【リレー小説】学園女王【企画?】

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1:ビーカー◆r6:2017/01/29(日) 18:05

――この学園は、女王に支配されている。

【主な内容】
生徒会長によって支配されカースト、いじめなど様々な問題が多発した白羽学園(しらばねがくえん)。生徒会長を倒し、元の学園を取り戻す為に生徒達が立ち上がった……という話です。

【参加の際は】
好きなキャラを作成し、ストーリーに加えていただいて構いません。
ただし、
・チートキャラ(学園一〇〇、超〇〇)
・犯罪者系
・許可なしに恋愛関係や血縁関係をほかのキャラと結ばせる
は×。
また、キャラは「生徒会長派」か「学園復活派」のどちらかをはっきりさせてください。中立派もダメとは言いませんが程々にお願いします。
キャラシートは必要であれば作成して下さい。

【執筆の際は】
・場面を変える際はその事を明記して下さい。
・自分のキャラに都合の良い様に物事を進めないように。
・キャラ同士の絡みはOKです。ただし絡みだけで話が進まないということの無いように。
・展開については↑のあらすじだけ守ってくださればあとは自由です。
・周りの人を不快にさせないように。

165:ABN:2017/05/28(日) 07:05

 平均的な学校と比べ、一コマの授業時間が長い白羽学園では、合間の休み時間も多少長めに取られている。次の授業で使用する教材を机上に並べ、不備がないか再三確認してもかなりの時間が余るほどだ。随分ゆとりのある休み時間を、成績優秀者の集まりであるA組は揃って勉学に有効利用しているのかというと、実はそうでもない。
 方や、天賦の才だけで高度な知識をいとも簡単に理解する者。方や、血が滲むような努力を以てA組の座にかじりついている者。あるいはそのどちらでもなく、何かしらの特例によってA組への在籍を許されている者も存在するかもしれない。現在の成績に至った背景が個々によって違えば、休み時間の使い方も必然的に多様化する。よって天下のA組も、他のクラスと比べればさほど変わらない教室風景となるのだ。

 閑話休題、A組教室の休み時間にて。椎哉は自分の席に座ったまま、しきりに鉛筆を紙上で動かしていた。傍から見れば自主勉強をしているようにも見えるが、よく観察すると時折自分の手帳に目を移しては電卓を叩いている。そんな彼の違和感に気を引かれ、声をかける同級生がいた。


「おや、北条副会長。何かご用でしょうか」

「そういう訳じゃないんだけど、さっきから何を計算してるのかと思ってね」

「これですか? 前回の期末考査の平均を割り出していたんですよ。次の考査もそろそろ迫ってきていることですし」

「前回って、安部野君が前にいた学校での成績?」


 智は首を傾げた。つい先日まで学園を休学していた彼も、椎哉が新年度からの転入生であることは百合香からの情報で知っている。ならば椎哉が言う「前回」とは、彼が前年度まで通っていた学校での最終考査なのだろうと予想した。しかし、ここは地方でもトップレベルの進学校。椎哉の出身校がどこかまでは把握していないが、並大抵の高校のテストでは、この学園での考査の対策材料にはなり得ないはずだ。
 そんな彼の疑念に気付いたのか、椎哉は手帳の一ページを開き、智に見えるようにして掲げる。その罫線上には人物名、クラス、そして五教科の点数と思しき数字とその合計が、上から下までびっしりと埋まっていた。


「いいえ、前回というのは『白羽学園の前年度最終期末考査』のことです。生徒会たるもの、生徒の皆さんの成績の推移を把握し、より効率的な学力向上の助力に努めなければいけないでしょう?」

「生徒の皆さんって……まさかこれ全部、全校生徒の前回の点数かい?」

「ええ。精密なデータを得るには、正確な値が必要不可欠ですから」


 言いながら椎哉は手帳を智に見せたまま、もう数枚ページをめくる。新たに開かれたそこにもやはり、生徒一人一人の成績が同じように綴られていた。



(続く)

166:ABN:2017/05/28(日) 07:12

(続き)



 元よりこの学園では考査終了後、得点順に並べた成績を個人の名前付きで掲示するのが定例だ。加えて処刑制度が執行されてからは、「見せしめ」目的で最下位の生徒名まで発表されるようになった。そのため、椎哉が全校生徒の点数を把握していること自体になんら問題はない。だが、学園内での公開が許されているとはいえ、一歩間違えれば生徒個人のプライバシーにも関わる情報が、一冊の個人手帳に全てまとめられているというのはいかんせん不気味である。
 図らずしも覚えた底気味悪さを表に出さないようにしながら、智は苦笑交じりに自分の感情を誤魔化した。


