内容はない。思い付き駄文。妄想の延長線。補助線。閲覧禁止。乱入禁止。hoge進行。長文が目立たない&迷惑ととられにくいという考えより、小説板にたてています。注意・ご指摘のある場合のみレスを許可します。
42:匿名 hoge:2020/10/20(火) 21:3230分と見積もられていたが、とうにその時間は超えた。薬の効果と暫く寝たことから幾分顔色が良くなった、といってもまだ万全には程遠いが、彼が目覚めた。もぞもぞと起き上がると飲み物を一口あおる。かけてあるものが増えたことに気づき、ありがとうございます、と口にする。寝起きは特に低血圧で覚醒していないらしい。少しは寝れたか、はい、と少しずつ会話している内に段々覚醒してきて、30分は過ぎただろうに一向に動く気配がないのに気づく。あれ、と彼が口を開こうとしたそのタイミングで運転手から朗報が入った。「もうあと5分程で動けるみたいです。」全員が安堵の表情を浮かべる。その言葉通り、すぐにバンは動き始めた。ここから宿までは30分程。すぐだった。合宿などで使われる大部屋ベースの宿は格安で長期間泊まれるが、サービスはほとんどなく、食事は朝しか出ない。金がない今、最適な場所だった。宿につき、こんな時間にも関わらず連絡を受け、あけておいてくれたらしく従業員が出てくると部屋へ案内してくれた。今は深夜2時。休みは予定より多くとり、稽古は午後からとなった。シャワーを浴びて、腹を少し満たしたあと、荷物を片して布団を敷く。場所ぎめのじゃんけんを行い、寝転がっていく。彼は、早々にあがり、コンセント付近の端を獲得していた。勿論、大部屋なのでコンセントは多くあるし、延長コードもあり、一斉に多く使っても大丈夫なようにはしてある。が、やはりコンセントの近くは便利であるし、端は居心地の良いものだった。疲れていたのに変わりはなく、すぐに眠りにはいった。
43:匿名 hoge:2020/10/20(火) 21:48鬘を被る、とは言っても髪をネットに入れなければならず、重度の天然パーマの彼は縮毛矯正を余儀なくされた。天然パーマでもチリチリではなく、フランス人形のようなウェーブであり、サラサラであったが意外と癖が強いらしい。縮毛矯正をしても髪があっちこっちに跳ねてしまっている。端正な顔立ちの彼にはそれさえも似合ってしまっているのだが、いささかそのままというわけにもいかない。寝癖がついていると思われてもおかしくない。役の姿以外で人前にたつとき、それではいけないであろう。そう考えた天然パーマの持ち主、他校の部長役がヘアーアイロンをあてることを勧め、彼はそれを忠実にまもっている。丁度肩につかないほどのボブ。相変わらずサラサラの髪をストレートにしてしまえば、それはまるで座敷わらしだが、彼がすると大変違っていた。まず、天然パーマであったときはなかった前髪を作り、ぱっつんに切り揃え、後ろ髪も同様切り揃っている。天使の輪が美しく出る、不思議な色の髪はサラサラで細い。大きな潤う瞳に長い睫毛、つんとした鼻に、透けるような肌、細い眉に猫目、小さな桜色の唇。そう、それはもう美少女だ。しかし、彼にとっては自覚がないうえにどうでもいいことであるらしく今も前髪に慣れないのか、前の方の髪をまとめて縛り、鯨のようになっている。何をしても似合ってしまう。
44:匿名 hoge:2020/10/21(水) 20:58彼は俗に言うショートスリーパーであった。だがしかし、詳しく言うと、長時間睡眠が出来ないだけである。寝すぎると頭が痛くなる、という人も多い。それは、寝すぎると起床時の反動が大きく、寝起きに急に血流が増加し血管の拍動が強まるためである。彼は、身体が弱く幼い頃から基本低血圧、特に寝起きは、で寝すぎるといきなり拍動が強まり、命の危機さえ引き起こしてしまうのだった。だから長くても5時間までだった。また、彼の睡眠は普通より深く、3時間寝ただけで一般人の6時間睡眠と同じぐらいになるらしい。今日も例にもれず、4時間して起きた彼は同じく今丁度起きたであろう部長役に目を向ける。寝起きは低血圧で頭がぼー、っとしているのでしばらくそのまま。そしてもぞもぞと眼鏡をかけ、口を開く。おはようございます。部長役は他を起こさないように小声で、おはよ、シャワー先使っていいよ、と返してくれた。髪を乾かすのに時間のかかる彼はありがたくその言葉を受け取り、ありがとうございます、と返すとバックパックから着替えを取り出すとシャワールームに向かった。
45:匿名 hoge:2020/10/21(水) 21:12彼にはこだわりがなかった。決して広くないシャワールームに入ると持ってきたボトルから液体を取り出す。リンスインシャンプー、これ一本あれば髪を洗える。フランスにいた頃から使っていたもので、これが良いのではなく、これでないといけないのだ。肌の弱い彼に合うものはなかなかなく、自営業のちいさなお店で姉が発見した。ここの商品は彼の肌にとても合い、保湿クリームも使わせてもらっている。乾燥に弱い彼は保湿クリームを手放せなかった。わざわざ日本まで取り寄せて使っている。他のキャストがシャンプーやらリンスやらコンディショナーやらを使っているその隣でこれ一本でサラサラヘアーをどうやって保っているのか。シャワーを浴び終えて、練習着に着替える。長い髪はタオルで包み、着替え終わったところでドライヤーを取りに部屋に戻る。まだ起きている者は部長役だけだった。ドライヤーを手に、洗面所に戻ると着替えを持った部長役がやってきて手を出す。大人しくドライヤーを手渡せば慣れた手付きでコンセントを差し、頭のタオルを外す。面倒見が良い、というわけではなく、仲の良いキャスト陣であったので日常茶飯事、誰でも構わずコミュニケーションの一貫として行っている。これまたこだわりのない、家から持ってきた母のお古は大分前のものらしくうるさい。だがこんなことでは起きないだろう。謎の自信からガンガン髪を乾かしていく。乾かされている間、音が大きすぎて会話は出来ないため、ポーチから例の保湿クリームを取り出し塗っていく。彼のスキンケアとも言えぬ過程はこれで終了。その透けるような美肌は彼持ち前のものだった。シャワーを浴びて流石に目覚めた彼はすっかり乾いた髪を鏡越しに見、ドライヤーを片している部長役に礼を言う。ありがとうございます。調子どう、ときいてくる。きっとバンの中でのことを気にかけてくれているのだろう。もう大丈夫です、睡眠とりましたし、と返せば安心したように笑い、シャワールームへと向かった。
46:匿名 hoge:2020/10/21(水) 21:30薬入れの中からいくつか錠剤を取り出し、沸かしてあったポットのお湯を少し冷まして慣れた手付きであおる。別にどこかの女優の様に意識が高いわけではなく、単に薬は白湯で飲んだほうが効く、と言われていたからだ。すっかり乾いた癖っ毛を直すため、これから稽古なので一応ちゃんと整えておく、ヘアーアイロンを取り出した。天パ仲間の他校部長役が勧めてくれたもので、もう慣れたものだった。なかなか直らない癖を丁寧におさえていき、なんとか座敷わらしヘアーを完成させる。前髪には一向に慣れないので、癖が残るから駄目、と言われた鯨をさけ、大人しくピンでとめる。コンタクトを出し、眼鏡を外して入れる。目が大分悪く、裸眼では生活出来ない。耐水性の補聴器、お風呂でも何かあった際に無いと不便だ、を外し普通のものをつける。ずっと耐水性の方が安全のような気もするが、やはり性能的に劣ってしまう。これから稽古なので緩くハーフアップに髪を結い、ピンを外し終わりだった。と、同時に部長役がシャワーを浴び終え、出てきた。一度洗面所から出ていきようやく目覚めた者にシャワーを勧め、ドライヤーを手に戻ってくる。こだわりのある者は、勝手に髪を乾かし合うことはないし、皆そのことを熟知している。部長役は特にこだわりがない方の人間である。さっきの部長役のように彼は手を差し出す。ぽん、と手に乗ったのは人気シリーズのひとつかふたつ程前のタイプだ。比較的静かなそれを器用に使い髪を乾かしていく。短いその髪はすぐに乾く。それを確認して、ありがとうございます、と鏡越しに笑いを投げかけてくる。ドライヤーを片して部長役に返すと4席ずつが両壁際に並んでいる椅子の部長役の隣に腰掛ける。彼よりは幾分丁寧なスキンケアを始めた部長役とぽんぽん、と緩く会話を交わしながら、ねぼすけさんたちが起きてくるのをまった。
