第一話
『
甲「僕は動産甲。今日、ご主人様のAとお別れすることになるの」
乙「俺は不動産乙だ。Aの野郎がBに甲を売りやがったんだよ」
甲と乙が話しかけていたのは債権丙に対してだった。
丙「へえ。っていうことは僕は債権なんだけどAB間の売買契約に基づく代金債権が僕ってことか」
乙「そうだよ。お前が生まれなければ、甲は俺とずっと一緒だったんだよ! 」
不動産乙は丙の存在を徹底的に否定すが故に罵った。
丙「乙君は馬鹿だよね。僕が生まれなくても贈与契約で甲君がいなくなっちゃうかもしれないし……それに、僕なんか債権者Aが債務者Bから弁済を受けたら存在ごと消えちゃんだよ? 」
乙「てめえが消えようが関係ないね! てめえに価値はないんだよ。ただの無体概念の分際でよ」
不動産乙の罵りは収まらなかった。
甲「2人とも喧嘩はやめてよ。それに、丙ちゃんと違って私は消えたりしないわ! 」
丙「……」
1、終わり。
』
※
「ちょっと変わった小説だな。これはこれで面白い」
私は某小説サイトのとある小説を読んでいた。台本書きなのが残念なことだが、私には相性が良い物語である。だが、この作者は残念だ。このご時世に台本書きにて投稿をしてしまったがために、人生を壊されてしまうだろう。
「残念だな……。せめてご冥福を祈るよ。どこの誰が知らないが君は悪くないのだ」
それから数分して、その小説のスレには小説ではない書き込みがあった。
『 神聖小説守護教会の者です。貴方は【台本書き】なる悪魔と契約して、神聖な小説様を純潔を汚しました。その代償は高くつきますよ。待っていてくださいね 』
嗚呼。早くも奴らに見つかってしまったか。まあ仕方のないことだ。神聖小説守護教会というのは破防法の適用があるがために、宗教法人ではないものの、れっきとした宗教団体なのである。で、その信徒は日本国内だけで400万人いるとされる。自分たちの教義に合わない者は徹底的に殲滅するとのことで、毎年大勢の無辜を殺傷しているのだ。で、その教義というのが、簡潔に言えば台本書きをするなというものである。
『 この台本を見ている者も同罪です。いずれ代償を受けることになるでしょう』
私がネットを通じてこの台本を読んでいることが奴らにバレているのかは知らない。しかし、バレていたら地の果てまで追ってでも、私を殺そうとするだろう。
「私に手を出そうものなら多少の抵抗はしないとな……先輩としてね」
ある意味では、私は彼ら神聖小説守護教会の連中の先輩と言えると私は思っている。それ故になんだかんだ「抵抗」という言葉に酔っている自分がある。
「さて、そろそろ寝るとするか」
私は部屋の中にあるタンスを見つめてながら、ベットに入った。いざっていうときはタンスまで走る。まずはそれが第一歩。
第1話 終わり
第2話
『
丙「中々、僕は消えないな〜」
乙「だから何だよ。とっとと消えろよ」
甲「二人ともやめて」
動産甲がAからBに引き渡される日が過ぎても、動産甲は未だAのもとに有った。
丙「でも、僕が消えた時こそ、甲ちゃんもここから居なくなっちゃんだよ? 」
甲「……そうだね。丙ちゃんが消えた時こそ、同時履行の抗弁権という結界が消えて、私も今度こそ乙君たちとお別れになっちゃうのね」
乙「な、なにを言ってるんだよ。意味わかんねえことを言ってるんじゃねえよ」
動産甲が未だこうして乙たちと一緒にいるのは、弁済期にあるにも関わらずBが中々、代金を支払わないために、Aが同時履行の抗弁権を行使したためであった。だが、動産甲はBの債務不履行のおかげで、不動産乙とまだ一緒に居続けることができていた。そしてBが債務不履行だからこそ債権丙も消滅せずにいる。
2、終わり
』
※
昨日に続けて、例の小説のスレを見てみると、どうやら更新されていた。そして、小説以外のコメントではなく小説が投稿されていたのだ。どうやら、動産甲は不動産乙と一緒に居たようである。