「そ、そうなんだ。熱心なのはいいけれど、その手帳を外で落としたりしないようにね」

「心配には及びません。ベルトに繋いだストラップをつけていますので、不注意で紛失することはまずあり得ませんよ」

「なら安心だけど……。ところで、平均点をまとめて何か分かったことはあった?」

「そうですね。やはり目立つところと言えば、クラスごとの成績格差でしょうか」


 椎哉は開いていた手帳を制服の内ポケットにしまうと、今度は鉛筆を走らせていた方の紙を見せる。書かれていたのは各学級別、学年別、学年を無視したクラス別、そして学園全体の平均点をまとめた統計表だ。そのうちクラス別の点数に注目すると、A組から段々と下るように平均点が下降していることが分かった。尤も、この学園ではそもそも成績を基準にクラス分けを行うため、このような結果になるのは必然なのだが。しかし椎哉はそれだけで話題を完結させることはせず、表の下の空白に簡易的な棒グラフを描きながら話を進める。


「A組からC組までは問題視するほどの点数ではありません。しかしC組とD組を比較すると、それまでと比べて点数の開きが大きいのです。さらにD組とE組では、その格差がより顕著に現れています」

「本当だね。グラフの先端を線で結ぶとさながら放物線みたいだ。つまり、学園全体の平均点が下位の二組によって著しく下げられているってことか」

「仰る通りです。加えて、D組とE組の成績を一人一人確認してみたところ、D組の一部とE組の多数の生徒が学園の平均点を大きく下回る成績でした。このように大多数の真面目な生徒が、ごく少数の不真面目な生徒によって足を引っ張られるということは、由々しき事態なのではないかと僕は思います」


 成績劣等生への懸念を以て話を結論付けると、椎哉は鉛筆を置いて智の方に顔を向ける。真っ直ぐな目線で相手を見据えると、智へ一つの質問を投げかけた。


「この二組の成績不振を改善するため、生徒会としては何かしらの対策を取る必要があると考えています。そこで一つお聞きしたいのですが、北条副会長はD組、E組の成績向上を妨げているものは何であるとお考えでしょうか?」

167:ビーカー◆r6:2017/05/30(火) 07:43

「成績低下の原因、かぁ……」
智はしばし目を細めると考え込む動作をする。骨ばった細く白い手が、紅い唇に触れている。白い手先の長い爪に、椎哉はその間視線を移していた。
「……もしかしたら……そうだねぇ、やっぱり百合香に手出しをする様な人間が多い事じゃないかな」
ゆっくりと口を開き言うと、智は軽い笑みを浮かべる。彼の笑顔は非常に優しげで、穏やかで、そしてどこか女王と似ていた。
「と、言いますと?」
「ほら。百合香の定めたルールを破る人間がいたら、僕らはその人間を処刑しなきゃいけないだろう? 学園の平和の為に、そして百合香の為にね。でも処刑にばかり気を取られてしまうと、やっぱり勉強に専念できなくなる人も少なからず出てきてしまう……B組やC組の人達にしたら、処刑制度は適度なストレス発散になるんだろうけど。D組辺りになってくると、処刑だけに全力を注いでしまう人達がちらほら現れるみたいだね。……どうしたものか……百合香に逆らう人間をなるべく減らせればいいんだけど……」
饒舌にこう話すと、再び智は目を細めた。
椎哉はその様子をごく冷静に見つめている。……しかし、内心この副生徒会長に薄気味悪さを感じていたのは言うまでもない。
彼の話は要約してしまえば、『百合香に逆らう人間がいなければ、処刑も発生しないし成績問題も解決する』ということになる。あくまで彼にとって、全ての原因は女王に歯向かう反逆者であった。女王の定めた規則に逆らえば、処刑されるのは当然だ。ならばどうやって反逆者を減らそうか……その話は、『百合香は何一つ間違っていない』という前提のもと成り立っていた。今の処刑制度には何の疑問も感じていないのだ。
「……特に百合香に平手打ちをする様な生徒は見逃せないなぁ……何か対策をとろうか、どんな形であり百合香が傷つくのは何より辛いしね」
「ふむ……しかし、成績不振についても解決を優先させるべきでは? 風花生徒会長の安全が第一なのは同意致しますが」
心にも無い言葉を並べ終えた椎哉の目を、智はすっと覗き込む。やがて、くすりと微笑んだかと思うと、暖かな笑顔を保ったまま平然と言い放つ。
「まあ、いいじゃないかそんな事は。だって、百合香が一位なことには変わりないんだから」
「…………なるほど」
その直後だった。席を空けていた百合香が教室へと再び戻ってきたのだ。
その美しい顔に、普段の笑顔はどこにも無かった。
「皆さん、少々聞いてくださるかしら」
A組の生徒達は一斉に百合香に視線をやった。百合香がこうして教室内で発言することは決して珍しくはないが、ここまで重苦しい雰囲気を醸し出すことは早々にない。智はというと、百合香の方へ歩み寄り、不安げな表情で彼女の様子を伺っている。
百合香はそんな智をちらりと見ると、大丈夫よと言うかの様に若干表情を和らげる。
2人の間にはやはり何かしらの信頼関係があるのだろう。何かしら異常なまでの。
「木嶋さんが……お亡くなりになったそうです、白羽病院で」
真っ先にしたのは、1人の生徒が立ち上がる際の机の揺れる音だった。

