「才能ないとか……」
嘘だろ。
その言葉を飲み込んで、代わりにため息を吐いた。
手に持った羊皮紙を見て、無性に泣きたくなった。
どうしてこうなった?どこでどう間違えた?なんでオレばかりこんな目にあう?
そんな疑問も、すぐ解消されてしまうのだけれど。
どうしてこうなった?……簡単だ。オレが努力をしなかったからだ。
どこでどう間違えた?……きっと生まれたときから。才能があるかないか、なんて生まれたときから決まっているんだ。
なんでオレばかりこんな目にあう?……そもそも、そんなに辛い目にあっただろうか?
「クソッ……!!クソ、クソッ!!」
羊皮紙をぐしゃぐしゃに丸めて、近くにあった井戸に投げ捨てる。
どうせ枯れ井戸だろう。ゴミが捨ててあっても何も問題はないはずだ。
「痛っ〜!!」
あぁ、早く帰って寝てしまおう。
寝て忘れよう。
お母さんとお父さんになんて言われるだろう。
怒られるかな?努力しなかったからだって。
それとも泣かれる?こんな子供を持ってしまって、なんて不幸なんだろうって。
それか、笑われる?もしかしたら何も言わずに抱き締めてくれるかも?
「ちょっと、そこの君!?君でしょ投げたの!?」
……まぁ、お母さんとお父さんのことだ。
どうせ笑って兄ちゃんと比べるんだろう。兄ちゃんは優秀……とまではいかないけど、頭はオレよりも良かったから。
「ハァ〜ア」
「ため息ついてないで僕に謝ってよ!!」
さっきから煩いなぁ。なんなんだよ!?
さっきから何か言ってくるやつは!!
どういう顔をしてるんだか見てやる!!
声のした方……さっきの枯れ井戸の方を見た。
そこには少女がいた。だがしかし、純白の歪な翼が生えている少女。
ありえない。
「ありえないって、翼なんてッ!!」
そう言って髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。
少女はオレよりも高い声で「なによ!?」と怒った。
「魔法使いの君には言われたくないさ!!なんで最近の魔法使いは天使を信じないんだ!!」
「知らねーよ!!天使なんているわけないだろッ!!」
「僕が証拠だっ!!」
「女の子が僕とか痛いからやめろ!!」
「煩い!!」
ふー……はー……ふぅ……
両者ともに息を整える。
オレの方がはやく息を整え、少女のもとへ向かい、その歪な翼を掴んでやった。
「そもそも天使なら、こんな変な形の翼じゃねぇだろ!!」
翼をオレの方へと引っ張った。
ギシッと音がして、少女が悲鳴をあげる。この世にいる限り、聞かないような悲鳴。叫び。声。音。
とても甲高く、なんと言ってるか分からなかった。
周りの家々から「なんだ!?」とたくさんの人が出てくる。
「うっ、うっさ……」
翼を放すと、少女の声はおさまった。
周りの家々から出てきた大勢の人々は何事かと少女とオレを交互に見た。
その人々の中に、オレの親友がいた。
「ロー、何やってんだよ!?」
「あ、クルレ!!」
親友のクルレはオレのもとに駆けてきた。
少女を見ると、驚いたように息を飲んだ。
「翼だ……しかも、形が……」
「だろ?こいつ、自分のこと天使って言って__」
言葉が少女の叫びによって遮られた。
「貴様は僕を侮辱した!!なにより、翼をバカにしたことが許せない!!あげくのはてに、僕の翼を掴み、暴行に及ぶなど!!貴様の名前はロー・ルッタン!!今日の午後、魔術学校から退学させられた愚か者だ!!」
とつぜん、周りの人々がざわめき出した。
聞こえてきたのは「退学?」「あの魔術学校を?」だった。
オレは恥ずかしくなって、その少女の翼をまた引っ張った。
「そうだ、退学させられたさ!!あんな初歩的な学校、オレには__」
「それが愚か者だ!!才能がなくて退学させられたものを、嘘の言い訳で逃れようとして!!ロー・ルッタン、僕の名はアルカロイド!!毒の名を持つ天使だ!!貴様に天罰を与えてくれる!!」
>>17の続きです
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少女を中心として、暴風が吹き荒れる。
翼を掴んでいられなくなって、手を放す。親友のクルレとオレは、吹き飛ばされた。
近くにいた体格がしっかりした男性に肩を掴まれ、「大丈夫か!?」と言われる。
クルレも一緒に肩を掴まれたようだ。
二人して「大丈夫です」と答える。
「一体なんなんだ?君、あの子と喋っていただろう!?」
オレは何て言うか迷った。
明らかに、オレの方が悪いだろうし、このことも退学のことも知られてしまっては家族に顔向け出来ない。
「天使なんです、天使!!」
「え、ちょ、クルレ!?」
「だって、天使だったじゃないか!!確かに翼は歪だよ!?でも、でも、君の名前も当てたし、呪文も唱えていないのに風が……」
普通、魔術を使うには呪文を言わなければならない。
難しくなるほど呪文は短くなるが、そのぶん魔力をたくさん消費し精神が壊れやすくなる。
難しい魔術は天候関係。
たとえば今起きてる風だってそうだ。
なのに、呪文も言わないでどうして……!?
もしかして、こいつは魔力がたくさんあるのか!?才能があるのか!?
オレがどんなに望んでも神に与えてもらえなかっな才能が!?
それとも、本当に天使なのか!?
「ムカつく……」
「どうした、君」
「ロ、ロー?」
オレは男性の手を肩から払って、自称天使へ一歩踏み出した。
「おい、アルカロイドだっけか!?本当に天使なら、オレの望みを神様に届けることできるだろ!?」
そう叫ぶと、風が少し弱まった。
アルカロイドはオレを見て、その歪な翼を上下に動かした。
それだけで、風はおさまる。
汚らわしいものを見るように、アルカロイドはオレを見てきた。
「望み?」
「そーだよ、望みだよ!!お前すっげぇムカつく!!なんだよ、なんなんだよ!!天使だかなんだか知らないが、だからってなんでお前はそんな魔術を使えるんだ!!オレは出来ないのに!!」
オレはアルカロイドにまた一歩踏み出す。
「オレだって、魔術の才能が……人並みの魔力が欲しいんだ!!」
アルカロイドは歪な翼でオレのもとまで飛んできた。
オレはアルカロイドをこれでもかってくらい睨み付ける。
周りの人々は「何をしている!!」だの「この落ちこぼれが何を!!」とオレを罵る。
つまり、コイツらはみんなオレの敵だ。
アルカロイドはそのたくさんの言葉を聞いてか、悲しそうな顔をした。
「そうか、君もか。可哀想にな」
「はっ?」
アルカロイドに向かって、「がんばれ」「あの落ちこぼれを倒せ」と応援とは言えない声も聞こえる。
ただ、その中に親友のクルレの声も聞こえた。
「ロー!!」
ただ名前を呼ぶだけ。
でも、それでもソイツだけ仲間だって分かって__。
「落ちこぼれは、どこでもこんな感じか?」
アルカロイドが尋ねてきた。
オレは黙ってうなずく。
「魔術学校を卒業できないと笑われるんだ」
「そうなんだ……なら、僕にも考えがある」
アルカロイドがオレに向かって右手をつき出した。