短編とか台詞とか。練習用とか趣味とか。なんか、そんな。
2:∵(何故ならば):2015/12/17(木) 22:15 ID:QLI #1 銀と、朱。
年老いた街灯が不気味に点滅する、あぜ道。か細い灯の元、それだけが月の光を帯びて、不自然に鈍く輝いていた。
百舌はいつも通り、学校の裏山で趣味に没頭した後、帰路に着こうとしていた。それは、何ら変わりない日常の断片。其処に突如現れた非日常。それが百舌の眼前にたたずむ、1年3組の山田 環……通称マッキーだ。
マッキーはバスケ部らしい長身をわずかに強ばらせて、警戒するような視線をぶつけてくる。百舌も同様に、強ばった固い表情でマッキーを見つめていた。理由は明白だ。お互い、夜中の21時に誰かと遭遇することなど、想定外だったからだ。そしてお互いの右手には、中学生が持ち歩くには、余りにも異形なモノを握りしめていた。
百舌は渇いた唇を軽く舌で湿らせてから、おもむろに口を開いた。
「こんな時間に、何してるん? ナイフなんて持って、さ……」
そう言われて、マッキーは右手に握りしめた得物を横目で見て、一瞬隠すような素振りを見せたが、すぐに開き直った様に百舌の右手を見て、切り返した。
「お前の斧なんて随分汚れてるな。血だろ、それ」
「じゃあ、何の血だと思う?」
「狸だな」
百舌はわずかに口角をあげて「せーいかい」と言った。
あ、もし読者さんとかいるのか? いたら気軽に感想とかお願いします。
思ったことを切実に述べて頂ければと思います。
>>2続き
百舌の趣味というのは、動物を殺すことだった。他人のペットを殺すのは犯罪であるし、飼い主を悲しませるのは胸が痛む。ならば所有者の存在しない、山の動物なら殺しても構わないはずだ。そう考えた百舌は、六ヶ月ほど前から時々裏山に斧を持って入り、動物を追いかけ回しては、殺した。死骸は土に埋めて隠していた。
しかし、2週間ほど前から異変が起きたのだ。殺した後、埋め忘れた動物の死骸が、腹を切り裂かれて、臓器を引きずり出されていたのだ。胃袋も切り裂かれて、中身が溢れていた。明らかに人の手が加えられていて、自分の作った死骸に手を加えられるのは、何処か腑に落ちなかった。それと同時に、そんなことをする誰かの正体を、ただただ、確かめたいと思っていた。
百舌もマッキーも、強ばらせていた表情を和らげて、それから笑いあった。
きっと、マッキーも動物殺しの犯人を探し求めていたのだろう。動物の死骸を通して出来ていた、不思議で歪な関係の正体を。
#2 暗殺者その1
私が初めて殺したのは、たった一人の家族でした。
毎日お酒と葉巻の臭いがして、仕事もしないのにお金を沢山使って、暴力的で、お母さんを死なせた。脂の塊みたいなどうしようもない豚。それが父です。
お母さんが死んで、お金を稼ぐ人がいなくなってからは、私を使ってお金を稼いでいました。知らないおじさんに、いっぱい嫌なことをされましたが、我慢すればお金が貰えて、父は機嫌がよくなります。でも、いつも機嫌が悪いので、沢山殴られました。だから私は毎日怯えて生きていました。
あの日は、料理をするために野菜を切っていました。慣れない包丁で、指を切らないように気を付けながらゆっくり切っていました。
「早くしろノロマ。売り飛ばすぞ」
父はお酒を飲みながら、私を蹴りました。その拍子に、持っていた包丁が私の指を掠めたのです。痛い、と思って指を見ると、ポタポタと血が垂れて、野菜を赤く汚しています。
包丁は、お肉やお魚や野菜だけじゃなく、人間だって切れるのです。人間だって、切れる、のです。
「そっか」
私はその瞬間、あることに気が付きました。
食後のお酒を飲んで、大きないびきをかいて眠っている豚をじっと見つめて考えます。
包丁は、切るためにあったのです。
父の喉に当てて、横にスライドさせれば。噴水みたいに、凄く血がでて、部屋中燃えるような赤に彩られていきます。私も、真っ赤に染まります。
可笑しな声をあげながら、血を吐いていた豚は、すぐに動かなくなりました。命が終わったのでした。私は人を殺したのです。
