時間戦士 アシタ☆ガールズ

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1:ふたば◆r.:2019/08/02(金) 19:00

いつもと変わらない街並み。
いつもと変わらない人々。
いつもと変わらない日常。


……変わらないまま、時が過ぎていた。
と、言うより、過ぎる時すらその場所には存在しないのである。

全ての時が、止まっているのだから。



「……はあっ、はあっ!」

全てが止まった世界で、ただ一人動いている少女がいた。
その少女は、腰にバックルを巻き、肩や脚に防具のついた青色の戦闘服に身を包んでいる。

「誰か、誰かいないの?誰か、止まっていない人は……!」

その少女は、探していた。
手に持ったもう一つの同じバックル……タイムドライバーを託せる人間を。


「居るはずないだろ?俺らが全部止めてんだから」

「くっ……また、あなた!」

少女を嘲笑い、立ちはだかる若い青年。
長丈の服を着た青年の隣には、怪獣をそのまま小型化したような異形の怪物が従えられていた。

「ぐるるるる……」
「ま、負けないんだからっ……勝って、明日を取り戻してみせるんだから!」

少女は、戦闘用手袋で覆われた両手をしっかりと構え、戦闘態勢を取る。


「やれ」

青年の合図で、怪人が少女に襲いかかった。
そして少女も、怪人に向かって飛びかかり、そして………!



光が、彼女たちを包んだ。

2:ふたば◆r.:2019/08/02(金) 19:18

「きりーつ、れーい!」
その合図で、静かだった教室が一気にざわつき始めた。
生徒たちは一斉に立ち上がり、机を片付けて教室を飛び出して行く。


「こらー!教室も廊下も走るなよー!?」

やんちゃな小学生の彼等を受け持つこの教師。
注意はするがそこまで怒ってはいない。

「ふぁあ……疲れた!帰ったら……寝よう!」

ランドセルを背負い、教室を後にする一人の少女がいた。
名札には、今川あすかと書かれている。学年は四年生。遊び盛り真っ盛りの時期だが、彼女はとても眠たく、早く帰りたかった。

