もうこれ以上匿名板に創作系スレ要らないよってなれば勝手に下がるだけの、気まぐれ創作スレ
だから目障りだったら書き込まず下げてくれ
基本的にリレー小説式だけどふざけ過ぎはやめてね
(世界観のイメージはファンタジー)
以下スタート
ペルマナントが白い額に指を当てて考え込んでいる。
エカラットはそのやり取りに思わず聞き耳を立てた。
これ以外の神秘のかけら。
それはプラエフェクトゥス族の者達にそれぞれ託された秘宝である。
一族の一員であるエカラットでさえも、他の仲間が守る神秘のかけらにはなかなかお目にかかれなかった。
そんな滅多に人目に触れないものを、このペルマナントは見たという。
一体誰の、どんな「色」なものなのだろう。
久々に彼女の好奇心が疼いてしまったのも致し方ないことである。
「どのくらい昔のことかしら...そうだ、確か氷の洞窟に行った時のことだわ」
しばらくして、ペルマナントは思い出したように額から指を離した。
>>101だけど、また連投したせいで))ry
だから、ペルマナントが指を話した瞬間ガシャン!ってことでいいかな?
「落ち着いてください!お師匠様!!」
すぐに師匠になにかがあったとわかる。ペルマナントが目を見開き、ひくっと声にならない声を出した。
「エカラット様、端で低くなっていてください!」
「えっ」
彼女の言葉に、エカラットは咄嗟に部屋の端に走り、身を低くする。
ぶわっとペルマナントの純白の髪が舞い上がった。風だ。あの時の風である。
「ペル!近づくなよ!」
ヴァレンティノが『お師匠様』に齧り付くように抱きつきながら部屋に入ってきた。だが、彼自身が歩いているのではない。むしろ、師匠を止めようと全身に力を入れているが、身体が自由にされていないのだ。ヴァレンティノの靴がずるずると床をすべる。
「お師匠様、止まってください」
ヴァレンティノの必死の抵抗。師匠の腕には、手かせが途中できれたままついていた。
風と物が倒れる音とで頭がおかしくなりそうだ。エカラットは無意識に耳を塞ぐ。
ペルマナントは、どうにかしようとタイミングを見計らうが、ヴァレンティノに近づくなと言われたため手出しは出来ないようだ。
ヴァレンティノの顔が苦痛で歪む。こんなにお師匠様から離れていても耳を塞ぎたくなるのだ。彼にくっついているヴァレンティノの抵抗が凄いものだとわかる。
お師匠様の向かう先は、ヴァレンティノには分かっていた。
神秘のかけらだ。
「ヴ、ヴァレンティノ様...っ」
ペルマナントが耐えかねて口を開く。なにか役に立ちたくてしょうがない。
「ペル、神秘のかけらを守ってくれ。お師匠様の狙いはそれだ」
苦しみながらも、ヴァレンティノは言葉を発した。
「はい!」
ペルマナントが神秘のかけらを手にした。
その時
お師匠様が、地鳴りのように唸り始めた。床が微かに揺れる。棚が倒れ、窓がギシギシときしむ。さすがのヴァレンティノも壁にたたきつけられ、ゔっ、と倒れ込んだ。エカラットは身を低くし、耳を塞いでいたため衝撃は少なかった。
ペルマナントが神秘のかけらを音を立てて落としてしまった。これに1番反応したのはエカラット、彼女だった。「まずい!」と身を低くしたまま走り出した。
風がエカラットの行く手を拒む。神秘のかけらは美しい発色のままお師匠様に近づいて行った。引き寄せているのだろう。
107:匿名:2019/08/06(火) 17:23 エカラットも神秘のかけらに手を伸ばす。風に吹き飛ばされそうになりながらも、じりじりと近づいて行った。
だが、遅かった。神秘のかけらを手にしたお師匠様はものすごい速さで部屋を出ていった。
「嘘だろ、、、」
