがトレーニングするってよ」
「分かりました」
「うっす」
2人はオレたちに別れを告げて、誠凛の主将さんとトレーニングに向かった。オレたちも笠松先輩に言われて、プールへ足を運んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そういえば由孝、あんたリコさん口説いて殴られたんだって?」
「なんだナミ、嫉妬か?安心しろ。オレの本命はお前だよ…っていだだだだだ!!」
「リコさんが迷惑そうに言ってきたのよ」
森山先輩がナミっちの肩に手を回すと、その手をナミっちは思い切りつねった。
「あんなバカみたいな口説き文句で口説かれたのは初めてだって」
「やっぱり誠凛の監督には子猫ちゃんはまずかったか…」
真剣にどこから取り出したか分からないメモに書き込む先輩に、オレもナミっちもかける言葉がなくなった。
「でも、安心しろ」
ニコリと笑う森山先輩の意図が分からなくて、ナミっちとオレは顔を見合わせてから、もう一度先輩を見つめる。
「ナミ以外は彼女にはしないからな。」
「フンッ!!」
「ゴフッ!!」
ウィンクをする先輩の顔に、ナミっちの拳が決まった。オレはひっ、と声を出してしまう
「そんなことはイケメンの前に付く残念取ってから言え!!」
「どういうこと!!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
この異端な合同合宿は、一泊だけの合宿。今日の夜にオレたちは帰る。
「みんな、I.H予選もがんばってよね!」
「次は負けねぇっスよ!!」
誠凛のみなさんに別れを告げてから、バスに乗り込む。
「ナミっちのマネージャーも終わりか〜…」
「次は予選か…がんばりなさいよ。あたしは行けないけど」
「え、来ないんスか?」
「用があって東京に帰るの」
ナミっちの言葉に、オレは絶句する。予選も来てもらえると思ってたのに…
「ちなみに、なんの用っスか?」
「ちょっとね…」
話せない、という顔を彼女がするので、追求するのを諦めた。
「応援はしてるから。がんばりなさいよ」
「ナミっち…!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうせ他のみんなも応援してるんでしょ?」
「うっ…」
今のナミの設定
海常高校1年
スリラーバークの時の髪型(分かるやろ?あれやん。ポニーテールやん)
Iカップ
赤司と一緒で二重人格
だけど副人格は主人格を見守ることにしている
伊月に猛アタック中
「ただいまー」
あたしは東京に帰って来た。あいつと会うために。
「ナミ!おかえり!」
「ノジコー!!」
ノジコとハグをして、自分の部屋に荷物を置きに行く。
「久しぶりね。まあ、今夜はゆっくりしていきな」
「ええ。明日、あいつに会ってくるわ」
ーーーーーーーーーーーーーー
あたしは家を出て、電話をかけた。どうせあいつは都予選すらもサボってるでしょ
『もしもし?あたしだけど』
『おう。どうした』
『マジバに来て。あんたに話したいことがあるの。』
電話を切ってから、あたしもマジバへ向かう。あの娘はきっと都予選だから来れないだろうけど。
「ごめんごめん、遅くなった」
「お前…自分から呼んどいて遅刻はねぇだろ」
「だからごめんって」
あたしが呼び出したのはかつて、テツの相棒だった青峰大輝。
「で、なんでオレを呼んだんだよ」
強さゆえに外れた道を歩む、キセキの世代の1人だ。
「あんたに紹介したい人が…ってゆーかチームがあるのよ。」
あたしがそう言うと、ピクリと少しだけ眉毛を動かした大ちゃん。あたしはそいつが飲んでいるシェイクを奪っ…もらって、飲む。
「そのチームはオレより強ぇのか?」
あざ笑うかのような反応をする大ちゃん。腹が立ったので、シェイクを全部飲んでやった。
「まぁ待ちなさいよ。紹介させて。」
仕方ねぇな、みたいな顔をするので、足を蹴ってやった。
「誠凛高校バスケ部。テツがいるチームよ。」
テツ、という言葉にやはり少しだけ反応する大ちゃん。あたしは気にせず話を続ける。
「テツは新しい相棒と出会ったわ。そして、涼太くんに練習試合とはいえ勝ったわ。」
「……」
「テツはあんたにきっと勝つ。」
すると大ちゃんは大笑いした。冷たい、バカにしたような笑い声だ。
「それで?そのテツの相棒っつーのは?」
「火神大我。あんたたちを倒す、唯一無二の存在。」
あたしには、確信があるんだ。あいつは必ず、キセキの世代の頑丈な扉を破壊する。
「悪ぃなナミ…オレに勝てる存在なんかいねぇんだよ。」
「まだあんたに勝てないかもしれないけど、あいつらはあんたを倒す。見くびらないことね」
つまらなそうな顔をする大ちゃん。その顔は中学から知っているので、少し安心する。
「それとね!!誠凛にすごいかっこいい人がいてぇ、伊月俊クンっていう人なのよ♡」
「聞いてねぇし…」
呆れた顔をする大ちゃんは、完璧にあたしの知っている大ちゃんだ。
「その人はあたしにアイスを買ってくれる代わりに、あたしの心を奪ったの…♡」
「好きなのか?」
「え?うーん…ふふっ、ウン!」
そう返すと、涼太くんみたいな不機嫌な顔をする。まるで中学時代に戻ったみたいで嬉しい
「そうかよ…まるで女子だな」
「誰がメスゴリラですっってぇ!!?」
大ちゃんの顔を思い切り殴る。
「メスゴリラは言ってねぇ!!思ってても言ってねぇ!」
「思ってんのかよ!!」
もう2発お見舞いしてやった。大ちゃんにたんこぶがプクーッとできる。
「とにかく、話はそれだけ。あんたと話せて良かったわ。」
「おう。じゃあな。」
大ちゃんと別れて、マジバを出てからケータイを見ると涼太くんからLINEが来ていた。
涼太くん:都予選1回戦ウィン!!
勝利をウィンと変えているのに多少いら立ちを覚えるが、勝利に喜んでいることが伝わってきて頬の筋肉が緩む。
おめでとう、と送って歩き出す。
涼太くん:今から緑間っちと黒子っちたちが戦うからナミっちもおいでっス!
というLINEをいただいたので、あたしは会場へ足を運んだ。そして、涼太くんと一緒にいるという笠松先輩を探す。
「あ、いたいた。今どんな感じなの?」
「どっちも3時間前に試合してるから、結構疲れてんな。けど、緑間は温存されてて、火神も色々あって温存。」
「ふーん…」
涼太くんの隣に座る。そして、彼の手にあったミネラルウォーターを奪った…んじゃなくて、もらって飲む。
「オレらのことは聞かねぇんスか?」
「勝ったんでしょ。知ってるわよ。」
「もしかして…オレたちが勝つって信じてたんスか!?」
「いや信じるもなにも…あんたから結果報告のLINEきてるし…」
「あ」
「アホか…。…試合始まんぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ずっと均衡だったところを、先制点を真太郎の3Pで取った秀徳。
「均衡が破れた!」
「これで流れは秀徳だ…!!」
涼太くんと笠松先輩が驚く。あたしはよく分からなくて、いまいち付いて行けない。
だけど、負けじとテツが火神ちゃんにパスを出した。そして、火神ちゃんが一気にシュートを決める。
(ってゆーか、あのテツのパス…なに!?初めて見た…!)
初めて見るテツのパスに観客と秀徳はもちろん、誠凛のみんなも驚いていた。
「勝負は」
「これからだろ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「つーかお前ら…か、か、かんせ、間接キ、キ、キ、ス…」
「なんでそんなに顔赤いの?」
「オレたち中学からナミっちとは間接キスぐらいはしてるっスよ。」
緑間っちが、いつもとは違う動きをした。
珍しいっスね…緑間っちは外れる可能性のあるシュートは打たない…
(けど今のはいこうと思えばいけたんじゃ…!?)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「緑間っちが封じられてる?」
「ああ。あの透明少年の、回転式長距離パスでな」
オレとナミっちはどういうことか分からなくて、笠松先輩の説明を黙って聞く。
「緑間のシュートはその長い滞空時間中にDFに戻り、速攻を防ぐメリットもある。
だが全員戻るわけじゃねー。万一外した時のために、残りはリバウンドに備えてる。」
「つまり?」
「その滞空時間がアダになるんだ。緑間が戻れるってことは、火神が走れる時間もあるってことだ。
戻った緑間の、さらに後ろまで貫通する超速攻がカウンターでくる。
だから緑間は打てない。」
「「……」」
ゴクリ、と唾を飲みながらコートを見る。
「にしても、そのパスを見せつけるタイミングと判断力、一発で成功させる度胸…再確認したぜ」
まるで、本当に警戒すべき相手を見つけたような顔で笠松先輩が見ているのは
「アイツ、ああ見えてオマエと帝光中にいただけはある。百戦錬磨だ。」
黒子っちだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「俊くんが抜かれた!!」
速い!!俊徳の10番は伊月さんを抜いた。そして4番にパスを回して、シュートを決めさせた。
だけど、黒子っちのパスによってすぐに誠凛も返す。
「先輩、あの10番の名前分かる?」
「ああ。高尾和成。秀徳のPGだよ」
「ふーん…」
ナミっちは興味深そうに10番を見る。ナミっちが他人に興味を持つのは珍しい。
「え…」
「ウソだろ…」
「へ?」
ナミっちと笠松先輩の視線の先を見ると、さっきナミっちが興味を持った10番が、黒子っちのマークに付いていた。
「ムリじゃね!?」
「でも、考えなしってわけでもないでしょ」
その10番は、黒子っちのパスを防いだ。黒子っちのパスが失敗したんじゃない。止められたのだ、10番に。
「タダ者じゃなさそうね…高尾和成くん。」
テツのパスを高尾くんがスティールをする。
ーーねえ、聞いて
テツと真太郎の試合を見ていると“私”が声をかけて来た。久しぶりだ。
ーー私、すごい能力(チカラ)を手に入れたかもしれない…ううん、持っていたかもしれない
ーーどういうこと?