なので、学校を出る足取りもゆっくりであった。



街は、今日も賑わっている。
道ゆく人々は皆笑顔で、犯罪など起こらない。至って平和な場所。
そこを歩くあすかもまた、笑顔である。

「うにゅ……寝そう……」

人混みを小さな身体で潜り抜けるあすかは、いまにも寝てしまいそうなほど眠かった。

そこで彼女は、ある場所に寄ることにした。

人々の笑顔が集まり、あんしんして休憩できる場所……
公園である。

公園は、遊ぶ子供達でいっぱいだった。
あすかの知った顔も何人かいる、馴染み深い場所。
その中にあるベンチに座り、彼女は……

「眠い……少し、寝よう……」

うとうとし始め、そのまま目を閉じた。
やがて寝息が聞こえ始めたが、人並みの音にかき消されていった。

3:ふたば◆r.:2019/08/02(金) 20:17

「……はっ!」

ノンレム睡眠……そんな言葉をあすかは知らないが、
夢を見ないまま、彼女は目を覚ました。

何時間寝ていたかもわからない。
十分、一時間、それ以上かもしれない。

先ほどまであった疲れは、すぅーっと消えていた。

「うー……寝過ぎたかな。ふらふらする」

寝起きのだるい身体をゆっくりと起こし、あすかは立ち上がった。
そこで、彼女は気付く。

「あ……あれ? なに、これ……」

あすかは、目の前で起きている出来事に驚きを隠せなかった。
人も動物もみな、時間が止まったように動かない。

ちょんちょんとつついてみても、なにも反応がなかった。

よく見れば、時計の針も進まないままで……
あすかは気づいた。時間そのものが止まっていることに。

「なんで……どうして……?」

自分以外の全てが止まっている。体験したことのない超常現象。
その場に、立ち尽くすしかなかった……。


「それはね、俺が時間を止めたからだよ」
「え……?」

何もかもが動かない、なにも聞こえなくなった空間で、若い男の声が聞こえてくる。
あすかは声のした方を向いた。

「俺はラノーマ。なんで君だけ時間が止まってないの?」

長丈の服を着た、青年。ラノーマと名乗ったその青年は、
不思議そうにあすかを見ていた。

「……ま、それだったら、力づくでやるだけなんだけど」

ラノーマは、指をパチンと鳴らす。
するとその背後から、怪人が姿を現した。

「ひっ……!」

鋭利な爪、強靭な身体。テレビドラマで見る怪人そのものだった。

「よし、やれ」
「ぐるるるる!」

ラノーマが手を下ろすと、怪人は爪を振りかざしながらあすかに襲いかかる。

「あ……いや……」

このままでは、死ぬ。あすかは確信を持ってそう思えた。

4:ふたば◆r.:2019/08/02(金) 21:42

その時だった。
あすかやラノーマの目の前に、大きな光が現れる。

「うわっ……」
「何だ?」

眩しさに目を背けるあすか。すると直後、横目に人影が映る。

「たああっ!!」

その人影は、怪人に拳を向け、思い切り殴りつけた。
怪人は衝撃に悶え、後ずさる。


「あれ?ここ……どこ?」
「えっ?」

目の前で怪人を攻撃したのは、自身より少し年上に見える少女だった。
青い戦闘服を着ていて、腰には腕時計のようなベルトを巻いている。

その少女は、いま自分が置かれている状況を飲み込めていないらしい。

「だ、だれ……?」

あすかは、キョロキョロとしている命の恩人に、名を尋ねた。

「え、時が動いてる人なの……?私はサキミラ。あなた、早くここから離れるの!」

サキミラと名乗った少女は、あすかに逃げるよう促す。

「で、でも、みんな、時間が止まってて……」
「大丈夫!私は、その時間を動かすために戦ってるから!」

そう言ってサキミラは、腕時計型ベルトの上部に付いたスイッチを押した。
すると、時計のアナログな針がぐるぐると回り始める。

「break time!」

ベルトからは、英語の音声が流れる。
それと同時に、サキミラの右足に力が蓄えられた。

「くっ……」

ラノーマは、今から起きるであろう出来事を予測し、ゆっくりと後ずさった。
そして……

「てやああああっ!」

空中で大きく一回転し、怪人に向かってキックを繰り出すサキミラ。

……その時だった。サキミラの身体が発光し、変身が解けたのは。


「って、きゃああっ!」

必殺キックが決まる直前、サキミラは地面に落下した。

「へえ……」

その様子を笑いながら見るラノーマ。まるで弱みを握ったかのようだった。


「だ、大丈夫?」
「なんで、変身が……」

サキミラに駆け寄るあすか。
当のサキミラは、変身解除が起きたことにかなり困惑している。


「ぐるるるる……」

怪人が、生身の状態になったサキミラや、戦えないあすかに迫る。


「う……戦えなきゃ……ダメなのに……!」

サキミラは唇を噛んで悔しがった。
自分どころか、後ろの少女の命も危ない。
戦えなくなって、どうしようもなくなっていた。


「これ……」

後ろにいたあすかは、サキミラの懐から落ちたある物を拾っていた。

5:ふたば◆r.:2019/08/03(土) 05:41

「お腹に、当てればいいの……?」

あすかは、サキミラが落とした物……もう一つのタイムドライバーを拾い上げ、自分の腹に当てた。
何がそうさせたのかはわからなかったが、直感的にそうしようと感じたのだ。

バックルから帯が伸びて、緩めでもなくしっかりと、あすかの身体にドライバーが装着される。


「え、ドライバーが起動した? あなた、まさか……」

その光景を見て、サキミラは驚いた。
同時に、彼女の目に希望の光が戻る。


「……これを使って!」
「なにそれ?」

サキミラは、あすかに時計のようなパーツを手渡した。
渡された瞬間、時計から文字が投影され、音声が鳴る。

「gendai!」

「げん……だい?」

ゲンダイ 時計からはそう聞こえた。というか、あすかにはそう解釈するしかなかった。


「このトランスクロックを、ドライバーに接続するの!そうすれば、この状況を抜け出せる!」
「わ、わかった。やってみる!」

腰に巻かれたタイムドライバー。そして、トランスクロックゲンダイ。
それらを手にしているあすかは、覚悟を決めた。

「ぐるるる!」
目の前に迫ろうとしている怪人に向かって、高らかに叫ぶ。


「へんしんっ!」
「clock set!」
トランスクロックをベルトにセットすると、その叫びに応えるように
ベルトからも音声が鳴った。

「change Time!」

あすかの身体を、光が覆っていく。ベルトから放たれている物であった。

光が消えると、あすかは自身の変化に驚く。

「え、なに、この格好……」

白を基調とした、動きやすさを重視している戦闘服。
肩や脚には、ピンク色のアーマーが装着されている。

不思議と、身体が軽くなっているのがわかった。
この格好なら、なんでも出来る。そんな気がしていた。

「go! future! ashita girl!」

ベルトから流れる、新たな音声。
アシタガール……それがこの姿の名前だと、あすかはすぐに気付く。


「こいつ、なんで変身を……!?」

ラノーマは、あすかの姿を見て苦い顔をしている。
ヒーローは潰したはずなのに、新たな存在が出てきたのだから。


「まあいい……倒すんだ!」
「ぐるぉぉ!」

怪物は再度、こちらへと向かってくる。
相手が変身していようがしてまいが、その爪を大きく振りかざして。


「ふー……」

鋭い爪が迫ったその時、あすかは小さく息を吐いていた。

6:美桜◆jw:2019/08/03(土) 10:04

ふたばちゃん!
小説開始おめでとう🎉
しかも面白い!
これからも頑張ってね!