普通の人ならば、その瞬間恐ろしい恐怖に震えることになるそうですが、私は違いました。
心の底から、安心しました。もう痛くされない、嫌なことされない、怯えなくていい。私は、私は自由を手にしたのです。こんなに嬉しい事が他にありましょうか! 私はずっと父を殺したくて仕方がなかったのです。
包丁には、ベッタリと血が着いていて、なんだかそれが宝石のような美しいモノにみえました。
だから何度も何度も何度も何度も何度も何度も……父だった脂の塊を、包丁で貫きました。
その時からなのでしょうか。私に人間性というものが失われたのは。それとも、もっともっと前に、私は人間じゃなかったのかも知れません。
>>5続き
いつも通り、背の高い手頃な木によじ登り、夜の山林を見渡す。メデューサ族特有の蛇眼は、人間の発する赤外線を認識し、サーモグラフィのように写しだす。獲物を狩る為の……アサシン向きの眼である。
50mほど離れたところに、それは写し出された。
今日のターゲットは3人。全員ソーサラーであり、さしていきる価値もないクズだそうだ。
都合よく山でキャンプを張り、見張りも付けずに眠っている。
「見張りが居ようと、全員寝てなかろうと、関係ないけどね……」
慣れた手つきで弓に矢をつがえて、狙いを定めーーーーーー射る。生き死にも確認せず、すぐに次の矢をつがえ、射る。そしてまた、射る。
蛇眼はけして視力はよろしくない。私の眼では流れる鮮血や死に顔を確かめることはできないが、サーモグラフィでピクリとも動かず、青くなってゆく3人を見たところ、ミッションは成功のようだ。
あれから13年。息を吐くように人を殺し、他人の言葉を全く信用しない。冷酷で機械じみている。人間性なんて、微塵もなくなっていた。
アサシンに人間性など、必要無かったのだから。なるべきして、私は人間性を切り捨てていったのだ。
「殺すこと、は、生きること」
自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。今になってどうして昔のことを思い出したのだろう。馬鹿馬鹿しい。早く依頼人に報酬を貰って、本部に帰ろう……。
他のアサシン達の集う談話室の戸に手を掛けたとき、中から金切り声が響いた。
「俺を殺してよ!」
内心同様しながら、控えめに戸を開くと、白い綿雲のような髪の少年(と言っても彼はドワーフ族であるため、年齢よりも見た目が幼いのだが)、ビャクヤが喚いていた。その向かいには、茶髪に紫の瞳をもった長身の男、クロガネが顔をひきつらせて、ビャクヤを凝視している。
私は軽く部屋を見回した。アサシンはあと一人いるはずだが、仕事か何かで出掛けているらしい。
#3 嫉妬>憧れ
ーーーーーーいつの間に“最強”なんてふざけた称号を手にしたのだろう。コンクリート性の高い天井と長い廊下に、無機質な円柱が無数に立ち並ぶB3資料室付近にて。フォルテが、古い友人と出くわして最初に抱いた感想である。
出来ることなら、しばらく会話などしたくはなかった。しかし、無駄に広いこの空間ですれ違っては、流石に無視する訳にもいかない。
小さく溜め息を着いた後、気さくに笑顔を作って「久しぶりじゃん」なんて口にした。元々水路だったB3内に、明るく努めた自分の声が反響した。
人見知りの彼、テノールが普段から目深に被り続けているフードをはずして「フォルテか。こんな所で……奇遇だな」と、口元を綻ばせて言った。出来るだけ人と目を合わせようとしないテノールのフード下をおがめるのは、彼が気を許した相手だけである。
何度も目にした銀髪と赤眼。そして前髪に隠れた右目。フォルテにとっては、どこか複雑な気分だった。
「なんでこんなトコ……あー、人混み嫌いだからか。ここなら滅多に人なんか来ないもんな。サイキョーの人はやっぱ違うなぁ」
思わず含みのある言い方をしてしまった。テノールの顔色を伺ったが、ただ苦々しく笑っていた。
「“最強”なんて、誰がいい始めたのだろうな。ただ、目的がはっきりしているだけなのに……」