『 あなたは、まだ神聖な小説様を凌辱するのですか。私は絶対に許しません』
そして、一番新しいレスを見ると、例の教団の一員であろう者が書き込んだコメントであった。
「むかつくから俺も書き込むか」
『 私は台本書きでもいいと思いますがね? 』
と、私もこのスレに書き込んでしまった。万が一にも特定された生命の危機にさらされるであろうが、その生命の危機は、書き込んでいる最中の私を止めるには至らなかったのだ。
「まあ、いいか。何度も死にそうになったことはあったしな。何せ死刑囚のくせに脱獄した身だしな」
私は死刑囚なのだが、脱獄しての逃亡生活を続けている。そもそもこの変な教団よりも警察に捕まるほうが可能性が高いわけで、考えてみれば、私はどうなってもよかったことに気づいたのだ。
もちろん、脱獄したことには理由があったのだが、その理由とやらは既に済ませてある。
「さて、飯でも買いに行くか」
そして私はパソコンの電源をオフにして、出かける準備をした。
第二話 終わり
第三話
突然、インターフォンが鳴った。
「うっ!? 」
俺はそのインターフォンの音を聞いたとたんにビクッと体が震えだしたのであった。事の発端は、俺が投稿した小説だった。
「と、とりあえず誰なのか確認してみよう」
俺は、玄関まで向かいドアスコープから外を覗くと、するとスーツ姿の男性2人が立っていたのである。
「佐藤さん、佐藤雄一さん。警察の者ですがいらっしゃいませんか? 」
手には警察手帳を持っていたので、確かに警察関係者のようだ。
「はい」
私はそう言って、玄関のドアを開けた。
「佐藤雄一さん。単刀直入に言いますが、貴方はテロリストに狙われています。警察署で保護いたしますので、至急ご同行をお願いします」
テロリスト……やはり、俺はあの変な名前の宗教団体に狙われていたようだ。で、警察も俺の投稿した小説を読むなりして、俺が狙われていると睨んだのだろう。しかし、幸い警察から保護を受けられるようで、とりあえずは安心できる。
「わかりました。す、直ぐに準備をいたしますので」
俺はそう言って、急いで家を出る支度をした。
第三話
突然、インターフォンが鳴った。
「うっ!? 」
俺はそのインターフォンの音を聞いたとたんにビクッと体が震えだしたのであった。事の発端は、俺が投稿した小説だった。
「と、とりあえず誰なのか確認してみよう」
俺は、玄関まで向かいドアスコープから外を覗くと、するとスーツ姿の男性2人が立っていたのである。
「佐藤さん、佐藤雄一さん。警察の者ですがいらっしゃいませんか? 」
手には警察手帳を持っていたので、確かに警察関係者のようだ。
「はい」
私はそう言って、玄関のドアを開けた。
「佐藤雄一さん。単刀直入に言いますが、貴方はテロリストに狙われています。警察署で保護いたしますので、至急ご同行をお願いします」
テロリスト……やはり、俺はあの変な名前の宗教団体に狙われていたようだ。で、警察も俺の投稿した小説を読むなりして、俺が狙われていると睨んだのだろう。しかし、幸い警察から保護を受けられるようで、とりあえずは安心できる。
「わかりました。す、直ぐに準備をいたしますので」
俺はそう言って、急いで家を出る支度をした。
※
「なんだよ投稿されてないのか……」
私は一昨日、昨日に続き、例の小説のスレを開いたものの、今日は小説が投稿されていなかったようで残念だった。だが、小説外のコメントは投稿されていた。
『 佐藤雄一さん。貴方が千島県警の択捉警察署に居るのは知っていますよ? 今から行きますからね』
どうやら見たくもない神聖小説守護教会の人間が書き込んだものだった。とはいえ、仮にこの書き込みが正しければ、小説の投稿者は警察署に居るようだ。保護でもされたのだろうか?
