>>516
「っ、こいつは……!?」
後方から聞こえる音がおかしくなったことに気付き、振り返る。
「どうやら、早速おいでなすったようだ……いくらなんでも早すぎだぜ」
こめかみから嫌な汗が流れる。それでもなお笑みは絶やさない。
「やってらんねぇよ、まさか墓穴とはなぁ」
見るからに相手は水関連の能力者。水道管を壊すという行動が仇になった。
「すまねぇ紀ちゃん、こりゃ完全に予想外だ」
「! ここで能力を使っちまうのか……」
彼女は意を決して能力の行使に出た。しかし簡単にはいかないらしく、顔が苦悶の色に歪む。
「……」
(どうする!? 何か手は……?)
一瞬の選択、だがそれ以上の迷いはなかった。
「紀ちゃん、逃げるぞ!」
彼女の腕を引っ張り走り出す。恐らくもう自分ではロクに動けないと判断しての行動だ。
そして迫りくる津波に対しては、鋼鉄をテトラポッド型にし、大量にばら蒔くことで対応。
テトラポッドとは、波止場などにあるコンクリートなどでできた独特の形状を持つ構造体である。大量に累積させることで効果を発揮するため、この状況にはうってつけだ。津波の勢いが目に見えて衰えていく。
「ぐ……くそっ!」
しかし、紀を引っ張りながら走っているため、とても全速力は出せない。徐々に津波との距離は縮まる。
「まずったなこりゃ、何かいい手はないもんかねぇ」
桜空「感謝する、じゃあな・・・・・」
(そう言うと、桜空は部屋から出て、地図を見ながら仲間のいる目的地へと目指し、歩みを進める・・・・・
が、同時に鴉のいる部屋には、鉄のような臭いがし始める・・・・・
が、それは鉄の臭いではない、紛れもなく人間の血の臭いであり、桜空がいた場所には、小さな血溜まりができていた・・・・・
自分が来た何よりの証拠になることから、恐らく桜空自身も気づいていなかったと思われると同時に、桜空の体の状態はかなり危険であるということの前触れなのだろう・・・・・)
紀「何してるんです!!!!!私が食い止めていた内に行けばよかったものを!!!!!」
(覚悟を決めて能力行使に出たのに、相手は自分を引っ張ってまで一緒に逃げるという選択をした・・・・・
正直、この程度で死ぬほどやわじゃないと言いたいが、それを言ったとしても相手には通用しないだろう・・・・・
紀は、中川に怒鳴り散らす・・・・・)
>>519
>>519
水鴉
「ヒヒヒ……」
紀が押し寄せる波を止め、その間に生成された鉄製のテトラポッドにより、水の流れが不規則に掻き乱される事で勢いが衰える。
だが、これで止まる程敵は弱くも甘くも無い。
不規則な流れのまま、破壊された水道管から流れる水が二人の背後で集まり、ブヨブヨした巨大なスライムのように変化していく。
通路を埋めるように肥大化したソレの表面から二人を見下ろすように膝まで伸びた黒髪に、下品な笑みを浮かべた男……十二鴉の一人である『水鴉』がその姿を現す。
水鴉はスライムと言う、液体と個体の中間体となる事で流動性と引き換えに流れを阻害するテトラポッドを押し退ける圧力を獲得し、逃げるスピードの落ちてしまった二人とは反対に少しずつ押し寄せる勢いも上がってしまっている。
そんな中、二人の進む先には、エリアを仕切る観音開きの鉄扉が見えて来る。この扉を使えば、完全に食い止めることは出来なくとも、その水の威力と勢いを少しは削げるかもしれない。