47:匿名 hoge:2020/10/21(水) 21:38ようやく全員が支度を終え、軽く昼食をとり、稽古が始まる。稽古、といっても制作スタッフは会場の下見と会場のスタッフとの打ち合わせがあるのでキャストのみでの自主稽古だ。広い練習スペースを確保しているのは明日からで、今日は宿についている狭い体育館、流石合宿向け、を借りて練習する。アップは個人個人で行う。彼は相変わらずぺたー、と足を180度開き、前に倒れ床に突っ伏して静止している。しばらくすると起き上がり、今度は前後に180度開く。終わったら、今度は筋トレを各々で進める。小柄で細見の彼は筋力こそあまりないが、持ち前の器用さでひょい、と軽く倒立するといとも簡単に静止し続け、今度は反対側に足をおろし、ブリッジの状態から立ち上がる。アップと筋トレを終えたものから小休憩に入る。彼も休憩へと移行し、水をあおる。この水は、普通の水ではなく砂糖水である。糖を補給するのだ。彼にとって必須アイテムであった。
48:匿名 hoge:2020/10/23(金) 21:52さて、今日は制作スタッフ及び監督がいない。広い練習場もないので外周が主な稽古内容だ。稽古、と呼んでいいのかわからないが、とにかく走って走って、体力をつける。元々、体力のあるものが多いが思っているよりも板の上では体力を消耗する。これから早朝ランニングは日課となるだろう。メンバーが全員アップを終えたところで、外に出る。快晴だった。昨夜は大分冷えていたのでそれよりはいくらかマシだが、寒いことに変わりはない。さっさと走り終えて身体をあたためたいところだった。今日は取り敢えず10kmの軽いランニングだ。10kmであれば余裕、と思っていた者も多かったが、意外と酷だった。慣れていない土地ということもあり、最初は緩く全員で走った。が、ゴールした時点で息を大きくきらしているもの、余裕の表情を浮かべているもの。勿論彼は後者だ。流石に休憩をとろう、ということになり、部屋に戻る。この後は早めの夕食だ。今日の昼食は予め買っておいたものだが、今後は自分たちで宿付属のキッチンを借りて調理する。シャワーを浴びて汗を流し、久々の食料にありつく。もう大分暗いので、体育館に戻り、歌の練習をする。発声練習から取り組むが、このときから彼が他と違うのがわかる。声の出方が違う。皆、改めて彼の凄さを実感し、少しでも多く学ぼうと教えてもらう。普通、年下から教わるのには少なからず抵抗があると思うが、彼らの場合は少しでも良いものに、という思いの方が強かった。彼は直感的な器用さをもっているので、教えるとなると難しいらしい。声の出し方は誰に教わったわけでもない。しばらく悩んで、ふと昔兄からきいた話を思い出す。そして、言葉を紡ぎ始めた。「ん〜、昔兄さんから聞いた話なんだけど、英語とかフランス語は日本語と比べて抑揚がつけやすいから、声の出し方?が掴みやすい……とか。例えば、日本語だったら棒読みになりがちでも、英語だったら歌ってる、ミュージカルっぽい感じにしやすい、ってことかな。」直感的な彼にとっては頑張った方だ。分かるような分からないようなそんな感じだが、彼に従うしかない。「じゃあ、英語で歌ってみると声の出し方が掴める、のかな?」「多分、そういうことですね。」意を汲み取った部長役が問うと曖昧な答えが返ってきた。まぁ、やってみるしかないのだろう。
49:匿名 hoge:2020/10/23(金) 22:15 「例えば……Titanic?あの曲のサビとかだったら声をどのポイントで出すか分かりやすいと思う……。」「タイタニック?あの有名な曲だよね。」「うん、俺でも知ってる。」「歌える?」「いや、英語無理だわ。」「せんせー見本お願いしても……。」「えっと、多分英語の方が分かりやすいかな。」少し戸惑いながらも水をあおる彼。ラスサビね、と前置きして歌う体制に入る。マイクなんてないし、広くないと言っても体育館だ。音源もないからアカペラ。でも彼には期待してしまう。顔をあげると歌い始めた。いきなりラスサビ、最高潮の盛り上がりを出すのはプロでも難しい。が、彼はここまでだったのか。皆惹き込まれた。「You're here, there's nothing I fear,
And I know that my heart will go on
We'll stay forever this way
You are safe in my heart
And my heart will go on and on」たったそれだけ。でも息をするのを忘れる程、聴き入ってしまった。原曲キーで歌っているのか大分高い。高音なんて女の人でも出ないだろう。しかし、彼は器用に、甲高くなく、美しくそれでいて深く、声を出した。皆が余韻に浸っている間もなく、解説を始める。「このthere's nothing I fearという部分で一番の盛り上がりを魅せる。nothingの出し方、抑揚の付け方、が大切かな。」ぱっと現実をみせつけられ、大人しく解説をきく。確かに、洋楽の方がサビの盛り上がりが凄い気がする。「ん、日本にはカラオケがあるから、それ使うと良いかも。声の出し方に注意すると音程がわからなくなるから、マイクのエコーをきって自分の声に集中しつつ、音程が合ってるかも分かるよね。」なるほど、と一同感心する。明日からフリー時間はもっぱらカラオケで決定しそうだった。
現在
新しい情報が入った。いくら慣れ親しんだ隣人だったとして、いくら油断していたとしても、彼の家族がそんな簡単に殺られるものか。いくら幼い子供がいたからといって、親二人と社会人の姉、抜けているところはあるものの勘のするどい母、護身術を学んでいた父、父の影響でずっと古武術を習っていた姉。ここまで余裕たっぷりに殺られるとは思えない。その答えが今、分かった。隣人はよくお菓子を差し入れした。料理がうまく、将来の夢はシェフ。成瀬一家はそれを応援し、作りすぎた、と一人暮らしの彼が持ってきてくれる料理を快く受け入れていた。が、今回はそのお菓子に毒が盛られていた。流石に一番下は幼すぎてお菓子は食べられない。だが、もともと残す予定だったから問題ない。皆、疑いもせずに食べた。頭の良かった彼はバレない毒を作ることなど造作もなかった。遅効性のある毒。効き始めた頃、家を訪れ、弱っているところを襲う。死に至る程強い毒ではなかったが、その力を軽く半分以下に出来る代物だった。ここで彼。彼は隣人からフランスへ飛び立つ前、同じくお菓子を差し入れられた。使ってる材料は全部フランス持ち込みオッケーのやつだから向こうで食べてね、腐らないと思うけど早めに食べてね、そう言って渡された。彼も日頃仲良くしてくれており、役が決まったときにとても喜んで観に行くと言ってくれた隣人からの差し入れを嬉しく思い、フランスへ飛んで、言いつけどおりおやつに食べた。遅効性のある毒。効き始めたのは夕食時あたり―――。つまりついさっきだ。この症状はショックからくるものだけではない。刻々と毒が回り始めた合図。お手製、正体不明の毒。冷や汗が垂れる。
現在
漸く意識が完全に戻ったと思われた彼だったが、すぐにふっと眠りについた。それから暫くして、りょーたがスマホを開き、なにやら目を見張ると、無言で画面を見せてきた。最新情報、として先程のことが載せられていた。毒―――。驚き、急いでその旨を医者に伝える。考える。隣人は彼をどん底につき落とそうとしている。そして敢えて末っ子と兄を残し、辛い思いを倍増させてきている。つまり、隣人は彼の死は望んでいない。だから恐らく毒は盛られていない。だが、この現状をみると、致死量までではない、身体の弱い彼ならばすぐに体調を崩すような、少量の毒を盛られた、ということも考えられる。わからない。医者にそのことを伝える。すると、医者は焦ったように電話を繋ぐ。すぐに、ここらで一番大きい病院に運びます、救急車はかなり遅くなるみたいなので車を出します、と言った。薬と共に、まだ眠っている彼を運ぶ。部長は残り、残ったキャストにこのことを伝える。いずれ分かってしまうこと、思い役割だったが引き受けた。もうニュースをみていた者も多いらしく、制作スタッフ含め関係者全員が集まったときには、目を赤くしている者が数名いた。未だ流れ続けるニュースの無機質な声が事実を告げ終えると、皆俯き、部長が今の状態を伝えるものの、重たい空気がその場に残った。
現在
