遠い遠い、どこかの場所。亜空間。
その中に、黒い球体が浮かんでいた。
球体の中はさらなる闇が広がっていて、闇の中に男が二人。
一人が何かを思いついたように、高笑いする。
「ははは!次なるターゲットが決まったぞ」
「……まだ、飽き足ら無いのですか?」
もう一人の男は、高笑いした男に少し呆れ気味だ。
「ははははははは!!まだ満足できぬわ!次なる場所は……」
呆れ気味の男は、高笑いが止まらない男にもはや止めようともせず、
彼のさらなる目的を聞き届けた。
「……なるほど。そういう事でしたら、早速向かうとしましょう」
球体は異常な加速を始め、異空間を抜けていく。
「次なるターゲットは、人間界。地球」
ーーーその頃。
『はーい!今日は、ヒーローショーに来てくれて、どうもありがとう!
もうすぐショーが始まるから、後ちょっとだけ待っててねー!』
マイクを持つ女性が明るく挨拶をするのは、
とある地域の、大きな遊園地。
今日ここでは、子供に人気のヒーローショーが開催されようとしていた。
「まだかな!まだかな!」
「マー君!大人しくするのよー」
ショーの開始まで5分を切っている。
観客席の子供達のテンションは、もう振り切れそうなほど上がっている。
その中に、少し背の高い、一人の少女が座っていた。
「うわあぁ……もうすぐ、ヒーローショーが始まるんだ!」
目をキラキラと輝かせるその少女は、手を握り合わせながら開始の時を待っているようだ。
「千春、来たかったのよね。これ」
「うん!……でも、本当は女の子のアニメのショーがよかったなぁ」
隣に座る母親からは、千春(ちはる)と呼ばれる少女。
喜んではいるが、それは80%くらいのようである。
「10歳にもなってそんなこと言いなさんな……
始まるみたいよ」
『……では、ヒーローショーの始まりー!』
マイクを持つ女性が一旦引いた、その瞬間だった。
どおおおおおおん!
大きな爆発が、ステージを襲う。
「何だ!何が起きたんだ!」
「見て、ステージの上に誰かいるわ!」
煙が晴れるステージを、観客が凝視すると、
そこには大柄な男が立っていた。
「おー?ここが地球って所か!なんとも壊し甲斐のある星だなぁ!
じゃあ早速、出てこい!クラッシャー!」
ステージの演出……誰もがそう思っている中で、
大柄な男は何も無い場所へ、謎の生物を呼び出した。
「ぎゅううううううん!」
二本足で立ってはいるが、メカのような金属調のボディ。
両腕に高速回転するドリルを身につけており、
歪んだ顔まで見るとそれは、最早人間ではなかった。
クラッシャーと呼ばれた怪物は、ドリルを突き立ててステージを破片へと変えていく。
「な、あれ、本物か!?逃げろおおおおおお!」
一瞬でステージの形を変化させてしまった怪物を見て、
恐怖に駆られた人々は一斉に逃げ出した。
「えっ、な、なに?なにが起きてるの!?」
混乱に飲み込まれる千春。
人混みに流され始めた時、母親の手からも外れてしまった。
「うわああああ……」
波に流されるように、飲まれていく。
どうにか、出ないと。
そう思った千春は、なんとか人混み波を潜り抜け、外へ出た。
「ふう、出て来れた……え、あれ……」
誰もいなくなったヒーローショーの会場。
そこに自分よりも小さな子供が蹲み込んでいた。
「ママ……どこ?」
「あの子!そんな!」
千春は察した。逃げ遅れたと。
そして、さらなる問題が発生した。
「おーう!ガキ一人が残ってるじゃねえか」
「あ……」
見つかった。ステージを破壊した二人組に、
子供が見つかった。
「行くぞクラッシャー!あのガキも壊せば、
人々はもっと不幸になるに違いない!」
「ぎゅううううううん!」
二人組が、小さな命に迫る。
「壊す?壊すって、あの子を……?だ、ダメ!」
千春は思わず、駆け出していた。
なぜ?子供を助けるため?
自分になにができるかも、わからないのに……?
「お、おねえちゃん……?」
「大丈夫、心配しないで。お母さん、すぐ会えるからね!」
子供を抱きかかえた、その時だった。
「あー!まだガキがいたのか!クラッシャー、二人まとめて壊しちまえ!」
「どぎゅうううう!」
同じタイミングで、二人組が距離を詰めてきた。
千春のことも認識して、ドリルの怪物が襲ってくる。
「っ……この子だけはッ……!」
子供を抱き抱えた千春は、ドリルアームに背中を向けて、
腕の中の小さな命だけでも守ろうとした。
しかし、このままでは自分がドリルに刺されてしまうだろう。
血が出る?痛い?きっともっと辛い。
一瞬の間に、いろいろなことを考えていたが……それももう、終わった。
……終わったと、千春は思っていた。
「うわっ!……なんだ?今の光!」
「えっ……?」
後ろがざわめき始めたので、恐る恐る振り向く千春。
すると目の前には、桜の羽を生やしたさらなる謎の生物が怪物に立ち塞がっている。
「……この場を切り抜けるには、あなたのその勇気が必要なの!
レイズブレスレットをあげるから、変身して!」
「わ、私?というか、えっ?」
いつの間にか、千春の右腕には大きめのブレスレットがつけられていた。
謎の桜生物は自分の姿をメダルに変えると、
ブレスレットの穴に入り込む。
「わ、わああああああ!」
ブレスレットから放たれる眩い光に、
千春は包まれていった。