とりあえず平和なのと迷ったけど。
結局平和なのって難しいよね。というわけで。
周りが書いてるから便乗しちゃった人です。
〈注意!〉
・書き手は気まぐれです。ちょいちょい失踪するかと。なるべく頑張るんで読んでくださるという方は気長に待ってほしいです。
・唐突な思いつきで書くので展開がおかしくなるかも。その際は指摘して欲しいです。
・アドバイス、感想などは喜びます。
・長さがどうなるかは未定。
あ、あと断り入れておきます。
文章書きたいだけなので名前が本当に雑です。
人名にせよ、地名にせよ、です。
>>47
ありがとー!!そうそう、ここで書いてました(笑)
設定好きだって!?が、頑張る!!
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しばらく互角の戦いが続いた。ベルディアの攻撃も、セフェリノの攻撃も、双方には当たらない。
が、その時。ベルディアがふらり、とふらついた。それをセフェリノは見逃さなかった。エマがうまく抑制したのだろう、と察したからだ。先程までの攻撃より魔力を多く込めて、これで決めると言わんばかりに影を浮かばせて、ベルディアの方へとまっすぐ飛ばした。
ーーーふいに、風の音が聞こえた気がした。
しかし、ベルディアに攻撃を当てることにすべての精神を注いでいたセフェリノは気にもとめなかった。
もう少しで影がベルディアに届くというその時。
ザシュッ、と肉を裂くような、生々しい、嫌な音がした。
激痛が走った自身の体を見ると、腹部から血が滴っている。
顔を上げて、意識を失いかけたその時に見えたのはーーー
にぃっと意地の悪い笑みを浮かべるハインツと、能力を発揮した張本人であろう無表情のレリアと、そんな二人を呆然と見つめているエマとヴィクターの姿だった。
力なく倒れたセフェリノに構う余裕もなく、二人はただただ立ち尽くした。
協力者であるはずのアスピヴァーラの人間であるレリアに攻撃された理由も、目の前でハインツが笑っている理由も。何もかも訳がわからなかった。しかし、彼らが味方ではなかった、それだけは不思議と二人の脳内にすっと入ってきた。
ほんの少しのような、そうでもないような沈黙を破ったのはエマだった。
ヴィクターには攻撃のための能力もない上に、彼は本調子ではない。
自分しか彼らには立ち向かえないのだ。
そんな使命感から、より強い魔力を感じるハインツの能力を抑制しようとした。
が、そううまくいくはずがなかった。
「っ、邪魔、しないでくださいっ…」
ヴィクターの目には映らないものの、何が起こっているかは容易に予想できた。
ロイダだ。彼女がエマの中で邪魔しているのだろう。
しばらく体の主導権はエマの方にあったように思えたが、やがて抵抗する様子はなくなっていき、静かにその場に倒れ込んだ。すぐに立ち上がったときには…
『さあ、それでは。…始めましょうか。』
エマの中身はロイダに変わっていた。
ヴィクターは抵抗しようかとも考えた。しかし、エマやセフェリノが敵わないような相手に自分が叶うはずもない。少し考えれば分かる話だ。降参だ、と素直に両手を上げて告げた。すぐさまレリアがヴィクターを縛り上げ、すっとその場に座らせた。
「さあ、いずれ死ぬ運命にある君にはすべての真実を聞かせてやろう」
意地の悪い笑みを浮かべたまま、ハインツは何を思ったのかそんなことを口走る。抵抗のしようも反抗のしようもなく、ヴィクターは興味なさそうに耳を傾けた。
「まずは…そうじゃな、私達がお主らに干渉した理由を教えてやろう。そのあたりに関しては少し自覚があるじゃろ?」