急いで病院に行く。大きい、と言っても近い範囲内のことであり、不安をあおる。急いでその旨を伝えると、病院の医者らは急いで検査を始めてくれた。結果が出るのに、少し時間がかかるらしい。彼はその間、眠り続けた。結果が出た。毒は盛られていた。致死量ではなかった。だが、彼の身体には大ダメージである。遅効性、だが彼が飲食した時間を考えるとまだ胃の中に残っているかもしれない、吐かせたら悪化を防げるかもしれない、ということ眠っている彼は看護婦によって治療室へと向かった。暫くして医者が戻ってきて、一応全部吐かせました、ですがどのぐらい毒が回っているのかわかりません、取り敢えず点滴で栄養は補っていますが次いつ目覚めるかも……、と再び不安をあおる。一応、と警察に連絡しておいた。警察とは無慈悲なもので、どこからもれたのやら、すぐニュースになる。また、話題になる。「続報です。先程から繰り返しお伝えしております一家殺人事件、事件発生当時フランスにいた一家の次男も〇〇容疑者によって毒を盛られていたことが判明しました。詳しくお伝えします。一家殺人事件から2時間が経った今、再び新しい情報が入ってきました。警察の捜査によって、事件直前毒を盛られていたことが先程判明しましたが、当時日本を離れフランスにいた一家の次男にも毒を盛られていたようです。事件前日、日本を離れるために家を出る13歳の次男に差し入れ、と手作りのお菓子を手渡し、その中に毒を混入していたとのことです。体調の悪化により、フランスの病院に救急搬送され、現在治療中です。繰り返します―――。」
すぐにTwitterで騒がれる。やはり成瀬千翔一家だ、フランス公演1ヶ月後だよね、絶対そうだ13歳でしょ、可哀想、舞台どうするの、治療中って今どうなってる?、まだ関係者から情報ないね、他のキャストもTwitter更新しないし。監督、制作側が抑えたのか、名前こそ出ないものの分かってしまう。もう、皆が彼のことだと確信している。反応は様々だが。どうすれば良いのか、皆頭を抱えた。
54:匿名 hoge:2020/10/27(火) 22:03暗く、重い空気が流れようと、明日に備えて寝るしかなく、残ったキャストは言葉を交わすことなく、眠りにつく。病院には監督と制作スタッフ1名がやってきて、交代する。時間は刻々と過ぎ、すぐに朝がやってきた。彼が目覚めた。「……~…~~~……~……」目をこちらにやり、何かを訴えようとしているが、声になっていない。急いでナースコールを鳴らす。すぐに医者がやってきた。軽くチェックすると彼に話しかける。聞いているようだが、彼からの返答はない。目は、反応している。続けて手を軽く握り、呼びかけに応えるように言う。小さく、微かに頷いた彼だったが、全くその手に反応が返ってこない。逆の手で繰り返すと先程より少し、反応が返ってきた。それでも、それは、気をつけていないと気づかないほど、小さなものだった。看護婦に何やら指示を出す。看護婦が出ていき、点滴袋を手に帰ってくると手早く付け替えた。どうすることも出来ない、毒が抜けきるのを待つしかないと言われ、監督はキャストのもとへ帰る。公演は一ヶ月後。時間がない。彼は主役。座長。これだけ大きなことが起こったから中止……その選択肢はなかった。初の海外公演、だからではない。恐らく彼は中止を望まない。目覚めたとき、彼がどう思うのか、感じるのか。考える。今のベストは。ふと頭をよぎる彼の言葉。「もし、僕に何かあったらそのときは彼にお願いしたいな。座長命令、ってやつ?です。」おちゃらけたように、はにかんでそう言っていたのを思い出す。これしかない、と思い、急いで帰る。
55:匿名 hoge:2020/10/28(水) 21:48戻り、キャスト及び関係者を談話室に集める。監督、その立場だからといって、独断はない。報連相だ。皆、まだ雰囲気は暗い。思いっきて口を開く。「予定していたとおり、公演は、全て行おうと思う。」「ちかは、戻ったんですか?でもそんないきなり――。」「いや、まだだ。まだ寝ている。体調もいつ戻るか分からない。」「それじゃあ、どうするんです。いくらやりたくても出来ないじゃないですか。」「確かにあいつは公演をなくすことは望んでいない。でもすればいいってもんじゃないですよ。」「代役――。代役は、どうするんです。」皆がハッとする。彼以外の座長は考えていなかった。代役を考えるのが妥当だ。実際、今まで稽古中の怪我で代役として卒業した同役に出演してもらうことは数度あった。皆が記憶を呼び戻し、考える。が、次の監督の言葉に皆が耳を疑った。「代役は、もう目星をつけてある。黄金井漣――。最終選考まで残っていた者の内のひとりだ。」聞いたことのない名前だった。
56:匿名 hoge:2020/10/28(水) 22:02「素人をいきなり放り込むんですか?一ヶ月しかないんですよ。」いつも会議は白熱する。信頼関係があるからだ。皆、自分の思いをぶつける。「何故、彼を選んだんですか。」「ちかが、そう頼んだんだ。座長命令だ、って。」監督の言葉に息が詰まる。「ちかはまだ寝ているんじゃ……。」「ずっと前だよ。ちかに決まったときぐらいだね。彼はこう言ったよ。『もし、僕に何かあったらそのときは彼にお願いしたいな。』ってね。」言葉が途切れる。皆知っていた。彼は昔から身体が弱かったことを。だが、そこまで言っていたとは知らなかった。もしかすると、自分たちが思っている以上に彼は弱いのかもしれない。「ちかが選ぶ、ってことは余程何か決め手があったんだと思います。それは、なんですか。」「ダンス――だ。漣は誰にも負けない、強気なダンスをもっていた。一際目をひくそれは素晴らしかった。だがそれ以外がてんで駄目だった。比べるまでもなく、ちかをとった。でも、ちかは彼に目をつけた。あれだけ何かを極められる人はなかなかいない。尊敬する。きっとあの人、主役だよ。キャラ、そっくりじゃん。負けず嫌いなとこ、これだけは譲れないって何かがあるとこ。そう言ってた。だから、代役は彼しかいないと思った。勿論、今の彼が何をしているか知らない。だがあたってみる価値はあると思う。」「俺は、彼に代役を頼みたい。」「俺も。俺たちがどんな判断をしてもきっとちかなら分かってくれる。でも、今出来るベストはそれだと思う。」満場一致だった。「すぐ来てもらえないか、連絡する。来てもらえるかは分からない。だが、公演に向けて、準備を進めてくれ。」少し、前に進んだ。
57:匿名 hoge:2020/10/28(水) 22:06事務所に電話を入れる。まだ彼は辞めていなかった。事務所は悩んでいた。一ヶ月。出来たら未来が一気に明るくなる。でも、失敗したら。うまくいかなかったら、リスクは大きかった。一度切り、本人に連絡を入れる。本人は驚きこそしたが、迷わず、やります、と答えた。フランスへ向かった。
58:匿名 hoge:2020/10/29(木) 17:50事務所を辞めていない、ということは恐らく稽古を続けているのだろうし、あの迷いのない返事は自信があるからなのだろう。すぐにフランスに来させたのはその為だった。動画も送らせなかった。現状を打破するには漣が必要だった。電話して2日後。漣は来た。漣――彼もまた、17、高校生であった。
59:匿名 hoge:2020/10/29(木) 21:05 (事実₡二人称三人称名前)
黄金井 漣―――。17歳、高校2年生。身長165p、体重50kg、小柄。スッとした鼻筋、小さな顔、細いものの不健康には見えない、タッパこそないが完璧なモデル体型。切れ長の目、薄い唇、一言で表すなら、爽やかそのもの。が、話すと部長やれんをも凌ぐ天然っぷり。黙っていればモテる。一周回って喋ってもモテる(所謂ギャップというやつだ)。まぁ、ただのバカではない。ダンス馬鹿だ。ダンスしかやってこなかった。生粋のダンス馬鹿だ。だからこそ―――。ちかの代役、座長という大役に抜擢されたのだが。ダンス、ときいて思い浮かべる、ヒップホップならばチャラチャラダボッ、即興的ならば一般人には理解出来ない謎のメイク、というわけではなく、黒髪ピアス穴なしアクセなしの一見優等生ファッションの漣。だが、彼はそのあたりにも興味がないだけであった。彼が事務所に入ったのもそれなりに良い先生からダンスレッスンを受ける機会が欲しかっただけで、オーディションを受けたのもダンスが項目に入っていた、ダンスを人前で踊れるから、だった。言い方によっては問題児になってしまいかねないが、ちかはそこを買ったのだ。フランスについて、じゃあまずは踊ってみて、と言い、漣が踊り始めてからの空気の変わりように驚いたのは、その場にいた皆だった。