口元が引きつる。一言、一言……。本当に不快である。そんな嫌味なんて。聞きたくないのに。
こっちだと全ダッシュがわからない。
今はーーーーでやってるけど、___が正しいのか。
>>7続き
なんとなく、吹っ切れてしまった。フォルテは感情を抑える気も無くして、全て吐露する。
「兄貴だっけ? 悪魔を殺すためだろ。やっぱ悪魔を殺せるのは悪魔ってことなんだなぁ。人間には手に余るもんな」
実際にテノールの魔力の糧となっているのは、悪魔の母から得た、悪魔の血であった。
まさか友人であるフォルテからそんなことを言われるなんて、想像もしていなかったのだろう。テノールは、しばらく固い表情で、黙ってフォルテを見つめていた。
それからちょっとして、やっと口を開いた。今まで聞いたことのない、冷ややかな声色で。
「つまり____何を言いたい?」
「何怒ってんだよ? お前の強さを称賛してんだけど」
少し間をおいて、嘲笑を浮かべ、皮肉たっぷりに「バケモノじみた強さだって」と、告げてやる。
フォルテが言い終わらない内に、目に見えてテノールは殺気立っていた。いつ切りかかってくるかと、フォルテは身構えた。しかし、テノールが魔力を解放する気配は全くなかった。
あれ? と思ってテノールの顔を改めてちゃんと見た。苦々しい笑顔を浮かべ、少しだけ寂しそうな目をしていた。
「私は半分と言えど、悪魔だ。わかっているからこそ、お前には言われたくなかったよ。……じゃ」
テノールはそれだけ言い残して、フードをかぶり直しつつ、立ち去ろうと足を踏み出す。
____違う。……違う、だろ。
「待て、よ」
呟くように口から溢れた。ほとんど意識せずに口を開いていたように思う。
テノールはフォルテの横を通り過ぎようとしたところで、僅かに聴こえた言葉に反応して、立ち止まった。その顔にはもう、表情はなかった。
「昔っから、どうしてお前は、そうなんだ……ッ」
同じ村で育って、ハイアリンクの中で一番良く彼のことを知っていた。どうしようもなく強くて、ヒーラーの自分には越えられないこと。そしてその強さに醜く嫉妬して、嫌悪感を抱いている、自分のことも。誰よりも知っていた。
テノールが消えてしまえば、いい。フォルテは、ずっと心の何処かでそう思っていた。その激情が、どうしようもなく溢れてくるようだった。
不意にフォルテは、彼の喉元に掴み掛かっていた。
本人でさえ、予想も意識もしていない動きだったためか、テノールは完全に油断していて、抵抗する間もなく、コンクリートの壁に叩きつけられる。
「は、……ッぐ、」
空気を吐き出す音と、呻き声。焦りと怒りの要り混じった赤い目で睨み付けて、フォルテの両腕を引き剥がそうともがく。
“最強”と言えど、それは戦場に置いてであり、テノールがどんなに凄い魔法使いであろうと、この状況を打破する腕力は持ち合わせていなかった。
それでもこのまま呼吸が出来ないのであれば、テノールは死んでしまう。苦し紛れにフォルテの腕に爪をたてて、ガリガリと引っ掻いて抵抗した。
腕に幾つもの爪痕が出来て、血が滲み始めたが、それもあまり気にならなかった。テノールの苦しげな表情を見て、そこに優越感を抱く自分が居たからだ。
今まで、テノールの顔を見るたびに、どこか後ろめたいような、歯がゆい、複雑な心境になっていた。それがどうしたことか。今目の前で、自分の手で弱っていくコイツを見ていると、心が晴れやかになっていくのである。
>>6続き
「剣を抜けよ。クロにとって俺を殺すことなんて簡単でしょ!?」
「ビャクヤ……」
クロガネがちらりとこちらに視線を送った。「どうにかしてくれ」とすがるような目。私もどうしてよいか解らず、曖昧に目をそらした。
ビャクヤがこんなことを言い出すことは、何となく予想していた。殺すことは生きることであると教えられてきた私達にとって、殺せないことは死に直結する。
彼は、殺してでも生きることを恐れてしまっていたのだ。
「クロは俺のこと殺せないの? 仲間、だから?」