168:ビーカー◆r6:2017/05/30(火) 07:43


「……何ですって?」
「木嶋さんが亡くなったのよ、月乃宮さん。……仕方ないわ、あの状況下なら何か重い症状を患わってもおかしくないもの」
「だって、そんな……姉さんがついていたのに……!」
あの冷静沈着ないばらが、ここまで取り乱すのはそれこそ滅多にない。周囲は驚きを隠せない様子だったが、百合香の方は一切動じていなかった。
姉の診ていた患者が死んだというのは、やはり妹にしては受け入れ難いのだろうか。
「そうね……大変残念な事だわ。まさかあの白羽病院で、ね」
「……何かしら? まさか貴方、姉さんを疑ってるんじゃないでしょうね?」
いばらが荒々しい足取りで百合香の元に歩み寄った。彼女の瞳は更に鋭さを増し、その目はしっかりと百合香の姿を映している。
百合香の顔つきもまた、どことなく悪しきものがあった。まるで目の前の相手を見下したかの様な。
「別に……疑ってるわけじゃないのよ、月乃宮さん。ただ、あくまで視野の範囲に入れているだけで」
「いい加減にして!!」
百合香の声を遮り、いばらは大声をあげた。百合香の傍らにいた智が、目を見開いたのが見える。
「貴方は……どうしていつまでもそう悠々としていられるの!? 彼女だって貴方が余計な手出しをしたのはほぼ確実でしょう!? 彼女だけじゃない……今まで何人もの人を殺しておきながら、貴方はまだ自分の罪を擦り付ける気!?」
静まり返った教室に、ただいばらの声が響いていた。
いくら寄付金絡みの件があるといえ、ここまではっきりと逆らってしまえばどうなるかはわからない……処刑まではいかなくとも、何かしら罰を受けることになってもおかしくはなかった。誰もが息を潜めて見守る状況の中、百合香は静かに溜息をつくと、その口を開いた。
「月乃宮さん……私は誰も殺したことはないわよ? ましてや、誰かを傷付けたことも……」
「……じゃあ、天本さんの件はどう説明するつもり? 風花さん」
天本という名に、椎哉が少しながら反応した。しかしそれに気づいた者は恐らくこの教室にはいないであろう。
「天本さん? ああ、あの広報部の……」
百合香はそう呟くと、やがてまた笑顔を浮かべる。いや、笑顔というよりは口元を歪めたに近い。その黒い瞳は笑ってはいなかったのだから。
「私が彼女を追い詰めたと決めつけるのはあまりにも不道理だわ……自殺未遂を私の責任にされても、私は何も出来ないわよ? あの件は誰も悪くないの、天本さんが考え過ぎてしまっただけ……」
「貴方は……何も感じないの?」
いばらのその問いかけに、女王はしばらくの間黙り込む。彼女の姿を黒い瞳で見据えると、途端に普段通りの笑顔を浮かべた。
「感じるって……何を?」

169:ABN:2017/05/31(水) 05:21

 がん、と、頭を強く殴られたような気がした。
 「処刑制度」などというくだらない規則が確立してから早一年以上。ある者は暴行の末に再起不能の体となり、ある者は精神を蝕まれた後に自ら命を絶ち、ある者は何の動機もなく突然行方不明となり、ある者は家族もろとも不可解な死を遂げ……。数え出したらキリがないほどの犠牲者が、決して長くはないこの期間で次々と積み上げられていった。だが、制度を取り決めた当の百合香はというと、ただ犠牲者を憐れむ姿勢を見せるだけで、処刑制度や自分の裁定を省みることは一切しない。それどころか「悲劇」の原因は飽くまで自分には存在しないと、犠牲者本人やその周囲の人々を盾にしながらのたまってみせるのだ。
 学園の風紀、生徒一人の命や人権、そして自分の大切な家族を冒涜され。しかし抗議の応酬は、まず抗議自体の意味が分からないといった当然顔で。まるで人間の価値観が通用しない宇宙人を前にしているような感覚に、流石のいばらも言葉を失う他なかった。――この女には、何を言っても無駄だと。


