>>8
奈落の夜王
『フシュー……フシュー……』
底無しの暗闇の深淵に蠢く夜闇の支配者……
奈落の夜王は言葉を発する事はない。
夜王の感情は光在る地上に存在するあまねく総ての生物種に対する激しい嫌悪と苛立ちに満ちており、奈落の夜王はこの暗闇の底にて、何千年間もひたすらに地上の総てを憎み続けて来ていた……
言葉が無くとも、フィーニスの体を流れる吸血鬼の血が一つの命令を下す。それは
『先にフランスに入ったシャルルや、集結させた吸血鬼達と共にパリに集まる吸血鬼狩りを根絶やしにしろ』
と言うものであり、その意思には激しい嫌悪が込められている……
>>10 、 >> - パリ市内にいるみなさま
「全ては貴方様の御心のままに」
身体に流れ込む主の命令に、吐き気を覚えながらも愛嬌のある微笑みを口元に湛える。私の全ては貴方様のものでしてよ。華やかな暮らしをしていた頃の記憶を引っ張り出しては、小鳥が囀るように声を発して。膝を曲げ小さくカーテシーをすれば、無数の蝙蝠と共に姿を消した。
そうして次に現れたのは__花の都、パリ
煌びやかな夜の街は、ただ街頭の光に彩られただけで夜に怯えるように静まり返っていた。
「__はぁ、血生臭くてかなわん」
パンプスの音を響かせ通りを歩く。これから起こることを想像するなり、後ろ髪を掻き上げ乍ら言葉を吐き捨てて。
根絶やし、か。この愛とセンス溢れる都が、血に染まることになるかもしれないなんてね。さて、吸血鬼狩りが居そうな場所は……ああ、困ったな。私はあまり情報を持っていないんだった。
今まで向かってきた敵を返り討ちにするか、直感を頼りに吸血鬼狩りを見分けて襲っていたからか情報は何も無く。まあ気侭に行けば良いだろうと、ふらりと歩いたその近くにはひとつのバーがあり。