「違う……! 仲間意識で殺せないわけじゃ、ない……!」
冷たい声色で問うビャクヤの目には、失望さえ伺えた。殺人機の様に育てられてきたクロガネが、殺すことを躊躇しているからだろう。
私も、軽く嘆息する。クロガネが情に流されて人を殺せないなんて。ビャクヤの善くも悪くも人間らしい所に感化されたのか。
私達、アサシンは“殺すことや死ぬことを恐れてはいけない。他人の言葉を信じてはいけない。情に流されてはいけない。ただ依頼に従って作業的に殺せ。人間性を捨てされ。殺すことは生きることだと言うことを忘れるなかれ。”
ビャクヤの様に恐れることも、クロガネの様に情にほだされることも、アサシンにとっては不要なこと。アサシンには相応しくないこと。なのに。
「クロが殺せないならグレース。俺を殺してよ」
うつ向いて表情の伺えないクロガネを、静かに見据えたまま、私にそう言った。
ケットシー族の血が混じったビャクヤの猫目には、僅かな恐怖が携えられていた。
嗚呼、この子は私が殺すことを信じて疑わないのだろう。人間性を捨てきれないビャクヤは、勝手に私を信用しているのだ。
私の口から「それは出来ないわ」と告げられることなんて、予想もしていないのだろう。
「…………え?」
「勘違いしないでね。私はあんたを殺す正式な依頼でもない限り、殺そうとは思わない。それだけよ」
それを聞くと、ビャクヤは自嘲気味に笑って言う。
「優しくしちゃダメ、殺し続けなくてはいけない、人を信用しないって、俺には難しいよ。」
「それはあんたが弱いから……」
「クロにも出来なかった。人間性を捨てきるなんて出来ない。そうしたら、壊れてしまいそうで……恐いよ」
それから、ビャクヤは困ったように笑って私を見た。私の、一番嫌いな目で。
「クロもグレースも、取り乱してごめんね。部屋戻ろう」
ビャクヤがそういったので、私も彼も、各々の部屋に足を進めた。
ベッドと仕事道具が有るだけの部屋で、ビャクヤの困ったような顔を思い出す。苛立ちと共に。
あの目に込められていたのは、同情。アイツは、私に同情したのだ。
どういう意味だ。同情するのはこちらの方だ。恐怖を捨てきれなくて、殺す度に自分に怯えるような奴。アサシンになりきれないビャクヤの方が滑稽なのに。
ベッドに腰かけて、苛立ちを押さえようと枕を殴り付けた。ぼふっと音をたてて、少し埃が舞う。
「…………………………」
人間性を捨てきれない二人を考えて思う。それを失っている、私の方がおかしいのかも知れない。作業的に人を殺して、何も感じなくなってしまった私が。きっと仲間のアサシンを殺しても、何も感じない私が。誰よりも異端だったのか。
そんな考えが頭を余儀って、足先が僅かに震えた。
#1とか#2とか、終わりって書き忘れた。
#1はなんか冒頭が書きたかったのと、雰囲気だけ描写したかっただけ。
#2は人間性を捨てたと思い込んでるだけで、最後には確かに自分に対する恐怖を抱いたっていう。
#4 暗殺者その2
“クロガネ”という、名称の由来ともなっているのが、刀身の黒い細剣である。
仕事が終わると、まず黒い細剣の手入れをするのが日課だった。愛着が有るわけでは無い。強いて言うならば、自分と一緒に育ってきた、たった一人の家族____そんな存在だったから。
その日の仕事を終えて帰って、血塗れの服を着替えた後、談話室のソファに腰かけて細剣を磨いていた。暫くすると、ビャクヤが音もなく近付いてきて(少しビビった)、神妙な顔をして言った。
「俺を殺して」
一瞬何を言っているのか、意味が解釈出来なかった。ビャクヤの顔を凝視しながら、黙っていると彼は淡々と話し始めた。
「もう、誰かを殺すことが……傷付けるのが怖くなったんだ。頑張って殺してれば慣れるかと思ったけど、駄目だった。でも、自分で死ぬのも恐くてさ。俺のこと、殺してよ」
僕は何も言えない。ビャクヤを殺すことなんて、考えたことも無かったから。
「待てよ、死ぬ必要なんか____」