分かりやすく言うならば、やるときはやる男。だが、彼の場合やるとき、とはダンスを踊っているときにほぼほぼ等しい。とは言っても、やはりオーディション時よりはるかに成長している。歌なんて壊滅的、演技はとてもみていられなかったが、勘が良いらしい。歌もそれとなく歌えるようになっていたし、演技も棒読みから大分進化している。それでもあと1ヶ月で仕上げるのはかなりのハードスケジュールになりそうだ。この性格からして、キャストの皆もすぐ受け入れ、前進し始めるだろう。ではここでひとつ。ダンスにしか興味がない彼が、このオーディションを受け、更に一度落ちその後のこの声掛けに迷いなく答えたのは何故か。先に言っておくが、彼が馬鹿だからではない。彼には憧れの存在があった。ダンスを始めるきっかけ、だ。その人は舞台の上にいた。歌い、演じ、そして踊った。彼は踊りで決まる、と思った。たとえ、どんなに良い歌声でも、踊って乱れれば意味はない。たとえ、どんなに良い演技でもそれに合わないだらしないダンスを踊れば台無しだ。踊りが決まれば、かっこいい。安直な彼はそう考え、ひたすらに踊った。彼の中では踊り、が最終目標ではない。あくまで手段のひとつだ、板の上で輝くための。だから、登竜門と言われるこのオーディションに参加し、落ちた後も諦めず精進していたのだ。歌や演技は、オーディションのときにみた、ちかのものがきっかけになったと言っても過言ではないだろう。そこで悔しく思い、努力した彼だからこそ、今、こうしてここにいる。きっとこの機会がなくても、彼は次、きたのではないか、とすら思う。受かるまで、ただ一直線に突き進んだのではなかろうか。彼なら一ヶ月で、仲間と最高のものを創り上げる、そんな気がした。
61:匿名 hoge:2020/10/30(金) 21:47 (回想₡舞台開幕後1ヶ月)
舞台が始まり、その人気には一気に火がついた。もう終わった、などと囁かれていたのが嘘みたいに爆発的な大ヒットを巻き起こした。初演、全く埋まっていなかった席は満員。当日券も即完売。見れない客が多く出た。そこで、彼らは少しでも楽しんでもらおうと、ライブ配信、として映画館に繋いで地方の人にも配慮した。その取り組みの延長で誕生したのが、配信。舞台ファンクラブ会員のみが無料でみられる生配信だ。キャストがただ駄弁ったり、企画を起こしたり、自由に配信する。ほぼ毎日、一日6組程ずつ配信を行う。舞台、からの配信なので、舞台関係の話や、他のキャストの名を出すことが禁じられておらず、裏話なんかを聞けるのが大きな魅力のひとつであった。ひとりで配信のときもあれば、二人、三人での配信。学校単位での配信など、絶えず放送は行われていた。勿論、どの配信も変わらず人気で、特に前代から引き続きの主人校のキャストの配信は今までみれなかった裏側、ということで非常に人気であった。また、別の意味で話題となったのがちかの出る配信だった。ちかは未だ事務所に所属しておらず、SNSは勿論、ブログも開設していない。そう、つまり彼を拝めるのは舞台でだけ。それか時々、キャストのSNSに登場する写真のみだった。つまり、舞台以外でちかの姿が拝める。今まで公演後挨拶などはあったが殆ど知ることのなかった素顔が分かる、ということで彼が登場する最初の配信は大きく話題になったのだった。
(回想₡配信)
最初の配信。機械には強い彼だったが、一応2人で配信することになった。最初の相手はりょーただった。歳が近く仲が良いから、と理由は簡単だ。比較的歳が近い、と言ってもりょーたは20だ。波長が合ったらしく、彼は兄のように慕っているようだった。りょーたはやりたいほうだい、カッコつけのプライド高い奴、というイメージを持たれがちだが根は真面目で誰よりも舞台に対する情熱が強いことは誰もが知っていた。彼と2人でもきっとそれとなくうまく回すだろう、と思ってのキャスティングだった。枠は18時〜20時のたっぷり2時間。まだ13の彼を考えた時間帯だった。
り みなさん、こんばんは。毎度お馴染み、
〇〇役のりょーたと
ち 初めまして、〇〇役座長の成瀬千翔です。
りち よろしくお願いします。
り 今回の配信の内容、事前にHPに
あがってたんですけど、ざっと確認します。
今回の配信にはなんと、我らが座長、
成瀬千翔が初登場です。ということで、
彼の知られざる素顔に迫っていこう、
質問コーナーの時間を超拡大でお届けします。
そして、特別にプレゼント枠も拡大、
普段は1名様のところ、今配信限り、
5名様にご用意させていただきました。
是非、最後まで楽しんでいただけましたら
幸いです。
おっしゃ、読み切ったぁぁ!!
ここからはエンジン全開、通常運転で
進めていきます!!コメントもお願いします!
ち ねぇ、こんなに真面目なりょうにい初めてと
思ったのになんで戻るの笑笑
り 今日は特別2時間配信だからねwwとばしてくよ
ち 心配笑笑まぁ、不慣れなことも多いですが、
緩ーく配信していきます。
よろしくお願いします。
り ということで、まずは質問コーナー!
コメントで投げてくれた質問のなかから
気になったものをピックアップして
答えていきます。いつもより時間を長く
とっているので、どちらかにでもふたりにでも
どしどしお願いします!!
ち これって黙秘権ないんだよね?
り 勿論。事務所やお偉いさん方に怒られる系
以外は答えろよ。
ち えー……。
り 特にちかは自分のことを話す機会があんまり
なかったから初出しまみれになると思うな。
ち 確かに。りょうにいとか色々はなしてるけどね。
り 配信みてくれてるんだよね?
ち うん。毎日どれかみてる。りょうにいのやつも
前見たよ。事故ってたやつ。
り 俺のやつ大体事故ってるからどれか分かんね。
ち ということは今日も盛大に事故る可能性大だね。
り だなwwwそろそろ質問いきまーす!
んー、まずはこれかな、王道。
「自己紹介してください!
名前、年齢、身長、体重、誕生日!」
ち まずそうだね。じゃりょうにいからいく?
り ん。〇〇役のりょーたです!20歳、
誕生日は4月29日、168cmの54kg!
ち 〇〇役座長の成瀬千翔です。13歳、
誕生日は3月17日。156cm、42kgです。
り え、かっる。食べてんの?ほら、
心配されてるよ。
ち 全然大丈夫ですよ笑笑病的な
痩せ方じゃないんで。
り まぁ、確かにガリガリには見えんな。
ち でしょ?
り じゃあ、次!あ、これだ。
「りょーたさんの方が歳上なのに何故ため口?」
これはちかの口から聞きましょうか。
ち えー……。そこふる?
り だって俺、いつも話してるし?
皆ちかの声がききたいんだって。
ち 最初から話すと長くなるよ?
り いいよ。2時間枠だし。
ち じゃあ、まずこれも初出しね。
僕、もともと海外に住んでて、
日本語がそんなに得意じゃない。
特に敬語が苦手、っていうか全然
話せなくて。〇〇校顔合わせのときも
周り先輩ばっかりであんまり話に
入っていけなかったんですよね。
そしたら、部長が話ふってくれて、
事情話したら、これからずっと
一緒だし別に良いよ、って言ってくれて。
そこからこうですね。
り ね。だから別にこいつ、じゃなくて
ちかが
ち ねぇ、今こいつって言ったよ笑笑
り 駄目だよそこ拾ったら!炎上するからさぁ
ち ごめんごめん笑続けて
り ちかが礼儀なってないとか
そういうことじゃないんで。
今結構うまくなったからさ、
敬語の人も多いよね。
ち うん。新しいキャストの方とかには
敬語使ってる。
り はい、じゃあ次いきましょう!
「どこに住んでたんですか?ハーフ?」
ち フランスです。
り え、俺イギリスだと思ってた!
ち なんで笑笑
り いや、英語喋れんじゃん。
ち あぁ、フランスって言ってもイギリスに
近いとこで、学校がインターナショナル
スクール?的なところで英語での
コミュニケーション多かったからね。
り へぇ!じゃあフランス語も話せるんだ。
ち まぁ、そうですね。
り すげぇ、トリリンガルじゃん。
で、もうひとつの質問にも答えてよ。
ち あぁ、ハーフですか、ってやつ。
僕はハーフじゃなくて、祖母が
フランス人なので4分の1ですね。
り あれだ、クォーター。
ち クォーターって言うの?まぁ、それです。
り でもさ、フランスの血濃くない?
