第一話
『
甲「僕は動産甲。今日、ご主人様のAとお別れすることになるの」
乙「俺は不動産乙だ。Aの野郎がBに甲を売りやがったんだよ」
甲と乙が話しかけていたのは債権丙に対してだった。
丙「へえ。っていうことは僕は債権なんだけどAB間の売買契約に基づく代金債権が僕ってことか」
乙「そうだよ。お前が生まれなければ、甲は俺とずっと一緒だったんだよ! 」
不動産乙は丙の存在を徹底的に否定すが故に罵った。
丙「乙君は馬鹿だよね。僕が生まれなくても贈与契約で甲君がいなくなっちゃうかもしれないし……それに、僕なんか債権者Aが債務者Bから弁済を受けたら存在ごと消えちゃんだよ? 」
乙「てめえが消えようが関係ないね! てめえに価値はないんだよ。ただの無体概念の分際でよ」
不動産乙の罵りは収まらなかった。
甲「2人とも喧嘩はやめてよ。それに、丙ちゃんと違って私は消えたりしないわ! 」
丙「……」
1、終わり。
』
第四話
乙「どうやら俺さ、最近、病にかかってしまったんだよ」
と、唐突に不動産乙がそう言った。
丙「乙君……一体どうしたの? 」
乙「お前に心配なんかされたくねえよ」
甲「病気、大丈夫なの? 」
乙「どうやら、Aの野郎が俺に不動産質権を設定しやがったんだ」
と、不動産乙が言った。不動産質権というのは、要は債権を担保する担保権の1つである。君たち自身又は君たちの親が銀行からお金を借りて(ローン)家を建てた場合に担保権が付されるだろうが、この場合は不動産質権よりも抵当権の方が多いだろう。
甲「ということは、Aが誰かに債務を負っているということになるよね? 」
乙「そうだ。俺の使用収益権(使用する権利のこと)は特別の約束がない場合は、質権者に渡ってしまう。で、特別の約束はないみたいでな」
丙「じゃあ、甲君と乙君はお別れになってしまうということ……か」
そして、その日のうちに、Aは不動産乙を債権者Cに明け渡したのであった。当然、動産甲はAの本日以降の住居へと連れていかれた。
3、終わり
※
「ライフルで頭を撃たれたくなきゃ、今すぐ出ていけ! 」
私は侵入者に対して警告した。
「こいつ、じゅ、銃を持っていやがるのか? 」
侵入者はそう言って驚いたそぶりを見せた。だが、それも一瞬のことであり、逆に侵入者も銃らしきものを取り出したのであった。
「どうせそれは偽物だろ? こっちは本物だぜ」
侵入者はそう言った。
このライフルを偽物と思っているらしい。ならば、これが本物の銃であると分からせるために必要なことは簡単だ。こいつで奴を撃ち殺せば良い。いや、殺してしまったら欲者であると知る機会がないから、急所ではないところを撃つとしよう。
私はライフルを奴の下半身に向けて、一発撃った。
大きな音が部屋中に鳴る。日本において、日常生活で決して聞くことのない音だろう。
「ぐっ! 」
侵入者は撃たれた足を手で押さえた。
「さて、君は神聖小説守護会とかいう教団の一員だな? 」
「……てめえがあの台本書きを擁護したのが悪いんだ」
「教団の一員か。なら、ここでくたばれ」
私はもう一発、ライフルを撃ち奴を殺した。
ここで事件を起こした以上、捕まるのも時間の問題だが、素早く支度をし家を出た。そそれから10分ほど走り、駅へと到着した私はスマホで例の小説のスレを見た。
「ほう、投稿されてるじゃん」
第四話 終わり
第五話
「パソコンも使わせていただき、本当にありがとうございます」
俺は警察に保護されて以降、警察署で寝泊りしているのだが、パソコンも自由に使うことができた。
ただ、
「佐藤さん。ただ、例のテロリストたちを無暗に刺激しないよう、小説の投稿を控えて欲しいのですけどね? まあ、強制はできませんが」
と、警察官から小説の投稿をしないよう求められていた。まあ、保護されている以上、この求めに応ずるべきだろう。しかし、俺は小説を投稿したいという欲を抑えることは困難の極みであった。しかも、警察署に来て以来、一話分については投稿してしまっている。
「善処はします……」
「お願いしますよ、佐藤さん」
…………。
もう一話分、投稿しちゃおう。
欲望には忠実に!
