#3 嫉妬>憧れ
ーーーーーーいつの間に“最強”なんてふざけた称号を手にしたのだろう。コンクリート性の高い天井と長い廊下に、無機質な円柱が無数に立ち並ぶB3資料室付近にて。フォルテが、古い友人と出くわして最初に抱いた感想である。
出来ることなら、しばらく会話などしたくはなかった。しかし、無駄に広いこの空間ですれ違っては、流石に無視する訳にもいかない。
小さく溜め息を着いた後、気さくに笑顔を作って「久しぶりじゃん」なんて口にした。元々水路だったB3内に、明るく努めた自分の声が反響した。
人見知りの彼、テノールが普段から目深に被り続けているフードをはずして「フォルテか。こんな所で……奇遇だな」と、口元を綻ばせて言った。出来るだけ人と目を合わせようとしないテノールのフード下をおがめるのは、彼が気を許した相手だけである。
何度も目にした銀髪と赤眼。そして前髪に隠れた右目。フォルテにとっては、どこか複雑な気分だった。
「なんでこんなトコ……あー、人混み嫌いだからか。ここなら滅多に人なんか来ないもんな。サイキョーの人はやっぱ違うなぁ」
思わず含みのある言い方をしてしまった。テノールの顔色を伺ったが、ただ苦々しく笑っていた。
「“最強”なんて、誰がいい始めたのだろうな。ただ、目的がはっきりしているだけなのに……」
口元が引きつる。一言、一言……。本当に不快である。そんな嫌味なんて。聞きたくないのに。
>>7続き
なんとなく、吹っ切れてしまった。フォルテは感情を抑える気も無くして、全て吐露する。
「兄貴だっけ? 悪魔を殺すためだろ。やっぱ悪魔を殺せるのは悪魔ってことなんだなぁ。人間には手に余るもんな」
実際にテノールの魔力の糧となっているのは、悪魔の母から得た、悪魔の血であった。
まさか友人であるフォルテからそんなことを言われるなんて、想像もしていなかったのだろう。テノールは、しばらく固い表情で、黙ってフォルテを見つめていた。
それからちょっとして、やっと口を開いた。今まで聞いたことのない、冷ややかな声色で。
「つまり____何を言いたい?」
「何怒ってんだよ? お前の強さを称賛してんだけど」
少し間をおいて、嘲笑を浮かべ、皮肉たっぷりに「バケモノじみた強さだって」と、告げてやる。
フォルテが言い終わらない内に、目に見えてテノールは殺気立っていた。いつ切りかかってくるかと、フォルテは身構えた。しかし、テノールが魔力を解放する気配は全くなかった。
あれ? と思ってテノールの顔を改めてちゃんと見た。苦々しい笑顔を浮かべ、少しだけ寂しそうな目をしていた。
「私は半分と言えど、悪魔だ。わかっているからこそ、お前には言われたくなかったよ。……じゃ」
テノールはそれだけ言い残して、フードをかぶり直しつつ、立ち去ろうと足を踏み出す。
____違う。……違う、だろ。
「待て、よ」
呟くように口から溢れた。ほとんど意識せずに口を開いていたように思う。
テノールはフォルテの横を通り過ぎようとしたところで、僅かに聴こえた言葉に反応して、立ち止まった。その顔にはもう、表情はなかった。