ち そうなんですよ。結構フランスの血が
濃いみたいです。
(現在)
結果――。正解だった。漣を入れて。最初、やはり空気が重く、新しく入った彼に対して、持ち前のフレンドリーさで会話をしていたキャストが、次第に舞台を一緒につくっていく仲間として接し始めたのが分かった。それは、漣の人格と、一ヶ月だから仕方ない、ではなく、少しでも良いものを、と努力しているのが伝わったからだ。彼の容態に進展はなかったが、雰囲気は明るくなりつつあった。リハーサルでは、持ち前のダンスのうまさで人の目をひき、歌や演技も他キャストや監督の指導もあって、大分みれるものになっていた。あとは――。客への報告。これは舞台開幕一週間前に、と決まっていた。もしかしたら、という望みを捨てきれなかった。巷では、舞台中止の知らせが出ていないことから、彼の一家は一切関係ないのでは、という噂も出始めていた。お知らせは、HPとチケット当選者にはメールも送る。そして一週間前の今日。HPにて報告された。『突然の報告となってしまい、申し訳ありません。一週間後に予定されていた舞台〇〇に出演を予定していた、〇〇役座長成瀬千翔は諸事情により、休演という方針になりました。なお、舞台〇〇は予定通り全公演実施、〇〇役には代役、黄金井漣をたてて上演致します。』極めてシンプルな文。衝撃は大きかった。
(現在)
「舞台のHPみた?!」「え、まって。どういうこと」「急すぎる……」「やっぱりあの事件ってさ」「代役誰?」「なんで上演するの?」「〇〇はちかちゃんにしか出来ない!」「嫌だ。せっかくフランス来たんだよ?」「金返せよ。」批判的な意見も多かった。でも――。「うちらが待たなくてどうするの?」「いつでも帰ってきてよ!」「みに行くよ。」「ちかちゃんなら上演を望んでると思う。」「キャスト監督みんなで決めたことでしょ?」「信じてるよ」「絶対最高の舞台だ」「代役の人、正直知らないけど、あのキャスト陣、ただものは受け入れないでしょ。」「期待してる。」「ホームつくるよ!」前向きな意見も多かった。きっとこれは、キャスト陣が今までの公演で築いてきたもの。キャンセルも僅か、入ったが殆どの人が予定通りみに来、当日券も完売。終演後、見事演じきった代役を称える声も多くみられた。舞台挨拶はなかった。詳しく語られることはなかった。でも、ファンは待ち続けた。
全6公演、3日走り抜けた。結果、大成功。フランスまで来てくれた日本人、現地でみてくれた海外の方、喜んでくれた。彼に進展はなかった。まだ、海外公演は終わらない。フランスで場所を変えて6公演、前より客も増え大成功。フランス公演が終われば一度日本へ帰る。そして日本で、12公演した後、イギリスへ向かう。日本滞在は3ヶ月。彼の復帰は望めるのか――。
67:匿名 hoge:2020/11/09(月) 22:25 (微回想)※会話全フランス語
目が覚めてから一ヶ月間――。最初は、声が出なかった。力が入らず、すぐ眠ってしまう。体調も何も分からなかった。しばらくしてまた検査。結果は――。一部記憶障害。一時的な声帯麻痺。右半身麻痺。その他諸々。回復の目処はたたない。オリジナルの毒。これから悪化するかもしれない。目覚めて1週間たって、ようやく僅かに掠れた声が出た。食事は出来ておらず、点滴での生活。寝て起きての繰り返し。面会は禁止。個室。会話はない。検診のときだけ。声のリハビリを始めた。看護師との会話。医師との会話。少しずつ増やした。記憶障害のせいで、うまくは喋れない。ゆっくりで、注意していないと何と言っているのか分からない。それでも少しずつ、会話ができるようになった。会話、と言っても「点滴かえますね。」「お願いします。」それだけ。一週間半経って、ようやく上体を起こした。それだけで辛いようで、息が乱れている。何度か繰り返しているうちに慣れて、大分起きている時間も増えた。2週間すると、昼間は上体を起こし、前より会話も増えてきた。「天気が良いですね。」「そうですね。」それだけ。あれから、再び記憶は戻っていない。「先生、僕は、今、どうなんですか。」初めて彼からふってきた会話。本人が希望するのなら、教える義務がある。検査結果を伝えたのは、2週間半後。驚く風でもなく、分かっているのか、彼は黙って報告を聞いていた。そして3週間後。「ねぇ、舞台は」彼の口からそうきこえた。断片的に意識が戻りつつある。面会は出来ないのに、定期的に来る監督に伝えると、舞台の曲が入ったCDと再生機を持ってきた。かけてください、と。静かだった病室に、曲が流れ始めた。あの呟きのあと、それらしき反応はなかった。が、曲をかけ始めて2日目。「舞台は、どうなりましたか」はっきりとそう尋ねた。
舞台はまだですよ、こたえる。「そうですか。」本当に記憶が戻ってきているのか。分からない。でも、その日の晩、また「舞台は、どうなりましたか」繰り返す。まだですよ、そう答えるしかなかった。その次の日も繰り返す。その次の日。「舞台は、やりますか」そうですねぇ、やりとりが少し変わった。少しずつ、口に運んでもらえば食べられるようになった。簡単なリハビリが始まった。比較的動く左手をあげて、おろす。握って、開く。自分で食せるようになった。「来週、舞台ですね。」そうだね、会話も少しずつ変わる。4週間目。車椅子に座れるようになった。運んでもらって座らせてもらえば。久しぶりに外の空気を吸った。「舞台、始まりますね。」そうだね、記憶は戻っていない。「僕、こんなとこにいたら駄目なんですよね。」まだまともに話せていない。でも、少しずつ回復している。「僕、はやく戻らないと。」記憶も少しずつ戻ってきている。
69:匿名 hoge:2020/11/10(火) 17:074周目半。事件発生から24日後。朝。よく晴れていて雲ひとつない青空だった。看護師が検診にくる時間。いつもならまだ寝ている。起こして暫く会話して、検診する。起きている時間が長くなったといっても、寝ては起きて、寝ては起きて、十分な睡眠をとれていない今、いい目覚め等あり得ない。――が、その日。看護師が病室の扉を開けると、彼は既に目を覚ましていた。自力でベッドを起こすことは出来ないので、目を開き、空中を眺めている。人の気配を感じとったのか、視線が看護師へと移動する。「…Je …me suis…… souvenu….」思い出しました、と彼は掠れた声で呟いた。曲は小さな音で24時間流れ続けている。これは寝ては起きてを繰り返す彼が、夜中起きたときのためだ。勿論今も流れている。「Est-ce vrai?」落ち着いて返す。「……Oui. Je… dois…… revenir tôt …sur scène…….」どうやら本当に記憶が戻ったらしい。「…Que font-ils…… maintenant…?」「J'appellerai un docteur.」何と答えて良いか分からず、そう返した。
70:匿名 hoge:2020/11/10(火) 17:18医者がきて、暫く検査を行い、記憶がある程度戻った、と判断された。そして、彼に尋ねた。「Voulez-vous les rencontrer?」「……Je dois les… rencontrer.…Mais …ils sont sûrement…… en formation.」「Peut-être que le directeur sera de nouveau ici aujourd'hui.」「……Aussi?」「Le réalisateur a apporté ce CD.Voulez-vous vous rencontrer aujourd'hui? Physiquement, environ 30 minutes, c'est bien. Mais cela peut être psychologiquement pénible.」「……rencontrer. …Signalez-vous ma …santé?」「J'ai fait rapport au directeur.」「…je comprends……」
71:匿名 hoge:2020/11/10(火) 22:09彼は、地方公演中、学校に通うことが出来ない。だから、よく稽古場の空き時間で勉強をしていた。オンラインで授業を受けることも出来るらしかったが、公演中は勿論、リハや本番前稽古は抜けられず、時間的に難しいときも多かった。また、公演は夏休みや冬休み、春休み等に被ることが客のことも考え多々あったが、人気が高くなっているここ最近、各地であげる公演数も多くなっている。高校に通っているキャストは複数いたが、芸能系の学校へ行っている者が多数でその辺り、問題ないらしかった。幸い、中学校は義務教育、留年はないし、彼程の人気があればそれを買う専門学校も多いだろう。が、彼が通っているのは私立。それも附属中。進学を前提としている。彼はトップクラスの成績を誇っている。恐らく、多少サボタージュしても問題はないだろうし、すぐに追いつける、更に言うならばもう大分先の学習をしていてもおかしくはない。だが、隙間時間をみつけてはうまく勉強している。無論、大好きなゲームをする時間はきっちり確保するし、コミュニケーションをとるのも嫌いではないらしく、楽しく会話しているときもある。勉強時間にあてるのは、朝が多い。目覚めて朝食や稽古の前。朝起きて、まず皆シャワーを浴びる。彼は起きるのが早く、2,3番目には目覚めている。そしてどの現場に行っても10前後はあるシャワールーム。待ち時間なくシャワーを浴び、身だしなみを整える。大抵の場合、軽く髪を乾かしたら、4つに分けられた楽屋、各部屋へ戻りヘアセット、メイクを済ませる。多くのキャストは別の仕事、撮影が入っていることも少なくないため、そこであらかた仕上げる。勿論、稽古後シャワーを浴びる。しかし、稽古の様子も後のため、記録するときもあるし、SNSへの投稿、直接現場に向かわなければならない、等理由は様々。だから、朝食はやや遅め。顔面を仕上げる必要のない彼はその時間に勉強している。しかし、広げているのは分厚い参考書、ではなく薄いタブレットにキーボード、ノートだけ。なんでも、オンラインで授業を受けられる私立、ハイテクなもので課題を送られているらしい。画面を鋭い眼差しで眺めた後、視線をノートに落とし、ガリガリと何か書き込み、また顔を上げキーボードで打ち込む。今日も勉強を始めるのか、いつものセットを机の上に広げ始めた。
