「あ、亜衣! ねぇねぇ来たコレもう神った、神ってるよ!」
「うん恵里、もうちょい静かにしようねー」
階段を降りた先の靴箱近く、恵里が手を振っている。何か白い紙みたいなのを持って。
「えっと、神ってるって、ソレが?」
「そう! 亜衣のトコにも入ってると思う。見て見て!」
「えぇ、何なのよもぅ……て、コレ?」
速足で駆け寄って、自分のところを覗き見た。恵里の隣、1番端。
入っていたのはメモだった。あの、付箋みたいなやつ。
「えっと……えぇぇ!? マジで?」
「ね、神ったでしょ」
「や、なんていうか、ありえな過ぎ……」
安部野先輩の自宅で勉強会をひらくそうです、もしよかったら来て
いろいろ話して、それで勉強しようって
日時は後で連絡だそうです。
板橋、松葉
安部野先輩の家で、勉強会ね……。
「行こう、恵里」
「もちろん!」
恵里は満面の笑みで頷いた。人懐っこいリスみたいに。
「よっし、なら返事しに行かないとねっ」
恵里の手を引っ張って、廊下を進む。目指すは2年生の靴箱。
「え、今なの!? 明日にしようよ〜」
「だーめ。明日の朝1番に読んでもらわないと」
「ていうか手ぇ痛いぃぃぃ」
「えっと、お返し?」
「んなっ!」
そんな感じで、からかいながら歩いて行く。途中、メモ帳とペンを出そうとして、現在あたしは手ぶらだって気づいた。でも戻るのは面倒なので、こういうときは友人を頼る!
「ね、メモとペン持ってる?」
「持ってるけど、ポケットの中。手ぇ離して」
流石、典型的なA型の日本人。ドラえもんみたいじゃん。
「ん、はい」
ポン、とメモ帳と小さなシャーペンを渡される。ありがと、と言いながら受け取った。そして、そのついでにまた彼女の腕を握る。んで、早歩き。
「なんでそーなるかなもー……」
恵里の文句は聞き流す。なんて返事するか考えなくっちゃ。
「っと、板橋先輩と松葉先輩、どっちがいい?」
「板橋先輩。松葉先輩は、ちょっとだけど怖いもん」
たしかに。一理あるかもしれない。
考えていた文面をメモに書いて、最後に名前を。恵里にも頼んで書いてもらう。
伝言ありがとうございます。嬉しいです、喜んで参加させていただきます、とお伝えください。
情報交換はその日にでも。
岩崎亜衣のです ***-****
白野恵里はこちらです ※※※‐※※※※
「ん、じゃあ板橋先輩のトコに投函してっと」
「ねぇ、電話番号まで書いちゃって大丈夫かな」
恵里が心配そうな顔で言った。
「どして?」
「誰かに見られたりしないかなって」
「あー……消す?」
盲点。
たしかに、流出したら大変だ。
「ううん、やっぱいい」
「いいの?」
「誰も見ないと思うし、いざとなったら変えればいいかなぁって思った」
「おー、意外と思い切った対応するねー」
ホント、前の恵里とは変わったな。もしかしたら、ただ仲良くなったからかもしれないけれど。
「女は度胸って言うじゃん!」
「それちょっと違うよ!」
「赤いパンプスで世界を変えてみたぁい」
「あーそれ知ってる! 2巻のでしょ!」
「私、あの女の子好きなの」
「いやそれより写真のさ――」
趣味の話に没頭する、とってもありふれた放課後だ。
【人の電話番号を見つけても、それを拡散しちゃ駄目ですよー】
>>220 同日・放課後 校内 です