エカラットはあまりの衝撃にそれ以上の言葉が出せない。風は止んだが、ぐちゃぐちゃになった部屋の中に、ひとり佇んだ。
「うーん……」
気絶していたヴァレンティノが目を覚まして仰向けになると、彼の顔を覗き込んでいたペルマナントと目があった。
「うわっっ」
予想外な出来事に、ヴァレンティノが急に起き上がろうとする。ごつっとペルマナントのおでことおでこがぶつかり、痛い!と2人で声を上げた。
「ご、ごめん大丈夫だったか?」
ヴァレンティノがペルマナントの額に触ろうとすると、彼女は大きな目からポロポロと涙をこぼし始めた。
「そんなに痛かった?!」とヴァレンティノは焦るが、違います、と返された。
「ごめんなさい、神秘のかけらを…守れませんでした...」
ずっ、と鼻をすする音がする。ヴァレンティノは少し黙っていたが、やっと口を開いて言った。
「ペルのせいじゃないよ、それまでに止められなかった僕のせいだ。泣かないでよ」
「そんなのどっちのせいだっていい」
冷ややかな声が聞こえてきた。
エカラットだ。
「仕方なく神秘のかけらを貸してやったらこんなザマじゃないか。綺麗事ばかり言っておるな、盗まれたもんは取り返すしかない。」
真っ赤な瞳でヴァレンティノを見る。それには怒りが見えた。
「うん、ごめんカーラ。絶対取り返すから少し待っててくれ...」
「何言ってる。一緒に取り返しに行くに決まってるじゃないか」
その言葉に彼は一瞬黙りこくったが、気を取り直したようにすぐに口を開いた。
「ペル、お師匠様の居場所を教えて」
ヴァレンティノがペルマナントを振り返ると、彼女は緊張した面持ちで頷いた。
エカラットは彼を怪訝そうな表情で睨みつける。
しかしヴァレンティノの方はエカラットにはお構いなしといった様子で、じっと目を瞑って何かを探すように手を伸ばすペルマナントを一心に見つめていた。
「...変だわ」
少しの間そうして片手を宙に彷徨わせていたペルマナントが、不意に口を開く。
その顔は青ざめていた。
「風波の岬になんの気配も感じない...あの方があの場所にもいらっしゃっていないだなんて」
ヴァレンティノはそれを聞いて俯き、まずいなと声を漏らした。
「ペル、もっとよく調べてくれないか?」
「はい、なんなりと」
ペルマナントはもう一度目を瞑るが、しばらく経って目を開いた。
「やっぱり…」
次の言葉を聞かずとも、ヴァレンティノはペルマナントの気持ちの意味がわかったらしい。俯いて、しばらくの間考え込んでいた。
「行くしかないに決まってるでしょ」
エカラットがヴァレンティノを睨みつけた。
荒れた部屋の中で、綺麗なティーカップが光っている。
ヴァレンティノたちのお話は、これから始まるのだ。
「...日が暮れたな」
エカラットは窓の外をちらりと見やって呟いた。
その声には隠し切れない焦りが込められている。
しかし窓から入ってくる日光は、未だその部屋に十分に降り注いでいる。
けれども今のエカラットは、彼女の住む反対側の世界のことを念頭に置いていた。
「あれは君の大切なものだったのに、こんなに長く引き止めてしまって本当に申し訳なく思っているんだけど...」
流石にヴァレンティノも罪悪感を感じているらしく、おずおずとエカラットに尋ねる。
「でも、あちら側の日が暮れてしまうと何かまずいことがあるのかい?」
「緋剣の力が消えてしまう」
エカラットは窓の外から視線を離さず早口で答えた。こちらの焦りを少しでも察してほしいという気持ちを込めて。
「ひけん?」
それは何のことかと無神経にも聞き返してくるヴァレンティノに舌打ちしつつも、彼女は腰に帯びた剣を鞘から抜いた。
「これだ」
