( / ではこちらも湿気がすごい感じで返させていただきます…! )
( 相手の目の前にいるのは自分ひとりであるのに、その口から発せられた言葉が自身に向けられたものであると認識するのには時間がかかった。気がついたときには、挨拶を返すタイミングを完全に失っていた。唇だけが半開きになって、それを誤魔化すために曖昧に笑ってみる。後ろ姿ばかり眺めていた少女を目の前に捉えるのは新鮮で、思わず目を逸らしてしまう。きっと相手もそうしたのだろう、次にそちらを見たとき、再び視線が交わることは無かった。年相応の幼さを感じさせない自然な動作をなんとなく目で追っていると、相手の言葉を危うく聞き逃しそうになる。頭の中でその言葉を反復すると、思わず目を見開いてしまう。この少女は、すべて知っているのだ。根拠があるわけでもないのに、先ほどから感じていた疑念は確信へと変わっていった。濡れた足の冷たさが回ってきたのか、それとも相手の放つ独特の冷たさ故か、背筋がぞくりと凍えるような感覚があり、思わずぶるりと震えてしまう。半ば諦めたような気持ちで、しかし直接的な答えはしまいと言葉を濁す。クリアできないとわかっているようなゲームをやらされているような気分だ。逃れるように外を見ると、雨がまた降り始めていた。まるで、訪れた変化を祝福するように。こんな変化ならいらない、と投げやりに思う。だったら、どんな変化なら受け入れられるのだろう。 )
どうだろう。 まあ、どこかで会ってるかもしれないね。ほら、世間ってのは割と狭いから
>>7 莉緒
…そっか、そうかもしれないね
( ごくんと相手の言葉を飲み込んでから、つ、と小さく息を吐いてみる。靴で包まれたつま先は地面に当たるなり良さげな音を奏でて、雨はぱらぱら鳴った。むぅ、このひと、なんかそれっぽいことを言ってきた。だって確かに商店街の精肉店と八百屋の店主さんは同姓同名だし、世間は案外狭いのだろう。ぐりぐりと足首を回して、優しそうな声で言うけれど、目立って合わせないし、言葉の方向は斜め下を向いていて、強かに言い捨てたようにも取れる。硬い地面には、痛くも痒くもないんだろうけど。「 でも 」なんて反論はしなかった。すこし大人びた行動をしたつもりなのに、どうせ拙い言葉しか出ないのに反論したって、そしたらなんだか惨めになりそうな気がして。鞄を持ち直してゆら、と濁った瞳を揺らしながら20とか、30糎ほど上にある相手の顔を見上げる。カメラのピントを合わせるみたいに顔はほとんど動かさないで、もしかしたら見えない瞳の内側を覗こうとしながら、どこかぎこちない笑みを浮かべて、またなにか遠い先のことを見つめるように。雨宿りみたいに言うけれども、雨って今降ってる雨じゃないくて、事のことかというか、家でのことというか、家出の理由というか。とりあえず、匿って欲しいって。 )
おにーさん。わたし、おにーさんに会いたくて来たの。お願いがあって。わたし、もうここ以外行くところなくて。ねえ、おにーさん。おにーさんがわたしと会ったことあるだとか、無いだとか関係無いから、どれくらいまでかは知らないけど、雨がやむまで、泊めてくれないかなって。
>>8 おにーさん