「でも奴らは、武装して警察署を襲う必要があるんだよな……」
神聖小説守護教会は本当に危険な連中であり、自衛隊の駐屯地を襲撃したこともある。つまり警察署ごときじゃ、対応できないのである。もちろん、この教団のアジトが警察や自衛隊によって制圧されることも多いが、奴らは日本各地にゴキブリのように巣食っているので次から次へと湧いて出てくるのだ。
それから少しばかり時間が経ったのである。私は別のサイトを適当に見ていたら、インターフォンの音が鳴った。
「誰なんだ? 」
私は玄関へ向かおうとした途端、突然、その玄関が開いた音が聞こえてきたのであった。
「勝手に開けたのか……? まさか! 」
私はタンスへと急いだのであった。
第三話 終わり
第四話
乙「どうやら俺さ、最近、病にかかってしまったんだよ」
と、唐突に不動産乙がそう言った。
丙「乙君……一体どうしたの? 」
乙「お前に心配なんかされたくねえよ」
甲「病気、大丈夫なの? 」
乙「どうやら、Aの野郎が俺に不動産質権を設定しやがったんだ」
と、不動産乙が言った。不動産質権というのは、要は債権を担保する担保権の1つである。君たち自身又は君たちの親が銀行からお金を借りて(ローン)家を建てた場合に担保権が付されるだろうが、この場合は不動産質権よりも抵当権の方が多いだろう。
甲「ということは、Aが誰かに債務を負っているということになるよね? 」
乙「そうだ。俺の使用収益権(使用する権利のこと)は特別の約束がない場合は、質権者に渡ってしまう。で、特別の約束はないみたいでな」
丙「じゃあ、甲君と乙君はお別れになってしまうということ……か」
そして、その日のうちに、Aは不動産乙を債権者Cに明け渡したのであった。当然、動産甲はAの本日以降の住居へと連れていかれた。
3、終わり
※
「ライフルで頭を撃たれたくなきゃ、今すぐ出ていけ! 」
私は侵入者に対して警告した。
「こいつ、じゅ、銃を持っていやがるのか? 」
侵入者はそう言って驚いたそぶりを見せた。だが、それも一瞬のことであり、逆に侵入者も銃らしきものを取り出したのであった。
「どうせそれは偽物だろ? こっちは本物だぜ」
侵入者はそう言った。
このライフルを偽物と思っているらしい。ならば、これが本物の銃であると分からせるために必要なことは簡単だ。こいつで奴を撃ち殺せば良い。いや、殺してしまったら欲者であると知る機会がないから、急所ではないところを撃つとしよう。
私はライフルを奴の下半身に向けて、一発撃った。
大きな音が部屋中に鳴る。日本において、日常生活で決して聞くことのない音だろう。
「ぐっ! 」
侵入者は撃たれた足を手で押さえた。
「さて、君は神聖小説守護会とかいう教団の一員だな? 」
「……てめえがあの台本書きを擁護したのが悪いんだ」
「教団の一員か。なら、ここでくたばれ」
私はもう一発、ライフルを撃ち奴を殺した。
ここで事件を起こした以上、捕まるのも時間の問題だが、素早く支度をし家を出た。そそれから10分ほど走り、駅へと到着した私はスマホで例の小説のスレを見た。
「ほう、投稿されてるじゃん」
第四話 終わり
第五話
「パソコンも使わせていただき、本当にありがとうございます」
俺は警察に保護されて以降、警察署で寝泊りしているのだが、パソコンも自由に使うことができた。
ただ、
「佐藤さん。ただ、例のテロリストたちを無暗に刺激しないよう、小説の投稿を控えて欲しいのですけどね? まあ、強制はできませんが」
と、警察官から小説の投稿をしないよう求められていた。まあ、保護されている以上、この求めに応ずるべきだろう。しかし、俺は小説を投稿したいという欲を抑えることは困難の極みであった。しかも、警察署に来て以来、一話分については投稿してしまっている。
「善処はします……」
「お願いしますよ、佐藤さん」
…………。
もう一話分、投稿しちゃおう。
欲望には忠実に!
