>>823
霞鴉
「……二人ともやられたようだね。
これは少し予定外だったけど……予想を超えるものでは無いね。」
霞鴉
「(まあいい、霞鴉を払う事が出来るようだけど、対処法方はそう難しいものじゃない…)」
【霧幻騎士(ミストブレイカー)】
《ザアァァァァァァァ…》
中川の背後に両手に長剣を持った人型の分身体が現れ、具現化された霧の剣先を振り下ろすことで彼を背後から切り裂こうとする。
先程中川が振り払った事で周囲に霧はもう無くなっていたのだが、何もナイフ空間から新たに霧を生成して操る事が出来るようで、周囲は再び視界をも遮る濃霧に満たされ始めてしまう。
霞鴉の作り出したそれは分身と呼べるほど精巧なものではなく、人の形をしてはいるものの、その顔や細かい姿は再現されておらず、人の上半身を持った霧そのものとなっている。
>>824、827
「なっ!?」
後ろに違和感を感じ視線を向けると、剣を持った人間?が振りかぶっていた。
「くっ!」
振り向いて反撃……間に合わない。
(じゃ、これしかねえな!)
直後、霧の分身体は強烈な打撃で吹き飛ばされていた。
鉄山靠(テツザンコウ)
背中で体当たりを繰り出す八極拳の技の一つ。蟲鴉との戦いでも披露した技だ。
「あの時の戦闘は知らされてねえのか? 俺の後ろを取っても無意味だぜ?」
口ではそう言うものの、内心では焦っていた。
(さっきからなんなんだコイツの能力は!? 霧を操るだけじゃねえのかよ!?)
自身を霧に変えて攻撃を無効化。これだけでも十分『ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく』といえるが、まあいい。まだ理解できる範疇である。
問題は次だ。霧から衣服だけでなくナイフや槍まで作り出している。一体どういう仕組みなのか。
(霧っていったら小さい水滴じゃねえのかよ!? それが繊維や金属に変わるなんて、ご都合主義もいいとこだぜ!)
まるで合金を無条件無制限に使える自分自身、いやそれでも足りないと思える程に、この能力は脅威だった。
(……まさか、霧を使うってのは偽装で、実際には原子や分子を直接操作してんのか?)
脳裏に、ある恐ろしい可能性がよぎる。この状況で決して考えたくはない、あって欲しくない、そんな可能性。
しかし……もしも、万が一そうだとすれば、これまでの矛盾点が解消されてしまう。
こめかみを嫌な汗が流れる。
「紀ちゃん、あいつの能力、見た目通り霧に限定したものだと思うか?」
「っ!?」
そこまでだった。どうやら桜空が無理矢理自分達を転送させるつもりらしい。
「おい!! 大将っ!!」
霧使いのことで頭が一杯になっていたせいで反応が遅れ、ゲートに飲み込まれてしまう。
「……!……!!」
食ってかかろうとするがその努力も空しく、転送は完了した。
ーーーーーー
【Firstアジト】
「ふざけんな!! 何考えてやがる!!」
怒りの余り壁に拳を叩き付ける。
能力抜きでも、鍛え上げられた筋肉から放たれるそれは非金属製の壁を容易くへこませた。
「くそ! くそ!」
尚も殴打を止めない。
ただただ悔しかった。桜空から実質的に信頼されていないことが、そしてこれから彼が討たれてしまうであろうことが。
ここまで離れていては最早何を生成しても間に合わない。それこそどんな合金であっても。
(せめて、あの樹木使いをもっと早く倒せていれば……)
顔を片手で覆う。
もっといい戦果を残していれば、桜空は自分を強く信頼し、霧使い相手に共闘できていたかもしれない。
(……いや、よそう)
そこまでで思考を止めた。
現実に『たられば』はないのだ。
『かもしれない』は『かもしれない』でしかない。決して確定ではないのだから。