>>516
>>519
水鴉
「ヒヒヒ……」
紀が押し寄せる波を止め、その間に生成された鉄製のテトラポッドにより、水の流れが不規則に掻き乱される事で勢いが衰える。
だが、これで止まる程敵は弱くも甘くも無い。
不規則な流れのまま、破壊された水道管から流れる水が二人の背後で集まり、ブヨブヨした巨大なスライムのように変化していく。
通路を埋めるように肥大化したソレの表面から二人を見下ろすように膝まで伸びた黒髪に、下品な笑みを浮かべた男……十二鴉の一人である『水鴉』がその姿を現す。
水鴉はスライムと言う、液体と個体の中間体となる事で流動性と引き換えに流れを阻害するテトラポッドを押し退ける圧力を獲得し、逃げるスピードの落ちてしまった二人とは反対に少しずつ押し寄せる勢いも上がってしまっている。
そんな中、二人の進む先には、エリアを仕切る観音開きの鉄扉が見えて来る。この扉を使えば、完全に食い止めることは出来なくとも、その水の威力と勢いを少しは削げるかもしれない。
紀「下劣な単細胞生物はこれだから困りますねぇ・・・・・」
(水鴉を見上げて睨みつけては、上記を呟く・・・・・
そして、逃げる先に見えてきた観音開きの鉄扉に手をかざし始める・・・・・
すると、ゆっくりではあるものの、徐々に鉄扉が開き始める・・・・・
鉄扉の向こうへと逃げてそのまま閉めてしまえば、多少は逃亡及び任務遂行はしやすくなるだろう・・・・・)
>>521
「へへっ、悪ぃな……これがFirstの流儀なもんでね」
紀の叱責に、強がり混じりの笑顔で返す。
「ってうおお!? そんなのアリかよ!」
驚愕に目を見開く。なんと相手は水質を変化させスライム状にしてきたのだ。
「なんとまあ器用なこって……!」
毒づいたところで状況が好転するわけでもない、どうにかしなければ。
(スライム状ってことは、流動性は落ちてる筈だ)
「それなら……」
まずは片手に、でき得る限り大きく鋭いピッケルを作り出す。
「どおりゃあっ!!」
そして思い切り床へ振り下ろし、突き刺した。
「こっからだ!」
次にピッケルを、刺さった部分だけ除いて網目状の鉄格子に変化させる。対スライム壁の完成だ。刺さった部分で『踏ん張り』が利いているので、力押しではまず破れない。
「んで、仕上げ!」
まだ終わりではない。波と一緒に押されてきている大量のテトラポッドを操作する。
それらが網目鉄格子に触れた瞬間、溶けて吸収されるように鉄格子側の体積を増加させる。これで耐久性は磐石だ。
「かぁ〜……流石に、しんどいな」
いくら隆次といえど、これ程複雑な制御は堪えたらしい。一時的に足を止めた上で神経を磨り減らしている。
だが、その甲斐あってスライムの速度は半分以下となった。更に紀が能力でドアを開けてくれたことによって、次の部屋までに追い付かれる危険性は大幅に減った。
「おまけ!」
ドアに入る直前、せめて一矢とばかりに行動を起こす。
長髪男の顔面に向かって、親指でパチンコ玉を飛ばした。
指弾。
中国武術の一つ。
読んで字の如く指で小石などをぶつける技だが、達人ならば500円玉を段ボールに突き刺す程になる。
隆次が使えば能力で勢いが加算され、その威力は下手な銃弾を超える。
(流石にデザートイーグルとかには負けるがな)
殺人的な速度を得た小鉄球が男の頭蓋を貫かんと迫る。
(……多分、全身が水状になってるから効きませーん、てオチだな)