ーーあなたも一度使ってる。でも、意図して使ってるわけじゃない。
ーー……
ーーいつか気付くわ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あたしと私が話している最中でも、試合はどんどん進むで行く。
テツと火神ちゃんの連携も、俊くんや日向さんたちも全部…彼らはとめる。
「真太郎って…あんなところからシュート打てたっけ?」
「いや、あんなところから打ってるのは見たことないっス…」
涼太くんやテツも、中学の頃と比べて強くなった。でもそれは、真太郎も同じ。
どんどん真太郎はシュートを決める。もう真太郎はとめられない。
「まじぃな…いよいよ誠凛、万事尽きたって感じだ」
「いや…どうスかね…」
(そんなもんじゃねぇだろ…まだまだ限界なんか程遠いっスよ
これからだ…あいつの秘められた才能(センス)が開放されるのは…!!)
涼太くんの視線の先には、火神ちゃんがいた。まるでケモノのように目をギラつかせている。
「あの目…たしか…!!」
そこで、第2Qが終わった。
「結局ズルズル離されて前半終了かよー」
「てか終わりだろ。もう帰ろーぜー」
インターバル中、あたしたちの後ろに座っていた人がそんなことを言って帰ってしまった。それに涼太くんはむっとする。
「っも〜…根性見せろよ誠凛〜!!」
笠松先輩がそんな涼太くんをなだめる。
「見せてるよバカ。
あんだけ力の差見せられて、まだギリギリでもテンションつないでんだ。むしろ褒めるぜ」
「……あたし、ちょっと行ってくる!!」
「ちょ、おい、ナミ!」
「確認したいことがあるからー!!」
あたしは誠凛の控え室へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「失礼しますッ!!!」
沈黙な空気の中、あたしはその空気を壊すかのように控え室へ入った。
「ナミちゃん!!?」
『なんでっ!?』
みんなが驚く中、あたしはある目的の人物の前へ向かう。
「火神ちゃん、少しいいかしら」
「……?おう」
あたしは火神ちゃんの前へ立つと、見つめた。
ただ、見つめるだけだった。
「…ありがと。もういいわ。」
「は!?いや何を確認したんだよ!!」
「秘密よ。んじゃ、後半もがんばってね!」
あたしがそう言うと、みんなが暗い顔をした。そして、日向さんが口を開く。
「正直、勝てるイメージがねーよ…」
日向さんの言葉に、みんなも小さく頷く。
「…そんな気持ちでいたら、一生勝てるわけないじゃない。無理よ無理」
『グハッ!』
「ってゆーかね、キセキの世代のNo. 1シューターよ?死ぬ気で挑まないと勝てないに決まってるでしょ。バカなの?なに?バカガミ?」
『ゴフッ!!』
「おい!なんでオレを入れんだよ!!みんなもダメージ喰らってんな!!」
火神ちゃんを華麗に無視して、あたしは続ける。なんでリコさんまでダメージ喰らってるの?
「最後の最後まで諦めちゃダメよ。でしょ?テツ」
「はい。」
テツの方を見ると、なにかのビデオを見ていた。俊くんがなんのビデオだと聞くと、前半のビデオだとテツは答えた。
「なんか勝算あるのか?」
「え?さあ?」
「は!?」
「“勝ちたい”とは考えます。けど、“勝てるかどうか”とは考えたことないです。」
そう言うテツの背中は、たくましかった。
「ってゆーか、もし100点差で負けていたとしても、残り1秒で隕石が相手ベンチを直撃するかもしれないじゃないですか。
だから試合終了のブザーが鳴るまでは、とにかく自分のできること全てやりたいです。」
「いや落ちねーよ!!」
「え?」
日向さんと一緒に、あたしも突っ込む。
「さすがに隕石は落ちないわよ!!ってゆーかスゴイわね、その発想!!」
「いや…でも、全員腹痛とかは…」
「つられるな!!それもない!」
テツにつられた土田さんに、俊くんが突っ込む。それを見たコガが笑って、その笑顔はみんなに伝染した。
「とにかく最後まで走って…結果は出てから考えりゃいーか!!」
最後は日向さんの言葉でしまった。
「いくぞ!!」
『おお!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ただいまー」
「おせーよ!もう始まんぞ!」
「ごめんごめん!」
さ、第3Qスタートよ!!
「あれ…?黒子っちベンチスか」
「まぁ…高尾がいる限りしょーがねーだろ。にしても無策っつーか…」
試合が始まる。いきなり真太郎がシュートを打つと、誰もが思った。
でも、火神ちゃんが飛んだ。
防ぐことはできなかった。
「見て…」
火神ちゃん、試合中にどんどん高く飛くなってる…!
そして、ギリギリで真太郎のシュートが入る。こんな真太郎の入り方は、初めて見た。
そういえばおは朝占いで、蟹座(真太郎)は獅子座(火神ちゃん)と相性最悪だったわね。おもしろい試合になりそう…!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ…?」
今一瞬…一瞬だけ、火神ちゃんが真太郎のシュートを防いだような…
でもそんなことがあれば、会場はもっと盛り上がるはず…見間違いってわけでもなさそうだし…
すると、火神ちゃんが真太郎のシュートを防いだ。だけど4番が打ち込む。
「うそでしょ…!」
それよりもあたしは、“二度見た光景”に驚きを隠せなかった。
4番が打ち込むことは見なかったけど、あたしは確かに火神ちゃんが真太郎のシュートを防ぐのを見た…!そして、そのあと火神ちゃんは真太郎のシュートを防いだ。
「なんだったの…今の…」
「……?火神っちが緑間っちを止めたけど、4番が打ち込んだんスよ」
「分かってるわよ!!」
「ええ!?なんで怒ってんスか!!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「“キセキの世代”と渡り合える力。そして、バスケにおいて最も最大な武器の一つ…
あいつの秘められた才能…それはつまり
天賦の跳躍(ジャンプ)力!!」
あたしは今、夢でも見ているのだろうか。
火神ちゃんが、人間では飛べないであろう高さを飛んで真太郎からボールを取った。
「でも…火神ちゃんの様子、変じゃない?」
ずっと1人で走って、取って、また走る。なんでパスしないの?
こんなバスケは、あいつらと一緒じゃない!!
そんな状況が続いて、第3Qが終了した。
「おっ、黒子っち出てきたっスね」
「火神をいきなりぶん殴った時は、どーなるかと思ったけどな」
始まった第4Q。ちゃんと落ち着いた顔をしている火神ちゃんに、安心の溜息が出る。
テツに殴られたから、頭が冷えたのね。次はちゃんとパスを出している。
(でも、もうさっきのジャンプの回数は限られてる…どうするつもり?リコさん!!)
すると火神ちゃんは、回数が限られているジャンプで真太郎のシュートを防いだ。
「大切なジャンプをここで使うの!?」
「たぶんハッタリのためだ。」
「へ?」
「緑間はムリなシュートは打たない。予想を超える火神のジャンプが“まだあるかも”って思わせたら、少なくともシュートを打つ回数が減ると考えたんだろ。」
なるほどね…さすがリコさん!やることがあっぱれだわ
すると、一度もテツを見失わなかった高尾くんが、テツを見失なった。そしてテツは、パスをする。
「あのパスは…!!」
そのパスは、加速した。
そして、テツからパスを受け取った火神ちゃんがシュートを決める。
「やりやがった…アイツ…ついに…」
「うん…!」
ダンクで真太郎をふっ飛ばした。
(しかも…今のパスは中学時代…“キセキの世代”しか獲れなかったパス…!!)
