「アリスお嬢様、紅茶が冷めないうちに飲んで下さいな。あの人は時間にルーズですから、待っていたら冷めてしまいますよ。」
「ドロシー、3人で飲むから美味しいのよ!」
アリスはにっこりと笑った。
仕方がありませんね、と肩をすくめるドロシー。
紅茶が猫でも飲めるくらいに冷めた頃、彼、あの人と呼ばれた少年がやって来た。
「あれ、遅かったのかな?」
「待ちくたびれまし…」
「ドロシー!いいえ、全然待ってなんかないわよジャック。」
席をすすめられ、アリスの隣に座ったジャックの視線は向かい側のドロシーに注がれた。
「うわあ美味しそう。これ全部ドロシーさんが作ったんですか?」
「そうですよ」
淡々と答えたドロシーは、さも美味しそうにクッキーを頬張るアリスを見て、微笑んだ。
「美味しいわ。流石私のドロシーね」
「ありがとうございます。」
『私のドロシー』
アリスにとっては何気ない賞賛の言葉だったのだろうが。
その言葉を頭の中で何度も繰り返してはにやけるドロシーと、複雑な思いでクッキーを頬張るジャック…
幼いアリスはそこに蠢く醜い化け物が見えていない。いや、きっと、見ようともしていなかったのだろう。