(素早く動き出したクロエを冷静に見届け、
男もまた、魔術師の集団を相手に動き始める。)
「久々の事だ……。こんな数の集団との戦いは、
山林で出逢った賊以来だ。しかしだ……、
矮小な魔法なぞに頼りきりの貴様らより、
賊の方が余程……吾を楽しませてくれるぞッ!」
(以前に似た情景を見た事をふと思い出すが、
その賊に比べれば余程戦いやすい相手だった。
魔術師達の一部が攻撃魔法を撃ってきたと見るや
男は右側の大剣を地面から手荒く引き抜き、
振りかぶった姿勢を維持し、そのまま静止する。
その無防備な男へ、魔法は容赦なく襲いかかる。
だが、それはまさに男の思うつぼであった。)
「……ハハハッ、その程度で怯む吾では無いわ。
そして教えておいてやろう…、半端な魔法は、
吾にとっては殊更意味を成さない事をなッ!」
(男はそう言った直後、前に出た左足を軽く上げ、
『ズドォッ』と激しい踏み込みを入れる。
腕を振る前に一歩踏み込む事は、腕に力を伝え、
腕にかかる力を増大させる事に作用する。だが、
男のそれは、あまりにも極端なものだった。)
「魔法ごと吹き飛ばしてくれる、喰らえェッ!」
(数人の魔術師が再び攻撃したのを見計らい、
全力を込めた大剣を地面を削りながら振り上げ、
剣に抉られた地面は空気にさえも衝撃を伝え、
寸前までそこにあった魔力の波を吹き飛ばした。
更に衝撃のあおりを受け土埃と石畳が飛び散り、
魔術師達は思わず顔を覆い、完全無防備になる。)
「ハハハッ……、少し派手にやり過ぎたか。」
(振り終わった剣を肩に担ぎ、男は一人笑った。)
>>94 クロエ
>>95 クリフ様
……ッ!
( 目の前で起こった物凄い出来事。この人は人間なのかしら、なんて思うほどに、本当に凄い。だからといって声を漏らしてはいけないし、飛び散った土埃や石畳を受けてもいけない。せっかく出来上がった完璧な状況なのだから、ここで終わらせなければ。女性ならではのしなやかさと、普段の稽古で身に付けた素早さを生かし顔を覆う魔術師たちの背後を次々にとり、気づく暇もない速さでみねうちをいれていく。___真正面の戦いは苦手でも、こういう『作業』にも似た行為には強いのだ。……そうこうしていく内に、バタバタと魔術師は倒れていきあっという間に残り1人に。最後、と意気込んで背後をとりみねうちを入れようとした、その瞬間。ガシリッ!と力強く短剣を持つ手を掴まれてしまい、驚いた表情を浮かべてしまう。 )
な、なんで……まだ土埃は舞っているのにっ…!?
____……防御魔術!?
( 未だに舞う土埃。あれをまともにくらっているのだから、目なんて埃が入って上手く開けられないはずなのに。そう考えながらも、こちらを掴む手を素早く足で払い距離をとる。こちらを向いた魔術師の顔には……薄く輝いて見えるような、防御壁のようなもの。クリフに攻撃はせず、咄嗟に発動したその魔術で土埃を防ぎ切っていた。だからこそ周りの仲間が倒れたのが見え、こちらの腕を掴んできたのだ。「くっ……」と唇を噛み締め、魔術師を睨みつける。この人さえどうにかできればこの場は収まるのに、真正面からではどこかでカウンターを入れれるまで攻撃を耐えるしかない。それ程苦手なのだ。この状況に限っては、ただ攻撃すればいいものではない。なるべく傷を付けないようにしなければいけない。ぐ、と短剣を握り直す様子が、彼女のピンチを物語っていた。これを不運と呼ぶか、何と呼ぶか。 )
せっかく……この好機をクリフ様が作り上げてくれたのに…ッ