きっと今、あたしと涼太くんの考えは一緒だろう。
「って!じゃなくて、ガス欠寸前で大丈夫なんスかアイツは!」
「確かに!!しかも大切なジャンプを使っちゃったわよ!」
「まあ…今のは無理してダンクする場面でもなかったって見方もあるな。
ってかそもそも、ダンクってあんまイミねーし」
「派手好きなだけスよ!アイツは!」
「いやあんたもでしょーが」
「けどじゃあ、全く必要ないかって言えば、それも違うんだよ。点数は同じでも、やはりバスケの花形プレーだ。それで緑間もふっ飛ばした。」
「……」
「今のダンクはチームに活力を引き出す、点数より遥かに価値のあるファインプレーだ」
「チームに活力を引き出すファインプレー…」
やっぱりスゴイヤツよ、大ちゃん…!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
火神ちゃんが抜けたあとも、攻防戦を繰り広げてついに誠凛は2ゴール差まで追い付いた。
「ねえ、涼太くん…あたし、あんたたちの都予選に行かずに東京に帰ったじゃない?」
「……?うん」
「あれさ、大ちゃんに会いに行くのが目的だったのよ。」
「…ってことは青峰っちに会ったんスか!?」
「まーね。」
「なんで!?」
「大ちゃんに警告?注意?分かんないけど…そんな感じよ。」
「どんな警告したんスか?」
「火神大我と黒子テツヤ、そして2人のいる誠凛高校バスケ部は、あんたたちを倒すって。」
「そんなこと言っても、どーせあの人は笑うだけっスよ」
「笑われたわよ。ま、見くびんなって言っといたけど」
残り2分で誠凛が1ゴール差まで追い付いた。そこで秀徳がT.Oを取る。
「最後のT.Oね…流れは今誠凛だし、いつ追い付かれてもおかしくない」
「秀徳が突き放すか、それとも誠凛が追いすがるか。分かれ道のT.Oだ」
T.Oが終了して、また試合が始まる。
「ねえ、キセキの世代ってなんなの?」
「そりゃお前…才能とか能力の塊みたいなもんだろ。天才ってやつだよ」
するとテツが、真太郎にパスされたボールをスティールした。そしてそのボールを日向さんが受け取って、ゴールへ走る。
「それなら…人一倍努力をした人は…」
だけど秀徳の4番(大坪)が、日向さんのシュートを防いだ。
「努力の天才ね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんか…ブキミっスね。残り3分、もっと激しくなるかと思ったんスけど…」
「ああ…秀徳がペースを落としてから、急にスコアが凍りついちまった。残り1分…おそらく動き始めたら一気だ…!!」
すると、真太郎が3Pを決めた。点差は5。それでも即座に、日向さんが俊くんからパスをもらって3Pを決める。
「時間がない…!このまま終わるのかしら…」
「残り15秒!!」
「誠凛逆転の最初で最後のチャンスだ…!!」
4番(大坪)が日向さんのマークに付いた。
「3Pを最優先で止めに来た…!」
「それでも誠凛には3Pしかねぇ。日向が決められなきゃ負けだ!」
残り10秒のとき、日向さんは3Pラインからはるかに遠いところまで走った。
「遠いわ!あんなところからは…!!」
それでも日向さんは、俊くんから、そしてテツからパスをもらう。
「決めろ、日向ァ!!」
俊くんの声が聞こえた。
そのあと、キレイに彼が投げたボールはゴールネットに入った。
「誠凛の逆転!!」
涼太くんが、笠松先輩が、客席のみんなが歓声を上げる中、あたしは1人の男を見ていた。
高尾和成
「まだよ…!」
彼は真太郎にボールを投げた。
「よく分かったな、ナミ。高尾がまだ動くことが」
「見えたのよ…!彼の呼吸、心拍、汗、重心の位置、筋肉の収縮とか、彼の全てが…!!」
「え、それって…!」
私が言っていたあたしたちの能力
それは、未来を見ること
「そう。征十郎と同じ眼よ…でも、少し違うのはあたしは、征十郎よりも速く見れる。」
「どういうことだ?」
「征十郎は呼吸、心拍、汗、重心の位置、筋肉の収縮とか、相手選手の全てを見抜くことであらゆる動きを正確に先読みしていた。
だけどあたしは、身体を見れば全て見抜けるみたい。」
「赤司っちが天帝の眼(エンペラーアイ)なら、ナミっちは女帝の眼(エンプレスアイ)っスね」
女帝の眼(エンプレスアイ)…!
この眼は何かの力になるかもしれない。
残り3秒で、真太郎は試合終了のブザーとともにシュートを撃とうとしている。誰もがとめられない、誠凛の負けだと思った時、彼は跳んだ。
「ダメ…!」
でもそれは、真太郎の計算内で。だから真太郎は火神ちゃんが跳んでから、自分はボールを下げた。フェイクだ。
(緑間真太郎…!!百戦錬磨は黒子だけじゃねぇ…!!)
今度こそ、終わりだと思った。
でも、あたしの眼には映った。彼がボールを撃つところが。
「僕も信じてました。火神くんなら跳べると。そして、それを信じた緑間くんが一度ボールを下げると。」
彼はボールを撃った。
「テツ…!!」
ボールは真太郎の手から落ち、試合終了のブザーが鳴った。
「帰るか」
「あ、ちょっと待って!あたし行ってくる!」
「おい、どこにだよ!」
「まぁまぁ先輩。どっかでメシでも食いましょうよ!ナミっち、店決まったらLINEするっスね」
「うん!ありがとう!!」
あたしは笠松先輩と涼太くんと別れて、アイツの元へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「真太郎」
「…ナミか」
雨に打たれる緑頭を見つけて、駆け寄る。
「お疲れ様。」
「何も言わないのか?」
「なんか言われたいの?」
あたしがそう言うと、真太郎はふっと笑った。
土砂降りの雨の中、真太郎が風邪をひかないように傘に入れる。
「試合見てて思ったけど、高尾くんといい4番の人といいすごいわね、あんたの学校は」
「俺のチームだ。すごくなくては困るのだよ」
すると、いきなり真太郎のスマホに電話がかかってきた。出ると甲高い大きい声が聞こえる。
『あーーミドリン!!ひっさしぶりー!!どーったった試合ー!?試合ー!?勝ったー!?負けたー!?あのねーこっちは』
こ、この声は!!あたしは急いで真太郎のスマホに向かって声を上げた。
『さつき!!あんたさつきでしょ!?相変わらずね元気そうね!!』
『え、ウソ、ナッちゃん!!?なんでー!?ってゆーか、ひさしぶりーー!!』
あたしの親友で、大ちゃんと同じ高校に行った桃井さつきだ。
『ちょっと涼太くんと試合見に来てて!!』
『あー、たしかきーちゃんとおんなじ学校に行ったんだよねー!?ウチに来れば良かったのにー!!』
『ごめんごめん!!だって大ちゃんと同じ学校だとアホだと思われるし!』
耳元で叫ぶのは勘弁してくれ、と真太郎にスマホを渡された。
『おい、誰がアホだって?』
『え?そりゃぁ大ちゃんって…え?え、え?」
高い声から、低い声に一気に変わった。
『だ、大ちゃん!?…別に久しぶりって感じしないわね。』
『うるせーよ。もっと別れを惜しめよな、お前も』
『あんたなんかいつでも会えるし…ってゆーか真太郎と変わるわよーー』
『おう』
あたしは自分のケータイでも、さつきに電話をする。隣では真太郎と大ちゃんが電話している
『さつきー!元気だった?』
『もちろん!ナッちゃんは?』
『あたしも元気!なに?あんた高校でもマネージャーしてんの?』
彼女は元帝光中学バスケ部のマネージャーだった。
『そうだよー。ナッちゃんはマネージャーしないの?あ、でも敵になっちゃうか…』
『しないわよ。あんたたちと敵になりたくないし。』
あたしがそう言うと、さつきはあの甲高い声で喜んだ。
『そうだ、今度ウチと闘うのがテツくんの高校なんだよ。』
『そうなの?』
『うん!だから観に来ない?』
さっそく、大ちゃんと火神ちゃんの試合が観られるってことね…さつきには言いたいこともあったし、あたしは観に行くことにした。
『じゃあ今度誠凛に挨拶に行くから、一緒に行こう!』
『分かった!また電話して』
『うん!じゃあね』
あたしが電話を切ると、もう真太郎と大ちゃんの電話も終わっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、いたいた真ちゃーん!」
すると、高尾くんが走って来た。手には真太郎のものと思われる傘が握られている。
「もう帰るよー!って、隣のかわいい娘誰?彼女?あれ、でも海常の制服だよな?」
「そんな訳ないのだよ。こんな品のない女」
「フンッ!!」
「ゴフッ!!」
失礼なことを言われたので、思い切り膝を腹に入れてやった。すると高尾くんが大笑いする。
「ちょっ、真ちゃんのそんな声初めて聞いたんだけど!!ギャハハ!」
「うるさいのだよ高尾…!…こいつはナミだ。帝光で一緒だったのだよ。彼女でもなんでもない」
「どうも、ナミです!あんたは高尾和成くんでしょ?試合観たわよ!すごかったわね!」
「まじで!?いやー、ナミちゃんみたいなかわいい娘にそう言われたらテンション上がっちゃうなー」
高尾くんは試合の時の印象とは違って、かなり明るい人のようだ。仲良くなれそう…
「あ、LINE来てる…」
LINEを見ると涼太くんからだった。
涼太くん:鉄板キッチンってとこにいるっス。迎えに行こうか?
「なぁ真ちゃん、腹減ったしメシ行かねー?」
「どこに行くのだよ」
「えー…どこにしよ」
真太郎と高尾くんの会話を聞いていたあたしは、即座に涼太くんにLINEを返した。
「ねえ、あたしも行っていいかしら?」
「もっちろんだよー!」
「じゃ、行くわよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「高尾くんってなんか遠くない?」
「じゃあ和成?」
「いいねぇ!」
「あたしもナミって呼んでよね」
「おっけー!」
「すまっせーん」
涼太くんと笠松先輩がいるという店に、あたしと真太郎と和成が入る。
「おっちゃん、三人空いて…ん?」
真太郎と和成が固まったので、あたしも店を覗き込む。すると、涼太くんと笠松先輩しかいないと思っていたのに、誠凛がいた。
「店を変えるぞナミ、高尾」
「ちょ、真太郎!!外は…」
すごい豪雨、と言う前に真太郎は外へ出た。そして無言で戻って来る。
「あれっ?もしかして海常の笠松さん!?」
「なんで知ってんだ?」
「月バスで見たんで!!全国でも好PGとして有名じゃないすか!!」
次は和成だ。笠松先輩に近づいて、誠凛さんたちの方へ席を移動させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「……」」」」」
(((((((あの席パネェ!!!)))))))
みんなの声が聞こえる。ってゆーか、なんであたしもここにいるの!?気まずっ!!