「…私達の能力の珍しさや魔力の高さに目をつけた、ということか」
「そのとおりじゃ」
何の誇りがあるのか、ハインツは終始誇らしげに語る。どうせろくでもないことであるのは話を聞かずとも分かることだった。
「お主らを魔術の研究に使って、用が済めばお主らをロイダ様の復活に取り込もうというわけじゃ」
案の定ろくでもない理由に、そんな立場ではないとわかっていながらもヴィクターは呆れた。
そんなくだらないことに主も友人も巻き込まれ、傷つけられたのだ。
そう思うのも無理はない。
「ほう、逆上するのかと思ったが…」
「逆上してどうにかなるならしてたよ」
遅かれ早かれ死ぬ運命にあるはずのヴィクターが落ち着いていることが気に食わないのか、ハインツの貼り付けたかのような薄気味悪い笑みは少し引いていた。が、しばらくするとまた同じような笑みを浮かべて
「さて、お主らが私達の研究材料になれと言っても抵抗されることは分かりきっている。抵抗させないようにどうするか、お主には推測できるのではないか?」
と、新たな問いを投げかけられる。興味のない結末を聞かされて、更に呆れつつも仕方なく、と言わんばかりに
「さあ…私にも分からんな」
と、適当に答える。考えていないことはお見通しだったらしく、もう少し考えてほしいものだがねえ、と残念そうな声を漏らす。分からないなら、と少し面白くなさそうに
「吸血鬼を使うのだよ」
とため息まじりに言う。やはり生きていたのか、と言うと厳密には違うな、と余裕を見せるように笑った。
「我々が疑似的に作ったに過ぎないのだ」
分かりきっていたようでそうでなかった、そんな答えにヴィクターは思わず戦慄した。
「当時吸血鬼は差別されていたという話はしたじゃろ?奴らが差別をなくすために運命を選択していたのは事実じゃ。しかしだな…」
少し、沈黙が流れる。少しの沈黙にすら居心地の悪さを覚え、早くしてくれと言わんばかりにハインツの方を睨みつけるとそれに答えるかのごとく
「都合のいいように運命を捻じ曲げた吸血鬼というのはいなかったのだよ」
とすんなりと言った。その先の想像はヴィクターにも容易に想像できた。彼の想像通り、吸血鬼は無実の罪を作り上げられ、アスピヴァーラに滅ぼされたのだという。滅ぼされた理由はアスピヴァーラの名誉のため、地位のためだという。もはや呆れて物が言えない状態だった。彼らの素性が割れてからはろくでもない人間だろうとはわかっていたが、まさかここまでだったとは…ヴィクターは素性を見抜くことのできなかった自分の無力さを今更ながら嘆いた。後悔してももう遅いとはわかっていながら。
「地位があれば色々と理由をつけて実験材料を用意できるだろう?この100年間、我が一族はあのときの名誉と地位を使って新魔術を実験してきたというわけじゃ」
自慢気に語るハインツの様子をヴィクターは見つめるでもなく、目を背けるでもなく、何気なく同じ場所に居合わせているだけのように意識することすら放置した。なんとかこの状況を脱出しなければならない。しかし、ヴィクターの能力では逃げ出したとしてもすぐに捕まるに違いない。どうするべきかと悩んでいたその時。
バッ、とハインツの体が吹き飛んだ。ハインツの方も何がなんだか理解の追いついていない様子であたりをキョロキョロと見回す。彼の目が捉えたのは痩せこけて、弱々しく変わり果てた金髪の少女、ベルディアだった。
おー!面白いし、めっさ文才ある……
本当に羨ましい……
てか、関係ないこと言ってごめんだけど
小説投稿したのほぼ同じ時刻って奇跡じゃね??
