(長らく更新がないようなので、テコ入れ的な話を挟みます。時間は晃君がメールのやり取りをしている辺りです)
(>>59の続きはかおりさんか蒼月空太さんの投稿を想定していますが、お二人を含む皆さんからの続きが今週末くらいまで投稿されなかった場合、自分で続きを書こうと思います。すみません)
大路伏翼は非常に面白くなかった。昨日の松葉邸襲撃を、安部野に邪魔された逆恨みが尾を引いていたのである。その鬱憤は彼に咎められる元凶となった拓也を私刑に処しても、本日ようやく登校した麻衣と晃の処刑に加勢してもほとんど晴れることがない。故に翼はいつも侍らせている友人たちと離れ、夕暮れの街を一人で徘徊していたのであった。
「くっそー、転校生のくせに生意気なんだよ、あの書記野郎は」
だが徘徊の成果は芳しくなく、いくら気を紛らわせようとしても、昨日の安部野の言葉と顔が翼の脳内でしつこく再生されてしまう。自分の意思に反する無意識に、翼は荒々しい溜め息を吐いた。
「……しかもあいつ、あのアマの仲間にしてはなんか臭えんだよな」
風紀向上のための処刑は立派なことだ。
しかし、処刑が学園の外で通用するとは限らない。
学園と生徒会長に汚名を被せることは許されない。
これらは昨日の安部野が発言した台詞の要約だ。いずれも生徒会役員の台詞としては間違っていない。
しかしそれでも、翼は一度抱いた懐疑を手放すことができなかった。その一因には彼への私怨もあるのだろうが、それとはまた違う、何か違和感めいたものを感じていたのである。
と、そんな折。視界の端が見覚えのある影を捉える。翼は影の姿を確認すると、咄嗟に建物に身を隠した。
「……病院? あいつがあんなところに何の用だ?」
噂をすればなんとやら。翼が見定めた影というのは、病院を後にする安部野の姿だった。安部野は自らを偵察する目線には気付かず、スマホを操作しながら人混みの中へ消えていく。
翼は彼に怨念を込めた睨みを飛ばしつつ、しかしそれ以上は何もせずに彼の背中を見送った。そうしてから安部野が出てきた病院を見上げると、にやりと酷薄な笑みを浮かべる。
「病院って言やあ、弱ってる奴が集まる場所だよなあ?」
安部野が何かしらの病を患っているという話は聞いたことがない。彼自身が病気を隠していることもあり得るが、その可能性を無視するなら、健康な人間が病院を訪れる理由はほぼ一つ。
安部野にとって相応に大切な人物が、あの病院に入院しているに違いない。
弱者を庇護する人間は、得てしてその存在が枷になる。安部野が見舞う人物の詳細を今のうちに調べておけば、有事のときに彼にとって有効な人質になるかもしれない。もしくは逆にその人物と交流を深めて安部野の秘密を聞き出す穴としても良いし、虚言を吹き込んで安部野の敵に転じさせるのも面白い。
「……ま、一先ず今は裏取りが先だよな。どう料理してやるかはそれからだ」
思いがけず拾った安部野の弱味となりそうな種は、僅かながら翼の不機嫌を癒した。もっとも、そこから収穫できるものが期待通りである保証はないのだが。
そんな可能性も視野に入れたつもりの翼は、安部野の見舞い相手にどうやって接触するかの算段を立て始めたのだった。
(>>61で言ってた続きを想定している方の名前、かおりさんではなく奏さんでした。間違えてしまい本当に申し訳ありません;)
(今回は今までで一番の長文になってしまいました。更に皆さんのキャラがかなりぶれているかもしれません。すみません)
「なるほど、巨大組織……! いかにもあの生徒会長が考えそうな計画ね」
「いやいや待てよ! 組織とか流石に妄想が過ぎねえか!?」
千明による突飛な陰謀論は、中二病的なものを好む麻衣には好感触だったようだ。そんな彼女の高揚を晃は慌てて抑えようとするが、なまじ説得力のある推理に麻衣の目の輝きは収まらない。
「でも実際、今の学園は風花百合香の帝国って言っても過言じゃない状態でしょ? 今の時点でも十分異常なんだし、これが組織を立ち上げる計画の一部って言われてもおかしくはないわ!」
「確かにそうだけどよ……。じゃあ天本先輩の仮説が合ってたとして、あいつはどういう組織を何のために立ち上げようとしてるんだ?」
「それは分からないけど……悪徳企業か、新興宗教か、はたまた本当に帝国でも作る気かしら? みんなに自分を崇め奉らせてる時点で、ろくな組織にはならないでしょうけど」
敵側ながら中々興味深い、風花百合香が目指していると思われる独裁集団の最終形態。ある種の浪漫に満ちたその予想図をあれやこれやと考えていた麻衣の顔色は、しかししばらくすると何かを悟ったようにさっと青ざめた。
「……そうか。私たち、そんな狂った組織に立ち向かおうとしてるのよね。たった数人で」
方や真凛や千明を誘おうとしているとはいえ、現時点での同志は二人しかいない自分たち。方や全校生徒のほとんどを味方につけ、将来的には巨大な組織をも立ち上げかねない生徒会長。その絶望的な戦力差を改めて実感した麻衣の体は、次第に小刻みに震え始めた。
臆病風に吹かれた心が倒れそうになったそのとき、くぐもったバイブレーションの音が静まっていた部屋に響く。反射的に麻衣は自分のスマホを取り出すが、画面にはいつもの待ち受け画像が映っているのみ。連絡があったのは麻衣ではなく、晃のスマホのようだ。
「ああ、俺の方か。……なんだこの番号?」
未だに震え続ける彼のスマホには、見覚えがない電話番号からの着信画面が表示されている。晃は確認を取るように麻衣へ目配せを送ると、音声をスピーカーに切り替えてから、慎重に画面の通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
「さっきのメール、読んだわよ。二年D組……いえ、E組の松葉晃」
「うっわ、そこまで知ってるのかよ!? ってかメール読んだってことは、藤野先輩なんだな?」
「正解。私にかかれば、メール一通で身元や電話番号を割り出すなんて簡単なんだから。そんなことよりあなた、よくも素晴らしいことを考えついてくれたじゃない!」
電話の主は、先ほどメールを送ったもう一人、藤野真凛だった。スピーカーから聞こえてくる彼女の声は、興奮のせいかやや上擦って聞こえる。
「生徒会長さんは順風満帆だった私の人生を、それはもう滅茶苦茶の台無しにしてくれたわ! それ以来ずっと復讐の機会を窺ってたけど、信者という名の盾の前には流石の私のハッキングもぬかに釘だったのよ。でもあなたたちが力を貸してくれるなら、勝機は見えたも同然ね! 喜んで協力してあげるから、一緒にあの女を死ぬより辛い地獄に叩き落としましょう! で、具体的な反逆の内容や決行日はもう決まってるのかしら? というか今の人員はあなた以外に誰がいるの?」
「わ、分かった分かった! 協力してくれるのはありがたいけど、ちょっと落ち着いてくれ!」
余程多くのフラストレーションを溜め込んでいたのだろうか。マシンガンのように百合香への恨み辛みを吐き出す真凛の迫力に、麻衣と晃は気圧されそうになった。そんな彼女をどうにかなだめ、晃は真凛の質問に答える。
(続く)