7:ふたば◆r.:2019/08/03(土) 10:35

「はあっ!」

次の瞬間、あすかが動いた。
それも、爆発的な速度で、一気に間合いを詰める。

その勢いは、まるで彼女だけ時間が加速しているかのような、そんなスピード。

瞬時に相手の大きな鋭い爪を受け止めると、今度は脚を使ったキックが飛び出す。

「ぐぉぁっ!」

これまた、時間が加速したかのような恐ろしいスピードで命中したキックは、怪人を大きく吹き飛ばした。


「なんて……強さなの……」

その光景を見ているサキミラは、唖然としていた。
まさか自分よりこの力を使い熟しているのではないか?そう思いながら、戦いを見守る。


「さっき、こうやってたよね?」

あすかは、先程サキミラがやっていたのと同じように、
アナログ時計のような形をしたトランスクロックの上部スイッチを押した。


「break time!」

その音声とともに、針は回り始める。
あすかの右足にも、パワーが蓄えられ……

「それで……こうだッ!」

あすかは大きくジャンプすると、怪人に向かって足を突き出し、光を纏った飛び蹴りを繰り出した。


「ぎゃおおおおおおっ!」

キックが命中すると、怪人は大きな悲鳴を上げて、爆散した……。


「何なんだ、お前。覚えてろ……」

あすかに向かって捨て台詞を吐き、ラノーマは消える。
暫くすると、止まっていた時間が動き出した。



……その後。


賑やかさが戻った公園のベンチに、二人の少女が座っていた。


一人は、子どもらしい華やかな格好をして、
もう一人は、流行を先取りしたような未来的な服装をしていた。


「まさか!私は時間を超えちゃったの?」

「うーん……そっちが2050年から来たって言うなら、そうなんじゃないかな?」

サキミラはあすかに尋ねた。今は何年なのかを。
するとあすかは答えた。2019年であることを。

「それで、未来ってどうなってるの?あの人は誰なの?」

あすかは聞きたいことがたくさんあったので、たくさん聞いた。
だがサキミラも頭がいっぱいで、すべてには答えきれない。

「か、簡単に説明するわ。私のいた時間では、全部止まって、簡単には戻せないほどなの。
それをやったのが、ストッパーっていう三人組で……あいつもそうよ」

「そうだったんだ。そこで、変身して戦ってたんだね」

「私の世界を元に戻すためにね……。ねえ、あすか」

サキミラは改まったように、あすかに尋ねる。
その言葉の続きを聞いて、あすかはとても驚くのだった。


「……お願い!ストッパーを倒すために、一緒に戦って!」








はい、ここまでが一話で。これ以上は構想しておりません。

8:猫又◆l2:2019/08/03(土) 22:03

こんばんは、猫又と申します。
時間戦士 アシタ☆ガールズ、読ませていただきました。
読んでみた感想ですが。
……すばらしい。

あすかとサキミラの戦闘シーンもそうですが、冒頭の言い回しがとても良い。
日常の風景から、時が止まっている非日常へ一瞬で切り替える。
「過ぎる時すらその場所には存在しないのである。 全ての時が、止まっているのだから」
この切り返しにしびれました。

一話完結風にしてしまったので、
戦闘後の日常シーン(>>7)に詰め込んでしまった感はありますが、
それでも十分に読み応えのある作品でした。
(……いやホント、美味い。じゃない、上手いので、もう少し続いてほしい気もします)

指摘できる点があるとすれば、少しハイレベルなおせっかいですが2点

まず本編(>>2)の始まり方。
あすかより先に「この教師」と書いてしまってるので、え、教師が主人公? と一瞬思ってしまうこと。
あと、唐突にセリフ「きりーつ」から入っているため、場所が少々ふわっとしていること。
この2つを解決するために、
「ざわつく小学校の廊下をランドセルを背負い、歩く一人の少女が居た」
と書いてみてはどうでしょう?