「落ち着いてください、月乃宮風紀委員長。あなたのご姉妹がそのような真似をするような方でないことは、僕も存じております」

「安部野くん……」


 百合香に対して激昂している間に席を立ったのだろうか。いつの間にかいばらの斜め後ろに立っていた椎哉が、落ち着いた語調で声をかけてくる。姉の名誉を擁護してくれるような台詞にいばらは僅かに安堵し、しかし同時にそれ以上の不快感を抱いた。何しろ椎哉は彼女から見て、ある意味では百合香以上の不審の塊であったのだ。
 転入して間もないにもかかわらず、学園に貢献したいという理由での生徒会入会。生徒会への忠誠を誓っているかと思えば、一概に百合香の益にはならないような言動も行う付和雷同さ。彼にとっては赤の他人であるはずの、天本千明の病室への訪問。そんな怪しい行為を積み重ねている人間に庇われたところで、裏で何かを企んでいるのではないかと勘ぐってしまうのが正直な心情である。
 そんないばらの心情をよそに、百合香の意志を支持するようにして、今度は智が椎哉の言い分に異を唱えた。


「月乃宮さんの気持ちは分かるよ。でも、どんなに優秀な人でも医療ミスをすることはあるんじゃないかな」

「確かにその可能性も否定はできませんね。ですが。外因なく木嶋さんの様態が悪化しただけという可能性も同様に存在するでしょう」

「とは言っても、あの白羽病院だろう? 様態が急変したとしても、即座に対応できる技術や人員が揃っているはずだよ。それに、百合香だってそう言ってるし……」

「……まあ、僕たちがここで言い争っても、木嶋さんの死因が判明するわけではありません。餅は餅屋、死者は医者に任せておきましょう」



(続く)

170:ABN:2017/05/31(水) 05:22

(続き)



 智の主張から僅かに間を空けて、討論の中止を椎哉は提案する。彼の言う通り、専門的な医学の知識を持たない学生が、見てもいない死者の死因を推測するのは無謀だろう。姉の名誉にかかわる議論が流れてしまうのは不本意だが、その一点に関しては流石にいばらも賛同した。これでいばらと百合香の一触即発は解消されたと、教室にいた生徒たちは安堵のため息をつく。


「皆さん、お騒がせしてごめんなさいね。木嶋さんのお葬式などのお知らせは、決まり次第また連絡しますから。それでは……」

「お待ちください、生徒会長」

「……何かしら、安部野くん?」


 一礼して教室から立ち去ろうとした百合香を、議論を中止させた張本人である安部野が引き止める。訝しげな声色を若干含ませながら、それでも相変わらずな笑顔のまま百合香は振り返る。対して椎哉は、やはりいつも通りの微笑みを浮かべながら、目尻の下がりが浅い彼女の表情を見据えた。


「先ほど、月乃宮風紀委員長との会話に出てきました『天本さん』について、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 途端、日常的な雰囲気に戻ったはずの教室に再び緊張が走る。先ほどの険悪な会話の内容から、「天本さん」が処刑によって葬られた犠牲者の一人であること、つまり百合香がいるこの場にとって地雷とも言える話題であることは、学園に転入して数ヶ月経たない生徒でも理解できるはずだ。にもかかわらず、そんなデリケートな質問を遠慮もなしに投げかけた椎哉の蛮勇に、周囲の生徒たちは勿論いばらと智も目を見開いて驚愕した。その中でただ一人、百合香だけが笑顔を崩さずに返答する。


「それは今、聞かなければいけないことかしら?」

「いえ、回答に急を要するような質問ではございません。しかし月乃宮風紀委員長がああも取り乱していたとなると、よほど重大な事件だったのだろうとお見受けします。そのような出来事が過去にあったなら、僕も生徒会の一員として知っておく義務があるのではないでしょうか」


 ――あなたが知る必要はない。――いいえ教えてもらいましょう。
 譲る気はない本意を敬語というオブラートで厳重に包み、互いに言外で牽制し合う。厚い仮面を被った二人同士のプレッシャーは、教室の空気を不必要に研ぎ澄ますのだった。


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