随にフラグメント

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5:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 06:57 ID:QLI

#2 暗殺者その1


 私が初めて殺したのは、たった一人の家族でした。
 毎日お酒と葉巻の臭いがして、仕事もしないのにお金を沢山使って、暴力的で、お母さんを死なせた。脂の塊みたいなどうしようもない豚。それが父です。
 お母さんが死んで、お金を稼ぐ人がいなくなってからは、私を使ってお金を稼いでいました。知らないおじさんに、いっぱい嫌なことをされましたが、我慢すればお金が貰えて、父は機嫌がよくなります。でも、いつも機嫌が悪いので、沢山殴られました。だから私は毎日怯えて生きていました。
 あの日は、料理をするために野菜を切っていました。慣れない包丁で、指を切らないように気を付けながらゆっくり切っていました。

「早くしろノロマ。売り飛ばすぞ」

 父はお酒を飲みながら、私を蹴りました。その拍子に、持っていた包丁が私の指を掠めたのです。痛い、と思って指を見ると、ポタポタと血が垂れて、野菜を赤く汚しています。
 包丁は、お肉やお魚や野菜だけじゃなく、人間だって切れるのです。人間だって、切れる、のです。

「そっか」

 私はその瞬間、あることに気が付きました。
 食後のお酒を飲んで、大きないびきをかいて眠っている豚をじっと見つめて考えます。
 包丁は、切るためにあったのです。
 父の喉に当てて、横にスライドさせれば。噴水みたいに、凄く血がでて、部屋中燃えるような赤に彩られていきます。私も、真っ赤に染まります。
 可笑しな声をあげながら、血を吐いていた豚は、すぐに動かなくなりました。命が終わったのでした。私は人を殺したのです。
 普通の人ならば、その瞬間恐ろしい恐怖に震えることになるそうですが、私は違いました。
 心の底から、安心しました。もう痛くされない、嫌なことされない、怯えなくていい。私は、私は自由を手にしたのです。こんなに嬉しい事が他にありましょうか! 私はずっと父を殺したくて仕方がなかったのです。
 包丁には、ベッタリと血が着いていて、なんだかそれが宝石のような美しいモノにみえました。
 だから何度も何度も何度も何度も何度も何度も……父だった脂の塊を、包丁で貫きました。
 その時からなのでしょうか。私に人間性というものが失われたのは。それとも、もっともっと前に、私は人間じゃなかったのかも知れません。


∵(何故ならば):2015/12/19(土) 11:22 ID:QLI [返信]

>>5続き

 いつも通り、背の高い手頃な木によじ登り、夜の山林を見渡す。メデューサ族特有の蛇眼は、人間の発する赤外線を認識し、サーモグラフィのように写しだす。獲物を狩る為の……アサシン向きの眼である。
 50mほど離れたところに、それは写し出された。
 今日のターゲットは3人。全員ソーサラーであり、さしていきる価値もないクズだそうだ。
 都合よく山でキャンプを張り、見張りも付けずに眠っている。

「見張りが居ようと、全員寝てなかろうと、関係ないけどね……」

 慣れた手つきで弓に矢をつがえて、狙いを定めーーーーーー射る。生き死にも確認せず、すぐに次の矢をつがえ、射る。そしてまた、射る。
 蛇眼はけして視力はよろしくない。私の眼では流れる鮮血や死に顔を確かめることはできないが、サーモグラフィでピクリとも動かず、青くなってゆく3人を見たところ、ミッションは成功のようだ。
 あれから13年。息を吐くように人を殺し、他人の言葉を全く信用しない。冷酷で機械じみている。人間性なんて、微塵もなくなっていた。
 アサシンに人間性など、必要無かったのだから。なるべきして、私は人間性を切り捨てていったのだ。

「殺すこと、は、生きること」

 自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。今になってどうして昔のことを思い出したのだろう。馬鹿馬鹿しい。早く依頼人に報酬を貰って、本部に帰ろう……。

 他のアサシン達の集う談話室の戸に手を掛けたとき、中から金切り声が響いた。

「俺を殺してよ!」

 内心同様しながら、控えめに戸を開くと、白い綿雲のような髪の少年(と言っても彼はドワーフ族であるため、年齢よりも見た目が幼いのだが)、ビャクヤが喚いていた。その向かいには、茶髪に紫の瞳をもった長身の男、クロガネが顔をひきつらせて、ビャクヤを凝視している。
 私は軽く部屋を見回した。アサシンはあと一人いるはずだが、仕事か何かで出掛けているらしい。


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