※
4
動産甲が不動産乙と離れ離れになってから、およそ半年程たったころ、不動産乙が放火されたという情報が動産甲のもとに入ってきた。
丙「乙君、完全に全焼だって……」
甲「お、乙君が、し、死んじゃったの……。い、嫌だよ」
そして、その放火の結果、不動産乙は全焼し消えてなくなったのである。動産甲はその情報に心を病んだ。
それから、一週間程経った。
?「おぉーい! 甲」
甲「えっ!? この声……」
それは動産甲が心を病んだことによる幻聴なのか、死んだはずの不動産乙の声が聞こえてきたのであった。
4 終わり
第五話 終わり
第六話
5
?「甲! 」
甲「乙君……この声、乙君だよね! 」
確かに動産甲には、全焼したはずの不動産乙の声が聞こえてきたのである。だが、これは単なる幻聴なのではないのだろうか、と動産甲自身も思った。
乙「俺は、全焼して消滅してしまった。だが、Aが放火犯に対して生じた債権……、詳しく言うならAの放火犯に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が発生したわけだ。で、俺はその債権となって漂っているわけよ。丙のやつと一緒にな」
甲「債権っていうことは、有体性がない無体概念ってことだよね? 丙ちゃんと同じで、幽霊みたいな存在だよね? 」
乙「ゆ、幽霊っていうのよな」
動産甲は元不動産乙であった債権乙との再会に喜んだ。
尚、元々、不動産乙を目的としていたCの不動産質権は、物上代位によって以降は債権乙に及ぶことになる。
丙「良かったね! 甲ちゃんに乙君も」
乙「お前はどっかに言ってろよ。というか早くBに弁済されて消えろよ」
丙「相変わらず酷いことを言うよね。同じ債権だっていうのにね? 」
甲「2人とも止めて……」
何はともあれ、乙は帰ってきた。
だが、これで債権乙も『債権』である以上放火犯からAに弁済がなされると消滅することになるのであった。
5 終わり
※
※
「あ、あんたは……」
「久しぶりだな? しばらくここで匿ってくれや」
私は自宅で神聖小説守護教会の信者を殺害し、『かつての仲間』が未だ活動を続けるアジトへと逃げてきたのであった。
「匿って欲しいだと? 組織を脱退した裏切り者を匿うつもりはないぞ」
と、『かつての仲間』から見捨てられたかのようなことを言われた。だが、恐らく相応の金払えばどうにかなるだろう。
「数年前に資本家共の銀行を襲撃して、奪った現金があるんだが……100万円ほど支援するよ? これでどうよ」
「おい、そんなに支援してくれるの? なら先に言ってよ」
そう言って、私はバックの中から札束を取り出して、手渡した。まあ、この100万円が、この『かつての仲間』たちが手にする最後の大金になるだろう。恐らく、神聖小説守護教会の連中が、このアジトを襲撃するのも時間の問題だからだ。
「さてと……」
私は、とりあえず椅子に座り、スマホで例の小説のスレを開いた。
「短時間のうちに、2話分も投稿されてるじゃないか……」
私は投稿された小説を読みながら、私が死ぬ前にこの小説が完結することを祈ることにした。
第六話 終わり
第七話
「ただちに武器を捨てて、投降しなさい」
私たちは、警察に包囲されていた。
「同志司令! 弾薬が残り僅かです。如何いたしますか? 」
部下が、私に訊ねた。私を含めて5人で市役所を襲撃し、立て籠もってから2週間が経っている。この間、別動隊が警察署などを襲撃を行ったりした結果、ここまで粘ることができていたのである。
「抵抗を続ける。それだけだ」
私は、そう指示した。
しかし、その後すぐに機動隊による突入よって私たちは逮捕されたのであった。
「見てください! 暴力革命を主張する共産主義者たちで構成される世界赤軍のメンバーが今、次々と逮捕されています! 」
近くでテレビ局の人間が、私たちをカメラで映していた。まあ、ここまでの事件を引き起こしたのだから、連日連夜、ニュースで報じられていたのだろう。
共産革命か。もう馬鹿らしい。
私は、薄々、そう思うようになってきていたのである。
………………。
ああ、嫌な夢を見てしまった。過去の出来事が夢として現れたのである。かつて、世界赤軍の一員として私はテロ活動を行っていた。そして、神聖小説守護教会から一時的に身を隠すためにやってきたこのアジトは、世界赤軍の残党共のアジトなのだ。
※