“殺すことは生きること”。その言葉が頭を余儀って、口を閉ざした。アサシンが殺せないなら、生きる価値なんかないじゃないか。それを一番理解しているのは、自分だった。
でも、と話を継いだ。
「僕はビャクヤを殺したいと思わないし、直接的に殺さなくとも、アサシンとしてはやっていけるから____」
だから、何だ? それは自分が殺したくない言い訳と、死んでほしくない口実じゃないか。今自分が、どれ程甘ったれたことを口走ったのか悟った瞬間、また言葉を失った。
「何それ、俺はもう殺すのは嫌なのに、殺しをしてでも生きろっていうの!?」
「……そう、じゃない__」違わない。
「クロが、今持ってる剣で貫いてくれれば一瞬だろ! お願いだから____僕を殺してよ!」
聞きたくなかったし、認めたくなかった。ビャクヤが死にたがっていることも、自分が殺すことに躊躇してることも。
>>10 続き
自分がテノールの命を握ってるも同然であることに、“最強”を殺すことだって出来てしまうことに。フォルテは自然と口角をあげた。何が最強だ。
「努力しても強くなれなかった……でも、俺はお前より強いんだ。だって、俺はお前を殺すことも生かすことも出来る! ザマァねぇな!!」
ぱっと手を話せば、壁にもたれて力なく崩れ落ちた。荒々しく呼吸を繰り返し、時折咽せかえすテノールを見下ろして、嘲笑った。
呼吸が整うと、真っ直ぐな酷く不快な目でフォルテを見据えて、口を開く。
「フォルテの“強さ”って言うのは、殺せる力のことなのか?」
掠れた声なのに。大嫌いなテノールの言葉なのに。妙に胸を打つ響きがあって、ひどく動揺した。
「な、なにが……」
「逆に、ヒーラーとして人の命を繋ぐことは“弱さ”なのか?」
そんな言葉なんか、聞きたくなかった。その一言一言が、余りにも核心を突いていたから。
「私はフォルテみたいに回復魔法が使えないから……救えなかった命が幾つもあった。“最強”なんて呼ばれても、誰かを護れないなら、なんて虚無なんだろうって____」
「止めろっ……!!」
勢い余って、テノールの側頭部を蹴りつけた。更に、ろくに受け身も取れずに床に倒れたテノールの腹部に蹴りを入れると、小さく呻き、咳こんだ。
なんとか体を起こそうとするテノールの手を踏みつけて、言い放つ
「それでも、それは結局成功者の妄言だっ! 強くなければ、誰も救えない……っ」
なんにも、出来やしないのだ。
#5 宵の口日記
×月11日(金)
空気が澄んでいて、息は白かった。空は夏と違って雲一つなく星や半月がくっきり見えて、ずっと見ていたいと思った。寒くなければ、な。
どうせ親が帰ってこようとなかろうと、俺がベッドにきちんと収まっているかどうかなんて気にするはずがないので、こうして深夜徘徊を楽しんでいるわけだ。
今日がその記念すべき初徘徊だから日記にしてみた。
人気のない住宅街を彷徨いた。猫を見つけたので追いかけたが、見失った。
それ以外、特になにもなくて、でも詰まらないとは思えない。明日もやろうと思った。
×月12日(土)
今日は空が雲っていて、星は見えない。その代わり、空気は暖かくて風もなかった。
また住宅街をうろうろして、猫を追いかけた。白サバ猫だった。杉田という人の家に逃げてしまったので、それ以上は追いかけられなかったから、俺も流石に諦めるしかない。
帰りに黒いコートを着た少年とすれ違った。こんな時間に何をしているのか。相手からすれば、俺もこんな時間にって感じだろうが。
その少年の横顔が、同じクラスの山田に見えて振り替える。髪型や背丈も、そんな風に見えたが、実際はわからない。わからないけど家に帰った。
#6 右と言われたらソイツを殴る
「君は狂っている」
放課後の教室で、全く知らない男子にそう言われた。
意味が分からない。訳わかめ。どうして私にそんなこと言うのか。
ムカついたので、その男の左頬を殴り付ける。繰り出した拳は綺麗にめり込んで、彼は衝撃に耐えられずに投げ出された。机や椅子を巻き込んで、騒音と共に。
それでも、倒れた椅子にもたれて、彼は立ち上がる。なんのために?
