>>611、612
(ん〜どうしたもんかね)
胸中で焦り始める。
狼谷達の位置が不明な上、唯一の通信手段も役目を果たせない状況ときた。
もはや八方塞がりか。
(……実はそうでもないんだな、これが)
奥の手がないこともない。
そして何故今まで使わなかったか。それはひとえに通信さえ出来れば不要な手段だからだ。しかし現状それが望めないのは明白となったので、消去法でこちらを選ぶことになったというわけだ。
(じゃ、早速取り掛かりますか)
一度深呼吸し、精神統一。
床に片手を添え、
『操作』を始めた。
(よぉ〜し、この建物もちゃんと操作の対象になってるな)
勿論建物の形をどうこうしようだとか、そんな大それたことは出来はしない。
しかし動かすことは叶わずとも、断片的に情報を得ることは出来る。
(この部屋は……なんもねえな。こっちの部屋もハズレか)
どこが『動かせない』部分なのか、どこが『そもそも対象外』の部分なのか、実は『少しだけ動かせる』部分なのかといった、感覚的な結果情報を手探りでかき集め、各部屋の状況を推測していく。
そうすると……
(お!)
今度の部屋は何か違う。
(床や壁の状態がおかしいな)
幾つか、『操作できない部分』が点在している。
(合成樹脂や塗料で挟んでるわけじゃない……こいつは)
傷だ。何らかの要因で壁や床が損傷している。そしてその形状は……
(刃物だな、それも随分切れ味のいい代物だ)
『操作できない部分』はどれも非常に細い直線であり、深いものである。そこから導き出される結論は、鋭利な刃物を持った人物が戦闘行為に及んだというところか。
自らのあずかり知らぬところでの戦闘、これだけで直接向かう価値は十分だ。
「ぃよいしょぉっ!!」
鋼鉄の円錐型ドリルを形成し、件の部屋目掛けて投擲。掘削させる。
これに関してはあっさり上手くいった。直前まで蜈蚣怪獣が暴れ回り、周囲の地形がボロボロになっていたからだ。
「さあ行きますよ大将、一度見るだけでも意義はあるぜ」
「ん? あんた誰? 何、助けてくれんの? ありがたいけど別にいいや、じゃな」
言い終わるや否や、謎の人物に向けて手をヒラヒラさせつつ穴へと入っていった。
>>613
謎の仮面
「クフフッ、そうですか……
では、私の助力は必要なさそうですので此処は下がりましょう。」
中川が幾つも部屋に穴を開けて移動口を作り、自分の助力が無くとも大丈夫だとわかると、仮面の男は口許に手を当てて笑いながら、通路の暗闇の中へと消えて行く……
仮面の男の笑い方は、昔に桜空が何処かで聞いたことのある、少し癖のある笑い方であるものの、彼は自分の素性について明かす前に去ってしまう。
中川のこの判断や行動が吉と出るか凶と出るかはまだわからない……