すると場所も分かりますし、
「教師」も「ざわつく小学校の廊下」、背景の一部になって、
【あぁ、なるほどこの子が主人公なんだな】と読者がすんなり物語に入れるかと思われます。

もう一つは冒頭とのつながり。
最後にも書かれますが、サキミラは(>>1)から(>>4)に飛んでいるんですよね?
これも本編と冒頭が切り離されているため、すこーし分かりにくい。

>>4 の登場演出を次代を超えてきた風にする(時計が浮かび上がる)とか、
まるで冒頭の戦闘を思わせる描写(戦いつかれてる)とかを入れると、分かりやすいかなとは思いました。

あと、もうちょっと書いてほしいなーという所はありましたが、
本作品はアクションものですのでテンポも大事です。あまり書き込むとかえって読者を飽きさせてしまうので、このテンポがちょうどいいと思います。
(「ドリームガーディアン シリーズ」の時から思ってましたが、ふたばさんはテンポの良く文章をまとめる才能がありますし、それを十分に生かせているなと感じました)

なにはともあれ、面白い作品をありがとうございました。
次回作や続きがあればお待ちしております。それではー

9:ふたば◆r.:2019/08/15(木) 07:59

思ったより人気が出たので、二話目以降を執筆させていただきます。





「戦う……」

時間を止める敵と、戦ってほしい。急なサキミラの申し出に、
あすかは戸惑いの表情を見せる。

「無理なお願いだってわかってる。でも……ベルトを使えてるし、実際とっても強かった!
あなただって、現代の時間を守りたいはず。だから……!」


「げんだいの、時間を……」

あすかは、時間が止まっていた時のことを思い出した。
何も聞こえない。静寂。感じるのは寂しさだけの世界

そう思うだけで、心が震えてくるのを感じた。

「うん……わかった。私、戦うよ!一緒に!」

その震えを止めるには、敵を倒すしかない。
悟りを開いたあすかは……そう、心に誓うのだった。

「ところで、さ。あすか。頼みがあるの……」
サキミラは、改まったようにあすかに言葉を投げかける。


「なあに?何でも力になるよ!」
「えっと、泊まる場所……無いかしら?」



公園を出て数分、住宅街を歩く。
その中の一軒家が、あすかの家であった。

サキミラに、泊まる場所を求められたあすかは、
自分の家へ招待することにしたのだ。問題は、それが認められるかどうかだが。

「ただいま、お母さん!」

あすかは、持っていた鍵で家のドアを開ける。
ガチャリと音を立てて、奥行きのある空間……玄関が現れた。

「あー……私、どうしたらいいの?」
「ちょっと、待ってて!」

ついに家にお邪魔することになる。不安がるサキミラに、あすかは
待機を指示して、一人家の中へ入って行った。

そして、数分後。

廊下をトコトコと歩く足音が聞こえ、サキミラが振り向く。

「あなたが、サキミラちゃんね。あすかの母よ」

「あ、よろしくお願いします。サキミラです」

あすかの母は優しい表情でサキミラを迎えてくれた。
長髪をポニーテールでくくっていて、おしとやかな印象を彼女に与えている。


「えっと、ホームステイなのよね?外国から大変だったでしょう。さ、上がって上がって!」
「わ、ちょ、ちょっと!」
多少強引に手を引かれ、サキミラはあすかの家へと招待されることとなった。
ホームステイなどと言った記憶は、サキミラにはなかったが……。

