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水鴉
「ヒヒヒ……見てわかるだろう?
水と同化している俺に物理技は効かない……」
流動性が落ちているものの、実体を持っていないことに代わりはなく、案の定、振り下ろされたピッケルも、撃ち込まれた指弾も水鴉にはダメージになっていない。
例えガトリングで集中砲火したとしても、水と同化し、実体を無くした水鴉にはまるでダメージにならないだろう。
中川が形成した壁と激突し、その勢いを食い止められるものの、形成された壁の小さな隙間から少しずつ滲み出すようにして二人がいる壁の向こうへと移動し始める。
スライム化した状態では壁を通り抜けることに時間がかかってしまう上に、異能の性質上、水鴉本体のいる場所は完全な液体に変えることは出来ない……
だがその問題を解決するための策……時間稼ぎをするための誘導は終わった。
《バリボリバリボリ》
蟲鴉
「あァァ……虫ィ、虫の音が聴こえるなァァァァ……」
後ろからは水鴉が迫る中、紀の開いた観音開きの鉄扉の奥から、黒いタンクトップに丸刈り、顔には大きな蜻蛉の刺青を入れた重点の合わない目をし、見るからに異様な雰囲気をした大柄な男が現れる。
左手には生きたカナブンがぎっちり持った虫籠を掴んで持っており、その中に手を入れ、まるでスナックか何かのようにバリバリと音を立ててカナブン達を食べており、言動や外見のどれを取っても気味が悪い。
タンクトップの上からわかる筋肉だけでも、ボディビルダー顔負けの筋肉を持っており、見るからにパワーに特化したような見た目をしている。
また、男の後ろには口元が人間の血で血塗れになった体長1mもある巨大な蝗が何匹も群れを成している。
前門の虎、後門の狼とはこの事を言うのだろう。
違うとすれば……前門にいる者も、後門から追うモノも、虎や狼とは比較にならないほど異常かつ強大な事だろうか……
(あー……やっぱりな)
案の定、か。
さも当然の権利のように物理無効ですか。
深くため息をつきそうになるが気合いで堪える。
「まあいい、逃げることさえできりゃ何とかな……っとぉ!?」
正面へ向き直った瞬間、飛び込んできた光景に驚く。
「うっ……げえぇ〜、いやもうぶっ飛び過ぎてて語彙力無くすわ」
相手が能力者という点を差し引いてもなお異様な絵面だった。さしもの隆次もひきつった笑顔しかできない。
その直後、紀から提案がくる。
「……わかったよ、けど生き残る自信はあるのかい?」
先程と同じく拒否しようかと考えたが、彼女の強い意思を尊重することにした。
「そぉ〜ら、よっと!」
そして直径2mほどの巨大な鉄球を作り出し、虫の男に向かって勢いよく蹴ることで転がした。
勝手に進んでくれる大盾の出来上がりだ。
「どいて貰うぜぇ、マッチョマン!」
その後を追うように走ることで前方への攻防一体を成す。
いくら男や蝗が大柄といっても、こんな代物は容易に受け止められないだろう。
(さて、なるべく急いでくれよ、旦那……!)
もう少し経てば狼谷達の援軍が到着する筈、それまで何としても粘らなくては。