銀色に光る刀身と、柄に散りばめられた青い宝石がヴァレンティノの瞳に鮮やかに映る。
出会って初めてこれを見せた時のように、彼が感嘆のため息を漏らしたのをエカラットは聞き逃さなかった。
「それで、その剣にはどのような力があるのですか?」
エカラットの剣にすっかり魅入ってしまっているヴァレンティノに代わってペルマナントが尋ねた。
「緋剣は勿論、剣としての切れ味も申し分ない。だが何よりもその力は...」
そこまで言ってエカラットは剣の柄をしっかりと握った。
それから物が散乱している部屋を歩き回ると、ひっくり返っていた机の前でおもむろに足を止める。
「きゃっ!?」
ペルマナントが小さく悲鳴をあげた。
それもそのはず、エカラットはその分厚い机を片手で軽々と持ち上げてみせたのだ。
もう片方の手には剣を持ったまま。
あの机を動かすには、ただの人間の男5、6人は必要であろう。
そのままエカラットは呆然としているヴァレンティノの前まで戻って来ると、彼の目の前にドスンと机を置いた。
その衝撃で舞う埃が一瞬彼の視界を遮る。
「こんな風に、常軌を逸した腕力を私に与えてくれる」
スカートに付いた埃を軽くはたき、エカラットは涼しい顔で付け加えた。
「僕から神秘のかけらを取り返そうとやって来た時に、あんなに君の力が強かったのもそれのおかげなんだね」
ヴァレンティノが埃に咳き込みながら言う。
エカラットは小さく頷いた。
エカラットは剣を鞘に戻した。
「非の打ち所がない最高の武器だと言いたいのだが、残念ながらこの緋剣にも1つ弱点がある」
神秘のかけらがないとその力は消え失せる、そういうことだとヴァレンティノはすぐに察知した。
124:匿名:2019/08/19(月) 04:34 「この剣がないと私もただの女だ。どんなに鍛えても男の力には勝てないであろう。」
エカラットがヴァレンティノを舐めまわすように見つめた。細身なのに筋肉のある身体。
「もっと強くなりたい」
エカラットは悲しそうに呟いた。
「強くなりたい、か」
ヴァレンティノは彼女の言葉を噛みしめるようにゆっくり繰り返した。
その表情が落とす陰はどこかもの寂しげだ。
一瞬感じた不穏なものを頭の隅に追いやって、エカラットは「まあそれはいい」と言いヴァレンティノに向き直った。
「ただの女にだって、自分が護る神秘のかけらのありかぐらいは分かるさ。緋剣の力に頼らずともな」
深い深呼吸を1つする。
彼女はそのまま静かに目を閉じた。
そして剣を再び鞘から抜くと、自分の手のひらにその切っ先をそっと滑らせた。
エカラットの小さな手に見る間に紅い血が滲んでいくのヴァレンティノにも分かる。
ペルマナントの方にちらりと視線を向ける。
彼女も自分と同じく、赤髪の少女が行なっている儀式のようなものを興味深そうに見守っていた。
「導きたまえ、神秘のかけらに託せし我が血流よ
129:匿名 hoge:2019/08/23(金) 22:10>>128は誤りによる途中投稿なので無視でお願いします
130:匿名:2019/08/23(金) 22:23 「導きたまえ」
墓場のように静まり返った部屋にエカラットの静かだが力のある声が響く。
ヴァレンティノはハッとしてそちらに意識を戻した。
「神秘のかけらに託せし我が紅血よ」
エカラットはそう言うと同時に手のひらを傾け、そこに溜まっていた自らの血液を部屋の床に流した。
床から目を離さずに注意深く跪く。
ヴァレンティノもペルマナントも固唾を飲んでその様子を見つめていた。
しばらく床の血を睨みつけていたエカラットだったが何の変化も起こらないのを見て取ると、もう一度剣で自分の手のひらを傷つけた。
「導きたまえ」
祈るように目を閉じて先ほどと同じように床の上に流す。