10:ふたば◆r.:2019/08/15(木) 08:00

「ここがね、私の部屋だよ!」


家に上げたサキミラを、あすかは自分の部屋へと案内した。
多少の荷物をベッドの上に放り捨てると、あすかは手を広げて部屋を見せる。

「おー……」
女の子らしいレースなどの装飾がなされ、色もピンクでまとめられた部屋であった。
あすかの部屋を見て、サキミラは関心の言葉を漏らす。


「ところであすか、ホームステイってどういうこと?」

「あー……ごめんね、説得するんだったら、りゅうがくせいって言うのが一番かなって」

「……わかったわ。なら、しばらくお世話にさせてもらうわね」


ホームステイという言葉の真意を理解したサキミラは、あすかのベッドに腰を落ち着ける。


「はー……何でかしら?途中で変身が解けるなんて」

サキミラは先ほどの戦いのことを思い出していた。

「だよね。私が変身しなかったらどうなちゃってたんだろ」

あすかも同様の回想にふけっていたが、少し別のベクトルに考えが寄っている。

「ねえあすか、ここで変身してみてもいい?」
「えっ?」



……部屋を少し整理し、場所を広く取り、変身スペースが出来上がった。
サキミラは部屋の真ん中に立つと、手に持ったタイムドライバーを腹に当てる。

しゅるるるという音と共に帯が巻かれると、サキミラはトランスクロックを構えた。


「お願い、起動して……変身!」

願いながら、トランスクロックの起動スイッチを押すサキミラ。
しかしクロックは、うんともすんとも言わない。


「やっぱり……解けただけじゃなくて、変身もできなくなってる」

「なんで!じゃあ、私がやる!」


あすかも、自分の荷物からタイムドライバーとトランスクロックゲンダイを取り出す。
しかし……


「ダメよ。自分のはただの実験だし、あなたは大事な時に変身するの。いい?」

「う、うん」

サキミラに止められ、渋々やめるのだった。


そして、その夜。
夕飯などを終えた二人は、寝る準備をしていた。


「ふぁ……ところでさ、学校とかどうするの?ホームステイ何だから、ごまかせないかも……」

「えー!あすかが自分で言ったのに……いいわ、こっちで考えとくから。心配してくれてありがとう」

床に、もう一つの布団を敷き終わったサキミラは、そのまま入ろうとする。


「あれ?二人で寝るんじゃないの?」
「えっ?」

それを見て不思議そうにするあすか。
さらにそれを聞いて困惑するサキミラ。

「ほら、一緒にベッドで寝よ?」

「あー……いいのかしら、これ……」

あすかの純粋な笑顔に耐えきれず、サキミラは布団を置いてベッドに上がり込む。

その後は、とても早かった。
枕に転がった途端、サキミラはすぐに寝てしまったのだ。

それを見たあすかもまた、眠りにつくのだった……。

11:ふたば◆r.:2019/08/15(木) 08:01

……次の日。

「ふああ……こんなに眠れたのも、久しぶりかも」

サキミラは、あすかより早く目を覚ましていた。
外はまだ暗く、目覚まし時計もなっていない。針は五時を指している。

「あすか……ごめん、こんなことに巻き込んじゃって……って、ん?」

まだ眠るあすかに、小さく謝罪の言葉を掛けるサキミラ。
ふと、ベッドの隅に大きな箱のような物体が見えた。

「これは……ええ……なんで?」

困惑から来る静けさが、辺りを包み込む。

そしてそのまま、夜はふけるのだった。



「おはよー!サキミラ……あれ?どうしたの?」

目覚ましで起きたあすかは、部屋の隅で震えて固まるサキミラを見つける。
何をしているのだろうと思っていると、

「あすかぁ!時空が歪んでるの!大変よー!」
「え、ええ……どういうこと?」


サキミラは、箱のような物体……黒色のランドセルをあすかに見せる。
それと、名札も。

「なになに、6年……今川 咲……って、うちの学校じゃん、これ!というかランドセルなんて、昨日まであった?」

「なかったから!……私が時間を超えたから、時空が歪んで、多分その、辻褄合わせをしたと思うのよね」

「つじつまあわせ?なにそれ……」

目を点にして不思議そうにするあすかに、咲……もといサキミラは、
丁寧な説明を始めた。

「つまりはね、私がここに居ても変じゃないように、色々な事が変わってるってことなの。多分」

「へえ……じゃあ、一緒に学校に行けるんだ!やったぁ!」

「え、あ、そうね……。うーん……」


その後二人は、さらなる変化に驚くことになる。

12:ふたば◆r.:2019/08/15(木) 08:02

「ママ、おはよー……」
「お、おはようございます……」

リビングに降りたあすかとサキミラ。
すでに食事が並べられていて、母親も椅子に座っていた。


「あすか、咲、おはよう。咲の方は、どうしてそんなに改まってるのかしら?
いつもはすっごく甘えてくるのに」

「え、え?あ、え……?」

あすかの母は、サキミラの事を咲と呼んだ。
しかも、あたかも最初から家族であったかのような接し方である。

「あすか、お姉ちゃんと一緒に食べなさいね」

「はーい……え?」

お姉ちゃん。自分の母親から飛んできた言葉が、サキミラに対してだと理解するのに、少し時間を要した。
そして思い出す。名札に、何が書いてあったかを。

「今川……咲……え、えええええっ!」

今川あすかと今川咲。歪み出した時空で、奇妙な共同生活が始まるのである。

13:ふたば◆r.:2019/08/15(木) 13:56

「はあぁ……」

学校へと歩くあすかとサキミラ。
しかし今は咲となっているせいで、彼女からは大きなため息が漏れる。

そんな彼女を気遣ってか、あすかは少し距離を置いていた。

「サキミラ……」

いきなり、他人の姉とされてしまったのだ。戸惑っても無理はない。
自分も戸惑ってしまうだろうと、あすかは同情していた。


「今川さん、おはよう!」
「あ、おはよー!」

クラスメイトの一人が、挨拶をしてくる。
表情を切り替え、あすかは笑顔で返事をした。


「あ、お姉さんの方も、おはようございます!」

「……」

「あれ?」

挨拶をしたクラスメイトの中では、彼女は今川咲である。
だがこうやって急に話しかけられても、戸惑うサキミラは返事が難しかった。

「ごめんね!お姉ちゃんね、今日ちょっと気分が乗らないみたいで……」

「そうだったんだ。じゃあまた後でね!」

クラスメイトの女子は、一足先に学校へ向かって行った。


「あすかぁ!どうしたらいいのぉ!」
「うーん……」

昨日までは、頼れるお姉さんだとあすかは思っていたが、
今のサキミラは……妹負けした姉であった。
上の子というものを知らないので、あすかもどう接していいかよくわからない。

