ピクリ……
(何だ…傀儡からの報告……?)
血で作った蝶や血を操っている鴉や鼠の視覚をとうして情報を得る。
(吸血鬼狩りの…女?…しかもA級かよ……!近いな、逃げるか)
感覚の共有を打ちきり、手元のグラスを一気に呷る。…鮮血のような酒は喉を焼くような感覚と共に通り抜け、幼い少女の血を飲んだあとのような香りと甘さを残して消えた。
「…悪いね、マスター。ちょっと面倒なことになった。」
そう言ってカウンターの上に酒代と口止め料に色をつけて置く。そのまま我が物顔でカウンターの中に入り、カーペットを捲る。そこにあったのは、どこにでもある床下収納への入口だった。そこを上げればこれまたよくある少し埃っぽい地下空間が顔を出す。
しかし、壁に寄り添うように置かれている人間では到底動かせそうにない棚を彼は軽々と動かす。そこにあったのは下水道への入口だった。
>>16-17
「あれ?」
A級の勘だろうか。ここで何か掴めると確信したはずなのに、中に踏み入った途端気が抜けてしまって。可笑しいなと首を傾げたところでふと、店主しか見当たらないことに気付く。店の外…、窓越しに中を見た時は他に誰かいたはずだが…いない。不気味に艷めく赤、纏った白衣…、すれ違っていないし、幻覚ということもないだろう。現に、ほんのりと漂う甘い香りは鼻腔をくすぐる。席には座らず突っ立ったまま、考え込んでしまう。
どこかから逃げた?もしそうだとすればかなり怪しいわけだけど…。そういえば、吸血鬼の味方する人がいるって聞いたなぁ。
店主の声も無視して、自分なりの1つの答えに行きつけばニタリと笑みを浮かべる。カルミア、カルミア。花言葉のひとつは、裏切り者。
「ごめんねマスター!このお店ぜーんぶ、めるが抜き打ちチェックしちゃうよ!」
吸血鬼の味方は人間であろうと敵。脅されてたとしたら可哀想だけれど、関係がある以上優しくはできない。もしもの為に聖水を携えながら、機嫌良く踊るように手を出していく。お洒落な棚の裏、天井、そして最後に、カウンターの中のカーペットに手をかける。