>>53
ありがとー!いやいや、私もまだまだよ(笑笑)
え?ってなって見に行ってみたらガチだったwwwたしかに奇跡かもしれんねwwwww
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ヴィクターの方も意味がわからなかった。ベルディアがハインツを攻撃した意味が。本物の吸血鬼が存在しない今、ベルディアもアスピヴァーラの操り人形でしかないはずなのに。操っている元であるはずのハインツ、もといアスピヴァーラの人間を攻撃した意味が。ハインツの方はやっと状況を理解したのか
「…まだ意思が残っていたとは。計算外だったのう…」
と、立ち上がってぼやく。ベルディアの方は体当たりしただけであるにも関わらず、すでに疲れ切っているかのごとく息を切らしていた。その姿を見たハインツは嫌な笑みを浮かべて、
「まあもう限界が近いようじゃな。そいつはもう長くないだろう。そもそもそいつだけは魔術面においても平凡だったからのう…少し酷使しすぎたようじゃな」
と、物のように語る。息も絶え絶えになりながら、ベルディアはハインツの方に襲いかかる。よくはわからないがおそらくは自分たちの味方なのだろう。今は彼女に頼るしかない。それならヴィクターのすべきことは決まっていた。
自身の魔力をセフェリノとベルディアに注ぎ込み、回復させた。一人なら微力でも二人なら勝率は上がると考えたのだ。消えそうになる意識を保とうと持ちこたえるも、やはり身体的な負担は大きく、ヴィクターは思わず倒れ込んでしまう。全快したセフェリノは彼の意図を察してか、ベルディアにレリアを頼めるかい?と尋ねた。言葉はわかるらしく、反応はなかったものの、すぐさまレリアの方へと飛びかかっていった。
「さあ、それじゃあ僕は貴方と戦おうか」
宣戦布告して、すぐさまセフェリノは自身の体から影を伸ばした。相手の能力は未知数。勝機があるかもわからない。それでも今は戦うしかないのである。
「…貴女に意思があったとは、私も驚きです」
その場に静かに佇んでいたレリアが初めて口を開く。と同時にベルディアの方に向けて勢いの強い風を発生させ、飛ばす。それを打ち消すようにベルディアは水の壁を築いて、時間を稼ぎ、風の当たらない場所に逃げる。その後も容赦なく風を生み出しては飛ばし続け、更に息切れはひどくなっていた。やっとの思いで避けていた攻撃もついには避けきれず、風の渦に飲まれ、切り刻まれてしまう。
ここで負けるわけにはいかない、と持ちこたえ、自分の余力を使い切ってベルディアはレリアとの距離を詰める。レリアの方もベルディアが飛びかかってくるのを見てさっきよりも遥かに規模の大きい風を生み出す。それを見たベルディアは同じように水を発生させ、レリアの方に向けた。
発生した風はベルディアの体を切り刻み、水の方もまた、レリアを切り刻む。二人分の血が舞い、二人が戦っていた付近の地面はおびただしい血液で埋め尽くされた。血液の中に二人は倒れ、倒れた反動で少し血が飛んだ。どうやら相打ちだったようだ。
何かどんどん暗黒っぽくなって来てる?
続き気になるわ……!
>>54
いやいや、何か例えの表現とか、描写の仕方とか
めっちゃ文才あると思う!
でしょ?wwwほぼ一致だよねw
♪あーしーたーきょーうよーりもーすきにーなーれーるー
>>56
続き気になる?嬉しいなあ(笑)
マジ?でももっとすごい人がいるのはほんまやし…まあでもありがとう!!