72:匿名 hoge:2020/11/10(火) 22:09毎日繰り返しているが、覗いたことはない。かといって4人ごとに分けられた部屋があるにも関わらず、楽屋でやっているところをみると、別段集中したいわけでは無いように思える。それか、どこでも集中出来るか。彼のこと、どちらでもあり得る。なんとなく気になってぼーっとそんなことを考えていたら、視線に気づきこちらを向く。ん?と首を傾げ、どうしたの、と尋ねてくる。「いや、毎日楽屋で勉強してるけど周り気にならないのかなぁ、って」かなり語弊を招く言い方だが、そこは信頼関係でどうにかなる。「全然。うちの方がうるさいし。」そういえば彼の家は大家族だ。「一緒に勉強する?」にやり、と笑っておちゃらける。勉強中の彼には今まで誰も話しかけはしなかった。珍しい、とキャストが集まってくる。高校生、大学生も多く、勉強会のようになった。「今日の課題は数学。」そう言って課題が記されたページを開く。一般人には理解し得ない数式が並んでいた。「こんなの高校でも習った記憶ない。」「駄目だ、わかる気がしない。」「鷲見、頼んだ。」中学、といっても超進学校、レベルは桁違いだ。また、トップクラスの彼に出される課題、普通の高校で習う範囲ではない。彼と同じ中学出身、全国トップの大学に通う鷲見にふられる。「鷲見さん、こんなの履修済みでしょ。」「あ〜、やったわこれ。でもやったの高校で、かな。数学同好会でやったネタ。」「やっぱり。」そう言いながら課題に戻った彼は、いつもどおりガリガリと鉛筆を走らせる。暫くしてその音が止まる。「え、もう答え出たの?」「はぇー」「俺中学で何してたかな」皆驚いて顔を見合わせる。どう?とでもきくようにノートを鷲見にみせる。「完璧じゃん!はやぁ」笑顔でノートを返す鷲見に満足げな表情でキーボードをたたく彼。勉強会しよ、勉強会、と現役学生たちはやる気を出したようだった。
73:匿名 hoge:2020/11/29(日) 21:23彼は事務所に所属していない。だから、キャスト名が発表されたときも、誰一人その存在を知る者はいなかった。あちらこちらで情報がおちていないか、探す者もいたが無論、なにひとつ見つかるわけはない。全くの一般人だからだ。子役をしていた経験もなければ、バレエやダンス、歌で成績を残していたわけでもないし、事務所にいたという時期もない。それどころかつい2ヶ月前までフランスにいたのだ。暫くして写真が公開される。だが、役になりきっているため、素顔は分からない。コメントはついていたが、雑誌でのインタビューもなかった。が、顔合わせ後、稽古が始まってからは、キャスト陣のSNSやブログで貴重な情報が呟かれることも増えてきた。事務所はないので、監督や制作サイド、保護者との話し合いで、後々出ることであるし、みに来てもらうためにも、とある程度許可がおりたのだ。初めに登場したのは、全体稽古が始まったとき。それまでは学校単位で行っていた。しかし、話し合いも進んでおらず、話題にあげることは出来なかったし、舞台の公式ブログでは全体稽古からを取り扱う。時期的にもぴったりだった。部長役の者のSNSに投稿された一枚の写真。本人と小柄な者が写っている。『座長の千翔ちゃんと!!』少年、というより一見少女だ。緩くウェーブのかかった不思議な色の髪のショートボブ。前髪をくくってピンどめで後ろにもちあげている。恐らく、顔の整っているものにしかできないスタイル、顔面を隠すものがなにひとつない。小さな唇を僅かに歪め、微笑んでいる。椅子に座っている部長役は背が高く身長は180を超えている。その横でジャージ姿で立っているが、丁度肩を組めてしまう。仲良さげに、肩を組み、顔を寄せ合ってピースサインを掲げている。反応は、大きかった。「え?」「まって、ここにきて情報解禁?」「ブログにも出る?」「イケメンだと思ってたけど、予想以上。」「てか可愛い。」「何歳?若い、っていうか子供?」
74:匿名 hoge:2020/11/29(日) 21:24その投稿を機に、度々キャスト陣のSNSで座長が登場するようになった。公式ブログでも稽古の様子がアップされた。だが、逆に言うとそれ以上はなかった。SNSやブログ開設はない。そしてあるとき、話題に追い打ちをかけるような投稿があった。製作サイドのひと押し。みに来てくれるよう、興味を持ってもらえるような投稿。投稿者は他校のキャスト。一本の動画。内容は、ただカラオケに行って歌声を撮った、それだけ。今どき珍しくもない。が、歌っているのは座長。まわりでキャスト陣がちゃちゃを入れている。相変わらず、顔面丸出しスタイルにダボッとした服。マイクをもってモニターを眺めているのか映っているのは横顔。仲が良いようで前奏で声がとぶ。「歌うはこの人、」「「「「成瀬千翔」」」」大勢の声が割れるくらいに入っている。言い終えると同時に前奏が終わる。曲は最近流行りの洒落た曲。リズムがころころ変わる、難しい曲。コールがとんで、照れたように笑い、マイクに向かう。カラオケだからエコーがかかる。だがしかし、それにしても上手くはないか。そして、可愛くはないか。アルトの声が響く。あっという間に拡散され、一躍有名となったのであった。
75:匿名 hoge:2020/11/29(日) 21:38「今一番キテる。新座長、成瀬千翔がヤバい。」そんなタイトルで、ファンがブログをあげた。「総勢1万人弱のオーディションを勝ち抜いた男。誰もが期待した、キャスト発表。そこに記された名前に誰一人ぴんとはこなかった。一斉に調べ始めるが、情報が掴めない。事務所にも入っていない。何者だ。大きく騒がれた。そして、まちに待ったビジュアル解禁。二次元から飛び出してきたのか、これが私のはじめの感想だ。大袈裟ではない。写真だから、盛れるし二次元のキャラに近づけやすい。しかしここまでのクオリティ。正直、驚いた。前座長が強すぎた。期待していた、とは言っても野次馬のようなものだった。これは、本当の意味で期待できる。そう思った。そして、いつSNS解禁がくるか、待っていた。しかし、それはこなかった。代わりに公式ブログ、キャスト陣のSNSで写真がアップされ始めた。可愛かった。ビジュアルのときには、役になりきっていたからクールにきめていた。しかし、可愛い。美しい。少女のようだ。キャスト陣からも可愛がられているのが分かる。顔面丸出しの強気なヘアースタイル。まるでこだわりがないジャージ。身長は低く小柄。年齢も若い。プロフが公開されないので、推測しか出来ない。しかし、見目麗しい。ハズレがない。動画になっても、ブレない。歌声には驚いた。アルトの声はイメージ通り。動いても可愛い。みに行くしかない。」
76:匿名 hoge:2020/12/03(木) 22:17舞台に立った彼は、なんというか、そのままだった。役、ではなく飛び出してきたかのような、そう思わせる。あの、唇を僅かに歪めて皮肉っぽく笑うのは、そう簡単に出来やしない。クールに決めているのに、どこか楽しそうで少年っぽさを忘れない。それでいて、舞台ならではの美しさも持ち合わせている。踊り、歌、表情。半数も埋まっていない客席が、わいた。アンコール曲が終わったら、スタンディングオベーションになる程に。半数も入っていないとは考えられない歓声。リピーターを確保し、話題を読んだ。そして、更に彼への注目度があがった。しかし、彼が事務所に入る気配はない。皆が待っていた。
77:匿名 hoge:2020/12/03(木) 22:22改めまして、こんばんは。〇〇役として舞台△△の新座長を務めさせていただくことになりました、成瀬千翔です。本日は、劇場まで足を運んでいただき、ありがとうございました。初演、ということで新キャストの自己紹介から失礼します。〇〇役の成瀬千翔です。舞台△△で音楽の仕事に関わらせていただけたこと、本当に嬉しく思います。まずは、これから15公演、走り抜けたいと思います。よろしくお願いします。
78:匿名 hoge:2020/12/03(木) 22:37 り これ、俺が知らないことも
結構あるなww
ち ですね笑
り んじゃ次。
「何故このおふたりなんですか?」
喧嘩売ってんのか?あぁ?
ち 落ち着いて落ち着いて笑笑
り 何故、っていうのはあれだな。
座長の初配信がなんで俺となんだよ、
ってことだな。
ち 深読みしすぎ笑笑
り まぁ、理由は簡単です。歳近いし、
仲いいからね。
ち はい。そんなところです。
り 「本当に仲いいんですか」ってさ、
疑ってんの?
