思い付きのヘンテコ小説を書いていきます。
設定:中学校の生徒、教師との見えない闘い
登場人物(現時点において、随時追加)
香山怜菜……ある教師が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
怜菜はこの教師のことを信頼している。
登場人物が増えすぎてよくわからなくなったら、そのうちまとめます。
今日は、怜菜が通う緑ヶ丘第三中学校の入学式だ。
怜菜は、新入生と話すことが好きだ。
まだ中学校、という新しい環境になれていない新一年生。
彼らの緊張した表情がほぐれていき、やがて自分との新しい生活が始まっていく。
怜菜は、多くの人と仲良くすることで、生活しやすい環境の中学校を作ろうとしていた。
ただし、それは生徒会の人に頼まれたわけではない。
むしろ、怜菜が生徒会に提案したことでもある。そして、自分がまず行動に移していた。
入学式も終盤に近づいたころ、
「それでは、担任の先生を紹介します」
という先生の声が聞こえてきた。
何も入学式の途中でやらなくてもいいのにな……とは思ったが、口には出さないでおいた。
新入生たちの、少しだけ慣れてきた顔が、その一言でまた引きつった。
私は、隣にいる杏奈を見た。
杏奈は、担任の先生が誰になるのか、春休み前、確か一番騒いでいたからだ。
しかし、今は騒いでいたようには見えなかった。
私のクラスは、三年三組だ。
「三年三組担任、渡井政人先生」
ステージの上でマイクを持って、担任の発表をしていた先生がこちらを見た。
「新しく入ってきた先生です。あなたたちの方が、緑ヶ丘第三中学校に関しては、先輩だから宜しくね」
そう、三年生のクラスにはよく、転入してきた先生が来る。
逆に、新入生のクラスにはよく、新卒の先生が来る。
「意味わかんねーよ、何でまた転入してきた先生なんだよ」
ほら、出た! 先生に対する文句。
叫んでいたのは、学年でもいたずらをよくする、大毅君だ。
「まーまー、そんなこと言わずに」
杏奈が適当に慰めているのを見ていて、少しだけ笑ってしまった。
そして、転入してきた先生……渡井政人先生が入ってきた。
第一印象は、熊。
がっちりした肩、ちょっと丸い顔、黒に近い肌の色。
どこをどう取っても、ザ・熊だ。
「えーと、隣の市から来ました、渡井政人です!」
挨拶する声が無駄に大きい気がする。
そして、顔がキラキラと、おもちゃを買ってもらって喜んでいる子供のような顔をしている。
大毅君が、
「熊じゃねえか……」
と、先生に聞こえる声で呟いているのを聞いてしまい、思わず吹き出してしまう。
隣の席の杏奈を見ると、吹き出すを超えて、笑い転げている。
「俺は熊じゃねえよ」
とニコニコしながら言う渡井先生を見る私達。
「しかし、よくあのタイミングであんな事言えたね」
「だって本当のことだろ?」
何か、また新しいいたずらを考えながらわくわくしている表情で、大毅君は言う。
でも、私は渡井先生に、良い印象を抱けなかった。
理由は、自己紹介の後に話したことだ。
「えーと、それじゃ、次は渡井が目指す学級、みたいなものを話すか。
まず、規則をしっかり守る! まあそれは、時間についても同じだ。
次に、みんなが毎日笑う! まあこれは当たり前だよな!
最後に、いじめは許さない! 人を傷つけないこと!」
まあ、やたらハイテンションでそう話していたのだが。
はっきり言って、バカみたい。
規則を守るって、そりゃ当たり前のことだし。
いじめについてもそうでしょ。まあ、人と人との関わりだから、絶対に、誰一人として傷つくことのないクラス、は
流石に無理だと思うけれど……。
みんなが毎日笑う、については文句を言いたくなった。
私は、多くの人と……主に新入生との関わりを取ることで、先輩後輩の壁が、分厚くなりすぎて堅苦しい、という
環境を避けたいから、多くの人との関わりを持つ。
けれど、人間関係が苦手、という人もいるのに、そんな無神経にそんなこと言われても、反発しか生まれない。
「今年は、ハズレかもね」
杏奈がそう言って、口元だけで笑う。
杏奈は、ほとんどの先生に対し、信頼することはないし、関わろうともしない。
今年入ってきた渡井先生に対しても、恐らく、杏奈が昔会った、差別、えこひいきをする
とんでもない先生と同じ印象を抱いたのだろう。
第一印象、熊(そして当たり前のことしか言わない)イコール渡井先生の姿を見るのが、何となく嫌だった。
だから、隣の三年二組の担任、前嶋結衣先生のもとへ行くことにした。
「ああ、あの先生ね。でもまあ、大丈夫だよ、怜ちゃんなら」
結衣先生は、私のことを『怜ちゃん』と呼ぶ。
結衣先生について、私はこんな印象を抱いている。
大人しい、けれどしっかり者で、見た目は可愛い。
ちなみに、年齢は知らない。渡井先生は確か、三十歳だっけ?