「や、やっぱりあたしは…」
「まってください、ナミさん」
みんなのいる方へ行こうとすると、テツに腕を掴まれた。
「だってテツ!!このメンツの中にいるのはいいわ!慣れてる!!でもね、四つしかないイスにあんたと座るのはさすがに気まずいわ!」
そう。あたしたちが座っている席は、イスが四つしかない。そのうちの一つに、テツとあたしが2人で座るのはさすがに気まずい。
「場違いだと思うわ!試合にも出てないし!」
「そんなこと言ったらオレもっスよ」
「うっさい駄犬!!…とにかく、あたしは場違い!以上!」
「そんなこと言わなくても…それに、ナミっちも“あのこと”言った方がいいんじゃないスか?」
涼太くんの言う“あのこと”とは、きっと女帝の眼(エンプレスアイ)のことだろう。
「言わなくていいのよ。別にバスケしないし」
「いやそこまで言われたら、余計気になるっつーか…」
火神ちゃんの返事に、テツと真太郎が頷く。
「そんなに大したことないから気にしないで!ま、とにかく食べなさいよ!リコさんたちも!今日はウチのデルモとメガネが奢ります!」
「なっ…!」
「ちょ、ナミっち!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「何か頼みましょう。僕たちも来たばっかりなんです」
「オレもう結構いっぱいだから、今食べてるもんじゃだけでいいっスわ。」
「よくそんなゲ◯のようなものが食えるのだよ」
「なんでそーゆーこと言うっスか!?」
真太郎と涼太くんのやり取りに、ふっと笑みが溢れる。
「いか玉ブタ玉ミックス玉たこ玉ブタキムチ玉…」
「なんの呪文っスかそれ!!」
「頼みすぎなのだよ!!」
「大丈夫です。火神くん1人で食べますから」
「ホントに人間か!?」
そして、あたしとテツも火神ちゃんに続いて頼む。ついでに真太郎の分も頼んでやった。
「真太郎、ほらコゲるわよ」
「食べるような気分なはずないだろう」
「負けて悔しいのは分かるっスけど…ほら!昨日の敵はなんとやらっス!」
「負かされたのはついさっきなのだよ!」
真太郎がめんどくさいので、焼けてるやつを口に突っ込んでやった。素直に真太郎はそれを飲み込む。
「むしろ、お前がヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ。一度負けた相手だろう。」
真太郎の言葉に、あたしは隣に座る涼太くんを見た。
「そりゃあ…」
涼太くんが不敵に笑う。
「当然リベンジするっスよ。インターハイの舞台でね。」
テツと火神ちゃんも涼太くんを見た。
「次は負けねぇっスよ」
火神ちゃんも噛んでいたものを飲み込むと、ニヤリと笑った。
「ハッ、望むところだよ」
「黄瀬…前と少し変わったな。…目が変なのだよ」
「変!?…まぁ、黒子っちたちとやってから、練習はするようになったスかね。あと最近思うのが…海常のみんなとバスケするのが、ちょっと楽しいっス」
涼太くんが優しく微笑んだ。
たしかに涼太くんは変わったかもしれない。でもね、これが本来の涼太くんよ。
「…どうやら勘違いだったようだ。やはり変わってなどいない。」
やっと食べる気になったのか、真太郎がもんじゃに手を付ける。
「戻っただけだ。三連覇する少し前にな。」
「…けど、あの頃はまだみんなそうだったじゃないですか。」
「お前らがどう変わろうが勝手だ。だがオレは、楽しい楽しくないでバスケはしていないのだよ」
テツと真太郎の会話に、その場の空気が一気に暗くなった。
「お前らマジ、ゴチャゴチャ考えすぎなんじゃねーの?楽しいからやってるに決まってんだろ、バスケ」
「なんだと…」
そんな空気を壊すように火神ちゃんが言った。
「……何も知らんくせに、知ったようなこと言わないでもらおうか。」
真太郎は冷たく言い放つ。すると、“べっしゃあ”とお好み焼がみんなの席から飛んで来た。
「あ」
「…とりあえず、話はその後だ」
どうやら和成がひっくり返そうとしたお好み焼が、飛んで来て真太郎の頭に直撃したらしい。真太郎が怖い顔をして立ち上がる。
「高尾、ちょっと来い」
「わりーわりー…ってちょっとスイマッ…なんでお好み焼ふりかぶってん…だギャーー!!」
和成の悲鳴の後、ガッシャーンとものすごい音がした。
「火神くんの言う通りです。今日試合をして思いました。」
「?」
「つまらなかったら、あんなに上手くなりません。」
そう言うテツの顔は、笑っていた。
「…そうね。真太郎はツンデレだから、きっと素直になれなかっただけよ。」
ふっと笑って、涼太くんと火神ちゃんに微笑みかける。
「さ、涼太くんと真太郎の奢りだから食べるわよ!!ほら、追加で注文したのも来たし!」
「そうだな!」
「ちょっと!勝手になに追加してんスか!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「お、もう雨やんだんじゃね?」
「ホントだ。」
「じゃー、いい時間だしそろそろ帰ろうかー」
誰かがそう言って、あたしたちは解散することになった。
「火神、一つ忠告しといてやるのだよ」
席を立つ真太郎が、火神ちゃんに声をかけた。
「東京にいるキセキの世代は二人。オレともう一人は青峰大輝という男だ。決勝リーグで当たるだろう。」
火神ちゃんは黙って真太郎の話を聞く。あたしも静かに聞き耳を立てる。
「そして、奴はオマエと同種の選手だ。」
「はあ?よくわかんねーけど…とりあえず、そいつも相当強ぇんだろ?」
「…強いです。…ただ、あの人のバスケは…好きじゃないです」
テツが低い声で火神ちゃんの質問に答える。あたしと涼太くんは、黙ってその様子を見ていた
「…フン、まぁせいぜいがんばるのだよ。」
「…緑間くん!」
真太郎が店を出ようとすると、テツが声をかけた。彼にしては珍しい、大きな声だ。
「また…やりましょう」
「……当たり前だ。次は勝つ!」
真太郎のその言葉に、胸があたたかくなった。
テツと火神ちゃんという新たな刺激を受けて、彼の枯れた魂に火がついた。
「待って真太郎!!あたしも帰る!」
「あ、ナミっちは東京に荷物があるんスか…気を付けて帰るんスよ!」
「はーい!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「5万…ええ!?って緑間っち帰ったし!」
「黄瀬くん、ゴチになります」
「真太郎!あたしも一緒に…って和成!?」
店を出ると、真太郎のチャリアカーに和成が乗っていた。
「今日はジャンケン無しでいーぜ?」
和成の言葉に真太郎は目を開くと少し笑顔を浮かべた。
「……フン。してもこぐのは高尾だろう。」
「にゃにおう!?」
(真太郎…いい相方、見つけたじゃない)
二人の関係性にふっと笑ってしまう。
チャリアカーにあたしも乗せてもらって、真太郎にもたれながらそんなことを考える。
「ま、次は勝とうぜ」
「当然のことを言うな」
「ただお前のラッキーアイテムはなぁ…」
「次からはぬからないのだよ。今度はもっと大きい信楽焼を買うのだから」
「サイズの話じゃねぇよ!!」
なんて二人の会話を聞いていたら安心感からか、眠気が襲って来てしまった。
「しんたろー…ねむい…」
「オレにもたれて寝ておけ」
「え、真ちゃんってナミの家知ってる!?道案内頼むぜ!!」
「いや、オレの家でいいのだよ」
「へ?なんでっ?」
「コイツがいつでも泊まれるようにと、オレたちの家に勝手に泊まるための道具をおいていった」
「え、パジャマも?」
「パジャマは中学のジャージを着るのだよ」
「ふーん…」
二人がその話をしてる間に、あたしは寝てしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミ、起きるのだよ。風呂に入れ」
「んー…」
「ったく…」
仕方なく、コイツを風呂まで運ぶ。べっ別に脱がすわけではないのだよ!!
「ナミ、やるぞ」
「へー…?…ぶぶぶぶ!!!」
シャワーの水圧を最大に強くして、顔面にぶっかけてやる。
「やめんかァッ!!」
「ゴッ!」
アッパーを喰らって、ナミの目が覚めたことを確認する。
「ってアレ?真太郎?和成は?なんであたし濡れてんの?」
「…お前がチャリアカーで寝て、今オレの家にいるのだよ。お前が起きなかったからシャワーで起こしたのだよ」
「そうだったんだ…。…お風呂入りますね〜」
アッパーを喰らったアゴがヒリヒリと痛むが、気にせずに風呂場を出て行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
クローゼットからナミの下着が入っている袋と、自分の帝光のジャージを取り出す。
「……」
特に情があるわけではない。
あるとすれば、オレが自分の相方から逃げてしまったという悔いぐらいだろう。
存在を否定してしまった。逃げ出してしまった。向き合おうと、誰一人しなかった。
いや、ナミと虹村さんだけは違ったか。
「お兄ちゃん、ナミが呼んでるのだよ」
「もうあがったのか…」
かなり考えていたようで、妹がオレを呼びに来た。オレは風呂場へナミの着替えを持って行った
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「真太郎、お先。あんたも入るでしょ?」
「今から入るのだよ。先に寝ておけ。お姉さんに連絡はしておいたのだよ」
「ありがとう。おやすみ」
「ああ」
ナミのお兄さんはいろいろと面倒だからな。お姉さんに連絡をする方がはやい。
「……」
次に黒子と火神たちが戦うのは桐皇学園高校。
そこには、かつての黒子の光(相棒)がいる。オレたちキセキの世代は、あいつを筆頭に崩壊したと言えるのだよ。
その頃からだろう。ナミが一人で泣いていたのは。オレたちの背後で泣いていたのを、オレは知っている。
そして、その涙をぬぐっていたのは、いつもあいつの幼馴染だったのだよ。
(次の試合は、ナミに大きな影響をきっと与えるのだよ…)
どっちが勝っても、どっちが負けても、ナミは変わる。
とおは朝占いが言っていたからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「先に寝ろとは言ったが…ハンモックを使っていいとは言ってないのだよ!!」
「いいじゃないッ!ケチ!!」
「お前にだけは言われたくないのだよ!」
「……」
「……」
「…あああ!もうイヤ!!」
「諦めんの早いっスよ神楽っち」
「あんたのせいよ!」
あたしと涼太くんは今マジバにいる。何をしてるかというと、勉強である。
テツと真太郎の試合が終わって、神奈川に帰って来た。そして、海常高校ではもう少しでテストがある。
中学の時なら征ちゃんと真太郎がいて、二人の次に頭が良かったあたしは二人のサポートだけで良かった。
だけど、高校でみんなと離れたら、必然的にあたしが一人で教えることになる。
「だいたいあんた、なんか噂で勉強そこそこできるって聞いたわよ。あれ嘘だったの?」
さっきから分からないと言うところを教えて、分かったかと聞くと返ってくる答えは、
ちょっと分かんないわからないっス
だけである。
「そこそこはできるっスよ。現に赤点取ってないし」
「そうだけど!!」
「ほら泣かない泣かない。じゃあ気分転換にちょっとお話しようっス!」
あんたのせいよ、と真向かいに座っている涼太くんを睨み付ける。
「そうお話!オレ、ナミっちに聞きたいことあったっス」
「聞きたいこと?」
「ナミっちってキセキの世代と仲良いでしょ?誰と1番仲良いんスか?」
それは、崎ピョンこと灰崎祥吾と修兄こと虹村修造もキセキの世代に入るのか?
