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__カツ、
仄暗く温度を感じさせない、閉鎖的なその空間。無数の蝙蝠と共に、突如姿を現した彼女はパンプスの音を響かせる。青白い光に照らされ、ただでさえ白い肌はより不健康そうに、そして幾分か機嫌が悪そうに見えた。召集命令により、心安らぐ場所での憩いのひと時に水を差されたのだから仕方ない。ただ、先の召集命令を受け嫌悪感を覚えながらも、この足は忠実に、そして迅速にこの地へ向かっていた。
「…………」
徐々に集まる他の吸血鬼の気配を感じながら、やや離れた位置でその大穴をただ静かに見つめる。他の吸血鬼と交流しようなんて気は無いし、夜王の御前、下手に言葉を漏らせば機嫌を損ねて命を取られる可能性もある。まあ黙っていたとしても、この場に対して自分が嫌悪感を抱いていることは、既に伝わっているだろうが。
おぞましい空気が身を包んでもなお、その涼し気な面持ちは崩されず凛としている。目前の大穴、その底に鎮座する『奈落の夜王』の次の指示を待ち。
奈落の夜王
『フシュー……フシュー……』
底無しの暗闇の深淵に蠢く夜闇の支配者……
奈落の夜王は言葉を発する事はない。
夜王の感情は光在る地上に存在するあまねく総ての生物種に対する激しい嫌悪と苛立ちに満ちており、奈落の夜王はこの暗闇の底にて、何千年間もひたすらに地上の総てを憎み続けて来ていた……
言葉が無くとも、フィーニスの体を流れる吸血鬼の血が一つの命令を下す。それは
『先にフランスに入ったシャルルや、集結させた吸血鬼達と共にパリに集まる吸血鬼狩りを根絶やしにしろ』
と言うものであり、その意思には激しい嫌悪が込められている……