何も起こらない。
舌打ちをし、彼女は再び切っ先を手のひらに突き立てて血を滲ませた。
エカラットの額には玉のような汗が浮んでいる。
その行為の3回目に当たる今回も、彼女が流した血が変化することはなかった。
荒い息を吐きながらエカラットがまた剣を手に向けた時、ヴァレンティノは思わず彼女の手を引っ掴んでいた。
「もういい!これ以上君自身を傷付けるのはやめてくれ!」
彼なりに悲痛そうな叫びをあげてみせたのだが、エカラットの方はまるでヴァレンティノの存在などないかのような無反応だ。
その様子に気圧されて彼も手を離してしまう。
自由になった途端、彼女は何の迷いもなく剣の切っ先で自分の手のひらを切りつけた。
そしてすぐに床に流す。
エカラットはむしろ生き生きとしており、顔付きも興奮したもので口元には笑みが浮かんでいる。
「神秘のかけらに託せし我が紅血よ」
エカラットがその言葉を繰り返したのはそれで四度目だった。
これ以上この儀式を行うつもりなら力ずくででも止める決意で、ヴァレンティノもエカラットの視線の先を追う。
するとどうであろうか。
ついさっきまで何の変化も見せなかったエカラットの血が、ゆっくり動き始めたのだ。
血液は緩慢な動きで棒状の形を形成している。
「ああ...」
ペルマナントが安堵の声を漏らすのが聞こえた。
これでもうエカラットが血を流さなくて済むからであろう。
「ようやく打ち勝ったか」
エカラットは笑みを浮かべたまま剣を鞘に戻した。
その手は目を覆いたくなるほどの血で真っ赤に染まっている。
しかし本人は自分の傷を全く気にしていない様子で、血液が形作る棒を見つめていた。
棒の先端は徐々に向きを変えていく。
3人が見守る中、エカラットが立っている方向を指して棒は遂に完全に動きを止めた。
「西だ」
エカラットが勝ち誇ったように声をあげた。
「神秘のかけら...もといお前の師匠は西に向かったらしいな」
ぽかんとしているヴァレンティノとペルマナントを急かすように、エカラットが「だから西だと言っている」と付け加える。
「いいか。今私はこの血を使って神秘のかけらがある場所を探し当てた。守護を任される時に私自身の血液をアレに流し込んだのだから、今のこの結果に間違いはない」
「何となく分かるよ。今のは在りかを探すための儀式だったんだよね」
やっとヴァレンティノが返事をする。
「そうだ。お前の師匠は相当強いらしいな。この私に4度も血を流させるとは...抵抗力が桁外れに強かったぞ」
エカラットはまだ呼吸を整えられていないようだ。
ぜえぜえと息をしながらヴァレンティノを見上げてニヤリと笑っている。
「それはそうだよ。お師匠様は『怪物』なんだから」
それに君はまだそんなに幼いじゃないか。
そう続けようとしたが彼の言葉は今のエカラットに届いていないらしい。
「グスグスするな、すぐに西に向うぞ」
久しぶりの強者と対峙したエカラットはその興奮を隠そうとせずに、彼らに向かってそう言うのだった。
(ここの全レス書き込んだ訳でもないのにアレだけど、気が向いたらで構わないから暇な人はこのお話の感想くれると一個人ならぬ一匿名が嬉しい 差し出がましかったらこのレスはスルーしてね)
142:匿名:2019/08/28(水) 19:28 >>141
(ここにかいてもいいの?じゃあ言わせていただく。
尊い。)
ペルマナントが さむい...。と零した。
既に日へ出ていない。少し手間取りすぎたようだ。
「あの...日が出てからの方が...」
ペルマナントが言えそうもない雰囲気の中、やっとのことでそう喉から絞り出した。
「早い方がよい。」