「と、とりあえず……がんばって!」

もうどうしようもないので、とりあえずサムズアップで返すあすかであった。

14:ふたば◆r.:2019/08/17(土) 21:32

「学校、かあ……」

一人残されたサキミラは、他の生徒が上がっていくのを見て、
自分も渋々教室を目指すことにした。


階段を上がる時は、かつんかつんという音を立てながら、ゆっくり教室へ向かうサキミラ。
同級生や下級生であろう生徒たちは、どたどたと駆け上がっていくのだが。


「思い出しちゃうな、未来の話。……ううん、今はこの時代で、咲として生きるの。やって見せる!」

自身の生きてきた時間の話を思い出すが、それを機にサキミラは吹っ切れたようだった。
その後の足取りはとても軽く、彼女の表情も和かであった。



教室に着くと、サキミラと同じくらいの背丈の子供たちが、ざっと十数人程確認できる。

「ここが、私の教室かぁ……人がいっぱい」

人数に押されていると、彼女に向かって生徒の一人が話しかけてきた。
その生徒は男子で、清楚な雰囲気の少年である。

「やあ、咲ちゃん。おはよう!」

「あ、おはよう……」

男の子と下の名前で呼び合うほど、この人とは親しい仲なのだろうかと、
サキミラは思った。
勿論のこと、記憶はない。

記憶がないので、とりあえず挨拶で返答するしかなかった。

……何かあると思えば、その少年はそのまま生徒の波へと戻っていく。
何だったんだろう?と、思うサキミラであった。


「はーい、じゃあ朝の会を始めるわよ!日直ー!」

しばらくすると、担任であろう女教師が入ってきて、
学校生活が幕を開ける。
これからどうなるのだろうか。不安しかない彼女の今後はどっちだ。

15:ふたば◆r.:2019/08/17(土) 22:04

「だ、だるい……学校って、こんなに……」

「サキミラ、大丈夫?」

昼休み。あすかとサキミラは、廊下で会っていた。
初夏の陽気のおかげで、少しばかり暑い場所になっているが。

「問題は全部わかるけど、それを一から学び直すなんてね、つらいわ!」

サキミラ曰く、未来ではすでに修学済みなので、学校の勉強は全てわかっている。
それ故に、授業を聞くのが退屈で仕方ないのだ。

彼女をなだめながら、あすかは微笑む。

「でも、誰かと一緒って、いいでしょ?寂しくなくて」

「うん。ずっと、一人だったから……不思議な感じがする。楽しいね!」

サキミラも微笑み返し、実際感じていた学校生活への楽しさをあらわにした。



……一日の授業が終わり、放課後。

「帰ろ!お姉ちゃん!」

「おね……それはまだ慣れないかなぁ」

時折、姉妹っぽさを見せてくるあすかに、サキミラはまだ戸惑う。
今はあすかとそう言う関係なんだと思っても、慣れない。

「帰ったらね、おやつ用意してくれてるって!やったね!」

通学路を歩きながら、あすかはサキミラに楽しそうに話しかける。

「おやつ、何だろ?楽しみ!」

慣れないが、それでもサキミラは内心とても楽しい思いでいっぱいだった。
戦わずに、この日常がずっと続けばいいのに……など、考えてしまうほどに。

その考えは、思わぬ形で実現することになる。

16:ふたば◆r.:2019/08/17(土) 23:46

「どけぇーっ!」


閑静な住宅街に、男のものと思われる怒号が響き渡る。

「なに!?」
「あすか、後ろ!」

驚いたあすかとサキミラ...…振り向くと、手に鞄を持った大柄な男がこちらに迫っているのが見えた。
なにが入っているのだろうか、その鞄は妙に分厚いものであった。

「どけっ、ガキどもぉ!」

男は、あすかたちを避けるのではなく強引にタックルをして吹っ飛ばすつもりらしい。 

「あすか!」

「え、サキミラ……」

サキミラはあすかを横に突き飛ばすと、男の前に立ち塞がる。
すぅっと片足を突き出し、そのまま……

「なっ!?どわああああっ!」

勢いづいていた大柄な男は、突き出された足につまづき、転がるようにしてこけた。
物凄い悲鳴をあげながら。

「このガキ、何しやがる!」

すぐさま起き上がる男。あすかはその手に、きらりと光るものを見ていた。
それが何か分かったのと、男がサキミラに向かって走り出すのは、ほぼ同時であった。

「サキミラ!刃物だよ!逃げてぇ!」

男が持っているのは、小さめでツヤのあるナイフ。