「でも、初めてあんなタイプの先生来たら、結構びっくりしちゃうよね〜」
結衣先生はそう言ってほほ笑んだ。ああ、女神様みたい……。
大毅君は、結衣先生に対して
「お母さんみたい……いや、保育士さん?」
と言っていたっけ。それを、偶然通りかかった結衣先生に聞かれたんだよなあ。
「別にお母さんらしいとは思わないけどね」
と、結衣先生が後ろで呟くように言ったから、私も大毅君も驚いて飛び上がったのを覚えている。
次の日の朝。
三年三組の教室は、朝から騒がしかった。
理由は一つ。渡井先生が踊っていたから……。
それを見て、結衣先生は
「写真に撮りたい」
と言いだして、とたんに踊るのをやめた渡井先生を見て、
「熊が踊ってた! マジウケる〜」
と大毅君がSNSに乗せる時のコメントのようなセリフを言ったことで、その場は盛り上がって……。
一時間目は音楽だった。
結衣先生は、音楽室に入ってきた私達を見て
「朝の渡井先生の踊り、面白かったわね。本物のクマさんみたいで」
と、何の悪意もない純粋な目で言ったから、また笑いの渦が巻き起こった。
給食の時間になると、渡井先生はうるさい。
「給食は残すなよ! 残しても無理やり食わせるからな!」
と、それは極悪人のような顔で言ったから、少食な杏奈は困っていた。
「それは酷いなあ……」
求職が終わってすぐ、結衣先生に話した。
「流石に、給食の量くらいは自分で調節したいよね。皆がたくさん食べられるわけじゃないし」
そう、まさにその通りだ。
第一印象が熊で、言ってることは自論を押し付けているだけとは、とんでもない教師に当たったものだ。
しかし、これがまた渡井先生のすごい所で、何故か他の先生たちは知らない。
バレないようにうまくやっているんだろう、どうしようもない。
>>8の誤字訂正 求職→給食
10:さくら:2017/12/14(木) 18:39 新しいクラスにも、一週間も経てば慣れる。
しかし、私は慣れなかった。何故なら、担任があまりにも苦手なタイプだったから。
「怜菜ー、ちょっといいか?」
大毅君が小さな声で私を呼んだ。
「ん、どうしたの? 大毅君が、私に何の用?」
「実は、さ……」
どうやら、熊(渡井)先生は、私が生徒会の人に提案(前に、新入生に話しかける、という)したことが
気に食わないらしい。
「えー、じゃあ何で本人に面と向かって言わないのさ、何かやだな」
「俺にそんなこと言うなよな〜」
もう、このお調子者が! でも、今は元気でたかも!