すぐに彼女の勇気はエカラットの即答に潰された。
はい、とペルマナントは苦笑した。
「寒いか、これを着て」
ヴァレンティノが苦笑中の彼女の肩に自分の上着を着せる。カーラは...とヴァレンティノがエカラットの方も見たが、彼女は興奮した様子で寒さのひとつも感じていないようだった。
分厚く重たいドアを閉め、月明かりと街頭の灯りを頼りに歩き始めた。
145:匿名:2019/09/03(火) 00:41方位磁針を頼りに、エカラットはぐんぐんと進んでいた。手のひらのたくさんの深い傷の応急処置は済んでいたがじわりと血が包帯に滲み出している。
146:匿名:2019/09/07(土) 11:32 「手、大丈夫?」
滲んだ赤黒いそれをじっと見つめながらヴァレンティノか尋ねた。
その言葉からは声音が分かりにくい。
「利き手ではないからな。特に問題はない」
高揚感からかエカラットはほとんど聞き流すようにそう返事をしたが、ヴァレンティノは彼女の手から視線を離さなかった。
「...僕が治してあげようか、カーラ」
地の底から這ってきたような冷たい声。
エカラットは背筋が凍るような感覚に我に返り、思わずぞっとしてその手を彼の目が届かない後方に隠した。
「だからいいと言っているだろう!プラエである私がこの程度の傷で根を上げるものか!」
「そっか。無理だけはしてはいけないよ」
彼女の剣幕などどこ吹く風で、ヴァレンティノはエカラットの顔に眼を戻してにっこりと微笑んだ。
暗闇でよく見えない。だが、月明かりとペルマナントがもつランプの光が微かに彼の顔を映し出す。
綺麗な瞳だ。暗いと余計に緑が深い。
「……あまり見るな」
エカラットは彼の奥に感じるただならぬ闇と怠惰と端麗さに身震いをする程だった。
しんとする雰囲気にはお構い無しに彼が笑った。
「ごめんって、そんなに怒らないで。どうしても無理そうだったら言ってくれればいいから」
今のエカラットには彼に頼る心などない。恐らくヴァレンティノはそれをわかった上でエカラットに笑いかけたのだ。急にペルマナントが、ランプを彼女の顔にガシャン!っと近づけた。突然のオレンジの光に瞳孔がギュッと縮むのがわかる。
「な、な、、?!」
エカラットが目を細める。
「あまりヴァーレ様の奥に触れないで下さいませ。彼は気が張っております。暴走なさらないよう、くれぐれもよろしくお願いしますね」
耳元で静かにペルマナントがいった。鼓膜がゆったりと揺れる。透き通るような声に、一瞬ぐらりとしてしまった。暴走、が、エカラット自身のことなのか、それとも彼のことなのか。分からないが、どちらにしろ恐怖を覚えた。
近づいたペルマナントの顔をじっと見つめたが、その感情ははかれない。ただ、ふふっと口角を上げたその顔が人並外れた美しさだということは確かだった。
ん?とヴァレンティノが首を傾げる。
「なんでもありません、さぁ進みましょう」
純白の髪の毛が揺れて、ペルマナントは先に進み始めた。ランプの光を失った周辺はすぐに闇に持っていかれる。
「ちょ、ちょっとまって、急に進むな!」
つい感情的になる。それさえもヴァレンティノは笑って流していた。
進むべきほうはもちろんエカラットの血が教える方である。たまに彼女が道を指し、それに従って3人で歩く。
153:匿名:2019/09/12(木) 18:37 体の弱いペルマナントが息を切らす。それに比べ、エカラットは表情ひとつ変えずにずんずんと進んでいた。「ペル。もしすごく辛いなら力を、」ヴァレンティノが言いかけると、だめですと彼女が返す。
「今無駄にお力を使わないでくださいませヴァーレ様。」
「でも」
「いいんです」