♪あふれるおもーいがとーまーらーなーい
はい、本編の空気と違いすぎるだろってね()本編始まります。
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一方、セフェリノもまた、ハインツを相手に苦戦していた。能力は至って普通の地属性の魔法であり、能力の珍しさや威力、魔力の高さなどの面においてはセフェリノのほうが圧倒的に有利だった。が、長年の経験によってハインツは自身の能力の特性、弱点などを知り尽くしており、実戦経験がエマやヴィクターに比べて多いセフェリノであっても歯が立たないのだ。ハインツはセフェリノの行く先行く先の地面を操る。攻撃が飛んでこないように計算しているのだろう。長年の経験もあってか勘も鋭く、セフェリノの次の足場にする先を見事に当て、攻撃する隙を与えようとしなかった。
少し荒くなってきた息を整えようにも、ハインツは休ませる気など更々なく、容赦なく地面を操り、更には地面から得体の知れない、長いツタのようなものを伸ばしてセフェリノを締め付けようとする。余裕のない中、セフェリノはハインツに対抗しようと、影を伸ばす。が、その影がハインツのもとまで届くことはなかった。影はツタのようなものに打ち消され、影の消えた反動でセフェリノの体も軽く吹き飛んだ。
「所詮若造にできることなどない。レリアはまだまだ弱かった、それだけのことであって、君たち自身は無力なのだよ」
こんなときですら、ハインツは余裕の表情で微笑む。長年の経験による余裕から生まれる笑みなのか、それともただの悪趣味な笑みなのかを判断するほどの余裕はセフェリノのはなかった。
ーーーふと、セフェリノの脳裏に一つの手段がよぎった。失敗すれば間違いなく自分は敗北して、命を落とすことになる。それだけならまだいいものの、ヴィクターやエマ、ベルディアまでもが命を落としてしまうことも考えられるのだ。それでも今は僅かな可能性にすがるしかない。
ハインツにも、わずかに隙が生まれるくらいに激しいトラウマがあるという可能性に。
わずかに地面に足を飲まれながらも、セフェリノは落ち着いて、的確に魔術を当てようと集中する。ハインツはセフェリノが諦めた程度にしか捉えておらず、まだ余裕そうな笑顔を浮かべている。魔力が変化していることにすら気づかなかったようだ。ふと、ハインツの視界が暗転する。暗闇で視界がかき消されると、今度は頭の中に激しい痛みと、彼の中の忌まわしい記憶がぐるぐると駆け巡る。
「ぐぅっ…」
声にならない声が耳に入ると、セフェリノはすかさず影を伸ばした。勢いよく伸びた影はハインツのもとまで届き、うずくまるハインツを貫く。貫いた影はセフェリノの足元へと静かに帰っていき、ハインツの体もまた、静かに倒れる。運任せではあったものの、なんとかセフェリノは勝利を収めた。
『いやぁ、お見事です』
長らく黙っていたエマ、もといロイダは手拍子にも似た軽い拍手をする。そしてセフェリノの方にニタニタと笑って近づき…
パキッ、と音を立てて何かをぶつけようとしてきた。嫌な予感がして反射的に後ろに飛ぶ。すると、ロイダは勘はよろしいようですね、とあの怪しい笑みで言う。彼女がそういった直後、地面がパキパキと音を立てて徐々に凍り始めた。どうやら音の正体は氷だったらしい。凍った面積が広がるにつれて辺りの空気は冷やされ、うっすらと寒さを感じる。
『氷の魔術…水の魔術の上位互換とでも思っていただければ。少なくとも一族の中で唯一平凡な能力しか持ち合わせてなかったベルディアさんよりは強力ですよ。まあ、私の能力はこれだけではないのでね』
ベルディアの方にそっと視線を向け、見下すようにロイダは言った。これだけではない、という言葉が気になるが、彼女の本領発揮を待っていれば間違いなくセフェリノもやられてしまうだろう。ならば本領を発揮する前に始末してしまえばいいだけのこと。そう簡単に敵うはずもないことは薄々感じながらもセフェリノは影を伸ばした。
