随にフラグメント

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13:∵:2015/12/23(水) 08:40 ID:QLI

#4 暗殺者その2

 “クロガネ”という、名称の由来ともなっているのが、刀身の黒い細剣である。
 仕事が終わると、まず黒い細剣の手入れをするのが日課だった。愛着が有るわけでは無い。強いて言うならば、自分と一緒に育ってきた、たった一人の家族____そんな存在だったから。

 その日の仕事を終えて帰って、血塗れの服を着替えた後、談話室のソファに腰かけて細剣を磨いていた。暫くすると、ビャクヤが音もなく近付いてきて(少しビビった)、神妙な顔をして言った。

「俺を殺して」

 一瞬何を言っているのか、意味が解釈出来なかった。ビャクヤの顔を凝視しながら、黙っていると彼は淡々と話し始めた。

「もう、誰かを殺すことが……傷付けるのが怖くなったんだ。頑張って殺してれば慣れるかと思ったけど、駄目だった。でも、自分で死ぬのも恐くてさ。俺のこと、殺してよ」

 僕は何も言えない。ビャクヤを殺すことなんて、考えたことも無かったから。

「待てよ、死ぬ必要なんか____」

 “殺すことは生きること”。その言葉が頭を余儀って、口を閉ざした。アサシンが殺せないなら、生きる価値なんかないじゃないか。それを一番理解しているのは、自分だった。
 でも、と話を継いだ。

「僕はビャクヤを殺したいと思わないし、直接的に殺さなくとも、アサシンとしてはやっていけるから____」

 だから、何だ? それは自分が殺したくない言い訳と、死んでほしくない口実じゃないか。今自分が、どれ程甘ったれたことを口走ったのか悟った瞬間、また言葉を失った。

「何それ、俺はもう殺すのは嫌なのに、殺しをしてでも生きろっていうの!?」
「……そう、じゃない__」違わない。
「クロが、今持ってる剣で貫いてくれれば一瞬だろ! お願いだから____僕を殺してよ!」

 聞きたくなかったし、認めたくなかった。ビャクヤが死にたがっていることも、自分が殺すことに躊躇してることも。


∵:2015/12/29(火) 01:30 ID:QLI [返信]

>>13続き



 ____結局、グレースも僕もビャクヤを殺さなかった。
 ビャクヤは死んでしまいたい思いを抱えながら、自分の部屋に戻って行く。
 その後ろ姿をぼうっと眺めて、僕は自嘲ぎみに微笑んだ。
 僕は、いつから人間ごっこをするようになったのか。父の教えにただ従うだけで良いのに。アサシンとして育った以上、淡々と仕事をこなす殺人機であれば良いのに。
 嗚呼、なんて不甲斐ない。
 僕は細剣を片手に、ビャクヤの部屋の戸を開けた。表情は携えず、自分の意思を殺し、機械の如く。
 虚ろな眼のビャクヤは、僕を見据えて呆けていた。彼はそこにいるのに、意識だけが切り離されている様に思えた。

「さっきは悪かったな、弱気な言い訳ばかりして」

 ビャクヤの猫眼の瞳孔が、一瞬だけ開いた。驚いているのだ。しかし、それは確かに一瞬で、今は困った様に微笑んで、立ち尽くしていた。


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