何かを言いかけたヴァレンティノを遮ってペルマナントは静かに首を横に振った。
「そのお力はとっておいて下さいませ...あの方のために」
その言葉が言外の何か深い意味を含有しているようにエカラットには聞こえた。
彼らよりも先にいて尚彼女の耳はしっかり二人の会話を捉えている。
エカラットは後方をそっと振り返った。
暗がりの中でも分かるほど疲弊し切ったその表情に対して、ペルマナントは不気味なほど落ち着いた佇まいをしている。
「...それなら今日はもうこの辺りで休もうか」
ヴァレンティノはそれでもまだ納得がいっていない様子だったが、引き下がることにしたらしい。
自分を見つめるペルマナントに休息を提案した。
「休むだと?まだ全然進んでいないぞ?神秘のかけらを追うのにそんな調子で、これからの道のりに一体どれほど時間を費やすつもりだ?」
急く気持ちを抑えきれない。
エカラットはヴァレンティノを非難するように一気にまくし立てた。
だがヴァレンティノの方も負けずに言い返してくる。
「ペルがもう限界なんだよ!この子にこれ以上無理をさせるのは本当に危険だ。カーラ、今日はもうここで野宿させてくれないか?」
エカラットはそれには返事をせず、心を鎮めようと大きく息を吐きながら夜空を見上げた。
半分に欠けた月が煌々と輝いてそこら中に白銀の光を落としている。
自身の紅の瞳に相反するその色に宥められたのか、エカラットは息を吸い込んでゆっくり口を開いた。
「分かった。お前達はもう休むと良い。私とて神聖な精霊を無理矢理歩かせるのは心が痛む」
それだけ言って後は振り返りもせずに歩き出す。
「待てカーラ!君はどうするつもりだ?」
後ろからヴァレンティノの声が追いかけてくる。
エカラットは面倒くさそうに立ち止まり、前方を向いたまま叫ぶようにそれに答えた。
「このまま真っ直ぐ進む。お前の風魔法でもなんでも使って、明日には私に追いついて来いよ」
再び歩き始めようとするが、ヴァレンティノの鬼気迫るような声がまたしてもエカラットを止めた。
「そんなの危険だ!夜はどんな異形のものが現れるか分からないんだぞ。戻れ、カーラ!」
「私に命令するな!どこまでお前は私を侮る気だ!よく聞け、私は誇り高きプラエフェクトゥスの...」
その瞬間だった。
鈍器で頭を思い切り殴られたような衝撃を受けエカラットは声もなく地面に崩れ落ちた。
冷たい土の感触に、一瞬何が起きたのか分からず目を見開く。
「カーラ!?カーラ、どうした!?」
意識は何とか保つことが出来たようだ。
ヴァレンティノの悲鳴がガンガンと頭を揺さぶる。
エカラットは起き上がろうと上体を起こそうとしてすぐ頭に激痛を感じ呻き声を上げた。
いや、頭だけではない。
体が燃えるように熱い。
エカラットはひゅうひゅうと口で呼吸し、地面に倒れたまま抱えた膝に頭を押し付けた。
『たとえ君がどんな危機に陥っても、生き延びることだけは諦めては駄目だよ』
霞んでいくエカラットの脳裏にいつか聞いた誰かの教えが蘇ってくる。
そんなの言われるまでもない。
心の中で声を一蹴してから再び彼女は呼吸を整えようとした。
突然ひんやりと冷たい何かが額に触れる。
エカラットはヒュッと息を飲み込んで目を上に向けた。
「うわっ、酷い熱だ...」
口呼吸に必死で全く気がつかなかったが、ヴァレンティノがすぐそばまで駆けつけていたようだ。
深刻そうな顔でエカラットの額に白い手のひらを当てている。
「...て...いい」
反射的に恐怖を感じて、彼女は呼吸の合間から口をパクパクさせて何事かをヴァレンティノに訴えた。
「何だい?どうしたの、カーラ」
エカラットは息も絶え絶えに声を絞り出した。
「...治さなくて...いい」