逆上し、殺意を持ってサキミラへと突進する男。
あすかはそれを見て、叫ぶしかなかった。

17:ふたば◆r.:2019/08/17(土) 23:47

「ふっ!」

サキミラは器用にステップを踏み、刺突を横に避ける。

「やっ!」

素早くナイフを持った手を掴むと、後ろに捻り、
男を体重で押し倒した。

「ぎゃ、ぎゃあああああっ!」

反動でナイフを手放す男。肩関節が外れかかるほどの衝撃が走り、
とてつもなく痛いようだ。

落ちたナイフを見て、あすかは唖然としていた。

「え、サキミラ……すごい……」

体格も、力も凄そうな男を、簡単に倒してしまった。
今何が起こったのか、あすかにはまだ理解しがたい。


「……じゃあ、怪人だったら勝てるかな」

「___え?」

その時だった。サキミラたちの耳元に、囁くような声。
「ぐるるるる!」
「……って、きゃあっ!」

気がつくと、押さえていたはずの男が怪人になっており、
サキミラを突き飛ばした。

「サキミラ!」

あすかは、すぐ様倒れた彼女に駆け寄る。
どうやら、大した傷ではないらしい。


「やあ!また会いにきたけど……今度は倒されてくれるのかな?」

そうして現れたのは、先日遭遇した青年……ラノーマだった。

「残念ね、またあすかがあんたを追い払うわ」
「え、わたし?あ……うん、やる!」


立ち上がったあすかは、変身できないサキミラの代わりにタイムドライバーとトランスクロックゲンダイを持つ。


「行くよ、変身!」

「gendai!」
ドライバーを巻き、トランスクロックを起動。

「clock set!」

ドライバーにクロックをセットし、そのまま左手を顔の前に構え、右手でスイッチを押した。

「change time! go future! ashita girl!」

音声が流れ、大きな時計が目の前に投影される。
それを通過した瞬間、あすかの身体にスーツと鎧が装着された。


「よし……やってやる!」

18:ふたば◆r.:2019/08/18(日) 10:40

「よし、やって___」


変身したあすかが、怪人に向かって駆け出そうとしたその瞬間。

「あれ、あすか……?」

サキミラは見た。あすかが止まるのを。
動きどころか、彼女の時間が止まるのを。


「なっ、何で!ラノーマ、あすかの時間を……!」

「ちょっと強めにしたら、割と簡単に止まったね。君も同じように止めてあげよう」

ラノーマは手を突き出し、さらに周囲の時間を止めようとする。
このままでは、サキミラも巻き込まれてしまうかもしれない。

だがサキミラには、変身する力はなかった。


「このまま、時間が止まってれば……」

未来。時間という概念がなくなった未来。
変わらぬ日常のまま保存された世界。

サキミラは望んだ。日常がずっと続いていればいいと。
しかし……

「このまま時間が止まってたら、楽しくないっ!」

懐から、タイムドライバーとトランスクロックを取り出す。
起動しないと分かっていても、彼女を駆り立てるものがあった。

今の楽しい日々を、守りたい_____


「あすかは、私が救って見せる!」

勇気を振り絞り、彼女はトランスクロックのボタンを押した。


「mirai!」

「は、起動した……!いけるっ!」

未来。その音声と共に、タイムドライバーへトランスクロックミライをセットする。

「clock set!」

両手をクロスし、そのままボタンへ降ろし___

「変身!」

「change time! protect future! ashitagirl!」

時計の張りが回りだし、トランスクロックから大きな時計が投影される。
サキミラをスーツが覆い、全身各部にプロテクターが形成されていった。


「なんだって……?」

「できた、出来たっ!やああああっ!」

サキミラはそのまま、怪人に飛びかかっていく。

19:若美小説◆YQ:2019/08/19(月) 15:40

こんにちは、ここまで読ませていただきました。

感想
もう、本当に本を買って読んでいるみたいです…すばらしい…
これからが楽しみになります!
アドバイス
本当に上手いのですが、一つだけ。もう少しだけ、登場人物の表情を書いてもいいかな、と思いました。

すばらしい作品をありがとうございました!これからも頑張って下さい!

