>>13続き
____結局、グレースも僕もビャクヤを殺さなかった。
ビャクヤは死んでしまいたい思いを抱えながら、自分の部屋に戻って行く。
その後ろ姿をぼうっと眺めて、僕は自嘲ぎみに微笑んだ。
僕は、いつから人間ごっこをするようになったのか。父の教えにただ従うだけで良いのに。アサシンとして育った以上、淡々と仕事をこなす殺人機であれば良いのに。
嗚呼、なんて不甲斐ない。
僕は細剣を片手に、ビャクヤの部屋の戸を開けた。表情は携えず、自分の意思を殺し、機械の如く。
虚ろな眼のビャクヤは、僕を見据えて呆けていた。彼はそこにいるのに、意識だけが切り離されている様に思えた。
「さっきは悪かったな、弱気な言い訳ばかりして」
ビャクヤの猫眼の瞳孔が、一瞬だけ開いた。驚いているのだ。しかし、それは確かに一瞬で、今は困った様に微笑んで、立ち尽くしていた。