「う〜ん…征十郎…あーくん?いや大ちゃん?う〜ん…やっぱ征十郎かしら?」
まぁこの三人とは頻繁に一緒にいたからほぼ同じぐらいだけど。いや、もちろん他の奴等とも仲良い。
「赤司っちっスかー。なーんか意外な感じがするっスね。赤司っちみたいなタイプとナミっちみたいなタイプって、合わない気がする」
「そう?あたしがうるさいタイプだから、静かに話を聞いてくれる人とは相性がいいの」
涼太くんは眉を下げながらそうっスか、と呟いた。
「じゃあじゃあオレはその中でどんぐらいの順位っスか?」
「崎ピョンよりは上よ、たぶん」
「いやショーゴくんはキセキじゃないから…しかもたぶんって何なんスか!?」
「あ、そっか」
「…そう言えばショーゴくんって高校どこいったんスかね、まぁ興味ないけど」
「あれ、どこだっけ?聞いたけど忘れたわ」
「聞いたんスか?電話で?それともLINEで?」
「電話が掛かってきたの。お前どこ行ったんだ?って、だからあたしも聞いたんけど…なんだっけ…」
うーんと唸るが全く思い出せない。一文字も思い出せない。
涼太くんはなんか、ショーゴくんから電話ショーゴくんから電話ショーゴくんムカつく、とかぶつぶつ呟いている。不気味なやつだ。
「キセキの世代の人達とよく電話するんスか?」
「遠方組とは頻繁にするわ。あとの奴等はまぁたまにね」
そう言うと涼ちゃんは少し不貞腐れたような顏をした。
「オレとも電話してくださいっス!」
「何バカなこと言ってんのよ。あんたとは学校で散々喋ってるでしょーが。電話でまで話す必要ないでしょ」
学校ではほとんど一緒に居るんだから、電話までするなんて馬鹿らしい。あたしはお前の彼女か。
「でもナミっちにおやすみとか言われたいっス!」
そう言って口を尖らせる。だからあたしはお前の彼女か。
否、違うわ。
「それじゃああたしがあんたの彼女みたいじゃない。学校でもずっと一緒で夜電話しておやすみ、とか彼女以外の何者でもないわよ!なんなら付き合う?養ってくれる?」
最後喧嘩口調になったのは見逃してくれて構わない。
そんなことより何故か涼太くんは顏を真っ赤にしている。
「や、養うって…」
「あ、ほんのジョークよジョーク」
「もぉナミっちーー!!からかわないで下さいっス」
「そんなにあたしが好きなら落としてみなさいよ。あんたにできるかしら、坊や」
これも冗談で言ったつもりだが何故か涼太くんの目が燃えていた。
「あ、そんなことより勉強よ!!ほら、ノート開いて!また一から教え直し!!」
いつの間にか閉じてやがったノートを開けさせる。くそ、征ちゃんと真太郎がこんなに苦労してたなんて…
「ここはね、こうなるわけだから…ここまで理解した?涼太くん」
「いやまだ分からないっス」
その返答を聞いた瞬間、手元にあった空のジュースの紙コップを涼太くんの顔面に向かって投げつけた。
「ブッ!!」
痛がる涼太くんを見て満足するが、これではテストの勉強が全く進まない。
……あ、前方に笠松先輩発見!!
あたしは涼太くんを置いて、笠松先輩に後ろから抱きつく
「ナミっちーー!!!置いてかないでっスーーー!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「かーさまーつせーんぱいっ!」
「うおっ!…ナミか。どうした?」
「ちょっと助けてよ!今デルモに勉強教えてるんだけどね、全然アイツ理解しないのよ!」
「別にいいけどよ…後ろの方でそのデルモがお前のこと必死に探してるぞ」
「哀れね、黄瀬涼太」
「お前結構性格悪いな」
「ナッちゃーーん!!」
「さつきーー!!」
ガバッ
そんな音が聞こえそうなほど、強くお互いを抱きしめる。
彼女の名は桃井さつき。夜遅いのに駅まであたしを迎えに来てくれた、あたしの親友だ。
「誠凛が明日はカントクさんの家が経営しているジムのプールで、朝練をするって情報があるから、今日はうちに泊まっていきなよ!」
「そうするわ!」
明日は土曜日ってことで、さつきの情報収集がてら誠凛のみんなに会おうと思ったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナッちゃんさー、恋してるでしょ」
さつきの家に行って、お風呂とごはんを済ませてから、さつきの部屋で女子トークをする。
「え!!?」
「あはは、分かりやすいね」
あんまり恋愛とか恋バナとかに縁がなかったあたしは、そういうのに免疫がない。なので、つい照れてしまう。
「誰々!?ナッちゃんの好きな人!元カレみたいな感じの人!?」
「えー…違うわよ〜」
元カレが一人、いるだけだ。そういえば、さつきには話したことがあるけど、写真は見せたことがなかったっけ…
「せ、先輩なのはそうなんだけど…」
「へえ〜…たしか元カレも先輩だったよね?他校の…」
「元カレのことはもういいから!」
そう何度も何度も元カレを連呼されると、なんだか恥ずかしい…
「えっと…せ、誠凛の…」
「誠凛の!?」
「い…」
「い!?」
「伊月、俊くん…」
名前を出した途端、恥ずかしくなって布団に潜り込む。
「誠凛のイーグルアイを持つPGの伊月俊さんかぁ…」
「うん…」
さすが情報通。俊くんのことも詳しい。ってゆーか、あたしばっかりだったけど…
「あんた、テツとはどーなのよ」
そう聞くと、さつきのうっとりとした顔から恋する乙女に変化した。
「テツくんね!たまに連絡取るよ!!」
「へえ、告白は?」
「こくはっ…!?だ、ダメだよ!!大事な試合前なのにそんな…!」
「あぁ、ゴメンゴメン」
テツは試合とかは鋭いくせに、恋愛だけには疎い。さつきの大胆なアタックも、なかなか気付いてないだろう
「明日はテツくんと会える…!ナッちゃんも、伊月さんに会えるじゃん!」
「……うん…!」
こうやって、さつきと恋バナをできることがすごく嬉しい。
あたしはほんっとうに恋愛に縁がなかったから、テツに恋をするさつきが少し羨ましかった。だから、俊くんという心を撃ち抜いてくれた相手に出会えたのが、嬉しい
「恋バナはちょっと終わりね。…さつき、あんたに伝えないといけないことがあるの。」
「?」
「征十郎って、天帝の眼を持ってたじゃない?未来が視える眼。その能力が、あたしにもある」
「え、ええーーーー!!!??」
予想通りの反応だ。
「それがあたしの能力、女帝の眼。征十郎と違うのは、少し身体を見れば分かること。そして、体力が切れそうな人しか先読みできない」
これは、最近分かった。涼太くんたちの部活中、レギュラー以外の人は外周の後ぐらいから見切れるけど、レギュラーの人たちは練習が終盤に近付くと見切れるようになった。
「でも、体力が限界に近付けば近付くほど、あたしはその人の先の先の未来まで視ることができる。」
「女帝の眼…」
女帝の眼の話を終えた後、もう一度恋バナをしてからあたしたちは眠りについた。
ピィッという笛の音と、バシャバシャという水の音。そして荒い息遣い。更衣室まで聞こえるその音が、練習が辛いことを分からせてくれる
「はい、一分休憩ー」
「あー!キッツイマジ!!」
日向たちが休憩に入ったと同時に、ナミと桃井の着替えが終わり、更衣室を出る。
「面白い練習してますねー」
上から聞こえるその声に日向が顔を上げると、しゃがんで自分を見ている謎の女と、立って自分を見ているナミがいた。
パーカーを着ても隠し切れない豊満な身体に、日向は言葉にならない悲鳴をあげる。
「ーーーーーーーー!!?」
「…どうしたキャプ…っておお!!?ナミ!と誰!?」
伊月たちが振り向くと、顔を赤くした。その中でも、冷静な男が一人。
「…桃井さん、ナミさん」
「知り合い!?」
黒子だ。黒子に続いて、リコも二人に声をかける。
「えっ…とナミちゃんと…どちら様?」
「えーと…なんて言えばいいのかなー?」
「そのまんまでいいんじゃない?」
ナミが少し動くと、紺と白の縦シマのビキニが揺れる。それに男はうっ、と反応する。
「じゃあ…、テツくんの彼女です♡決勝リーグまで待たなくて、来ちゃいました」
「テツくん?」
「黒子テツヤくん♡」
少しの間のあと、
『ええええええ!!!!』
という大声をその場にいるみんなが出した。ナミはぷっと吹き出す。
「黒子ォ!!お前彼女いたの!!?」
「違います。中学時代、マネージャーだった人です」
「テツくん!?久しぶり!!会いたかったーー!!」
「苦しいです、桃井さん」
黒子がプールからあがると、桃井が勢いよく抱き付く。ナミも伊月の腕を自分の腕と絡ませる
「さつきがテツの彼女なら…あたしは俊くんの彼女かな?」
「え、あの…えっと、ナミさん?」
(羨ましすぎる!!黒子と伊月!!)