「ほら、狂っているよ」
男は頬を擦りながらそう言って笑った。何をヘラヘラしているのか。ムカつく。
その容貌といい性格といい、彼は妙に私の心を逆撫でする。何だか声にも腹が立ってきた。なんと言うか消えてほしい。
「チェストォォォ!」
威勢の良い掛け声と共に、もう一度拳を振り上げる。
男は避けるどころか拳に吸い付くように当たりに来た。ナンダコイツ。
>>13続き
____結局、グレースも僕もビャクヤを殺さなかった。
ビャクヤは死んでしまいたい思いを抱えながら、自分の部屋に戻って行く。
その後ろ姿をぼうっと眺めて、僕は自嘲ぎみに微笑んだ。
僕は、いつから人間ごっこをするようになったのか。父の教えにただ従うだけで良いのに。アサシンとして育った以上、淡々と仕事をこなす殺人機であれば良いのに。
嗚呼、なんて不甲斐ない。
僕は細剣を片手に、ビャクヤの部屋の戸を開けた。表情は携えず、自分の意思を殺し、機械の如く。
虚ろな眼のビャクヤは、僕を見据えて呆けていた。彼はそこにいるのに、意識だけが切り離されている様に思えた。
「さっきは悪かったな、弱気な言い訳ばかりして」
ビャクヤの猫眼の瞳孔が、一瞬だけ開いた。驚いているのだ。しかし、それは確かに一瞬で、今は困った様に微笑んで、立ち尽くしていた。
#7 色の亡い街
アルビノ。それは一つの罪の名称である。
◆救われない世界と防具屋店主
◆祭囃子ノ化ケ隠シ
◆**されたかった
◆赤い靴の子鹿
#8 幸せな結末
例えば。赤頭巾はお祖母さんのお見舞いに行って、変装していた狼に食べられてしまいました。終わり。
例えば。白雪姫は悪い魔女に騙されて、毒林檎を口にして、死んでしまいました。終わり。
例えば。日々酷さを増していくいじめと、喧嘩ばかりの両親。学校にも家にも居場所を無くした私は、耐えかねて屋上へやって来ました。死ぬためです。
「……終わり」
快晴の空の下、私はなんの迷いもなくフェンスを乗り越えた。
吹き付けるは、湿気を含んだ夏の風。梅雨の終わりを告げている、清々しいほど心地よい。
下を見れば、気が遠くなるほど遠くに見える地面。きっと冷たくて、容赦のないアスファルト。
ここに来て足がすくむのは、生きることにすがっているのではない。本能的に死を拒んでいるのだ。
馬鹿みたいに高鳴る鼓動と徐々に乱れている呼吸に、自嘲ぎみの笑みが溢れる。
生きることが苦痛なら、死を望むことは免れない。生きる理由を無くしたのに、死を恐怖するのなら、どうすればいいの? 道はない。ならば早く死ね。そうするしか、ないのだから!
ズルリと地を離れ、振り上げた右足は、宙を踏みつけて。重力は無慈悲に脚を引っ張って。後、一息なのに。後ろ手に掴んだフェンスをゆっくり手放して。
「赤頭巾は森の狩人に助けてもらうし、白雪姫は王子様のキスで目を覚ます。それじゃあ君は?」
突然の声に驚いて振り替えると、見覚えのある少年。同じ学校の制服に身を包んで笑っていた。
「何しに来たの」
今にも泣きそうな私は、声を震わせて尋ねた。彼がなんのためにここへ来たのか分かっていたから。止められることが、死ねないことが怖くて仕方がなかったから。
彼はやはりというか、当たり前のようにゆっくり此方へ歩み寄ってくる。嫌だ、止めないで、止めないで。
「来ないで!」
相変わらず震えた声で叫んだ。
フェンスを強く握り締めた両手から、ゆっくりと力を抜いていく。その指先も酷く震えていて、冷たかった。
「……このまま死ぬの?」
「お願い。止めないで」
「止めないよ」
ドクン、と自分でも解るほどの心音。
彼がまた、ゆっくりと近寄ってきて口を開く。
「ヒーローは常に遅れてやってくるものさ」
彼の両手が私の肩を掴む。彼の手も僅かに震えていた。
「死にたいのに、死ねないんでしょう? 僕と言うヒーローが手伝ってあげるから、安心して」
恐怖にひきつった顔の私に優しく微笑みかけると、彼は軽く私の肩を押した。
「でも、物語の素敵な事は、だいたい最後の方に起こるんだよ」
「___えっ……?」
彼の手が離れたかと思うと、次の瞬間には何故か抱き締められていた。押し退けることも出来ないくらいしっかりと。
「君は、遅れてやって来たヒーローが幸せにするんだ。君の望んだ命の終わりなんていう、偽物の幸せじゃない」
私は馬鹿みたいに泣いていた。嗚咽を溢して、子供みたいに。
「僕が、君を幸せにするヒーローになるから」
161.251.159.210.ap.yournet.ne.jp
Mozilla/5.0 (Nintendo 3DS; U; ; ja) Version/1.7622.JP ……はっきり言おう。貴様は未熟だ!
>>18 続き
命は罪で、存在は災い。白い髪や人よりも色素の薄い肌と瞳は、悪魔の象徴と言われた。忌み嫌われ、姿を見られれば石を投げられた。
居場所なんて何処にも無い。勿論誰にも必要とされない。こんな扱いを受けるくらいなら死んだほうがマシだって。わかっているくせに何かにすがりついて生きようとした。黒い布を目深に被り、姿を隠しながら、常に周り人間に怯えながら。
僕は人間の真似をする白い悪魔で。それは酷く滑稽なものだった。