ヴァレンティノが驚いたように彼女の額から手を離す。それから悲しげに言った。
「カーラ、僕は見境なく他人から寿命を奪い取るような怪物ではないよ。どうかこれだけは覚えて僕を信じてほしい」
優しい声。
エカラットは恐る恐る視線を彼の目に移動させた。
緑色の瞳がエカラットを真っ直ぐに見つめている。
その輝きは月光よりも眩しい光を放っていた。
「きっと強いストレスだ」
ヴァレンティノがエカラットの身体を仰向けにさせた。夜空がエカラットの瞳に映った。どれほど歩いたんだろう、、。エカラットはその時初めて正気に戻ることになる。
ふわっとエカラットの体が重力から自由になった。ヴァレンティノが彼女を抱えあげたのだ。ひぃっと喉に息が詰まった様子だが、彼女は体のだるさから抵抗はしなかった。だるんと腕が揺れ落ちる。その強さとは裏腹に、華奢で、軽いその身体を、ヴァレンティノは大切そうに木の下におろした。
「休むといい、そもそも巻き込んだのは僕だ。ごめん」
彼は申し訳なさそうに彼女の足元に座る。その行為は、敬意を表したものであった。ペルマナントもすぐそばに腰をおろす。
「、、、、お前は自分のために動いたのではなかろう。仕方ないことだ。」
エカラットは静かに目を閉じた。
すぐにエカラットは眠りについたよだ。相当体に負担をかけていたに違いない。その様子を見て、ヴァレンティノは彼女の頸動脈に手をかけた。一度に体のすべての機能を回復させるために、大きな血管を選んだのだ。
ベルマナントも仕方ないと納得したように目をふせた。ヴァレンティノは精神を整え始め…だが、それは小さな手に拒まれた。エカラット自身が彼の腕を力なく掴んだのだ。
「...カーラ」
「治さなくて良いと言ったはずだ」
目を閉じ、先程と変わらぬ表情でエカラットは深く息をしている。
「すぐに力を使おうとするな。ペル、彼女だってさっき止めていただろ。なぜ止めない」
弱々しく、ただしっかりとした意思でいう。
掴んだままのヴァレンティノの腕を強く握った。
「たまには、自分のために使ったらどうだ」
彼女は、ヴァレンティノの行動の裏を既に分かっていた。自分よりも、人のため。自分は二の次。
口を開けないでいる彼を、ペルマナントは何も言えずに見ていることしかできなかった。ペルマナント、彼女自身もわかっていたのだ。彼はずっと人を助けることしかしてこなかった。使命だった。生きる術だった。それが、彼の人生だった。
ヴァレンティノの腕を掴んだままエカラットは再び眠りについたようだ。寝息も立てず、まるで生きていないかのように眠っている。ヴァレンティノは腕の温もりを感じながら、無性に泣きたくなった。
知らなかった、自分が好きでこんな生き方をしているのではなかったのだと。
全てを察知したペルマナントが、横になる。
「ヴァーレ様。私はヴァーレ様の生き方を愛しております。あなたの望んだ生き方でなかったとしても、そうやってこれまで生きてきたのですから」
素晴らしい人生です、と続けた。
ペルマナントの精一杯の言葉に、ヴァレンティノは笑みが零れた程だった。
ヴァレンティノは、腕の温もりの正体を起こさぬよう、静かに横になった。一日で色んなことがありすぎた。3人は深い眠りについた。
166:匿名:2019/09/17(火) 18:27 『お前も支配された生活になるさ、じきに』
『ヴァーレ、お前はこうなるんじゃない』
『あの子は自由にしてあげて!!』
『人のために生きなさい。あなたの生き甲斐よ』
『これからは、こうやって生きるんだぞ』
『ごめんね、』
なにかに意識が引っ張られるようにして目が覚めた。急に、バチッとこの世界に戻されたのではなく、静かに、重く、確実に戻された。