ーーーロイダがうつむき加減に笑ったことにヴィクターもセフェリノも気づかなかった。
無論、初手は氷で薙ぎ払われる。氷で薙ぎ払うとロイダの方も氷柱のような尖った、鋭い氷の棘を無数に飛ばしてくる。その大きさゆえに動けなくなるほどの傷になることはないだろう。しかし、距離を詰めることも難しければ、視界も不安定で、セフェリノの方が圧倒的に不利である。涼しげな顔で氷を放ち続けるロイダをどうすればよいものか、とセフェリノは被害が最小限になるよう薙ぎ払えるだけの棘を薙ぎ払い、懸命に、冷静に策を練った。トラウマの再起には集中力が必要であるために使えない。あまり最善ではなかったが、セフェリノは近くの木陰に体を同化させ、一時的に考えることに集中しようとした。自身の体を影に変形させることは魔力の消費が激しい。あまり長くは考えられないのだ。
攻撃を避ける必要がない分、今なら集中力を保てる。ロイダのトラウマを再起させることもできるだろう。さっきほど時間を稼げなくてもいい、とにかく今は厄介な氷の棘の雨を止めて隙を作ることが最善だ。
ーーーしかし、そううまくはいかないのである。
棘の雨が止まった。次の手はなんだ、と静かに構えていると…
ザシュッ、と自身の体を貫く音がする。激しい痛覚と冷たい感覚も同時に襲ってきた。
ああ、さっきもこんなことがあったな。
せっかくヴィクターが傷を癒やしてくれたというのに。
…やっぱり僕じゃ敵わなかったな。
意識が薄れゆく中、セフェリノの目には自身を貫いた鋭利な氷が、あらゆる方向に飛び出している光景が焼き付いた。
わずかに意識を保っていたヴィクターは今起きた惨劇に目を見開き、朦朧としていた意識がはっきりしたことを感じた。3人の中で一番実戦経験も豊富で魔力の高いセフェリノが負けてしまったのだ。そもそも彼の敗北した光景を見たことがなかったのだから意識がはっきりとしてしまうのも無理はない。むしろ今意識がはっきりすることは都合がいいとも言える。いや、実際に自分の体が元気になったわけではないので意識がはっきりとしたところでどうしようもないわけだが。
『どうしても貴方は残される運命なのですね。それでは貴方にあなた方の運命を私が教えてあげましょうね』
子供に語りかけるようにロイダは言って、本当に彼らの運命を語り始めた。
『と、その前に。ベルディアさんについても少しお話しておきましょう。彼女がエマさんのご両親を殺したのはあなた方の操られる運命から逃そうとしたからですよ。まあ結局偽物といえど吸血鬼が選択した運命は絶対的なものだったみたいですね』
あははははははっ!!と辺りに響き渡るようにロイダは高笑いした。
『私達が選んだ未来…それはあなた達が最終的には破滅するということ。もちろんベルディアさんも含めてです。それがアスピヴァーラに永遠の栄光が与えられるという未来に繋がっていたのですよ…!!』
「…栄光を得てまで新魔術の実験がしたいか」
『勿論ですとも、いずれ私も永遠の存在となって、永遠にこの世界を支配する者として君臨するのです…そのための準備ですよ、新魔術の実験は!!』
高ぶった様子のロイダに、ヴィクターは呆れを通り越したのか笑っていた。ロイダはそれが気に入らないのか、むっとしてヴィクターの方を見つめる。何が面白いんですか、と尋ねると
「そんなこともわからないやつが世界を支配するなんてできっこないさ」
と笑った。バカにされたと思い込んだロイダはついになにがおかしいんですかっ、と怒りを顕にした。それを見てヴィクターは更に笑い、あろうことか咳き込み始めた。元々体の調子が全快でないことも要因してのことだろうが、それにしても尋常ではない。
「貴様は我々が破滅すると言ったな?しかしそうはならない。させないんじゃなくてならないんだ。先程も申した通り貴様にこの世界の支配者なんて大層なことはできない。運命の示す通りに行動すれば自身の求める未来が待ち受けていると信じ切っているのだからな。もしもこの先も生きていられるなら、一生、この言葉だけを覚えてろ。