(いいなあ二人とも!しねばいい!!)
黒子と伊月が美女に絡まれてるのを、恨めしそうに見る他の部員。
「ちょっ…いやいやいやいや、伊月は分かるけどなんで黒子!?さえねーし薄いしパッとしないし!」
「え〜、そこがいいんですよ〜。でも試合になると別人みたいに凛々しくなるところとか、グッときません?」
桃井の意見に、伊月と腕を組むナミもうんうん、と頷く。
「あと…アイスくれたんです」
『はあ!?』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
桃井の話が終わると、ナミと桃井がきゃーきゃーと話す。
「分かる!!さりげない優しさがいのよね!」
「そう!!ナッちゃんもアイスだっよね!」
二人の会話に、他の部員はそんなことで…と驚いているが、対する黒子と伊月はなんの話か分かっていないようだった。
「だからホントはテツくんと同じ高校に行きたかったのー!!けど…けど…」
「あたしだって俊くんのこと知ってたらココに来てマネージャーしてたのにー!!でもぉ…」
「二人とも…プール内は響くので大声は控えてください」
(((((((なんだこの展開…)))))))))
涙を流すナミと桃井に、静かに声をかける黒子。
「なっ、ななな…いったいなんなのあの子!?ナミちゃんはいいとして…」
二人の美女に騒つく部員に、少し焦りつつも呆れるリコが日向に声をかける。
「そもそも、ちょっと胸が大きくてかわいいぐらいでみんな慌てすぎよもう!ねえ?日向くん?」
「……うん。そだね…」
チラ見する日向の視線には、ナミのIカップと桃井のFカップがうつっている。
「チラ見してんじゃねぇよーー!!」
そんな日向をリコが拳で成敗する。その様子を見ていた桃井が二人に声をかける。
「日向さん死んじゃいますよー」
「えっ、なんでオレの名前を…」
日向の問いかけに、桃井は怪しく笑う。ナミは桃井をじっと見つめる。
「知ってますよー。誠凛バスケ部主将でクラッチシューター日向さん。」
日向が驚く間も与えずに、次々と名前を出していく桃井
「イーグルアイを持つPGでナッちゃんの未来の彼氏、伊月さん。」
「なんか違う!!」
「無口な仕事人でフックシューター水戸部さん。」
「……!」
「小金井さんと土田さん」
「あれっ!?そんだけ!?」
「ギリギリBのカントク、リコさん」
「ふざんけなぁ!!」
桃井に対して目を釣り上げるリコ。ナミも大笑いしている。
「桃井さん…やっぱり青峰くんの学校行ったんですか」
黒子の言葉に、少し悲しそうに眉を下げる桃井。ナミも少し二人から目を逸らした。
「…うん」
ナミは目をつむりながら、強く下唇を噛む。
「ナミ…?」
それに彼が気付いた。
「アイツほっとくと、何しでかすか分かんないからさ…」
桃井は困ったように微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「少し、二人で話してもいいですか?」
「え、うん…でも午後の練習もあるから、それに間に合うようにね」
「はい」
ナミも空気を読んで更衣室へ向かおうとすると、誰かに腕を掴まれた
「っ、俊くん!」
「カントク、オレとナミも二人で話してもいいか?」
「伊月くんも?まぁ練習に間に合うならいいわよ」
「分かった。ナミ、外に行こう」
「…うん!」
プールに黒子と桃井を残して、他のみんなはプールを出た。
「ごめん俊くん!おまたせ」
「大丈夫だ。さ、行こうか」
入り口の近くで、あたしを待っていてくれた俊くんは制服姿だった。
それに比べてあたしは、オレンジを基調とした花柄のTシャツと短パン…髪の毛も下ろしてるだけだし…
さつきと同じように制服着ればよかったかしら…でも制服は神奈川にあるし…
「そういえば、ナミの私服って初めて見るな。似合ってるよ」
「しゅ、俊くん…!!」
やっぱり私服着てきてよかった!!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
適当に歩きながら、少し昔の話をする。
「大ちゃ…青峰はテツの相棒だったのよ。バスケが誰よりも好きで、テツとのコンビネーションも最高で…」
「うん」
「あたしね、アイツのバスケ好きだったの!テツとの連携でシュートを決めて、そのシュートを誰よりも喜ぶアイツがカッコ良かった!」
本当に、カッコ良かったの
「ってゴメンね!暗い話しちゃって!!もう戻りましょう、俊くん!」
「……そうだな。戻ろう!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
俊くんと一緒にジムへ戻ると、まださつきとテツは話をしているようだった。
「じゃあ、あたし帰りますね。さつきに先に帰ったって伝えといてください」
「ナミちゃん、」
「いいんですよ日向さん!どーせさつきも学校行かなきゃダメだから!!」
それに、好きな人とはもう少しいさせてあげたいしね
あたしはジムを出た。そういえばこの道を少し行った先に、バスケコートがあったっけ…
少し、撃ってみようかしら
あたしがコートに行くと、誰かがいるようだった。近付いてみると、それは火神ちゃんと大ちゃんだった。
(二人で1on1…?でもたしか、火神ちゃんの足は真太郎との試合で…)
その時、あたしは視えた
圧倒的な速さで抜かれる、“火神ちゃんを”
「お前の光は、淡すぎる」
そして、そのすぐ後に火神ちゃんは大ちゃんに抜かれた。
「っ、大ちゃん!!火神ちゃん!!」
怖くなったので、急いで駆け寄る。何が怖いってそりゃあ、誠凛バスケ部のカントク様に決まってる。きっと火神ちゃんは無理をしたせいで、リコさんにものすっごく叱られる。
「…ナミ。お前の予想は外れだな。こいつの光じゃ、オレは倒せねぇよ」
「……!!」
また冷たい目だ。
「うっさいわね!!あんたは光ってゆーより、闇でしょーが!あんた鏡見たことあんの!?全身真っ黒よ!」
「うるせーよ」
ムキになって言い返すと、大ちゃんはあたしの額を指ではじいた。
「じゃあな」
それだけ言うと、大ちゃんは行ってしまった。
「……」
火神ちゃんは座り込んだまま、何もしようとはしなかった。大ちゃんとの圧倒的な力の差に、ショックを受けているのだろう
「火神ちゃん…」
「…悪ぃ、ナミ。一人にしてくれ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
仕方ない。あたしは誠凛高校に足を運んだ。体育館では、みんなが必死に汗をかいて練習をしている。
(…練習しない人が勝つなんてない。アイツは絶対に負ける)
あたしの賭け、と言ったら軽いかしら…でもあたし、賭けには強いから
(よし、帰ろう!)
大丈夫。今のままでは勝てないかもしれないけど、火神ちゃんは大ちゃんへ突っかかることはやめない、はず!
(それがアイツ…アイツらの刺激になればいいんだけど…)
アイツらといえば…涼太くん、テツ、大ちゃん、真太郎は会えるからよしとして、あーくんと征十郎は元気なのかしら
あーくんとはよく電話するけど、征十郎とは最近してないわね…まぁ忙しいだろうし、アイツがかけてきた時にたくさん話せばいいわよね
あ、崎ピョンと修兄ともしてないわね…あとマコも
そんなことを考えているうちに、駅についた。これから、涼太くんたちがいる神奈川へ帰る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「お前…育ったな」
「ぁ、ちょ、も、揉むなぁ…!」
「何してんだよアホ峰!!」
今日は大ちゃんとテツたちの試合だ。なのに、コイツときたら…!!
「コラ!いい加減に起きなさい!」
「あと五分だけ…」
「ダメよ。試合に間に合わなくなるから、はやく起きなさい!」
全然起きない!ったく…仕方ない
「あっ、ダメダメ、何するつもりなの、しんたろ、!ひゃっ、どこ触って…んん!」
「わあああ!!緑間っち!前から思ってたっスけどやっぱムッツリ、ス…ね?」
「おはよ、涼太くん」
「お、おはようっス。み、緑間っちは?」
「いない」
「……はーー!!?」
「はやく準備してよね〜」
寝ぼけてるバカにはこういう方法が手っ取り早いのよね。あと、ごめん真太郎!!
「ナミっちがそこまでバスケの試合に興味持つの、珍しいっスよね」
「バスケの試合じゃなくて、火神ちゃんと大ちゃんの試合に興味を持ってんの。」
「どっちみちバスケの試合じゃないスか」
「うるさい。はやく食べて東京に行くわよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ありゃ、まーた遅刻っスわ」
「ほら!あんたがもたもたしてるから」
「しかもまた負けてるし…」
試合会場につくと、すでに試合は始まっていた
「ん?」
「どうしたの?涼太くん」
「いや、アレ…」
涼太くんが指差す方を見ると、見慣れた緑頭がいた。
「真太郎!!?」
「…む?
ナミっ!?それに黄瀬も!?なぜ気づいたのだよ!?」
「アホスかグラサンて!」
「ってゆーか恥ずかしいからソッコー外して欲しいんだけど」
「なにィ!?」
いやホント、マジの方で。周りの人たちの視線が痛いし
「あれスか?見たくないとか周りには言ったけど、結局来ちゃったんスか?」
「テキトーなことを言うな!近くを通っただけなのだよ!」
「いやあんたの家、真逆じゃない」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「で、どースか試合は?」
「…………どうもこうもないのだよ。」
涼太くんの問いかけに、グラサンを外した真太郎がメガネをカチャッと上げる
「話にならないのだよ。青峰がいないようだが…それでもついて行くのがやっとだ」
「大ちゃんいないの!?」
あんのガングロ!!今度会ったらタダじゃ済まさないんだから!