ち 炎上しますよ、そろそろ。
り 危ないね。品行方正にいこう。
普通に仲良いよね。
ち うん。なんか、ずっと一緒に
いる感じ。
り 最初の稽古からさ、
合わせじゃなかったけど稽古日
一緒だから、一緒に行ってたし。
ち 家近いからたまたま同じ電車でね。
り 駅行ったらみたことあるやついるな、
って思ったww
ち びっくりしたよ、あれは。
り 流れ的に一緒に行ったら、話合うの
なんのって。
ち ゲームのことしか話してないけど。
り まぁ、だから仲いいです。
ち この前も家行ったし。
り 荒らされたなあれはww
ち 語弊があるよそれは。
り Wi-Fi使い放題だから良かったけど
危なかったわww
ち うちも使い放題だから、来ていいよ。
り 使い放題じゃなかったら
呼ばんやつじゃんww
ち 不仲説でますねこれ笑笑
り おい待ってよww早すぎだろww
ち 品行方正にいきましょ、ね。
り だな。一旦落ち着こう。
り でもさ、F5キー連打して
鯖落ちさせるのやったよねwww
ち それ、炎上案件じゃん笑笑
り 中学の頃ねww
ち 炎上何件目?
り やらなかったのww?
ち 今時強すぎて個人じゃ狙えないよ
り 常習犯のセリフじゃんwww
ち あれ組織でやったら犯罪でしょ笑笑
り 俺ひとりでやってたから
落ちなかったww
ち F5アタック効かない世の中ですね
り 強いもんな。F5キー壊れたww
ち なにしてんの笑笑
り F5アタックは効かんし、
かわいいもんでしょww
ち 確かにチートよりかはね
り オンラインゲームでのチートはいかん
ち 今、規制厳しいよね
り おん。大分取り締まってるな
ち 品行方正になってきたね
り 視聴者おいてかれてるけどねww
ち 早く進めなよ笑笑
り 「なんのゲームしますか?」
俺は、バトロワ
ち 僕はテトリスですね
り 俺もうテトリス出来ないww
頭が働かんww
ちかはまじでうまいよ
ち テトリスでは負けない笑笑
り 今度ゲーム配信しようww
これ以上この話続けたら配信終わる
ち だね笑笑
り ゲーム以外で!以外でお願いします
ち 切実な願い笑笑
り 「りょーたさんより日本語
うまいですね!」
やかましいわww日本生まれの
日本育ちなんですけど
ち 言葉遣いが元ヤン笑笑
り wwwちかはどっかで勉強したん?
ち こっち戻ってきてから日本語塾に
通ってました。向こうでは
家では日本語、学校の授業は英語、
休み時間はフランス語が多くて、
外ではフランス語、ちょっと
出掛けたら英語だったので
り 凄いなwwwじゃあ日本語
少なかったんだ
ち 家族は基本日本語ですけど、テレビは
もちろんフランス語なので、
読み書き出来なかったですし
り そうか、じゃあこっち来てから
全部身につけたってこと?
ち そうですね。戻ってきて、
今で1年切るぐらいなんですけど、
来てすぐ学校のために
学び始めました
り だから、日本語綺麗なんだ。でも、
大変じゃない?漢字とか
ち 小説とか漫画読んで覚えましたね。
個人経営の塾だったんですけど、
色々おすすめしてくださって
り 日本語塾ってどんな感じ?
やっぱ色んな人がいるから大変そう
ち 年齢バラバラで出身地もバラバラ。
基本英語で教えてくれるクラスで
他には中国語、フランス語のコースも
あったかな。面白いよ
り 今はもう敬語も習得したし、
行ってないんだ
ち そうですね。こっちの学校でも
最初は帰国子女用の英語特化クラスに
所属してたので、そこである程度
日本語にも慣れて、普通のクラスに
移動しました。でも、時々
フランスクラスの手伝いに
顔出しますよ
り へー、凄いな。そっか、日本語
習得したら先生になれるんだwww
ち 実際にその道たどった人もいますね笑
り 帰国子女用クラスからなんで
移動したの?なんかそっちのほうが
すごい賢そうだけど。語彙力www
ち 笑笑帰国子女枠は英語特化で
英語中心に学ぶ、国際大学とか
英語必須の職業につく人が選ぶ。
僕は、日本語あんまり
使えなかったから、取り敢えず
帰国子女枠で受けました。
学期毎に変更可能で、テスト受けて
許可貰えたら移動。英語はもともと
使えたし、インターナショナル
スクールだから訛りとかなくて。
だったら、普通に幅広く学ぼうと
思って2学期から編入しました。
り 俺中学生の頃なんて、英語テスト
3点だったwww
ち りょうにいって頭良さそうなのに
成績悪いよね笑笑
り 国語しか出来なかったww
ち 嘘だ笑笑国語得意な人の
言葉遣いじゃない笑笑
り そろそろ時間?
ち はやいね
り じゃ、プレゼントの再確認します。
今回のプレゼントは拡大して5名様分
用意しています!プレゼントは
当選者のお名前入りサイン色紙!!
二人分のサインを入れて、すべて
直筆です!!そして、プレゼントは
いつもどおりコメントをくださった
方のなかから抽選で選び、
お届けします!!当選した際は
メッセージにて通知しますので
メッセージ受け取り設定で
受け取れるようにお願いします!
恐らく、ちかの直筆は初めて、だよね
ち そうですね笑笑直筆は初めてです
り 5人に拡大中チャンスなので!
ち 音割れてるからさぁ笑笑
り もうそろそろ本当にお別れの時間!
ということで最後に一言
ち はい笑笑最後までこんな感じ
でしたけど、とても楽しかったです。
皆さんの前に成瀬千翔として立つ
ことは初めてだったので、初出し
情報がほとんどで色々知って
もらえたのではと思います。
これから次の公演もありますが、
配信の方にも顔を出していく予定
ですので、よろしくお願いします
り そのうちゲーム配信もしたいしねww
もっと他のキャストさんとも
つるんでいくと思いますので
引き続きよろしくお願いします!!
ここまでのお相手はりょーたと
ち 成瀬千翔でした
回想
明けない夜はないが、暮れない昼もない。あっという間に時間は過ぎ、夜がきた。食事は朝のみついているので、夜は貸し出しされている調理室で自分たちで準備する。キャスト9人分+制作スタッフ5名で14名分、それも運動しまくった成人男性の食べる量をつくる。料理当番は、自炊できる者をリーダーに4つのグループでまわす。今日は初日、部長役のグループだった。買い出しに行き、全員分用意する。当番外の者は、その間、自由時間だ。稽古のしすぎは良くないので、部屋で過ごすこと、と決められている。明日から、リズムを戻すために今日の夜練は中止だ。早々にシャワーを浴びに行く。シャワーブースは5つ。どれも狭く、大浴場があるものの、大抵の者がここで済ませてしまう。彼も例にもれず、先にどうぞ、と言われシャワーを浴びる。朝は部長役と二人しかいなかったが、もうすでにあがり、スキンケアをしている者が洗面所にたまり、騒がしい。彼が、相変わらずタオルを頭に巻いてあがってくる。ドライヤーをもって戻れば、母的存在が近づいてきて乾かしてくれる。朝と同じく、保湿だけして、礼を述べる。夜はヘアアイロンはなしだ。髪が傷むので、夜は控えている。鯨ヘアーを一瞬でつくり、白湯で薬を飲む。大学組は勉強を始め、中学生の彼も数学に手をつける。
現在
記憶が戻った――。その一報が入ったのは、フランスを発つ5日前。フランスでの公演は終了し、各々撮影や観光をする期間だった。監督に連絡が入り、監督がキャスト全員にメールでその旨を伝える。偶々、一緒にいたりょーたと後藤は泣きながら抱き合った。まだ記憶が戻っただけ、だったが今までの容態からはとてつもない進歩だった。ある程度の面接も許可されるかもしれない。そう思ったが、身体的にはまだ辛く、面接も許可出来ない。監督は30分だけ、ということで許可された。「舞台、終わりましたよね。」呂律のうまくまわらない、拙い口調で尋ねてくる。「どうなりましたか。」「舞台は、やった。黄金井に頼んだ。」「そうですか。」「DVDやいたから、みるんだったらみてくれ。」「はい。」まるで、業務連絡のような会話。「僕は、どうなりますか。」「……しばらくこっちの病院で入院することになっている。」「そうですか。」久しぶりの会話で疲れたらしく、力が抜けたように寝てしまった。監督も日本に帰らなければならない。どうすることもできないが、取り敢えず少しでも回復するように祈った。
回想