ーーー全部が全部、お前が過信している運命のご示し通りにはならないとな!」
そう言い切るとヴィクターは最後の力を振り絞り、セフェリノとベルディアの回復に全力を尽くした。己が持ち切る魔力のすべてを注ぎ込んで。体のあらゆる場所から血が吹き出ようと止まることはせず、本当に全力を尽くしたのである。
「さあ、私はここまで、だ…」
そう言って血みどろの地面にヴィクターの体は倒れ込んだ。
「…やるじゃないか。と、その前に。ありがとう、ヴィクター。君にこの先もしぶとく生きてられるだけの悪運があればいいね」
「すごい…これ、呪いまで回復してるの…?」
「正確には呪いの分の負傷をヴィクターが背負ってる、ってところだね。さあ、こうしちゃいられない。早くそこの化け物を退治しよう」
「でも中にはエマが…」
「生憎僕はヴィクターのように甘っちょろくないものでね」
そう言って早速セフェリノは影を伸ばそうとするが、瞬時に先程の二の舞になるのでは、という考えが浮かび、トラウマを再起しようという考えに転換した。ロイダのいる方向に魔力を向け、勢いよく放つ。確かに魔法は彼女にぶつけられた。…しかし、ロイダがトラウマに頭を痛める様子も、苦しむ様子も見受けられない。平然と立っているのだ。魔法をぶつけられてしばらくするとにっ、と急に口角をこれでもかと言わんばかりに引き上げて笑って、狂ったように氷を放ち始めた。先程のような棘だなんて可愛いものではなく、一度貫かれてしまえば回復すら間に合いそうもない。間違いなく即死してしまうような大きさだ。
「こんなの…!!」
「いや、これくらいならなんとか避けられるよ」
セフェリノもベルディアも自衛を怠ることなく無我夢中に避け続ける。ただ逃げるだけでは無駄だと分かりきっていたし、トラウマの再起が効かない訳も、急に氷が大きくなった訳も、なんとなく想像がついていた。しかし、どうにも打開策が思いつかないまま、ただ逃げ続ける時間が続いているのである。
攻撃を当てようと二人はそれぞれ、がむしゃらに影を伸ばし、水の粒を放ち、刺し切り刻むことを繰す時間が続いた。そのうち、数回に一度だけロイダもといエマの体が影や水を掠めることにセフェリノが気づいた。理由はなんとなく察しがついた。けれどまだ、その時ではない。ベルディア同様、無心に影を伸ばし続ける。
ーーその時だった。ガクッ、とエマの体が傾いた。
「邪魔しないでくださいっ!!!」
ロイダが声を荒げた。ロイダの方も必死に抗おうとする様子が伺えた。刹那、抗う動きが止まり、エマの体は少し重たげに、低木にもたれかかりながら意識を取り戻した。
「私が今から全力で彼女の力を抑制します!その間にありったけの魔力を私の体にぶつけてください!」
「で、でもそれじゃあ君も」
「いいんです、そのくらいしなきゃ彼女は私から消えない。さあ、あなたたちの手で、そして私の手で。彼らが決めたくだらない運命なんて壊してやりましょう」
伯爵令嬢らしくない、不敵な笑みを浮かべた。いや、そうは言ってもやはり少しばかり可愛げを含んだ、悪戯めいた笑みだった。
「さあ!!!今です!!!」
その声は屋敷で声を荒げた時よりも、先程ロイダが声を荒げた時よりも遥かに大きい、勢いのある声だった。いつになく張り上げた声を合図に、ベルディアが勢いの強い水を放ち、セフェリノが鋭利な影をロイダの方へと伸ばした。無論、両者の本気の攻撃にいくら魔力の有り余ったロイダといえど反応できなかった。
青と黒が混ざり合って、彼女を包み込むよう周りに取り巻いた。二色が消えた時、地面に倒れこむエマの体が二人の視界へと入った。きっと軽傷では済まない。きっと、エマはこの街を守れるならなんでも良かったのだろう。それが自身を犠牲にすることになったとしても。
「……疲れたねぇ。僕達も、ここまで、か……」
「ええ……我ながら、よく、やった、わ……」
ドサドサッ。二人分の倒れる音がした。