※
4
動産甲が不動産乙と離れ離れになってから、およそ半年程たったころ、不動産乙が放火されたという情報が動産甲のもとに入ってきた。
丙「乙君、完全に全焼だって……」
甲「お、乙君が、し、死んじゃったの……。い、嫌だよ」
そして、その放火の結果、不動産乙は全焼し消えてなくなったのである。動産甲はその情報に心を病んだ。
それから、一週間程経った。
?「おぉーい! 甲」
甲「えっ!? この声……」
それは動産甲が心を病んだことによる幻聴なのか、死んだはずの不動産乙の声が聞こえてきたのであった。
4 終わり
第五話 終わり
第六話
5
?「甲! 」
甲「乙君……この声、乙君だよね! 」
確かに動産甲には、全焼したはずの不動産乙の声が聞こえてきたのである。だが、これは単なる幻聴なのではないのだろうか、と動産甲自身も思った。
乙「俺は、全焼して消滅してしまった。だが、Aが放火犯に対して生じた債権……、詳しく言うならAの放火犯に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が発生したわけだ。で、俺はその債権となって漂っているわけよ。丙のやつと一緒にな」
甲「債権っていうことは、有体性がない無体概念ってことだよね? 丙ちゃんと同じで、幽霊みたいな存在だよね? 」
乙「ゆ、幽霊っていうのよな」
動産甲は元不動産乙であった債権乙との再会に喜んだ。
尚、元々、不動産乙を目的としていたCの不動産質権は、物上代位によって以降は債権乙に及ぶことになる。
丙「良かったね! 甲ちゃんに乙君も」
乙「お前はどっかに言ってろよ。というか早くBに弁済されて消えろよ」
丙「相変わらず酷いことを言うよね。同じ債権だっていうのにね? 」
甲「2人とも止めて……」
何はともあれ、乙は帰ってきた。
だが、これで債権乙も『債権』である以上放火犯からAに弁済がなされると消滅することになるのであった。
5 終わり
※
※
「あ、あんたは……」
「久しぶりだな? しばらくここで匿ってくれや」
私は自宅で神聖小説守護教会の信者を殺害し、『かつての仲間』が未だ活動を続けるアジトへと逃げてきたのであった。
「匿って欲しいだと? 組織を脱退した裏切り者を匿うつもりはないぞ」
と、『かつての仲間』から見捨てられたかのようなことを言われた。だが、恐らく相応の金払えばどうにかなるだろう。
「数年前に資本家共の銀行を襲撃して、奪った現金があるんだが……100万円ほど支援するよ? これでどうよ」
「おい、そんなに支援してくれるの? なら先に言ってよ」
そう言って、私はバックの中から札束を取り出して、手渡した。まあ、この100万円が、この『かつての仲間』たちが手にする最後の大金になるだろう。恐らく、神聖小説守護教会の連中が、このアジトを襲撃するのも時間の問題だからだ。
「さてと……」
私は、とりあえず椅子に座り、スマホで例の小説のスレを開いた。
「短時間のうちに、2話分も投稿されてるじゃないか……」
私は投稿された小説を読みながら、私が死ぬ前にこの小説が完結することを祈ることにした。
第六話 終わり
第七話
「ただちに武器を捨てて、投降しなさい」
私たちは、警察に包囲されていた。
「同志司令! 弾薬が残り僅かです。如何いたしますか? 」
部下が、私に訊ねた。私を含めて5人で市役所を襲撃し、立て籠もってから2週間が経っている。この間、別動隊が警察署などを襲撃を行ったりした結果、ここまで粘ることができていたのである。
「抵抗を続ける。それだけだ」
私は、そう指示した。
しかし、その後すぐに機動隊による突入よって私たちは逮捕されたのであった。
「見てください! 暴力革命を主張する共産主義者たちで構成される世界赤軍のメンバーが今、次々と逮捕されています! 」
近くでテレビ局の人間が、私たちをカメラで映していた。まあ、ここまでの事件を引き起こしたのだから、連日連夜、ニュースで報じられていたのだろう。
共産革命か。もう馬鹿らしい。
私は、薄々、そう思うようになってきていたのである。
………………。
ああ、嫌な夢を見てしまった。過去の出来事が夢として現れたのである。かつて、世界赤軍の一員として私はテロ活動を行っていた。そして、神聖小説守護教会から一時的に身を隠すためにやってきたこのアジトは、世界赤軍の残党共のアジトなのだ。
※