夜の明日に向けての会議。反省会、という名はついているものの、そんなに堅苦しいものではない。最も、面子を見ればわかることだが――。彼には、監督と約束したことがあり、それをこの会議で果たさなければならない。それは、彼の身体についてだった。まだ、誰にも話していない。生まれつきの難聴がある、という話は予め監督がしていた。しかし、普通に会話して盛り上がっているし、もとより役として選ばれた時点であまり問題視する必要がないとして特に誰もそれに触れることはなかった。しかし、いざ本番となれば何が起こるか分からない。板の上でサポートしあえるのはキャストだけだった。何より、泊りがけの合宿となれば、把握しておいてもらわないと困ることも多くある。いずれ話しておかねばならないこと。それをこのタイミングに決めた。きっとキャスト陣は人がよく、普通とは違うといったところで、受け入れてくれるだろうが。だからこそ、最年少に加えて新入りながらにここまで馴染めているし、自分から話を切り出すことが出来る。普通、どれだけ信頼していても、心の何処かでもしかしたら拒絶されてしまうのでは、と考えてしまい、萎縮してしまう。だが、短い期間で築き上げられた仲は思った以上にかたかった。尤も、彼の性格上、どうせ言わねばならないのなら、早めに言ってしまえ、結果は変わらないとでも思っていそうなものだが。しかし、変なところで気を遣ってしまう彼のこと、デリケートな話題なだけあって、空気を悪くしてしまうのでは、と考えてしまうかも、と思ったが、それは監督の杞憂だった。彼もキャスト陣のことはよく分かっているらしい。
一通り今日の反省をして、明日の予定を確認する。終始巫山戯ていたキャスト陣だが、会議や稽古中は真面目だ。それなりにしっかり改善点を洗い出し、再び目標に向かって士気を高める。と、監督が口を開いた。「最後に、座長の千翔から話がある。」雰囲気から真面目な話だと察した一同は彼の方を向く。軽い空気で話せたら楽だが、やはり真面目な話は真剣にきいてもらい、受け入れてもらうべきだ。「今日から、皆と一緒に合宿で生活していくなかで、伝えておきたいことがある。」相変わらずぶっきらぼうにも感じられる拙い日本語で話し出す。「僕が入る前に監督から話があったと思うけど、僕は生まれつき難聴で、今はもう進行がとまってるけど、殆ど何も聴こえない。でも、難聴のタイプ的に補聴器でカバーできるものだから、生活のなかで困ることはない。シャワー中は精度的にはおちるけど耐水性のやつをつけてる。何かあったときに、聴こえないと困るから。あと、生まれつき難聴だけじゃなくて、身体も弱かった。入退院を繰り返して、学校にも行けてない時期があった。3歳のときに初めて入院して、そのときは軽い喘息みたいな感じだった。でも全然良くならなくて、5歳くらいまでずっと病院にいた。やっとちょっと回復した、というより自分の身体に慣れて小学校には入学出来た。そこから調子良かったけど、小2のときにまた体調崩して。喘息再発してちょっと息するだけでしんどくて、また入院生活が始まって。そんときに耳も殆ど聴こえなくなった。回復してまた小4のときに入院。一番酷くて、ずっと寝てた。ちょっと起き上がっただけでしんどい。動いたら拍動数いきなりあがって、危ない状態になることも少なくなかった。でも手術して、リハビリして、やっと回復して。皆と同じように運動しても大丈夫なレベルになって、今ここにいる。医者からも、大丈夫って許可もらって、普通に生活出来てる。でも、やっぱり出来ないこともある。まず、長時間寝られない。これは拍動数が急にあがって、っていうのが原因。酷いときは1時間寝ただけで危なかった。今は3時間までなら大丈夫。だからといってショートスリーパーってわけでもないから、他にも寝る時間がいる。そして、薬を時間通り飲まないといけない。逃したら一気に体調崩すことになる。最後に、寝るときは補聴器外すからその前後は声が聴こえない。だから、反応出来ない。雰囲気でなんとなく話してるのは分かっても言葉は聴き取れない。他にも迷惑かけるかもしれない。でも、この舞台つくりあげたいから、よろしくお願いします。」ず、ずずっ。「駄目だぁ、年取ったら涙腺が」「え、ちょ、なんで?」理解しきれていない彼は皆が鼻をすすっているのに驚く。「これからも頑張ってこうな」「つくりあげるぜ」「俺たちやるぜ」「おっし、円陣組むぞ!」全員が円を作り彼を招く。
86:匿名 hoge:2020/12/23(水) 20:419時半。会議は終わり、部屋で自由に過ごす。「ちかちゃん何時に寝る〜?」「皆が起きる時間に合わせるから2時頃ですね。」「そっか、5時起床だもんね。」そう、この合宿では原則5時起床、6時までに支度を終えて朝稽古がある。「寝起き大丈夫なの?」「1時間あれば目覚めます。あと、寝起きのシャワーは禁止なので、稽古終わりにシャワー浴びるので。」「了解了解!」「でもさぁ、ひとりで起きてるの暇じゃない?」「皆さん何時に寝るんですか?」「ん〜、5時起きだからてっぺんこえる前かなぁ。」「俺もそんぐらい。」「2時間ぐらいなら全然大丈夫です。一応学生ですし。」少しはにかんで、勉強道具に目をやる。「そっかぁ〜。」「じゃあてっぺんまで名にする?」大部屋だから、全員でなにかしようということになった。幸い、ここは離れ、多少大きな声を出しても迷惑はかからない。
87:匿名 hoge:2020/12/26(土) 16:35皆ですること、といっても遊びではなく、ただ読み合わせをするだけだった。舞台、ミュージカルなので、演技だけではない。だから、台詞を叩き込むのは隙間時間に行うのだ。結局、11時に皆眠りについた。おやすみなさい、と声をかけて、暗い中洗面所の電気をつけて勉強する。大部屋は皆が寝ているので流石に使えない。となると、残ったのは洗面所だけだった。幸い、大部屋に相応しいメイク台のようなもののついている洗面所は、丁度良かった。時期的に寒いが、それは皆同じ。暖房などなく、厚着して布団をかぶる。よく動いたからか、いつもより疲れているらしく、睡魔が襲ってくるが振り払い、ペンをすすめる。やっと短針が2を指したのを確認し、布団に潜り込んだ。
88:匿名 hoge:2021/01/10(日) 22:16完全に舐めきっていたのだろう。ネット上の声を、関係者からの声を、桜や使ってもらうために必死になっていると勘違いしたのだろう。だから禄に調べもせず、さっさと終わらせるために、何も考えずに適当な中頃にもってきた。トップバッターは惹きつけるためにそこそこの者を使い、終盤まで切られないように人気者は引っ張りに引っ張る。ブロックごとに分けるから、途中それなりに期待されている人が出る。一般人か、それよか酷い程何も考えられず、ひき立て役として、そこにもってこられた。優勝候補とそのライバル、優勝候補の大ファンは捨て試合の一般人に今人気のアイドル。その中に放り込まれた。ナレーションだけで済まされるようなポジション。課題曲はブロックごとに2曲決められていて、得意な方を選べる。そうは言っても、どうしても同じ曲が続くし、それはかなりしんどい。ブロック内で3番目、捨て試合だがエピソードトークで尺を稼げる一般人、ファンで数字を稼げるアイドル、そして大幅カットで本命のライバルVS優勝候補にいこうと思っていたのだろう。いくら後悔しても遅い。プロデューサーが、マネージャーが、走り回ることになっても結果は変わらない。スタッフ達が慌てふためくなか、してやったり、というような満足げな顔をするのは彼を信じていた仲間だけだった。
89:匿名:2021/07/30(金) 13:11打ち切り
90:匿名 hoge:2021/07/30(金) 13:12新しい話が始まります。
91:匿名 hoge:2021/07/30(金) 13:12何も聴こえない。ぼんやりと広がる目前の世界は、殺伐とした部屋。腐臭が漂い、血の味がする。感じるのは、床の冷たさ。寒いのか暑いのかさえ、分からない。助かる見込みもないまま、また明日がきて、今日が昨日になる。寝ているのか、起きているのか。生きているのか、死んでいるのか。考えることすら出来ず、ただただ同じ映像がリプレイされる。思い出したくもないはずのその映像に、叫びだしそうになる。が、最早声など出ない。希望なんて、とうの昔に捨てた。生きようなんて、思わない。早く殺してくれ、楽になりたい。でも、時折浮かび上がる、あの人たちの姿。少しでも気を抜けば消えてしまいそうになるその姿を、必死に繋ぎ留めようとしている自分がいる。しかし、もう自分には、気を保ち続けるだけの、少しの力すら残っていなかったようで、その姿は、まるで自分を嘲笑うかのように、儚く消えていく。目の端に映る、輝きを失った銀髪が、揺れた。紫色を通り越して、青白くなったその手に、何かが重なった。あぁ、また繰り返すのか。そう思っていた。しかし、重なった何かは弱々しく動き――。『 だ れ か き た 』
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