さっきまで眠りについていたとは思えないほど意識がハッキリしている。昔の微かな記憶の夢を見ていたようだ。
少し体を起こす。左どなりのエカラット、右どなりのペルマナント共に眠っている。どのくらい寝ていたのだろう。あたりは明るくなってきていた。
「夜明けか、、、」
ヴァレンティノは弱くなったエカラットの握る手をそっとずらし、川に近づいていった。夜は気が付かなかった。さらさらと綺麗な音色を奏でながら水が流れている。これこそ、人間の愛した水の芸術なのであろう。
手を入れてみる。きんと冷えたそれは彼の生命を震えたたせた。少しすくって自分の口に運ぶ。久しぶりに口に入れるものとしては充分すぎるくらいの代物だ。腰につけた筒を手に取り、水につけた。カプカプと筒も水を飲み込み、あっという間に満たんになった。みんなで飲むとしても一日はもつ。またその筒を腰にさげると、ふと気配に気づいた。
ペルマナントが目を覚ましていたようだ。彼のすぐ近くまできていた。
「、、おはよう、よく眠れた?」
彼が笑いかけると、彼女は首を縦には振らなかった。
「すごく、嫌な夢を見ていました。」
「奇遇だね、僕もだよ」
ペルマナントもしゃがみ込む。人差し指を水に入れ、つめたいっと無邪気に笑った。
「ここは綺麗な水が流れているよ。ずっと向こうから来ている。多分、村があるね、」
「そこに、、、、、」
言わずとも彼はわかるだろうとペルマナントがヴァレンティノの瞳を覗き込む。可愛らしい仕草に動揺もすることもなく、彼はうん、と答えた。
「きっと、お師匠様が」
燦々と太陽が照りつける朝。夜の寒さが嘘のようだ。
「あっつい...倒れそうだ」
弱音を吐かないエカラットでさえもそう呟いた。
ペルマナントも純白の長い髪をしばり、白い頬を赤らめている。
この世界は、四季が区別できないのだ。真夏のようで、真冬でもあり、春のようで、秋なのでもある。だからこのような異常気象になるのだ。
エカラットの高熱はまだ下がっていなかったが、猛暑に文句をつける程度の気力は回復したようだ。
ヴァレンティノ達が汲んできた川の水を一飲みしてすぐに立ち上がろうとする。
しかし流石に身体を動かすのは難儀であるらしく、力がうまく入らないのか膝から崩れ落ちてしまう。
ヴァレンティノがすぐさま支えにはいるが、エカラットは大丈夫だ、と拒否を示す。
172:匿名:2020/01/23(木) 22:51 「それより私たちは、というよりもお前の師匠は一体どこに向かっているんだ?『こちら側』の世界の西には何がある?」
発熱に加えてうだるような暑さに頭がぼうっとするのを感じながらも彼女は声を張り上げた。
エカラットはあの湖の向こう側の世界の住人であるから、彼女が持っている、ヴァレンティノ達が住む世界についての知識量は極めて乏しい。
神秘のかけらを守護するという使命を負っているプラエフェクトス族はそもそも、滅多に自民族の領域外から出たりしないものなのだ。
一刻も早く神秘のかけらを取り戻すために、エカラットとしてはこちら側の世界のことを少しでも知りたいのであった。
それにほとんど何も勝手の分からない場所で行動を続けるのも不安である。
ヴァレンティノとペルマナントが、少し困ったように顔を見合わせた。
こちらに伝えるべきかどうか迷っているらしい。
良いから早く教えろ、と声を荒げそうになるのを我慢し、エカラットは2人が口を開くのをじっと待った。
「西っていうだけだと、まだ確信できないけど」
先に答えたのはヴァレンティノである。
「今目指している方向の西の果てにはね、僕たちが、いや、お師匠様が昔住んでいたヒーラーの廃村があるんだ」