「まあ今、あの二人が決めたじゃないスか。これからっスよ」
「忘れたのか、黄瀬。桐皇には桃井もいるのだよ」
真太郎の言葉にハッとする涼太くん。あたしはさつきを探す。
「アイツはただのマネージャーではないだろう。中学時代、何度も助けられたのだよ。
…つまり逆に、敵になるとこの上なく厄介だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「真太郎、さつきに関しては素直じゃない」
「ホントっスね。いつものツンデレはどこっスか?」
「ツンデレじゃないのだよ!ってゆーか、口に手を当てて笑うな!」
「桃っちスか…そーいや青峰っちと幼馴染だったスね」
「でもさつきって、テツのこと好きよね?むしろ本気なんて出せないんじゃ…」
もし、あたしが俊くんの敵なら本気なんて出せずに負けてしまうかもしれない。
「そうなのか?」
「気付いてなかったの!?バレバレっていうか、むしろ毎日アタックしまくりだったじゃない!!」
「あれ見て気付かないとか…サルスか!?」
「なにィ!サルとはなんなのだよ!!」
真太郎って…ホンットに恋愛には疎いわね…賢いのにバカみたい
「…まあいい。だったら尚更なのだよ。」
「え?」
「黒子が試合で手を抜かれることを望むはずがないのだよ。そもそも、アイツのバスケに対する姿勢は選手と遜色ない。
試合でわざと負けるような、そんなタマではないだろう。」
「…そうね。」
あたしは選手でもなければ、マネージャーでもない。でも、手を抜かれたらそれが親友だろうが、好きな人だろうが、許せない。
「ナミっちー、ケータイ鳴ってるっスよ」
「え、ウソ!ったく誰よ!!」
荒々しくポケットからケータイを取り出すと、青峰大輝という名前が表示されていた。
(は?大ちゃん?あのガングロ、試合出てないくせにあたしに電話できるわけ?)
「ごめん涼太くん、真太郎!あたしちょっと出るわ」
「了解っス」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「もしもし」
『お前出んの遅ェよ』
「うっさい!!あんたもはやく試合に来なさいよッ!!」
『そう怒るなって』
電話の向こう側に怒っても仕方ない。こういうのは本人をハッ倒すのが一番だ。
「で、あんた今どこにいるわけ?」
『んぁ?あー…会場』
「はあ?はやく来なさいよ」
『迎えに来い』
「イヤよ。今試合見てるし!さつき見てるし!俊くん見てるし!」
『いいから来いや。どうせ第1Qはあと少しで終わんだろ?』
「もう第2Q始まってるわよ!!」
こいつと話してたらツッコミがいくつあっても足りないわ…
『お前が迎えに来ねぇなら、オレはこのまま帰る』
「駄々っ子か!!…今会場のどこら辺?」
『入り口のロビーんとこ』
「よりによって入り口なのね…今から行くから、絶対試合出なさいよ!」
『へいへい』
仕方なく、あたしはロビーへと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いた!!ほら、行くわよ」
「もう来たのかよ…」
「迎えに来いって言ったのは誰よ…!!」
試合前じゃなかったら思いっきり殴ってたのに…くそっ
「んじゃ、行くか」
「はやくしなさいよね…ってきゃっ!」
あたしはあろうことか、エロ大魔神青峰大輝に片手でヒョイッと抱えられてしまった。
「離して!離しなさいよっ!ヤられる!!」
「ヤるかアホ!お前も行くぞ」
どこに、と言う前に歩き始めた大ちゃんは、右手にはカバン、左手にはあたしというカオスな状態だ。
「お前、オレたちのベンチでじっくり見とけ。」
「ッッ!!」
ゾクッと何かが背中を走った。まるでこいつは、ケモノだ。
「……わ、分かったわよ…」
あたしは落ちないように、そいつの腰に手を回した。大ちゃんの腕は、ちょうどあたしの腰回り。
「細いな、腹」
「ウエストって言ってくれるかしら…?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「お前…暴れたらオレの腕におっぱい当たるぞ」
「やっぱりヤられるぅー!!征ちゃーん!真太郎ー!涼太くーん!テツー!あーくーん!修兄ー!ナミゾーウ!」
「だから暴れんなっつの!あとまだヤらねぇ」
「まだってなによ!!ヤる気満々じゃない!」
あたしは今、大ちゃんに抱えられながら試合会場へ向かっている。
「大ちゃん、お尻触んないで」
「ケチなこと言うなよ」
「ハッ倒すわよ」
扉を開けると、みんな試合に夢中で異質なあたしと大ちゃんには気付かない。
「行ってこい!」
「ウス!」
ちょうど、誠凛がメンバーチェンジをしたところだった。大ちゃんは嘲笑うように火神ちゃんに近付いて、肩に手をまわした。
「そーそー、張り切ってくれよ
少しでもオレを楽しませられるようにさ」
「……!!テメェ…青峰!!」
「ナミちゃん!!」
やっと大ちゃんとあたしに気付いたみんなが騒ぎ出す。
「アレって…ナミっち!!?」
「なぜ青峰と一緒なのだよ!!」
はやく下ろしてもらおうとジタバタしていると、チームメイトらしき人が大ちゃんに声をかけて来た
「やっと来たかまったく…早よ準備して出てくれや!!」
「えー?つか勝ってんじゃん。しかも第2Qあと1分ねーし」
その人の顔はあまり見えなかった。だけど、監督さんとその人は大ちゃんを試合に出そうとしている。
「そうだコイツ、ウチのベンチで見せるぜ。」
「はあ?誰やねん、このお嬢さん」
「あー?あー…オレの彼女?」
「違うわッ!!はやく下ろしなさいよ!」
「いいよな?オレが試合出てやるからよ」
「…好きにしてください。桃井さん、このお嬢さんをウチのベンチへ」
「は、はい!ほら青峰くん!ナッちゃん下ろして!!」
「へいへい」
やっと下ろされたあたしは、とりあえずあたり一面を見渡した。
「荷物持っとけ」
「はあ?…ぶっ!」
上着やらカバンやらを好き勝手に投げられたので、腹が立って捨ててやった。
「脱いだもん全部投げんなーーー!!!」
「あーー!!ナミッ、テメ!」
「あんたたちあたしを荷物持ちだと思ってんの!!?か弱い女子に汗くさいジャージ投げるなーーー!!!」
すると、ずいぶん前にあたしに荷物を預けてバスケをした涼太くん、テツ、火神ちゃんがビクッと反応したのをあたしは見た。
「中学の頃からそうよ!!ったく…」
「結局持つのかよ!!」
「あとでたっぷり“おかえし”もらうから」
「仕方ねえな…
じゃあ…ま、やろーか。」
その後、桐皇のリードで終わった前半戦。いつもなら誠凛の控え室に行くところだけど、そうもいかなかった。
「ナミ、行くぞ」
「はあ!?もうベンチで見たじゃない!!涼太くんと真太郎が心配してるから、戻りたいんだけど!」
「知るか」
デカイ態度を取る大ちゃんにイラついて、あたしから荷物を取って桐皇の控え室に行こうとする大ちゃんのふくらはぎを、足で思いきり蹴ってやった。
「テメェ…選手の足を…!」
「ほとんど試合に出てないんだし大丈夫よ」
「…先行っとくぞ」
ポケットからケータイを取り出すと、涼太くんから大量に電話がかかっていた。あたしは電話帳から涼太くんを探し出す。
『もしもし!ナミっち!?』
「うん。あ、ごめんね?涼太くん。あたしベンチで見るつもりじゃないんだったんだけど…」
『青峰っちに連れて行かれたって感じだったっスね…分かってるっス』
「そう、良かった…今日はもう戻れそうにないから…」
『了解っス。帰る時にまた連絡して?迎えに行くから』
「うん、分かった。」
涼太くんとの電話を終えてから、大ちゃんたちの控え室に足を運んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「大ちゃーん、さつきー」
ガチャリ、とドアを開けると桐皇の人は驚いたようにこっちを見た。
「おー、ナミかぁ。久しぶりやな〜」
「そうね、翔一。久しぶり」
「知り合いなの!?ナッちゃん!」
メガネで関西弁の男が話しかけて来た。
「知り合いもなんも…」
「中学の時に言ってた元カレって、コイツだもん」
「……え?」
『はあああ!!?』
控え室を出ようとしていた大ちゃんを含めた桐皇の人全員が、大きな声で驚いた。
「きっ、聞いてないよナッちゃん!!」
「写真とか見せたことなかったから…それに、さつきたちと同じ高校だって知らなかったし」
「元恋人って…気まずくないんスか?」
たしかこの人は…
「何をゆーとんねん若松ぅ。ナミが神奈川行くから別れたんやで?」
そうそう、若松さん!大ちゃんがうぜーって言ってた先輩よね!!
「遠距離って難しいですから。それに、あたしには新しい相手がいるんで!」
「あーー、誠凛のPGか」
「そう!カッコイイでしょ?」
「そういえば、花宮とナミゾウ元気か?」
「元気元気。また会ってやってよ」
「せやな」
ポカンとしているみんなを置いて、あたしと翔一は会話を進める。
「そういえばナミゾウさんって…」
すると、ナミゾウという言葉に反応したさつきが口を開いた。
「霧崎第一のマネージャーやってるらしいですよ。なんでも、“奪う”眼を持ってるとか」
奪う眼…あたしの未来を視る眼とは違う種類かしら…
「奪う眼、ねぇ…」
「はい。その名は“海賊王の眼”(パイレーツキング・アイ)なんでも、その眼で見た選手の技術の分析を行い、弱点や癖、全てを読み取る眼だそうです」
あたしのエンプレス・アイとは違うわね…あたしは視ることはできるけど、奪うことはできない。
「ナミゾウが新たな敵ってことか…」
「大ちゃん!」
「たとえナミゾウでも霧崎第一でもオレには勝てねぇよ。オレに勝てるのは、オレだけだ。」
「……せやな。ナミゾウでも花宮でも、こっちには青峰がおるんや。強気で行こ」
そして、休憩が終わっていよいよ後半戦が始まった。
あたしは桐皇のみんなと、ベンチへ向かう。
ノジコ、ナミゾウの細かい設定
朱崎ノジコ
実は福田総合学園高校3年
静岡で一人暮らし
キセキの世代は弟だと思ってる
灰崎とは仲が良い
朱崎ナミゾウ
霧崎第一高校2年
幼馴染の花宮に誘われてマネージャーになった
キセキの世代とは普通に仲が良い(特に青峰)
東京で一人暮らし
ナミゾウの“海賊王の眼”は“泥棒猫の眼”(シーフキャット・アイ)に変更
ノジコの能力はまだ考え中
ナミゾウって実は芸名
ナミゾウはシスコンでナミゾウ大好き!って感じだけどノジコも大好き!