教室に入ると、熊(渡井)先生はいなかった。
「ラッキー!」
思わず、口に出してしまった。
近くでそれを聞いていた杏奈が、
「怜菜、口に出てる……」
と、言いながら吹き出してしまった。
そして、今日はすぐに家に帰った。
もう、担任の顔を見ているとイライラしてくる。
「そりゃダメだよ」
お母さんは熊(渡井)先生のことを知らない。
だからこそ、そんなことを言える。
「へぇ!怜菜先輩にも苦手な人っているんですね!」
仲良くなった、後輩の亜依が言う。
「そりゃいるよ、だって人間だし」
亜依にとって、私は明るく良い先輩らしい。
ちなみに、お母さんとは帰ってすぐに、亜依とは電話で話した。
ここで、登場人物(追加分)をざっくり説明します。
杏奈……怜菜の友人。基本静かな割に、騒ぎたいとき騒ぐ。
大毅……三年生の中でも有名ないたずらっ子。
亜依……怜菜と仲良くなった後輩。
熊……渡井先生のあだ名。
私は次の日、杏奈と一緒に学校に行った。
「うーん、何だか、渡井ダメだよね……怜菜、ドンマイ」
そう言い、杏奈は微笑を浮かべる。
やっぱり、杏奈はすごい。
まず、渡井先生を見て
「あ、こりゃダメだ」
と直感的に思ったらしい。
そして、それが見事に的中している。
「もう、結衣先生に言えば?」
「でもさ、何だか無理そうだよ?」
「え、どういうこと?」
杏奈はキョトンとした顔で言う。
そりゃそうだろう、渡井先生に言う事のどこが無理なのか。
誰にもわからないはずだ。
……その現場を見たことが無い人は。
私は正直に言う。
「昨日の放課後、佐野愛衣さんと、秋山悠太君が渡井先生と話しているのを見たんだよ」
それは、本当に偶然のことだった。
いつものように帰ろうとしたら、渡井先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
「何言ってるんだっ!?」
一体何事だ、と私は走り出したが、すぐに忍び足に変えた。
すぐ近くに、佐野愛衣さんと秋山悠太君がいるのが見えたから。
「先生……」
「貴方達には、僕はそんな人間に見えていたんですか?」
「っ……」
悔しそうに、下を向いて唇をかむ佐野愛衣さん。
秋山悠太君は、それでも
「でも、先生明らかに差別していましたよね」
と食い下がっていた。
だけど、渡井先生は
「僕はそんなことはしていませんからね?」
と言うと、私に気が付いたらしく
「おや、香山怜菜さん。何しているんです?」
と笑顔で言った。
私は
「あ、帰ろうと思ったら、何だか大きな声が聞こえた気がして……気のせいですよね」
と言い、辺りを見渡す。
「そう言えば、さっき聞こえたね。でもそんな事ないよ」
と渡井先生はまた笑顔で言う。
私は、愛衣さんと同じ地区に住んでいることから、
「愛衣さん、一緒に帰ろう?」
と誘う。
「あ、じゃあ……うん」
小さく、一瞬でも目を放したら消えそうな笑みを口元に浮かべ、カバンを手にする愛衣さん。
その後ろで、「僕も一緒に帰っていいかな?」という悠太君。
「じゃあ一緒に帰ろっか! 先生、さようならー!」
「はい、さようならー!」
どこからどう見ても、不自然なところが無い笑顔。
だけど、私はその時、聞いてしまった。
「何でバレた……」
という渡井先生の小さな声が。
キャラ(新登場)
秋山悠太……クラスメイト。割と大人しめ。
佐野愛衣(あい)……クラスメイト。普段は大人しいが、意見を言うときはしっかりとモノを言う。
その日の帰り道、私は悠太君と愛衣さんに、渡井先生が小声で
「何でバレた……」
と言っていたことを話した。
「ああ、やっぱり合ってたんだな」
悠太君が言うには、愛衣さんと一緒に、先生の手伝いをするように言われたが、二人とも委員会の仕事があり、
それを断ったところ、理不尽に怒られたというのだ。
「それを言ったら、周りがドン引きするくらい渡井怒ったんだよ」
まさか自己中……いや、でもそんな人先生になれないと思うけれど。
「でも、実際教師になれてるよね」
そう、そこだ。
もし、悠太君、愛衣さんが言う事が本当ならば、人間としてどうかと思うレベルだ。
教師云々以前の問題だ。
「で、でもっ……」
愛衣さんが下唇を悔しそうに噛み、うつむいた。
「わかってるよ、嘘じゃないって言う事でしょう?」
愛衣さんに対して、何をどうすればいいのかはわからないけれど。
でも、私はさっき、見ていたのだ。
だから。
「実は、さっき植え込みの陰から見てたんだよ」
私は、二人にそう伝えた。
だって、私は、あの時の渡井先生を見て思ったんだ。
――絶対に、二人の味方になってやるって。
「見てたの?」
流石に、普段リアクションが薄い悠太君ですら、私が偶然でも見てしまったことに驚きを隠せないようだ。
「まあね……帰ろうと思って、通りかかったその時に、二人の姿が見えてさ。その前に誰かの怒鳴り声が
聞こえたから、すごい気になったんだ」
でも、まさかそれが渡井先生の怒鳴り声だとは思わなかったけれどね。