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狼谷
「………そうしたいのは山々だが……
左足の動脈を断絶されている……傷口を塞ごうと、血管そのものがやられている以上、内出血になるだけだ……
治療マシンも万能じゃない……これだけの出血、身体組織の破壊じゃ治る見込みもない……」
片腕を失っただけなら治療マシンに入って治癒を開始すれば、時間こそかかるものの、出血を回復し、切断箇所を塞いで治癒することも出来たのだが、最後に放たれた弾丸だけは例外だった……
一見すると銃弾が一発だけ左足に当たっただけに見えるが、脚にある太い動脈が完全に断絶して骨にまで弾丸が入っているため、中川が傷口を縫った事で体外へ流れる血は止まったものの、切断された動脈から流れる大量の血が左足に溜まってしまい、重篤な内出血となってしまっている。
血が血管を通って正常な流れに入れなくなった事から、そう時間もかからずに出血死してしまう事を悟っている。もし、これが通常の銃弾によるものであれば、ここまで重篤なダメージにはならなかったのだが、今回ばかりは俗に言う"当たり所が悪い"と言えるだろう……
狼谷
「……俺はもう助からないし、仮に助かったとしても片手片足を失った状態じゃ足手まといにしかならん……だから俺は……残された時間を……お前らに伝えたい事を話すために使おうと思う……」
死が目前に迫り、一層顔が青白くなり、左足の傷口からは内出血によって起きた黒い血膿が滲み出す中、生きていられる内に三人に言葉を伝えるために費やそうとしている。
自分が足手まといとなって生き続けるのではなく、仲間に後の事を託した上で命を落とすことを選んだ……
「…………」
こんな状況では、いかに隆次といえど茶化すことは出来なかった。
周囲の大気が質量を持ったと錯覚するような、重苦しい空気を吹き飛ばせるほど彼は破天荒ではなかった。
三羽鴉、よもやあそこまで力の差があったとは。様々な悪条件こそ重なったものの、複数対一で圧倒し続けてみせたその実力は驚愕に値する。
何らかの打開策を打ち出さなければ。
だがどうする、個々の戦闘能力を向上させる為の訓練など、成果はたかが知れている。かといって強力な異能者の伝手があるわけでもない。
「……」
額を抑え、思考に影が差し始める。今は何とか生還できたが、今後を考えると八方塞がりな事態になる確立は濃厚だ。
次に全面対決などしようものなら今度こそ全滅しかねない。
「……それでも、やれることはやっときますか」
ネットで実践型格闘技について、一通り調べるだけでも少しは違ってくる筈だ。他には基礎体力向上トレーニング、能力を何度も限界まで使うなど、視野を広げれば意外とやれることは多い。
(けど、その前に……)
まずやるべきことは、狼谷の話に耳を傾けることだろう。
桜空「・・・・・」
(桜空は、認めたくなかった・・・・・
狼谷と一番長い付き合いだからか、桜空自身も心のどこかでわかっていた、狼谷はもう助からないということを・・・・・
だが、薫先生の死という前例があることから、大切な人の死というものを桜空自身がとうしても受け入れたくない、現実逃避をさせようとしていた・・・・・
だが、ここまで来て今改めて思い知らされる、そこにある確かな迫り来る死の気配・・・・・
あぁ、そうか・・・・・またか、と桜空の思考は停止する・・・・・
結局、守る側の立場になっても、以前よりも強くなっても、守れない者は守れない、現実とは非情だ、だが何よりも悪いのは、守れなかった自分自身の無力さだと・・・・・
桜空の顔に影がかかる・・・・・)
>>664、665、666