そして2人と同じぐらい花宮も大好き!学校では花宮とずっと一緒で、花宮もまんざらでもない
ノジコが行った学校にたまたま灰崎が来た
ナミと黄瀬みたいな関係なのがノジコと灰崎、ナミゾウと花宮
ちょっとノジコと灰崎、ナミゾウと花宮の小説書きますね
【ナミゾウと花宮(ほんのりBL感ありかも?)】
オレの幼馴染は花宮真。オレが生まれたとき、真の家はオレたちの家の向かいにあった。
「まーこーと!」
「あぁ?」
「今日ウチに来ねぇ?母さんもゲンのおっさんも仕事なんだよ」
「…仕方ねぇな」
小学校の頃から、母さんとゲンのおっさんがいないときはウチに泊まっていた真。
「マコーー!!」
「あ、真ー!」
「よぉナミ、ノジコ」
もちろんナミとノジコも真が大好きで、いつも真が泊まりに来るのを楽しみにしていた。
「マコ!今日はあたしと寝る?」
「あぁ?」
「悪ィけどダメだナミ!真はオレと寝る!」
「なんでよ!あたしもマコと寝たい!!」
「まあまあ…ナミはあたしと寝よ?」
「うん!」
「誰とでもいいから、早くメシ食おうぜ」
オレはナミのことが大好きで、なにかを許してたり譲ったりしていたけど、真のことはどうしても譲れなかった。
「ナミゾウ!!また真を泊まらせたな!」
「っるせーなジジイ!!真の名前を気軽に呼んでんじゃねぇよ!」
周りの奴になんて言われようと、オレは真の隣から離れようとしなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ナミゾウ」
「……真…」
母さんが死んだあと、オレは家を出た。
あんな腐った人間と一緒にいたら、オレまで腐っちまう。
「ナミとノジコが心配してた」
「……」
家を出て、街を歩いてたらスカウトされてモデルになった。そして事務所が所持しているアパートに住んだ。
それでも、真はオレに会いに来ていた。
「それだけだ」
「…………真!」
「あぁ?」
「オレ、お前とノジコと同じ中学行くから!その、えっと、くそ…し、心配すんなって伝えとけ!!」
「ふはっ」
いつものように笑っただけで、真はなにも言わずに事務所を去った。オレが稼いだ金を、ノジコとナミに届けるために。
(ナミが中学に行くまであと約一年…それまでにナミの学費稼げるか…?)
いや、稼げるかじゃねぇ。稼ぐんだ。
そして、ゲンのおっさんが死んだと聞いた。
中学に行ってから、オレはさらにモデル業に専念した。有名になって、テレビにも出るようになった。
「真」
「あぁ?」
「オレ、もう一回やり直してみるな!」
「…おう」
「そしたらしばらく会えねぇけど…」
「引っ越し、すんのか」
「おう。帝光の地区にいる母さんの親戚がアパート持ってて、タダで部屋貸してくれるって」
「そうかよ…じゃあ帝光中に転校すんのか?」
「しねぇよ?ノジコはするけど…オレがいなくなったらマコっちゃん、悲しいだろ?」
「…!ふはっ、誰がマコっちゃんだよ。んなワケねぇだろバァカ」
「えーー!ひでぇな〜、真は!」
そしてオレたちはナミが小6、オレが中1、ノジコが中2の冬にまた三人に戻った。
「真!!オレ、お前と一緒に高校行くからな!絶対連絡くれよ!」
「気が向いたらな」
「なんだよー!気が向いたらって!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あーー!!原っ!お前真に近付きすぎ!!」
「別にいいじゃん。オレにも花宮貸してよ」
「ヤダねぇーっだ!あ!古橋!!あとザキ」
「オレはついでかよ!!」
「おーい、健太郎起きろよ〜」
「無視すんなっ!!」
「うるせぇよテメェら!!」
「怒んなよマコっちゃ〜ん」
【ノジコと灰崎】
「あれ?灰崎じゃない。なんでここにいんの?」
「ゲェッ!ノジコ!!」
「ノジコさん、でしょーが」
あたしはナミの二つ上の姉貴で、ナミゾウの一つ上の姉貴であるノジコ。
この灰崎祥吾という男は、中学の頃のサボり仲間だ。ナミと同い年であり、友達でもある。
「なんでノジコサンが静岡(ここ)にいるんスか」
「その言葉、そのまま返すわ。…あたしは推薦よ」
「はあ!?一緒にサボってたのに頭良かったのかよ!!?」
「まあね。むしろサボってたのは授業が分かってたから。」
「そんなのアリかよ…」
ここは屋上。あたしのサボりスポットでもあるこの場所に、灰崎を誘ってあげたのだ。あたしって相当優しい。
「っていうか、あんたのその頭…なに?」
「高校デビューってことでイメチェンした。つーかナミは?」
「ナミは涼太と同じ海常。…まあ、神奈川ね」
すると灰崎は怖い顔になった。声も低くなる。
「…黄瀬に、ついてったのか…」
「……誘えっつーの」
「は?」
これは姉の特権で、その姉と同じ高校に来たこいつの特権だ。教えてやろう。
「ナミは、迷ってた。どこの高校に行くか、誰と同じ高校に行って支えるか。
あんた、後輩になったから教えてあげるけど、ナミはあんたのことも心配してたのよ。もちろん、他の奴らも。」
「……」
「だから誘えば、あんたと一緒にいることを選んだかもしれないのに…あんたたちは自分についてくるのが当たり前だと思って…!」
ナミは一人で、ナミにも選ぶ権利がある。
だからキセキの世代の中でも、一緒の高校へと誘っていた涼太と行ったのは正解だと思う。
「あんたたちってバカね…」
「……オレは別にナミと一緒に行きたかったわけじゃねェ。」
そう言うと灰崎はゴロンと横になった。あたしはその隣に座り込む。
「黄瀬と一緒っつーのが気に入らねェだけだ」
「……」
「でも…あんたがオレの隣にいてくれるなら、オレは負けねェよ?」
「どういうこと?」
「そのまんまだよ。あんたの推薦の理由、オレが知らないとでも?」
なんだ…知ってんのね。
「なあ…?朱崎ノジコ監督」
あたしの推薦は、もちろん学力の高さもある。だけど、女バスでやっていた監督としての能力も買われたのだ。
男子バスケ部に。
「あんた、知ってたのに聞いたのね?タチ悪いわー」
「っるせぇよ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「灰崎!!!サボんな!!」
「ぎゃーーー!!!鬼監督ッ!!」
「一人で外周20周ね!」
「本気で鬼か!!」
今吉翔一
ーーたしか、あたしの元カレ。彼のことは、私もよく覚えているわ
ーーそうなの?
ーーええ。あなたに危害を加えるワケでもなから、彼は結構お気に入りだったわ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねーねー、君って帝光の子だよねー?」
「俺らと遊ばなーい?」
コンビニに寄ったのが運の尽き。ガラの悪い高校生ぐらいの三人組に絡まれてしまった。
「えー無視ー?」
うざい。どうやって逃げようか、と考えていると1人の男が吹っ飛んだ。そして、もう2人も吹っ飛ぶ
「大丈夫やったか?嬢ちゃん」
「え、あ、うん…」
この人も、中学生だろうか。立ち去ろうとするその人の裾を、あたしは慌てて掴んだ
「あ、あの!!」
「ん?」
「あ…ありがとうございました!」
「礼にはおよばへんって。」
「あたし…ナミっていいます!!あなたの名前を教えてください!」
「今吉翔一や。よろしゅう頼むわ」
これが彼との出会いだ。今吉さんとはそのコンビニで頻繁に会って、友達になった。
それが、今吉翔一との出会いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ワーッと会場が盛り上がり、あたしは一気に過去から今に意識を戻した。
コートでは、大ちゃんがギリギリのところでシュートを打っていた。DFは、火神ちゃん。
点数は、51対39
(さすがね、火神ちゃん…ここまで大ちゃんに付いて来れた選手を見るのは初めてよ…でも、視えた!!)
一気に火神ちゃんがボールを投げる。速攻だ。
でもここで、アイツが速攻に追いついてシュートを防ぐ。
(あたしの眼で見たのは火神ちゃんが止められる未来…計算からして、今のは大ちゃんの未来じゃなくて火神ちゃんの未来…)
つまり、火神ちゃんの体力の消耗が激しいのに対して、大ちゃんの体力はまだ大分残っているということだ。
すると、大ちゃんのフンイキが変わった。
そして、誠凛のみんなをトリッキーな動きであざむかせる。
(このバスケ…知ってる!)
昔、修兄とアメリカに行った時に見た
ーー変幻自在
路上の(ストリート)バスケ…!
火神ちゃんを避けると、次は日向さんたちが3人がかりで大ちゃんをとめるために飛ぶ。
でも、大ちゃんはそのまま行った。
そして、ボールをゴールの裏に投げる。
誰もが外すと思われたそのシュートは、不思議なことにゴールに入った。
(これが、キセキの世代のエースの力…アイツのこの強引でめちゃくちゃなバスケは、常識(セオリー)が全く通じない)
それでも火神ちゃんの目に、諦めはなかった。