第5話(後編) そして仕事が始まる
代表取締役の中村とのやり取りの後、俺は急いでプロデューサールームへと向かった。
そしてプロデューサールームに入ると、既に統括プロデューサーを中心として会議らしきものが開かれていたのである。
尚、今は業務開始時刻の10分前だ。
「渋谷でコンサートを開くという話だけど、会場となりうる殆どの場所が別の会社のアイドルたちのイベントが半年後まで埋まっていて極めて困難になっているわ」
「そ、そうですか……。愛弗社長もかなり乗り気でいらっしゃったのに」
「一旦白紙にするしかないのでしょうかね? 」
「最悪そうなるわね。一応私の方でも出来るだけ何とかする……としか今は言えないわ」
どうやら、聞こえてくる限りでは暗いお話のようだ。つまりプロデュース株式会社にとっては不利なお話と言うことである。
しかし、新米職員の俺にとってはそんなことよりも一刻も早くプロデューサーとしての一通りの業務を覚える必要があるのだ。
そんなもんで結局、今日も仕事らしい仕事はせず帰宅となった。
※
さて、俺はとっとと帰宅しようとプロデューサールームを出た。
ところが……だ。
「やあ佐東君」
そう声をかけてきた者が居たのである。ちょうど朝に会った代表取締役の中村である。
「これはこれは。どうされましたか? 」
「ああ。アイドル関連の事業なんぞ私は一切興味がないが、渋谷で予定されていたイベントが実現不能なりつつあるとか聞いたもんでな。キミという者を知るために敢えてこの案件を利用させてもらうと考えたのだ」
このプロデュース株式会社はアイドルのプロデュースを行う会社と聞いているのだが、その会社の代表取締役が、それに一切興味が無いとはいやはや驚きだ。
ところで、「キミという者を知るために敢えてこの案件を利用させてもらうと考えたのだ」などと言ってきたわけだが、何か俺にさせようという魂胆なのだろうか?
「渋谷区の公営施設で、我が社のアイドル共によるイベントが出来るよう手配しろ」
代表取締役の中村はそう言って、持っていた黒いアタッシュケースを俺に手渡してきた。
なるほど。やはり俺にそのイベントに関する案件を任せてくるとはな……。
そして何よりもこの黒いアタッシュケースを手渡してきた時点で、どのような手段を使えと言っているのかが容易に推測できるわけだ。
「中村さん。こ、これはもしかして……? 」
「良い結果を待っているよ」
それだけ言って、代表取締役の中村はこの場を後にしたのである。
>>21は>>20の訂正によるものです。
今回に限っては、訂正箇所だけ示す方法では適当とは言えないと判断しましたので丸々投稿しました。