20:新見川すみれ◆96:2019/08/20(火) 11:24


批評を依頼して頂いたと云うことで、僭越ながら批評させて貰いまッス。

先ずは良いところからですが、
冒頭の部分から衝撃的な事実(世界の時が止まっていること)を入れてるのにも関わらず、切り返しとシナリオ管理、登場人物の扱い方が上手なので読者が内容を理解しにくくなる「置いてけぼり」感がないッス。
内容としてはよくある「魔法少女モノ」だなと感じましたッスけど、テンプレやセオリー通りに進んでいくだけではなく、ギャグ要素、シリアス要素などの様々な要素をしつこくならない程度に上手く取り入れているので、「見ていて疲れる」、「読む気がなくなる」ということがなく、「次の展開が楽しみだな!」と素直に思える様なつくりになってると思うッス!
後は何と言っても戦闘描写ッスね!繊細な動きと大胆な動きで表現を切り替える、主人公達が優勢の時にスピーディーに進む描写だけではなく、主人公が窮地に陥った時のハラハラドキドキとする描写もキチンと取り入れられてるところが好感を持てるッス!バトルモノでよくあるんスけど、主人公達が敵を圧倒している時は行動の描写が上手く出来てるのに、予想外のハプニングなどが起きて主人公達がピンチになった途端に表現が杜撰になる方ってソコソコ居るッス......なのに表現力を保ったまま書き進められるのはスゴいことッスよ!

次に改善点ッスけど、まぁ辛口コメントとはいえ素晴らしいところが余りにも多いのでこじつけっぽくなっちゃうかもですが....
先ず一つ目は>>2の「この教師、注意はするがそこまで怒ってはいない」というところ。正直、初めて拝見した時は「えっこれ教師が主人公なの?」と思っちまいました。
その次の展開で主人公じゃないって分かりましたが、最初にややこしい書き方をしてしまうと読者の読む気を削いでしまうッス。この小説の見所は「意外性」ではなく、「王道」というところに重きを置いていると思うッス。だからこそ、最初に勘違いする様な発言をして読者を離れさせてしまうのはもったいないと思うッス!
次はまた>>2の「きりーつ、れーい!」ッスね、最初の展開では完全に「時の停まった空間に居る」という不思議体験をしていたのに、唐突に次の展開で学校での号令に入ったので「ん?」と一瞬疑問に思いましたッス。場所の切り替えをしっかり描くことは結構大事ッス。
最後に、>>1から>>4が繋がってることを示唆する描写が弱いかなーと。書きたいことは何となく分かるんスけどね......これも書いてる作者目線なら分かるかもしれませんが、読者にとっては分かりにくいッス。「読者に読みやすく」は小説を書いていくアクターの中でも最重要のことだと思うッス。これを怠っては、物書き失格、ッスよ!

21:新見川すみれ◆96:2019/08/20(火) 11:27

とまぁ、こんなところですかね。散々書きましたが、この作品は期待値120%で挑んでも充分御釣りがくる作品ッス!自信を持って、これからも頑張って下さい!それでは私はドロンッ!しますね!

22:ふたば◆r.:2019/08/20(火) 20:51

___先程までサキミラが縛り上げていた男は、怪人へと姿を変えた。
引き締まった肉体に、刺々しい皮膚となり、当人とは区別がつくわけもない程変化してしまっている……。


「やああっ!!」

変身したサキミラは、怪人へ飛びかかる。
瞬時に懐へ突っ込むと、握り拳を腹に打ち込んだ。

「ぐお……ぐ!?」

小さく悶える怪人。しかしサキミラの攻撃は終わらない。

手を器用に使って反転すると同時に足を打ち込み、
起き上がればまた蹴りを放つ。

サキミラの身体能力をフルに活かした完璧な攻撃である。


「だあっ!」

最後は、顔面に拳を一発。


「ぐああああっ!」
怪人は大きく吹き飛ばされると、転げてしまった。
それを見たサキミラは、トランスクロックのスイッチを押す。


「break time!」
音声と共に、サキミラの右足が発光し、力が蓄えられた。


「今度は決めるわよ!だあああああっ!!」

大きくジャンプすると、そのまま足を突き出し……怪人に向かって蹴りを放つ。


「ぐるううううう!……あ、あれ?」
必殺の蹴りが命中した怪人は、爆発四散して人間の姿に戻るのだった。

23:匿名:2019/08/20(火) 20:59

アドバイス貰ってんだから
お礼くらい言うのが常識じゃない?


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